2 偏差値4
「実はな、君をヴァーランド魔法学院から系列校に転入させられないかと考えていた。遠方の学校なら君のこともたいして知られてないし、そこで特待生制度を使えれば学費を納めることもなく、学生も続けられる」
「素晴らしいアイディアです。ぜひ、お願いします」
学園長も便宜を図ろうとはしてくれてるんだな。成績が悪かったら、そんなこともしてくれなかったかもしれない。やっぱり、成績は大事だ。
「しかし、君の親の悪名が広まりすぎていて、どこも二の足を踏んでいてな……」
そんな……。保身ばかり考えずに俺を受け入れてくれよ……。
「それで、どうにか一箇所、君に関心を持ってくれたところがあった」
「よかった、じゃあ解決ですね」
まだ学園長が不安そうな顔をしているのが気になるが。
「その学校の名前はエフラン魔法学院だ」
「全然聞いたことのない名前の学校ですね……」
「エフランは魔族の土地の地名だからだろうな」
ああ、魔族が住んでた地域なのか。
勇者が魔王を屈服させた後、魔族の土地にも人間側と似たような魔法学校などが次々に作られた。中にはかなりレベルが高い魔法学校もある。
「そこ、一般入試の倍率は何倍ぐらいなんですか? まあ、編入試験で落ちるつもりはないですけど。これでも倍率20倍のヴァーランド魔法学院の中等部編入試験を受かってるわけですし」
魔法学校はどこでもそれなりに人気が高いし、5倍ぐらいのところが多い。
「エフラン魔法学院の倍率は0.75倍だよ……」
「1倍未満……? それって、全員入学できるってことですか?」
「願書を出すと自動的に入学許可が出る。エフラン魔法学院にも一応入学試験はあるが、その日、サボった者も合格しているので、形式だけのようだな」
「聞けば聞くほど信じられないんですけど、そんな学校が本当にあるんですね……」
がさごそと学園長は机から何かを探し出した。
「ちなみに、これがエフラン魔法学院の去年の入試問題だ。君なら百点が取れるだろう」
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1 魔法に関する次の質問に○か×で答えよ。
・炎の魔法を使うと木を燃やすことができる。 ( )
・風魔法を使うとものを遠くに吹き飛ばせる。 ( )
・眠り魔法を使うと、相手は永久に起きない。 ( )
2 次の計算をしなさい。
・勇者は50点のダメージになる炎の魔法を使えます。7回使うといくらのダメージになるでしょう?
・フランツ君が友達4人と話しています。そこに2人が来ました。合計で何人でしょう?
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「…………すいません、学園長、初等部の入試問題を見せられても困るんですが」
というか、炎の魔法で木を燃やせることなんて、三歳児でも知ってるだろう。
一応、最後のはフランツ君の人数を足し忘れると、一人少なくて間違いになるというひっかけ問題なんだろうな……。フランツ君を入れて答えは7人だ。
「これが高等部の入試問題なのだ」
「そんなバカな……。これ、魔法に関する問題じゃないじゃないですか……」
「いいや、間違いなく、これが入試なんだ。ちなみに全国魔法学院学力テストでのこの学校の結果は――偏差値4だ」
「4? 偏差値40ってことですか? だったらかなり低いですね」
「40ではなく4だ」
一桁の偏差値だと……!?
指で数えられる偏差値なんてものが存在するのか。
「むしろ、どうしたら偏差値4なんて数字を叩き出せるんですか……?」
「多分、ものすごく荒れているんだろう。授業中によく教室の壁が壊れるらしい」
何が起きているんだ……? 不良がゴーレムでも召喚してるのか……? しかし偏差値4ではゴーレムなんて召喚できないよな。まさか、生徒が壁を殴ってるのか?
「で、このエフラン魔法学院の学園長が君に興味を示していてな。このヴァーランド魔法学院でトップの成績を誇る君なら、エフランの偏差値を50にまで押し上げられるのではと言っている」
どれだけ俺が努力しても、4を50にするのは無理だと思う。生徒数が三人とかなら、まあ、ありえなくはないだろうけど……。
「君も予想はついてると思うが、このエフラン魔法学院は不良だらけらしい、訳ありの家庭も多い。君の親の不祥事も埋もれてしまい、気にならないそうだ。どうだろうか?」
かなり究極の選択だと思った。
そんな暴力がすべてを支配しているような学校に行くべきか?
だが、ここで高等部を中退したという事実を作るのもつらい。経歴に傷がつくことは事実だ。賢者として働いて金を貯めて、再度入学ということもできなくはないが、高等部中退のほうが目について、きっと働きづらい。
賢者の資格も価値があるけど、高等部卒業資格もとても重要なのだ。
高等部中退という事態を避けるためなら、無茶苦茶な学校でもいいと言えばいい。二年弱辛抱すればいいのだ。
しかし、ここまでとんでもない環境だと、ためらってしまうなあ……
「なお、このエフラン魔法学院の特待生制度だと、月に百万ゴールドが支給される」
「ひゃ、百万!」
大物の賢者になれば、それぐらいの額はすぐに稼げるだろうけど、学生にとったら破格の金額であることに違いはない。しかも月にそれだけと言うことは、一年では千二百万ゴールド。学生ではどれだけ家庭教師のバイトを入れても稼げない高収入だ。
「つまり、向こうの学園長も勝負に出ているということだ。どうだろうか? 仮に一か月だけ試しにやってみてから退学しても、百万ゴールドは入る。そのお金を元に再出発はできる」
「たしかに」
親が逃げたから、俺の資産はほぼゼロだ。財産を増やす意味でも挑戦する価値はあるか……。
「わかりました。この学校に転入することにします」
「うむ、健闘を祈るよ、ルーリック君」
こうして、俺は名門校を飛び出して、エフラン魔法学院という場所に移ることになったのだ。
この世界のゴールドはほぼ円と同じ単位と思ってください。コメディなのでわかりやすさ重視でいきます。
転校しないと何もはじまらない話なので、次回も早目に更新します。