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一話、閻魔様の御成

 

「――なんというザマだ……」







 見渡す限りの平原を前に、俺はぽつりと呟いた。

 どういった経緯でこんな見知らぬ場所に放り出されたのか。話せば長くなりそうだが、簡潔に言えば、自分の不注意が招いた結果、転移魔法で飛ばされてしまったわけだ。あんな単純な罠に引っ掛かるなんて笑い話にもならない。今頃気付いた所で、もはや後の祭りだ。



「……」



 一人ぽつんと突っ立っていた俺は、雲ひとつ無い快晴の空を見上げる。ぎらぎらと主張する太陽が眩しい。もやもや曇る俺の心の内も、この空の様に晴れやかにしてくれれば良いんだが。



「今頃、冥界(あっち)は大騒ぎになってるだろうな……」



 現世で死を迎えた者が必ず訪れる世界、冥界(めいかい)。先程まで、確かに俺はそこに存在していた。死者としてではなく、死者を待ち受ける【冥界の王・閻魔(えんま)】として。


 そして俺が転移させられた場所は、生を受けている者達が存在する世界、恐らく現世だろう。頭上高くから地上を見下ろしている太陽の存在が、その証拠とも言える。



「――当たり前では御座いませんか。裁きの主である貴方様の存在無くして、迷える死者達は先へ進む事など出来かねるのですから……」



 羽をはばたかせ、大空からゆっくりと地上に降り立ってきた一匹の(からす)。真っ直ぐにこちらを見つめてくる。俺に話しかけているのか?

 目の前をふわりふわりと落ちてくる真っ黒な羽根を掴み、俺は羽根と鴉に交互に目をやった。この声・この口調。鴉に知り合いはいないが、発せられたその堅苦しい話し方には心当たりがある。



「……もしかして、司禄(しろく)なのか?」



 ある人物を思い浮かべながら、半信半疑にも俺はその鴉に問い掛けた。司禄とは冥王に仕える側近の一人。死者を裁く権限のある俺とは常に行動を共にしており、秘書の様なものだ。

 俺の知る司禄は、黒が特徴的だ。黒い翼に黒い(くちばし)を持つ鴉を人型にした様な姿だ。大人びた物言いや態度だが、その見た目はまだ幼子程度。ただ、俺より遥かに長生きをしている。


 しかし今目の前で喋っているこの者は、どう見てもただの鴉にしか見えない。



「はい、司禄に御座います」



 案の定、司禄だと鴉は名乗った。となると、直前まで俺に同行していた司禄も転移に巻き込まれてしまっていたのか。


 誰の何の策略かは知らないが、俺だと知った上で狙ったのだとすれば放ってもおけない。冥王の沽券にも関わる問題だ……




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