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第4話 「狩」り物競走は命懸けです

 「遠征隊選抜試験、第一次試験『探求試験』。各自に配布された受験票に記載されているお題となるものを持って、ここに戻ってくること。制限時間は48時間。それまでにチームメンバーが1()()()()お題をクリアすれば、そのチームは一次試験通過とする。」


 校長のルール説明が終わると生徒達は、チームメンバーの組み合わせ表が貼られたホワイトボードに集まった。知り合いがいて喜ぶ者、初対面のメンバーに自己紹介をする者、来たる決戦に向け準備体操をする者。試験開始までに各々の時間を過ごしている生徒達。オレ達もチームひとかたまりになって開始の合図を待つ。


 「フッ。俺とお前なら楽勝だよな?ハル。」


 「ああ。ローズのためにも絶対に合格してやるさ。」


 「頼むからボクの足だけは引っ張ってくれるなよ?」


 「ふふふっ。なんか良い感じですね!では皆さん、張り切っていきましょーっ!」


 シルヴィアの掛け声とほぼ同時に体育館の出入り口の門が開いた。全校生徒に緊張が走る。


 「それじゃ、精一杯頑張ってね。始め!」


 生徒達が一斉に走り出した。一つしかない体育館の出入り口は大渋滞を起こしている。もしここにローズがいればどんなに良かっただろう…。いや、それは違うな。「もし」なんて過去は存在しないんだ。オレのチームはこの4人だ。


 「ローズ。お前の分まで楽しんでくるぜ。」


 




 「はぁはぁ、もう無理!こんなん絶対に…無理だぁ…」


 汗だくになりながらオレは土を掘り続けた。もう無理。かれこれ4時間もぶっ続けで作業。気力も体力も限界だ。


 一次試験の合格条件は「4人の内、1人でもお題をクリアすること」。対して、与えられたお題は1人につき1つ。つまり、チームに与えられた4つのお題から1つを選んで達成すれば良いということ。ってことでオレ達はそれぞれに課せられたお題を確認したのだが…。


 ジーク=シュトロハイム→『雲』


 ハル=ウォーリア→『温泉』


 ピロー=フルブライト→『アンデッドドラゴンの角』


 シルヴィア=レイズ→『バナナ』


 まずジークの『雲』は論外。シルヴィアの『バナナ』とやらは、辞書によると太古に失われた幻の果実らしい。失われてるから無理。となれば、残るはオレの『温泉』とピローの『アンデッドドラゴンの角』。ジークが居ればアンデッドドラゴンの討伐自体はそう難しいことではない。ただ、アンデッドドラゴンは個体数が少ない上に、夜行性。48時間以内に見つからなかった場合の保険が必要だ。


 なので頑張って『温泉』掘ってまーす。全然出ませーん。これ本当に勇者に必要な力量ですか?想像してた試験と違う!


 「ちょーっと待って下さいね…。あ、来てます来てます。ここです!ここを掘れば出ると思います!」


 シルヴィアは水魔法に高い適正を持っているため、地下の水脈と共鳴できるらしい。オレ達はシルヴィアの勘を頼りに学校のある街『行政都市セントラルスカイ』から遠く離れた山奥まで来てしまった。


 「唸れ!俺の上腕二頭筋ッ!うおおおおおおおッ!!」


 ジーク(の上腕二頭筋)のおかげで発掘作業は(はかど)っているが一向に温泉が湧き出す気配はない。


 「おいおいまだかー?さっさと帰りたいんだけどさー」


 ピローはオレ達の掘った穴の近くの木陰で寝っ転がっている。いやお前も手伝えよ!今すぐ穴に叩き込んでやろうか!


 「あ、待って下さい。やっぱこっちかも。あーいや、こっち?あっちかなー…」


 「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!ハル!穴掘るのって楽しいなあ!」


 「早くしてよー。はーやーくー」


 拝啓ローズさん。お体の具合はどうですか?こっちはもうダメそうです。お疲れ様でした。






 「よかったんですかファーゴットさん?ピロー君をその…(おとり)にしちゃって。」


 若い研究員が巨大な水晶を見ながら、隣に立つ初老の男性に問いかけた。水晶には温泉を掘る子供達が映し出されている。


 「ああ。」


 光の賢者(アルヴィス)会員ファーゴット=フルブライトは目の前の水晶の中の息子を真剣な眼差しで見つめている。


 「…そうですか。まあ、有事の際には世界を代表する優秀な騎士達が彼等を守りますのでご安心を。」


 「しかし。私には貴方方(あなたがた)『賢者』の考えは(いささ)か分かりかねます。今回の通り魔事件とベルガモット家のクーデター事件、関連性があるとは思えません。通り魔はベルガモットの少女を襲撃しているんですよ?通り魔如き、警察に任せればいいじゃないですか。」


