24 エフランのトップ
決着はだいたい十分もしないうちについた。
ほとんどの敵が膝をついてる状態で、これ以上戦える力を持っている奴はいないだろう。
ただ、こういう交渉はそもそもトップとしないといけないものだ。
俺はミノタウロスのバルクードのところに向かった。こいつもがたがたふるえている。こっちの数が多数だと見て、ビビったんだろう。
自分が多人数の時だけ戦って、確実に敵をつぶしてのし上がる。戦術としてはなんら間違っていないが、人を束ねるだけの格じゃないな。
実際、部下の中からは「結局、逃げたのかよ」「ちょっと恥ずかしいよな」なんて声が漏れはじめている。
「おい、バルクード、俺の勝ちってことでいいな? いいんだよな?」
「は、はいっ! オレたち『殺歎』の負けですっ! もう完敗です……」
下を向いたまま、バルクードは言った。
「そっか。わかった。じゃあ、約束どおり、高等部の平均点より上になるまで猛勉強してもらうからな」
「べ、勉強……」
「ああ、それをやってもらわないと筋が通らないからな」
これは個別に教えられる人数は超えそうだし、新しい問題集の作成でもたずさわったほうがいいかな。先生たちと一緒に考えるか。
そのあと、俺は応援してくれた仲間たちのところに向かった。
スピーナは喜んでいたけど、ほかの面々はむしろ呆然としていた。
あそこまで派手に戦えるとは思ってなかったのかもしれない。攻撃魔法が強いとか、そんな次元じゃなかったからな。
ゆっくりとスピーナは俺に抱きついてきた。
「リックはほんとにすごかったんだね。アタシ、びっくりしちゃった……」
「これでも最年少賢者の記録を更新してるからな。でも、上にはもっと上がいくらでもいる。いずれ、そういうのを抜いていくのが俺の目標だ」
あくまで若くして賢者になっただけで、大物はまだまだいる。戦乱のない時代だから力を示しづらくはあるけど。
「でも、まずはこのエフランの成績を上げるほうが短期の目標になるかな」
学園長が河原の土手から俺を見ているのがわかった。
そして、グッジョブのポーズを右手で取った。
エフランの成績を上げるのはまだまだこれからだな。
●
それ以降、俺と学園長、それとモアモアさんを含む教師たちは生徒を本格的に指導していった。
これまでと比べて効果は段違いだった。
なにせ、エフランの最大勢力だった不良グループが俺の下についたことで、授業に来いと「命令」したらみんな素直にやってくるようになったのだ。
なお、全然勉強がわからないという生徒がいた場合は、俺が言って熱烈に指導する。別に背暴力をふるうとかじゃなくて、そのまんま科目の内容を指導するのだ。
俺が来るとみんな緊張して、なんとしても覚えようとするしな……。
エフランの成績ははっきり言って、上り調子だ。
もとが低すぎたというのもあるけど、実力テストを課すごとに全体の成績も上がっていて、生徒のモチベーションにもなっている。
最近だと「成績でも近隣の学校どもに勝つぜ!」などと部下たちを煽っている。
戦うべき敵をほかの不良からテストに替えてしまえばいいんだ。そしたら、自然と近隣の学校にも勝てるようになるだろ。
ただ、不良校から急にケンカがなくなるかというと、そんなことはないわけで――
俺が授業中、ほかの生徒を教えていると、『殺歎』にいたうちの一人がやってきた。
「ヘッド! 今度はアカテン工業の奴らがケンカを売ってきました! ヘッドと勝負したいそうです」
「わかった。じゃあ、時間と場所を設定しておいてくれ。ちゃんと行くから」
学校で売られたケンカはとりあえず全部俺が買うことにしたのだ。これならほかの生徒は勉強に集中できる。
もちろん、連戦連勝だ。これからも負けるつもりはない。
おかげで俺の名前はどんどん悪名高いというか、恐ろしい存在になってきてるみたいだけど、まあ、エフランの一番上にいるのは間違いないから、それもしょうがないだろう。
まずは偏差値50を目指してやるだけやってやるか。
今回で、「ひ弱な青年賢者はヤンキーだらけの魔法学院のトップに立つことにしました」は最終回となります。今までお読みいただきありがとうございました!




