こっちも勧誘……
※
時を遡ること数日前。
秀兄さんと再会する前のことだ。
帰りのホームルームが終わり、帰り支度をしていた私のところに、ふぶきちゃんがテレテレと歩み寄ってきた。
「うい~さくらっち~。もう部活どこ入るか決めた~?」
「ううん。まだ決めてないけど?」
「じゃあさ~バスケ部のマネージャーとかどう? かっこいい先輩がいるって噂でさ~」
「動機が不純だねぇ」
「ええ~? さくらっちは興味ないの?」
「う~ん……あんまりないかな。というか、マネージャーとはいえ、運動部はちょっと……」
「ああー……さくらっち運動音痴だもんね~」
「音痴じゃない! ちょっと苦手だけだもん!」
私が全力で否定するも、ふぶきちゃんはまったく意に介していないようすだった。
「それよか、本当にどうするん? はやく決めないと、先生が勝手に決めるって言ってたよ?」
「うーん……」
そう言われても、よく考えればこの学校にどんな部活があるのかも把握していなかった。
「とりあえず、どんな部活があるのか見てからかなー」
「おお! じゃあ、今から行こうぜ~」
というわけで、私はふぶきちゃんと一緒にさっそく部活動見学に行ってみることに。
私は運動が『苦手』であるため、運動部の見学に行くつもりはなかったが、ふぶきちゃんがどうしてもというので見学することに。
体育館に行くと、噂のかっこいいバスケ部の先輩がいたみたいで、ふぶきちゃんが黄色い声援を送っていた。
「きゃああ! せ~んぱ~い!」
「あはは……」
帰ろうかな。
なんて考えていると、
「おい……あの子……」
「噂の……」
と、近くの男子が私の方を見ながら、ひそひそと話しているのに気がついた。
先輩に夢中だったふぶきちゃんも気づいたみたいで、やれやれと肩を竦めた。
「本当にさくらっちはモテるな~」
「え? 多分そんなんじゃないと思うけど?」
「いやいや……ありゃ狙われてるねぇ~」
「……」
自分なりに、容姿に気はつかっているけれど、目立つのはそれはそれで嫌だったりする。
そうこうしているうち、どんどん男子の目が私に集まってきたので、私は居心地が悪くなってふぶきちゃんと体育館を出ることに。
それから、いろいろな部活動を見て回ったけれど、いまいちピンとくるものが見つからなかった。
部活動見学の後、ふぶきちゃんは「うちバイトあるから~」と帰ってしまい、取り残された私は、学校の中庭で項垂れていた。
「はあ……部活……どうしよう……」
入るなら、運動部ではなく文化部だろうか。しかし、どこもあまり興味がそそられない。
そうやって一人でうんうんと悩んでいた折、声をかけられた。
「おいお前。新入生だな」
「え?」
顔をあげると、私の前に男の人が立っていた。メガネをかけた体調の悪そうな人だった。
「えっと……あなたは……?」
「俺は藤原雅舟。三年生だ」
「あ、先輩でしたか……! 失礼しました。私は、清水さくらです!」
私は座っていたベンチから立ち上がり、ペコリとお辞儀する。
すると、藤原先輩は感心したみたいに頷いた。
「ほう……礼儀正しいな」
「え? 普通だと思うんですけど……」
「ああ、いや……俺の知り合いに拳で語る狂犬みたいなやつがいてな。比べて悪かったな」
「えっと……はあ……?」
狂犬みたいなって、誰のことだろう……。
「おっと、無駄話をしてしまったな。すまない」
「いえ……それより、私になにかご用ですか?」
「ああ。清水……お前、新入生だろう? 部活動を探しているんじゃないか?」
「そうですけど……なぜ分かったんですか?」
「さっきお前が部活動見学をしているところを見かけてな。もしやと声をかけたまでのこと……それで? もう入る部活は決まったか?」
「いえ、まだです」
私がそう答えると、藤原先輩はニヒルな笑みを浮かべた。
「それはよかった。それなら、清水。演劇部に入ってみないか?」
「演劇部ですか? そんな部活ありました……?」
「今年の演劇部は人数不足で、廃部寸前だ。新入生が知らないのも当然だな。今、入部すれば主役間違いなしだがどうだ?」
「ど、どうだと言われましても……」
演劇か……。
そういえば、昔……おままごととか好きだったなぁ。
幼馴染のお兄さんと、公園でよくやっていたっけな。私がお母さん役で、お兄さんがお父さん役――。
と、懐かしい記憶が蘇り、少しだけ興味が湧いた。
「それじゃあ、見学だけなら……」
「ふむ……よかろう。だが、まだ部員を集めている最中でな。人数が集まり次第、改めて声をかけよう。それまで、他の部活には入るなよ?」
「え」
これが数日前のことで、本日教室まで藤原先輩が私を迎えに来て、部室まで行くこととなった。
いったいどんな人たちなのだろうと不安に思いながら、案内された部室に入ると――そこにはなんと千葉秀一郎先輩がいたのだった……!
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