 研究員はタブレット端末の資料を見ながら眼鏡を右手で押し上げた。資料には凶器に使用されたとされる銀色の柄のナイフの写真が映っている。


 「そうだな。だが…」


 ファーゴットは研究員の方に体を向けた。


 「私は見届けたいのだよ。ローズ=ベルガモットが襲われたときはどうなることかと思ったが、心配は無用だったようだな。ピローは…いい友人に出会えたようだ。」


 男性はそう言って少し微笑み、また水晶を見始めた。研究員は少し驚いた顔をした後、一礼して水晶の部屋から出て行った。そして少し歩き、立ち止まって左耳に装着された通信機器に触れた。


 「こちら1036番『ピスケス』です。ええ。まだ確定ではありませんが、ブロッサム魔法高等学校周辺に複数の闇魔法の反応を確認。まだファーゴット様には伝えていません。はい。わかりました。」






 「ま、待ってくれ!わかった!言う通りにする!」


 血だらけの少年がコンクリートの地面に必死に頭を擦り付ける。周りには今にも事切れそうな少年のチームメイトが倒れている。


 「チッ、手間かけさせんなよ。お題は『シロガネオオカブト』、『御魂霊水』、『月光石』、『クイーントロルの首飾り』だ。どれでもいいから一つ持って来い。逃げても無駄だ。必ず追って殺す。いいな?」


 尖り頭の少年は(おびただ)しい数の武器を左腕に()()すると、左目のスコープをいじった。


 「ハルたちは苦戦しているようだな。ま、こんなとこでくたばる様な玉じゃないか。期待してるぜ。」


 リクはニヤリと笑うと次なるターゲットの元へ歩き出した。




   ―試験開始から10時間経過―




 温泉出ない。オレは一足先に休憩に入り、今はジークが一人で頑張っている。日も落ちてきた。そろそろアンデッドドラゴンの捜索に向かっても良い頃だろう。


 「アンデッドドラゴンはこの山の麓にある湖に水を飲みに来る。そこにオレたちが奇襲をかけて、角をへし折る。いいか?」


 小さい頃から生き物図鑑を眺めていたオレは焚き火を囲む3人に作戦を説明した。


 「傷の手当なら任せて下さい。戦いは苦手ですが、回復魔法にだけは自信があるので。」


 シルヴィアがガッツポーズをしてみせた。温泉に関しては一級品の詐欺師だが、こっちは信頼できそうだ。


 「角折り役は俺が引き受けよう。ハル、援護を頼む。」


 「わかった。」


 ジークはチーム内で最も高い戦闘力を有していると考えられる。未だその実力を見たことはないが、噂は聞いている。


 「応援は任せろ。ボクは戦いは苦手だが、一生懸命応援して皆を鼓舞することならできる。お前達、戦闘は頼む。」


 ただの役立たずじゃねえか。




    ―試験開始から17時間経過―




 現在午前1:00。満月の光が湖の水面に反射して幻想的な雰囲気を作り出している。生き物の気配はない。嵐の前の静けさというやつか。オレ達は湖のほとりの草むらに身を隠し、竜の出現を待った。


 「なあなあもう帰ろうぜ?な?アンデッドドラゴンなんて物騒な奴出てきやしないよ…。帰って温泉掘ろうぜ?」


 ピローが震えながらオレに訴えた。正直オレも怖い。魔物との戦闘なんてやったことないし、一歩間違えれば死もあり得る。


 「だ、大丈夫さ。アンデッドドラゴンは滅多に人を襲わない温厚な性格だから。それに、ここを乗り切れば試験は通過なんだ。ここを逃せばなんとなくもう合格は無理な気がするんだ。」


 そうだ。おそらくあのまま地面を掘り続けても温泉は出ない。ならばオレ達はこの一か八かの勝負に賭けるしかないのだ。


 「ボクは戦わないからな?ボクは何があっても絶対に──」


       ガサガサッ


 「「ひいいッ!」」


 何かが草むらを擦る音がし、オレとピローは同時に悲鳴を上げた。ジークは目を凝らし音の正体を探る。ついに竜のお出ましか?


 「いや、あれは…人だ。見たところ生徒ではないようだが。」


 「光の賢者(アルヴィス)の騎士だ!」


 ジークの言葉にピローがすかさず反応した。確かに現れた複数の人影は鎧を着て、剣を携えている。1、2…6人。6人いる。もしやピローの護衛のためにオレ達の後をつけていたのか?ピローの親父はなんつー親バカだよ。


 そんなことを考えながらしばらく騎士達を見ていたオレはすぐに彼らの異変に気付く。何やら様子がおかしい。騎士達はフラフラと同じ所を行ったり来たりしている。誰がどう見たって普通じゃない。


 「なあジーク。あれ、何してると思う?」


 ジークは俺もわからないという顔で首を振った。月に照らされてダンスを踊る彼らは妙に情熱的で笑えてくる。酔っ払ってんのか?とりあえずピロー1人のために後をつけられるのは御免なので、一言文句を言ってやろうと草むらから出ようとした次の瞬間──


 「キュオオオオオオオオオオオオオッ」


 突如として辺りに不気味な唸り声がこだました。間違いない。いよいよ来やがったか。アンデッドドラゴン!


