23 一対五十
そして、俺は時間通り、スピーナやブルタンも一緒に連れて、河原に向かった。
ただ、途中、俺を狙ってきてる奴が三人ぐらいいたので、電流を走らせておいた。三人ぐらいなら、足止めにもならない。
みんなと一緒に来て正解だったな。みんなが個別に来ると、そこを狙われかねない。俺が守ったほうが安全だ。
ブルタンたちになんてすごい魔法なんだと今更ながらに驚かれたけど、こんなのは序の口だ。
向こうは大人数ということもあって、大量のギャラリーで埋まっていた。いや、こいつらは大半が参加者なのか。
「あれ、時間通りに来れたのか」
ミノタウロスのバルクードがけげんな顔になった。
「ああ、何人かナイフを持った奴がいたから、つぶしておいた。ちゃんとしつけておいてくれないと困るんだけどな」
「悪かったな。素行が悪い奴はあとでよくわからせておくぜ」
数はたしかに五十人ほどだろうか。それなりの数の集団だ。
「約束通り、『殺歎』の構成員はちゃんと全員揃えたぜ。それと、そっちも彼女を連れてきたことは褒めてやんよ。あとでお前の代わりに思いきり楽しんでやるからな!」
「俺のすぐそばにいてもらったほうが安全だから連れてきただけだ。勘違いするなよ」
全部が敵方の不良ってわけじゃないらしい。なんだなんだと見に来た一般人も河原の上にいる。よく見たら学園長までここにいる。いや、それはおかしいでしょ……。
でも、公認のケンカならかえって心理的に楽かもしれない。
「いつから始める? 俺はいつでもいいぞ」
もう、どうやって勝つかは決めている。
「ケンカだから、お前が手でも叩いてくれれば、それを始めの合図にしようや。へっへっへ」
バルクードがそう言うと、その前にぞろぞろと敵が出てきた。
ああ、これ、魔法を使う連中だな。一気に魔法でつぶしてやろうって腹だろう。
たしかにしっかりした魔法の詠唱や魔法陣の作成となるとそれなりの時間がかかる。その前に決着をつけにいくというのは戦略としては間違ってない。
同じ次元の奴同士ならな。
俺は杖を脇にはさんで、ぱんと手を叩いた。
さあ、スタートだ。
すぐに魔法の詠唱を前にいた連中が行いだした。区切りがどこかおかしいけど、古語の意味も理解せずに丸暗記してるからだろうな。
さて、まずはじっくりやるか。
炎やら風やらが俺のほうに飛んでくる。
「リック!」「ルーリック!」「大丈夫か!」
そんな悲鳴が聞こえてくる。
悪いな。なんの心配もない。
俺は大きな氷の室の中に身を隠している。
少しは炎で溶けただろうけど、たいした量ではない。
この程度の魔法ならつぶやく程度の詠唱だけでできる。それが賢者の実力だ。こんなこともできないのだったら、隙を突かれたら腕っぷしの強い一般人にすら敗れることになる。
俺はその氷の室の中で、ゆっくりと次の手を打つ。
杖で魔法陣を描きつつ、詠唱を行う。不良では使えないような、高度な魔法だ。
数で劣っているから、少し数を増やすことにしよう。
敵のただなかに何体も、半透明な鉄仮面の戦士が現れる。
その数、だいたい百体ぐらい。せっかくなので大盤振る舞いをすることにしてやった。
「なっ! なんだ、こいつら!」「いきなり出てきたぞ!」
パニックの声が聞こえる中で、俺はゆっくりと室から顔を出す。
「クリーチャー作成の魔法だ。まあ、こういうのは多人数同士でやったほうが盛り上がるからな」
ミノタウロスのバルクードも青ざめていた。
「ふざけんな! どうして、こんなに一斉に召喚ができんだよ! 召喚魔法は高難易度なんじゃないのかよ……」
「それだけ俺がすごいってことだ。魔法を使えるだけのお前らと同じにするのはやめてくれよ」
俺は全校生徒が魔法を使える学校で最強だったんだから。
もう、勝負はその時点でついていた。
俺の召喚したクリーチャーたちに不良どもは叩きつぶされていた。
実力だけじゃなく、数のほうでも圧倒される。
数体のクリーチャーに囲まれて、失禁している奴もいた。
バルクードはどうしていいかわからず、クリーチャーから距離を置いていた。
「ふざけんなよ! こんなの勝てるわけねえだろ! せっかく五十人集めたのによ……」
「当たり前だよ。でも、勝てるわけない奴にケンカ売ったお前のせいだからな」
俺は古典的な火の玉の魔法をバルクードに放つ。
「なんだよ、これぐらいならかわせるぜ!」
ばるくーどは体を大きく何歩も横に動かして、回避しようとする。
しかし、そこで火の玉が進路を変える。
「それは追跡弾だ。しっかり逃げてくれ。当たるまでな」
「ひえっ! ひえっ!」
バルクードは半泣きで逃げていたが――
やがて火の玉を背中に受けて、ぶわっと燃え上がった。
すぐに消えるから致命傷にはならないようにしてるさ。




