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ひ弱な青年賢者はヤンキーだらけの魔法学院のトップに立つことにしました  作者: 森田季節
ヤンキー女子は実は清楚な美少女編

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19 一組の完全一位

「なっ! マグレでかわしたからっていい気になるんじゃねえ!」

 マグレじゃないんだけど、まあ、そう見えるかな。


 その後も、ゲグは荒っぽく何度も殴りかかってきた。バカの一つ覚えって言葉があるけど、あれがまさにこういうことを言うんだろう。

 といっても、ケンカというのはこういうものだ。ルールも何もなく、ひたすら殴ったり蹴ったりして相手を倒す。


 だから、こっちの無攻術には絶対に勝てない。

 俺はぎりぎりのところで全部かわしていく。


 素人のケンカとちゃんとした技術の差は大きい。適当なオリジナル詠唱を作っても魔法が発動しないようなものだ。


 素人同士の戦いなら力任せでも問題はない。単純に腕力の強いほう、体力のあるほうが相手を先に戦闘不能にできる。

 けど、相手が技術を学んでいるなら、その限りじゃない。俺から見れば、ゲグの攻撃の一つ一つに大きな問題点がわかる。


 ああ、これ、賢者になるための勉強の過程で何度も経験してきた感覚だ。


 自分のレベルが一段階上になると、それより下の時に苦労していたこと、わからないでいたことが、手に取るようにわかる時がある。


 過去の自分を上から見るような感覚だ。


 知識や経験は人間を成長させる。

 無攻術を学ぶ前ならもうすでにボコボコにされてただろうけど、今の俺はその時の俺より確実に一段階上だ。


 最初は俺がかわしたのをマグレとか言ってたゲグも、十回も二十回もパンチが空を切ると、さすがにそんなことを言っていられなくなってきた。


「くそっ! なんで当たらねえんだっ!」


 ギャラリーからも「おいおい、あれ、どうなってんだ?」「あの転校生、武術まで使えるのかよ!?」といった声が聞こえてくる。


 そして、なによりも俺に元気をくれる声援があった。

「リック、ぶっつぶしちゃえ! リックが、そんなのに負けるわけないんだから!」

 スピーナが手をメガホンみたいにしてこっちに声を送ってくれていた。


 今度はギャラリーたちが「あんなかわいい子、いたっけ?」「見たことないぞ……」といった困惑の声がする。


「くそっ! お前ばっかりいい目見やがって! くそっ! くそっ!」

 ゲグがさらに力任せに腕を振り下ろす。

 はっきり言って逆効果だ。かえって体の軸が大きくぶれてバランスを崩しているから、俺はさらにかわすのが楽になる。


「ゲグ、お前、弱いのに調子乗りすぎだぞ」

「転校生が舐めやがって!」

「俺に負けたら真面目に勉強しろよ」

「俺は3の段で挫折してんだよっ!」

 それはさすがにひどすぎる!


 いや、まあ、でも一般常識程度のことを勉強するなら今からでも間に合うだろう。

 そろそろこちらの攻撃に移ることにしよう。


 魔法使いの証しとも言える杖、あれを俺は放り投げる。


「これ、保険で持ってたけど、必要なかったな」


 攻撃に移るといっても、俺には腕力なんてない。殴っても、たいした威力はないから、敵の力を使う。それが無攻術の発想だ。


「さらに舐めんじゃねえよ!」

 俺を殴ってきたゲグの腕を少し引いて、そのまま投げ飛ばす。


 勢いよくゲグは背中から落ちる。

 同時にこれまでで最大の歓声が起きる。

 オーガのブルタンとその一派も盛り上がっていた。


「くそっ! なんでだよ!」

 殴りかかってくるから、またその力を利用して放り投げる。


 何度か繰り返すと、ゲグもボロボロになっていた。体力だけはあるらしい。

 現状、俺の圧勝というところだ。


「もう、負けを認めろよ。マジで一発もお前の攻撃、決まってねえじゃん」

「いいや! ここで奇跡が起きるんだよ!」


 そろそろ決着をつけるか。

 ゲグが突進してくるので、俺も足を速める。


 その速度でモノにぶつかれば大ダメージだよな。

 俺は拳をゲグの鼻に打ち込む。

 もちろん、敵のパンチはかわしながら。


 見事な一撃が決まった。

「ぶぐほっ……」


 そのまま、モヒカンゴブリンのゲグは地面に倒れた。

「どうだ、もうつまんないケンカは売ってくんなよ」

「ヒャッハ……」

 何もヒャッハーな事態じゃないぞ。


 ギャラリーたちからは歓声なのか悲鳴なのかわからないぐらい、いろんな声が聞こえてきた。

「あのゲグが倒れたぞ!」「じゃあ、二年一組最強はやっぱり転校生かよ!」「やべえ、やべえ!」「時代が変わるぞ、時代がっ!」「もう、俺たちもルーリックの下につくしかねえんじゃ……」


 そんな反応も楽しくはあったけど、やっぱり最高なのはこれだな。

「おめでとう、リック!」

 スピーナが俺のところに駆けてきて、そのまま抱きついてきた。

 これを受け流したら最悪だから、ちゃんと抱き止める。


 見てる奴がたくさんいるのに、スピーナはそんなこともかまわずにキスをしてきた。清楚な容姿なのに情熱的って反則すぎるだろ。

「みんな、見てるけど、いいのか……? 俺はすごくうれしいけど……」

「どうせ、リックはもう有名人になっちゃってるから広まるからさ……」


 そっか。そりゃ、こんな派手な転校生、ほかにいないもんな。

 じゃあ、いっそとことん伝説を作ってやるか。


 俺はスピーナの手を握った。

「一緒に下校しようか、スピーナ」

「う、うん……。これはさすがに恥ずかしいかな……」

 顔を真っ赤にしたスピーナとともに俺は校舎裏から出ていった。



 ――自分の家に帰ったら、けっこう体に疲労がたまっているのに気づいた。


「ああ、心は張り詰めてるもんな。気疲れっていうものはあるんだな……」

「今夜はゆっくりしたらいいよ、リック」


 俺はスピーナに膝枕してもらって、十五分ほど仮眠するつもりだった。

 でも、膝枕してもらっているうちに、ムラムラしてきちゃった……。


「スピーナ……いいかな……」

「頑張ったご褒美ってことでいいよ」


 また不純異性交遊をしてしまったけど、放課後にケンカするような不良だから別にいいだろう。


賢者、ケンカに勝つ武術を学ぶ編はこれで終わりです。

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