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誰にでも優しい清水さんが俺にだけ冷たいわけ。  作者: 青春詭弁
第一幕 春は出会いの季節
7/9

喫茶店

さっき更新する方を間違えました。

最新話をお読みする前に、第六部をお読みください。


 さくらに促されるがままに連れてこられたのは、お洒落で小さな喫茶店だった。


 路地裏の目立たない立地だが、それゆえに静かで、店内にはゆったりとした時間が流れていた。


「こんなところに喫茶店が……」


「ここのマスターと知り合うまでは、私も気づきませんでした。あ、先輩はなに頼みますか? おすすめは、マスターおすすめのブレンドコーヒーなんですけど」


「ブレンドコーヒーか……じゃあ、それを頼もうかな」


「それじゃあ注文しちゃいますね」


 さくらがそう言って、カウンターに立つマスターに声をかけようとしたので、俺は「いやいや」と待ったをかけた。


「俺が注文するよ。清水さんはなにを頼むんだ?」


「え? いえ、私が注文しますよ?」


「いやいや、ここは俺が……」


「いえいえ、ここは私が……」


 そんなことを数回繰り返すと、カウンターで俺たちのやり取りを見ていたマスターが、見兼ねたのかこちらに歩いてきた。


「いつまでそんなくだらねぇやり取りをしてんだ。ほれ、嬢ちゃんはどうせブレンドコーヒーだろ? 兄ちゃんも……ほれ」


 マスターはそう言いながら、俺とさくらの前にコーヒーが注がれたコーヒーカップとソーサーを置いた。


「あ、すみませんマスター」


「かまわねぇよ。あと、こいつは俺の奢りだからな」


「え? それは……」


「いいんだよ。嬢ちゃんには、この前助けてもらったからなぁ。おい、兄ちゃん」


 と、マスターは鋭い目を俺に向ける。


「嬢ちゃんの彼氏かなんか知らねぇが……泣かせるようなことしたらぶっ殺すぞ……」


「あ……はい……」


 こわっ……。


 マスターは言いたいこと言ったみたいな顔で頷くと、再びカウンターの方に戻っていった。


「も、もう……マスターったら。せ、先輩は彼氏じゃないのに……。すみません先輩……」


「ああ、いや……別に。それより、冷めないうちにいただこうか」


「そうですね」


 俺とさくらは、さっそくカップを手に持つ。そのままカップに口をつけると、コーヒーの苦味が口の中に広がった。


「……おいしいな。これ」


「ですよね! マスターの淹れてくれるコーヒーは、最強です!」


「よ、よしてくれや……俺のコーヒーなんてまだまだだぜ」


 と、マスターは無愛想なことを言うけれど、内心喜んでいるのが顔に出ている。


 マスターは、どうやら口は悪いけれど、とても良い人みたいだ。


「えっと……それでお礼なんですけど」


「え? コーヒー奢ってもらったし、もう必要ないけど」


「でも、それはマスターの奢りなのでダメです! 先輩は、なにかして欲しいこととか、本当にないんですか?」


「いや、特にないんだよなぁ……」


「なんでですか!」


 怒られた。


「あ、すみません……大きな声を出してしまって……」


「えっと……別に気にしてないよ。それより、本当にお礼とかいらないから。なにかお礼が欲しくて、君を助けたわけじゃないしさ」


「で、でもですね? 助けてもらったのに、なにもお礼をしないのは私のモットーが許さないと言いますか……」


「モットー?」


「はい! 私のモットーは、自分が正しいと思うことをすること……です! 助けてもらったお礼をしないのは正しくありませんから! ですから、ぜひお礼をさせてください!」


 さくらはそう言って、俺に深々と頭を下げた。


『自分が正しいと思うことをする』


 この言葉――昔にも聞いたことがある。

 さくらは、よくこの言葉を口にしていたっけな。


 自分が正しいと思ったら、さくらは一直線だ。西に困っている人がいれば颯爽と助け、東に泣いている子供がいれば、颯爽と笑顔を届ける。


 そんなかっこいいヒーロー。それが、清水さくらという少女だ。


「昔から……変わってないんだな」


「……? なにか言いましたか?」


「ああ、いや。なんでもないよ。なんでも」


 懐かしさでつい口をついてしまったが、幸いさくらには聴こえていなかったらしい。


 自分の正しいと思うことする……か。


 かっこいいヒーローみたいなさくらに憧れた俺も、その言葉を胸に今日まで生きてきたところがある。


 さくらみたいに、かっこよく人助けはできないけれど……。


 ふと、俺が昔の懐かしい記憶に浸っていると、さくらが俺をジッと見ていることに気づいた。


「えっと……なに?」


「あ、いえ。なんでもないです! と、とにかく……いずれ必ず、このお礼はさせてもらいますから! なにか考えておいてください!」


「あ、うん。分かった。なにか考えておくよ」


「それと……」


「ん? まだなにかあるのか?」


 尋ねると、さくらは椅子に座ったままもじもじとし始める。


 なにか言いにくいことでもあるのだろうか。

 しばらく待ってみると、さくらが意を決したようすで口を開いた。


「あの……さ、さっき助けてくれた時に、私のこと……さくらって呼んで……ましたよね?」


「え?」


 一瞬、なにを言われているのか分からず体が硬直した。しかし、よくよく思い出してみると――そういえば、「さくら!」って叫んだ気がする。


 ただ、あの時は必死だったからよく覚えていない……!


「あの……もしかして、昔――」


 と、さくらがなにか言いかけたタイミングだった。


「おう、コーヒーおかわりいるかい?」


「ひゃあ!?」


 マスターがコーヒーのおかわりを手に持って声をかけると、驚いたのかさくらが変な叫び声を上げた。


 俺もマスターもその声に驚いて、同時にビクッと肩を揺らす。


「ど、どうした嬢ちゃん?」


「い、いえ! なんでもないです……うわーい、おかわり嬉しいなぁ……あはは……」


 さくらは誰が見ても分かる愛想笑いとともに、乾いた笑みを浮かべる。


「えっと……清水さん? 今なにか言いかけなかった?」


「なにも言いかけてませんよ!? ええ! なんでもないですとも!」


「え? あ、そう?」


 本当にそうなのだろうか……。

 はたして、さくらはなにを言いかけたのだろう。

面白いかったらブックマークとポイント評価をしていただけると、やる気が……出ます!

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