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よろしくお願いいたします。
君はどうして、僕がそんなに嫌いなの?
あなたがわたしを見ていないからです。
君はどうして、世界がそんなに嫌いなの?
世界がわたしたちを見ていないからです。
君はいったいなにが好きなんだい?
わたしが好きなのは、光を持たないすべてです。
僕、田中実は起床した。
そして、自分が寝坊したことを悟った。
明らかに普段よりも快眠できたからである。快眠できたとき、それが休日でない限り、寝坊であることは確定である。
昨日は早めに寝たつもりではあったが、やはり、昨日までの徹夜の連続が身体に堪えたらしかった。
無茶はするべきではないな、とそんなふうに思って見るものの、次の機会が来たら同じことをするだろうということは、僕でも十分に予想がついた。
「おはよう」
返ってくるわけがないとわかっていても、今まで習慣から無意識に口に出してしまう。
ここで声が返ってきたら、僕は気を失うだろう。永遠に目覚めないかもしれない。もしくは、もう一人で寝られないかもしれない。
一人暮らしにとってそれは致命的と言ってもいいほどの醜態だ。
中学三年生にもなってそんなことを言うのに少しも恥ずかしさを覚えないと言えば嘘になってしまうが、僕としては、まだ中学三年生である。恐怖で動けなくなっても許してもらえるだろう。
その際、なにに許しを──もとい誰に許しを請うのだろう?
そんなことは今はどうでもいいな。
僕は考えを中断する。おそらくこの会話はもう二度とされることがないだろう。
僕は時計を見た。
壁に立てかけている時計だ。
アナログながら、中身はれっきとしたデジタル式で一日に一回は電波を受信するという、優れものである。
僕には相応しくないものだが、お陰で僕は今まで時計のずれというものを気にしなくてすんでいた。
つまりなにが言いたいのかというと、この時計が指している時刻は正確ということである。
まさに、正確無慈悲という言葉が相応しい。
僕より、その言葉のほうがその時計には相応しい。
時計の針は一つの向きを指していた。
本来は二つであるはずなのだけれど、僕は運が良かったのか、長身と短針が寸分の狂いもなく重なっていた。
いや、もうずれている。ずれたことで、どうということはないのだが。
僕としてはその時計が天辺を指していたということのほうが重要である。
先ほども言ったように、僕は中学三年生である。いわゆる受験生とも呼ばれている。
もはや、遅刻というレベルではすまされない時間である。
遅刻。
受験生にとってそれは最悪の事態うちの一つである。
僕は幸いなことにそこまで受験に力をいれていないが、たった一回の遅刻が運命を左右するということも、それが僕とは関係がないことも知っている。
欠席。
病欠。
そんな考えも頭をよぎったが、しかしながら、これはサボったほうが早い案件である。
親のふりをして学校に電話をかけることは用意だが、その行為が嘘だと露呈するのは音速よりも早いだろう。
一人暮らしが親に欠席の報告を頼むなんておかしすぎる。
そもそも、病気でもないのにそんなことをしたら、僕の心が痛んでしまう。サボるのに対しては心が痛まない。どうせ、あとから叱責が待っているのだ。
罰せられさえすれば、悪行はしてもよい。
実に危ない考えである。まあ、僕に限って悪行はしない。小さな悪行はしてもそれを積み重ねて大きくしようともしないし、大きな悪行は起こさない。
というわけで、今日はサボることにした。
田中実、中学三年生、始業式、無断欠席である。




