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誰にでも優しい清水さんが俺にだけ冷たいわけ。  作者: 青春詭弁
第一幕 春は出会いの季節
6/9

違和感とお礼

 荷物を持って階段をのぼろうとすると、荷物を重くてなかなか階段をのぼれなかった。


「ぐぬぬ!」


「さくらちゃん……無理はしなくても……信号で向こうに渡れるわよ?」


「いえ! ここから信号のある交差点まで、かなり歩きますから! 歩道橋を渡った方がはやいです!」


「でも……それ、重いでしょう? 大丈夫?」


「だ、大丈夫です! ぐぬぬ!」


 私はお婆さんにそう答えたが、正直大丈夫じゃなかった。

 大人しく助けを呼ぼかうと思った折、


「また買いすぎちゃったんですか。お婆さん」


 声がした。


「あら……あなたは昨日の……」


 お婆さんの声に釣られて、私は声のした歩道橋の上に目を向ける。すると、視線の先に秀兄さんが苦笑した顔で立っていた。


「む……!」


 たちまち、昼の出来事を思い出し、思わず私は秀兄さんを睨んでしまった。

 秀兄さんは、そんな私を見て、さらに苦笑しながら階段をおりてくる。


「えっと……よかったら俺も手伝いますよ」


「あらあら……いいのかしら? 昨日の今日で悪いわねぇ。助かるわぁ。ねえ、さくらちゃん。いい彼氏さんね?」


 お婆さんが、「うふふ」と笑いながら言ったので、私は慌てて口を開いた。


「か、彼氏じゃなですから! こ、こんな人の手を借りなくても、私一人でこの荷物を向こう側に運んでみせますとも!」


 私はそう言って、お婆さんの荷物を持って、一段一段ゆっくりと歩道橋をのぼり始める。


「あら……喧嘩でもしたの?」


「いえ……そういうわけじゃないはずなんですけど……」


 そうですね! 私が一方的に怒ってるだけですもん! 秀兄さんは悪くないですもん!


 そう――私が一方的に怒っているだけ、秀兄さんは悪くない。それが、逆に私を苛立たせる。我ながら面倒くさい女だ。こんな自分が嫌になる……。


 私がそんなことを考えていると――。


「あ」


 考え事ごとをしていて油断してしまった。

 私は荷物の重さにバランスを崩してしまったのだ……!


 荷物の重さで、自然と私の体は階段から落ちる。体がふわりと浮遊感に包まれたかと思ったら、私は空を見上げていた。


 やばい――。


 このままだと、私は頭から地面に落ちる。そうなったら、ただじゃ済まない。


 ゆっくりと進む視界の中で、ふいに秀兄さんの声が轟いた。


「……さくら!」


 と、耳をつんざく大きな声の後、落ちていた私の体がなにかに支えられるようにして停止。


 もちろん、私を助けてくれたのは秀兄さんだった。

 秀兄さんは、階段から転げ落ちた私の背中を、抱きかかえるみたいに支えてくれていた。


「まったく……重いなら、無理をしちゃダメじゃないか」


「え……あ、はい……ごめんなさい……」


 危うく死にかけた恐怖と、秀兄さんの顔が目の前にある興奮に挟まれた私は、心臓が破裂しそうなくらいドキドキとしている。


 もうコクコクと、ただ頷くことしかできない。


 その後、お婆さんが「さくらちゃん大丈夫!?」と声をかけてくれたタイミングで我に返った。


 あれ……さくらちゃん……?

 そういえば、秀兄さんさっき……さくらって呼んだ気が……。



 階段から転げ落ちたさくらを間一髪で助けた後、俺とさくらは昨日の同様に、お婆さんを息子夫婦の自宅まで送り届けた。


「さくらちゃんにケガがなくってよかったわぁ。今日こそお茶でもいかが?」


「「いえ、大丈夫です」」


 なんて、また声を被らせつつお婆さんと別れた。

 お婆さんに手を振って別れた後、すぐにさくらが俺に頭を下げた。


「千葉先輩! さきほどは、ありがとうございました!」


「いや、お礼なんて……別に気にしなくてもいいよ。清水さんが無事でよかった」


「私が気にします! ただでさえ、お昼に失礼な態度をとっていますし……お礼をさせてください! なにかして欲しいこととかありませんか?」


 さくらはグイッと俺に迫って言った。

 瞳に鬼気迫るものを感じる……断りにくい。


「別にして欲しいこととかないかな」


「で、ではなにか奢ります!」


「いや、女の子に奢らせるのはちょっと……ましてや、歳下だし」


「私は気にしません!」


 俺が気にするんだけど……。

 とはいえ、この雰囲気だと奢るまで堂々巡りになりそうだ。


 俺はため息を吐いて、自分から折れることにした。


「それじゃあ、なにかジュースでも奢ってもらおうかな」


「……! 分かりました! 私、いい喫茶店を知っているのでそこに行きましょう!」


「え?」


 てっきり、自販機で缶ジュースあたりを奢ってくれるのだろうと思っていた俺は、喫茶店と聞いて首を傾げた。

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