部活勧誘……?
翌日の昼休み。
クラスの男子に誘われて、一緒にお昼ご飯を食べることになった。
「なあなあ、千葉! ぶっちゃけ、東京の可愛い女の子の知り合いいないわけ……?」
「まあ、いないわけじゃないけど」
「紹介してくんね?」
「いやだ」
「けち〜なぁー」
他愛のない会話をしながら、俺はコンビニで買ったパンを食べる。
「あ、そういえば千葉。部活どうするんだ?」
「部活?」
「うちの学校、部活には絶対入らないといけないんだぜ」
そういえば、担任の先生がそんなことを言っていた気がする。
「部活ね……」
放課後にでも、どんな部活があるか探してみようかな。
特に他意はないけれど、さくらはなんの部活に所属しているのだろう。
別に、同じ部活に入りたいとか、そんな邪なことはまったく考えていないけれども。うん。
俺がそんなことを考えていると、横から霜二川さんが割って入ってきた。
「部活を探しているみたいね。千葉くん!」
「まあ。強制みたいだし」
「それなら、おすすめの部活があるわ」
「ボクシング部はちょっと……」
「うちの学校にボクシング部はないわよ!」
なんだよかった。
これから霜二川さんのサンドバックにさせられるのかと思って、内心でドキドキしてしまった。
「それで? おすすめの部活って?」
「演劇部よ!」
演劇部……?
それを聞いたクラスの男子が、「いやいや」と首を横に振った。
「やめとけ千葉……演劇部には変な人が多いって噂だぜ?」
「ちょっと、失礼なことを言わないでちょうだい。殴るわよ?」
「ひっ!?」
「霜二川さん……拳で脅すのはやめようか」
クラスの男子が怯えてしまっている。過去に、殴られたことでもあるのだろうか……。
霜二川さんは気を取り直すように咳払いする。
「実は私も演劇部でね。ちょうど、部員を探していたのよ」
「へえ。霜二川さんが演劇って、なんか意外だな……」
「運動は家のジムで十分だもの」
ああ、言われてみればなるほど……。
「ちなみに、部員は私と三年生の部長が一人ね。あと、今日から新入部員が一人、来てくれることになっているわ」
「俺をいれて四人になるのか……人数足りてるのか?」
「千葉くんが入ってくれたら、廃部の危機を脱するわ!」
思っていたよりも窮地に立たされていた。
「そうだなぁ……でも演劇とかよく分からないんだけど」
「大道具とか、やることは色々あるわよ?」
「うーん……」
演劇部ねぇ……。
俺は顎に手を当てて、数秒考える。それから、顔をあげて口を開いた。
「正直、演劇にはあまり興味がなくてさ。悪いけど、演劇部への入部は――」
ガシッ!
と、霜二川さんは俺の言葉を遮って、両肩に手を置いた。肩はものすごい握力で掴まれていて、やや痛みがある。
それとは裏腹に、霜二川さんの顔はニコニコとしていて、かなり恐怖を感じた。
「ねえ、千葉くん。あたし、困ってるの。助けてくれるわよね?」
「……と、とりあえず、見学をさせてください」
「……」
無言の圧力で訴えかけてくる。
これは俺が頷くまで、離さないつもりだ。
「……分かったよ。入部すればいいんだろ?」
「その言葉を待っていたわ! ふふ……これで演劇部が廃部しなくても済むわ〜」
「……脅迫」
「なにか言ったかしら?」
「いえ、なんでも」
こうして俺は、半ば無理矢理に、演劇部へ入部させられることとなってしまった……。
これが数時間前のことで、今は放課後になり、霜二川さんに捕獲された俺は、部室棟の四階まで来ていた。
「さあ、ここが演劇部の部室よ!」
ガララッと、彼女が教室の扉を開ける。
俺は彼女に背中を押される形で中へと入れられた。
部室の間取りは普通の教室と同じだった。教室の隅に使われなくなった古い机と椅子が積まれ、その横に演劇で使うと思われる大道具が置かれている。
「ようこそ! 演劇部へ! あら、部長と新入部員はまだ来ていないみたいね……」
「あ、衣装とかちゃんとあるんだ」
窓際の方に、衣装をかけるハンガーラックがひっそりと置かれていたので目が留まった。
近寄って見てみると、ハンガーラックには五、六着ほどの衣装がかけられていた。
和服や西洋服など、かなり凝った衣装だ。誰が作ったのだろう。
「その衣装すごいでしょ? 過去の先輩たちが作ったらしいわよ」
「へえ……すごいな」
「ほら、黒板の上に賞が飾ってあるでしょ? 昔は、かなり実力があったみたいね」
「本当だ。金賞とか取ってたんだ」
「どう? 興味湧いた?」
「まあ、ちょっとはね」
それから俺は、目についた大道具などを見ながら、部長と新入部員とやらが来るまで、霜二川さんと談笑していた。
しばらくして、ガラッと扉が開いたので門口に目を向けると、男子生徒が入ってきた。
「あ、部長! 遅いわよ! せっかく新入部員を連れてきたのに!」
「ちょっと野暮用でな」
やや渋めの声をしたその男子生徒は、霜二川さんと同じくメガネをかけていて、七三分けにした髪型が様になっていた。
目の下には隈があって肌も白く、どこか体調が悪そうに見えなくもない。
「というか、しずる。敬語を使えて言っているだろう。俺はこれでも先輩だぞ」
「幼馴染のお前にいまさら敬語? いやよ! お前に敬語なんか使う価値もないわ!」
「……酷いこと言う」
なんて男子生徒は言うが、飄々とした態度で適当にサラッと流した感じだった。
ふと、男子生徒の目が俺に向けられる。
「悪いな新入部員。俺は、藤原雅舟だ。藤原先輩と呼べ」
「俺は千葉秀一郎です。よろしくお願いします。藤原先輩」
そう言って頭を下げると、藤原先輩は感心したように頷いた。
「礼儀正しいな」
「え? 普通に名乗っただけですけど……」
「いや、そうではあるのだがな。さっき、しずるが言っていたと思うが、俺とこいつは幼馴染でな。こいつに比べて、礼儀正しいやつだなと思ったんだ」
「ああ……なるほど」
「ちょっ……ねえ、雅舟? どういうこと? あたしが礼儀知らずだって言いたいの? というか、なんで千葉くんも納得してるの? 殴られたいの?」
「そういうところだ。しずる」
藤原先輩は、「はあ……」と目頭を抑えながらため息を吐いた。
「まあ、いい。そんなことより、俺も新入部員を連れてきた。おい、入っていいぞ」
藤原先輩がそう言うと、先輩の後ろから女子生徒が部室に入ってきた。
「失礼します」
と、入ってきた女子生徒を見て、俺は驚いた。
「え? し、清水さん?」
「え? ち、千葉先輩?」
入ってきた新入部員は――なんと清水さくらだった……!
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