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誰にでも優しい清水さんが俺にだけ冷たいわけ。  作者: 青春詭弁
第一幕 春は出会いの季節
3/9

やきもち


「はあ……」


 と、私は何度目か分からないため息を吐いた。


 この学校に入学してから……とにかく、男子に告白されることが増えた。


 さっきも、サッカー部で有名な先輩から、『いつもの』桜の木の下まで呼び出されて告白された。


 告白されるのは素直に嬉しいけれど……ほとんど喋ったこともない人から告白されることが多いし、桜の木の下は校舎から丸見えだから、目立って嫌だった。


「はあ……」


 再びため息を吐く。


 というか、今はそんなことよりも気になることがある。

 昨日、偶然にも再会した初恋の幼馴染――千葉秀一郎先輩。


 昔は、「秀兄しゅうにいさん!」なんて呼んで、二人で遊んでいたなぁ……。


 秀兄さんは、頼れる歳上のお兄さんという感じで、気がつけば好きになっていた。


 久々に再会した昨日のこともあり、改めて昔の初恋が再燃しているというのが、今の状況だ。


 はっきり言うと、運命を感じて、めちゃくちゃ秀兄さんを意識している……。


 私は昨日のことを思い出しながら、桜の木から食堂にある購買部まで移動。


 お昼時だから食堂は生徒でごった返しており、購買部の方も人で溢れている。


「うーん……お昼ご飯、どうしようかなぁ……」


 そういえば、秀兄さんはどこにいるのだろうか。


 昨日、聞いたことが間違いなければ、今日から登校しているはずだけれど……。


 まあ、どの道この人混みでは見つからないだろうし、食堂にいるとも限らないか……。


「はあ……」


 今度は、少し大きめなため息を吐く私。

 昨日――結局、昔のことには触れずに、あのまま別れてしまった。


 秀兄さんのようすを見ると、どうも私に気づいてくれていないみたいだった。


 そんな状態で「私のこと覚えてる?」なんて聞く勇気が、私にはなかった。


「はあ……」


 またまたため息を吐く。


「おーため息なんて吐いてどうした?」


「あ……ふぶきちゃん」


 声をかけられて振り向くと、同じクラスの琴吹ことぶきふぶきちゃんが立っていた。


 彼女は、金髪に染めた派手な髪をした可愛らしい女の子で、今は派手にデコレーションされたスマホを片手に持っていた。


「どうしたん? 悩みがあるんなら、うちでよければ聞くぞー?」


「ほ、本当に?」


「もちもち〜。うちら友達じゃんか〜」


 パシャ。


 ふぶきちゃんは調子のいいことを言いながら、なぜかスマホで私を撮った。


「って、なんで写真撮るのふぶきちゃん!」


「あ、ごめんごめん。うち、可愛いもの見ると、手が勝手に動いて、スマホで撮っちゃうんだわ。にはは〜」


「もう! 私、物じゃないって何回も言ってるのにぃ……」


 ふぶきちゃんは、ちょっと変わった女の子だ。


 写真を撮るのが好きみたいで、食べ物とか、可愛いものとか、そういう写真をよく撮っているみたい。


 かく言う私も、すでに何回か撮られている。勝手に撮られるのは、あまり好きじゃないからやめてもらいたい……。


「そんなことより、さくらっちはなにに悩んでるのさ?」


「あー……うん。ちょっと、人間関係というか……恋愛的な悩みと言いますか」


「うえ!? さくらっちが恋のお悩み!?」


「うわああ!? 声が大きいよ!?」


「あ、ごめんごめん……驚いてつい……」


「もう……ふぶきちゃんったら……」


「で、でも……そっかぁ。さくらっちが恋の悩みねぇ。告白されても、毎回振ってるから男に興味ないんかと思ってた」


「わ、私だって女の子だし……人並みには男の人に興味あるもん……」


「ほへぇ……で、相手は誰なん?」


「……それは」


 私は秀兄さんの名前を出そうとして、少し躊躇った。

 なんというか、名前を出すのが恥ずかしい。


 別に本人を目の前にしているわけでもないのに、秀兄さんに告白するみたいで、今にも顔から火が吹き出てしまいそう……。


 初恋の幼馴染で、頼りになる一つ歳上のお兄さん。優しくて、面倒みもよくて、頭もいい。


 昨日、久々に再会して、かっこよくなっていた秀兄さんに驚いてしまった。


 それこそ、最初は秀兄さんと気づかないくらいに……。


 けれど、目元が昔と変わっていない。だから、あの人は間違いなく秀兄さんだ――。


 しかし……。


「はあ……」


「え……なんでここでため息?」


「すみません……ちょっと昨日のことを思い出して」


 私は額を抑えて、改めて昨日のことを思い返す。


 昨日のようす……やっぱり、秀兄さんは私のこと忘れているのだろうか。それとも、私に気づいていないだけ?