 闇の中から巨大な影が威厳たっぷりに這い出てくる。それはゆっくりと湖に近づくと、月の光に闇を剥がされ、その醜悪な姿を(あら)わにした。赤黒い血管が浮き出た皮膚は気味悪く光沢し、所々骨が露出している。正に腐敗した竜の死体がそのまま蘇ったようだ。見上げると頭の側面には一対の湾曲した角が生えている。あれを持ち帰れば合格だ。


 「あれが死を呼ぶと言う冥界の竜、アンデッドドラゴン…ってハルさん!あの人達ヤバくないですか?!」


 シルヴィアが焦ったようにオレの肩を何度も叩く。彼女の視線の先を見ると、先程の騎士達がドラゴンを前にして剣も抜かずに未だ踊り狂っていた。確かにヤバい。助けに行こうにも体が動かない。


 「で、でも大丈夫なんだろ?あんな見た目だけど人は滅多に襲わないんだよな?ハル?」


 ピローが引きつった笑顔でオレのもう片方の肩を叩く。ピロー君それフラグです。


 凶悪な竜の頭が騎士の一人に近づいていく。ヤバい。喰われる…!オレが目を瞑った瞬間、誰かが草むらから飛び出した。

 

 「ジーク!!!」


 ジークは走りながら剣を抜き右手に構えると、左手を前に突き出した。


 「飛石(ステップストーン)!」


 ジークの前方に複数の土の塊が浮かび上がり、空中に道ができる。ジークはそれを足場代わりに駆け上がり、竜の頭に一瞬で近づくと、右手の剣を渾身の力で頭上から叩きつけた。


 地鳴りのような音と共に、竜が地面にめり込む。間一髪、騎士は食べられずに済んだようだ。土の道が崩れると同時にジークも地面に倒れこむ。


 「ハルくん!私たちも行きましょう!」


 シルヴィアに急かされ、オレはようやく状況を呑み込んだ。オレはシルヴィアと共にジークの元へ駆けつけた。ピローはまだ草むらで震えている。


 「大丈夫かジーク!怪我はないか?!」


 見たところ無事なようだ。シルヴィアがジークの体を起こす。


 「ああ俺は大丈夫だ。それよりも…」


 ジークが横に目をやると、さっきまで地面に伏していた不気味な竜がよろよろと前脚をふらつかせながら立ち上がる。


 「キュオオオオォ…」


 「まずはこいつをなんとかしないとな。ハル、作戦通り援護を頼む。」


 ジークはそう言うと立ち上がり、再び剣を構えた。オレとシルヴィアも体勢を低くし、臨戦態勢に入る。怖いけど仕方ない。やってやろうじゃねえか!


 「いくぞ!ブレイズバード!」


 突き出したオレの右手から炎が勢い良く飛び出す。だんだんと形を変え、鳥の姿になると、竜の背後に回り込み左後脚に突っ込んだ。


 「キュオ!キュオオオオッ!」


 体勢が崩れ、竜の注意が背後に向く。ジークいまだ!


 「任せろ!突石(ストライクストーン)!」


 地面から棒状の岩がせり出し、竜の胸部に直撃する。勢い良く胸を突かれた竜は堪えきれず首を前方に垂れた。すかさずジークは岩を踏み台に真上に飛び上がり角を切り落とす。


 「っしゃあ!アンデッドドラゴンの角ゲットォッ!」


 喜びのあまり声をあげたのも束の間、飛び上がったジークが何かに叩きつけられ横に吹っ飛ぶ。切り落としたはずの角はドス黒いモヤのようなものを吐き出しながら空中に浮かび続けている。


 「な!おいジーク!大丈夫か!」


 オレはすぐさまジークの方へ駆け出した。このシチュエーションはこれで2度目だ。


 「水よ、偽りを暴きなさい!真実の雨(スキャンレイン)!」


 シルヴィアの詠唱と共に辺りに雨が降り出す。それと同時に、宙に浮いていた竜の角がポトリと地面に落ちた。黒いモヤも消えた。雨が止むと、今度は乾いた拍手が聞こえ始めた。


 「ハハハァ。素晴ラシイ!実にスバラしイ…。」


 よろめいていた騎士達が剣を構えてシルヴィアを囲む。数人、オレ達の方にも千鳥足で迫ってくる。


 「ワタシの思ッた通リだァ…。ハハハハハハ…。」


 地面から黒いモヤが溢れ出し、やがて人の形になった。黒いローブのフードからは大きな傷のついた老人の顔が覗いている。老人は狂ったように拍手をすると、舌舐めずりをした。


 「さア見せテくれ…偉大ナル闇を!!!」

一日空いちゃいました。できるだけ毎日投稿していきます。

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