8 女子生徒の秘密
翌日、俺のところにブルタンおよびその配下の連中がこぞってやってきた。
「ルーリック、お前は強かった。俺たちはお前についていくぜ」
全体を代表してブルタンが言った。
なので、俺もそれに答える。
「いや、ついてこなくていいから」
「えー! それはないだろ! ついてこさせろよ!」
ブルタンが抗議してきた。気持ちはわからんでもないが、こっちとしてはついてきてもらうメリットなんて、とくにないんだよな。
「俺はつるむのは好きじゃないんだ。むしろ、苦手だ」
なにせ、前の学校でもみんなが遊びに行ってる時間とかも図書館にこもって魔法について調べたりしていた。そのうち、まったく誘われなくなった。
その時は悲しかったけど、賢者になってみれば、あそこで一人でこつこつやってきたのが報われたのだなと確信持って言える。なので一切の後悔はない。
「それよりブルタン、お前、賢者にあこがれてるって言ってたよな?」
「あ、ああ……。それにウソはねえぜ……。まだ、まったく魔法は使えないがな……。けど、7の段はほぼ覚えた……」
こいつら、魔法以外でつまづきすぎだろ……。
「だったら、俺が魔法の基礎は教えてやる。それで、イチから学びなおせ。いや、お前の場合、学びなおすっていうか、まともに学んだこともないのかもしれないけど」
俺はもちろん教育者の免許も持ってないし、経験もない。
それでも、クラスメイトに勉強を教えるぐらいはごく普通のことだ。どこまでやれるかわからないけど、やってみる価値はある。
「ほ、本当にいいのか……?」
「もちろん、つきっきりってわけにはいかないけど、一回、本当に第一歩からやってみろよ。こういうのは、とにかく基礎から振り返るべきなんだ」
俺の言葉にブルタンのグループのテンションが上がった。
「よっしゃ! 俺もやるぞ!」
「偉くなるぞ! 天下とるぞ!」
「サイカー学園の連中にも成績でも勝つぞ!」
いや、そんな全員は教えられないぞ……。それと、他校と張り合う展開をいつのまにか入れないでくれ。なんか、面倒なことになってきたかも……。
そんなことをやってるうちにモアモア先生がやってきた。
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今日は8の段です
8×1=8
8×2=16
8×3=24
8×4=32
8×5=40
みんな、がんばりましょう!
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これ、いくらなんでも基礎にもほどがある。
「ルーリックさんはあまりにも簡単すぎて空しいかと思いますので、詰めチェスを持ってきたので、これでも解いておいてください」
「お気づかいありがたいですけど、それ、授業なんですかね……?」
とにかく、その日も俺は授業で次々にチートな力を見せていった。見せていったというか、周囲のレベルが低すぎるので、チートになっているだけだが。
昼休み、俺はブルタンたちと購買に行った。
ここでパンを売っているので、弁当がない奴はこれを昼食にするのだ。
購買といっても、実質、そこはパン屋さんって感じだった。トレーにパンを載せていって、最後に会計をすます。パンは一個、80ゴールドや90ゴールドだから、かなり安い。
「なんか、パン食ってる生徒の率、高くないか?」
俺はブルタンに聞いた。学校に来ること自体サボってる奴が大量にいる割には、にぎわっている。もしかすると、パンだけ食いに来てる奴すらいそうだけどな……。
「この学校、寮に通ってる奴が多いんだぜ。で、中には自分で料理が作れない奴も多いから、どうしても購買のパン頼みになる」
そっか、言われてみればわからなくもない。
不良が多くて荒れてるといっても、誰だってメシは食わないと生きていけない。購買はなかなか活気があった。生徒たちもなんだか楽しそうである。
けど、その中にふと気にかかる客がいた。
俺のクラスにいた紅一点の女子生徒だ。典型的なギャル。
相変わらず、化粧が濃いし、目つきも悪い。翼は邪魔だからなのか、折りたたんでいる。
制服の胸のボタン、はずしすぎじゃないか。あれ、ブラが見えるぞ。
やせてるみたいなのに、やけにおなかだけふくれてるな。
まさか、妊娠……? いや、そういうふくらみ方じゃない。もっと不自然だ。
「ああ、ルーリック、あいつが気になんのかぁ?」
ブルタンが間の抜けた声で聞いてきた。
「惚れたとしてもやめたほうがいいぜ。スピーナは女の中ではかなりのワルだぞ。それに男とも距離をとってる」
「いや、そんなんじゃないんだけど、なんか気になったんだ……」
感覚的なものだけど、割とこういうのは当たる。
すると、スピーナはさっとパンを制服の上から胸の中にいくつも入れていった。
あいつ、万引きする気だ!
そのまま何食わぬ顔で出ていこうとするスピーナ。
俺は思わず、それを追いかけて、すぐに店を出る。
「おい! 万引きは犯罪だぞ! 最悪、学校を退学になるっ!」
俺は人が減ったところで声をかけた。
びくっと、スピーナも振り返る。
「転校生かよ……。うっせーな。お前には迷惑かけてねーじゃん」
「そういう問題じゃないだろ。ちゃんと金は払え」
どうもスピーナは焦っているようだった。俺にムカついてるだけというわけでもなさそうだ。
「わかったよ……。じゃあ、あんたが店にこれで払ってよ」
スピーナは銅貨を俺に渡してきた。870ゴールド。端数だし、多分盗んだ合計額と等しいんだろう。もともとおなかがふくれていたのも、パンを入れてたわけだな。
でも、まだ何か気になることが続いている。
後ろからブルタンの子分のゴブリンが来たので、「これを購買に払っておいてくれ。スピーナの分だ」と言って、金を渡した。
たんに昼飯をくすねたにしては、パンが多すぎたように思う。購買の値段からして十個はパンが買える値段だ。女子一人が食える量じゃない。
足音を消すために「空中浮遊」の魔法をさっと唱える。これで、超低空飛行で追いかけていく。
スピーナは校舎裏の薄暗い用具倉庫のほうに向かっていく。
そこには長身の悪魔の男が三人ほど集まっていた。
俺は追加で「透明化」の魔法も使う。賢者になっていてよかった。隠密的なこともしっかりとできる。
「ほら、今日の分のパンね」
男たちにスピーナはパンを渡す。同じグループか? それにしてはスピーナの目つきが悪い。心を許してないどころか、警戒している様子というか。
「へっへっへ。わりいな。明日も頼むぜ、スピーナちゃんよ」
しゃべった男は絵に描いたような不良だな。耳にピアスしてるし。髪型は中途半端にロン毛で気持ち悪い。
「それでさ、いつになったら終わりにしてくれんの?」
「あっ? 終わりなんて来るわけねえだろ」
ドスの利いた声に男がなる。
「俺たちが卒業するまではずっとパシリをやってもらうぜ」
「ちょっ……。話が違うじゃん! アタシはせいぜい五、六回って聞いてたし!」
スピーナのほうが文句を言う。
「はぁ? おい、スピーナちゃんよ、お前の友達に手、出されてもいいのかよ?」
これは脅しだ。
ほぼ、間違いない。
スピーナはこいつらに弱みを握られている。