 

 どっちにしろ、本人に確認しなければ分からない――けど、聞くのが怖い。


 はあ……私の意気地なし。


 ふと、私が顔をあげた時だった。

 購買の前に、見覚えのある顔を発見した私は……目を見開いた。


 その顔というのが、話題となっている秀兄さんだったのだ。だが、問題はそこじゃない。


 問題なのは、その秀兄さんが――見知らぬ女子と並んで歩き、楽しそうに会話しているということ……!


 だ、誰あの女の人は……!


 別に、私は秀兄さんと付き合っているわけじゃない。


 だから、秀兄さんが誰と並んで歩こうが、付き合おうが、私には一切関係ない。


 関係ない……けど……もやもやする……!


 そう思ったら、体が勝手に動いた。


「え、ちょ……さくらっち!?」


 ふぶきちゃんが驚いた声をあげるが、私はお構いなしに秀兄さんのもとへ歩く――そして。


「秀にい――千葉先輩」


 危うく秀兄さんと呼びかけて、慌てて言い直した。

 秀兄さんは、「え?」と振り変えると、私を見るなりぎょっとした。


 その反応に、私は無性に腹が立ってしまった。

 なんでだろう。ものすごくムカムカする……!


「え……清水さん? よね?」


 秀兄さんの隣に立っていた女性も私に気づき、驚いた顔をしていた。


 見たところ、歳上の先輩みたいだったので、私は姿勢を正した。


「突然すみません。私は、一年の清水さくらです。えっと……私のことご存じなんですか?」


「ご存じもなにも、あなたはいろいろ有名だから……」


 有名か……私からしたら、あまり嬉しくない理由だろうけれど。


「あ……と、ごめんなさい。まだ名乗ってなかったわね。あたしは、二年の霜二川しずるよ」


「霜二川先輩……ですね。よろしくお願いします」


「ええ、こちらこそよろしくね。えっと、それで……」


 霜二川先輩は、私と秀兄さんを交互に見ると、不思議そうに首を傾げた。


「二人は知り合いなのかしら? さっき清水さん、千葉先輩って声かけてたわよね? どういう関係?」


 霜二川先輩の勘ぐるような質問に、私は思わず言葉に詰まった。


 どういう関係――。


 端的に言うと、幼馴染のはずだ、それが正解。花丸百点満点な解答だ。


 しかし、それをここで言うには……と、私は秀兄さんにチラッと目を向ける。


 秀兄さんは、どこか困った表情を浮かべている。


 ええ……なんですかその顔……。

 

 まるで、私との関係を霜二川先輩に誤解して欲しくないみたいな。そんな表情に見える。


 私が秀兄さんの関係を答えあぐねていると、霜二川先輩はなにかを察したみたいで、「はっ!」と目を見開いた。


「まさか……答え難いような間柄……? それって、恋び――」


「霜二川さん。誤解してるみたいだから答えると、俺と清水さんは別にそんな間柄じゃないよ。俺と清水さんは……」


 ふと、秀兄さんは一度言葉を区切り、私を一瞥してから続ける。


「俺と清水さんは、昨日偶然知り合っただけの知り合いだから……」


 知り合いだから……知り合いだから……。(エコー)

 私は心の中で、「ぐはっ」と吐血した。クリティカルヒットだ――これはもう確定だ。


 秀兄さんは、私のことを忘れている……!


 マンガだったら、私の頭上に「ガーン」という三文字が落ちてきているだろう。それくらい、私は大きなショックを受けた。


 知り合い……知り合いかぁ……うう……。


「へえ、昨日偶然に……」


「うん、町を散策していたら、たまたまね……だから、霜二川さんが考えているような間柄じゃないよ」


「まあ、それもそうよね。転校したばかりの君が、清水さんと付き合ってるなんてあるわけないわよね」


「そうだね。昨日、会ったばっかりなんだから」


 私は再び吐血した。

 き、昨日……会ったばっかり……?


 私は、秀兄さんとの思いでちゃんと覚えているのに……。昔、交わした『約束』まで覚えてるのに!


 なんだかまたムカムカしてきた……!


 すると、私の中で「ブチッ」となにかが切れた。


「……そ、そうですね! 千葉先輩とは昨日会ったばっかりの初対面ですから! 霜二川先輩が思っているような関係はじゃないです!」


「え? ああ、うん、そうね? ごめんなさいね。変な勘ぐりしちゃって……」


「いえ。それでは私、お昼まだですので失礼します!」


 私は吐き捨てるように言って、踵を返した。


 もう……! 秀兄さんのバカ……!

面白かったらブックマークとポイント評価をしていただけると、やる気が……出ます!

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