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ひ弱な青年賢者はヤンキーだらけの魔法学院のトップに立つことにしました  作者: 森田季節
ヤンキー女子は実は清楚な美少女編

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17 無攻術を極めろ

 そのあとも俺は放課後、積極的にモアモアさんと無攻術を極めた。

 練習が終わった後は、一度、学校に戻るのだけど、いつもスピーナが待ってくれていた。


「先に帰っててくれていいのに……」

「だって、リック、練習してるじゃん。その間、アタシも学校に残って勉強してるわけ。ちょっとは賢くなれないと……リックの彼女として、恥ずかしいし……」


 そんなの気にしなくていいと言いたいところだけど、勉強する意欲を持つことはものすごくいいことだし、スピーナの勉強時間が結果として増えるなら悪いことじゃないのかもしれない。


 休日の土曜日と日曜日は、おうちデートというのか、二人で俺の部屋にいて、一緒に買い物に行ったりした。寮が離れているせいで、生徒に会わないですむのはありがたい。


「リック、夜は何を食べる?」

「スピーナの作ってくれる料理、どれもおいしいからなんでもいい」

「それ、作る側がかえって困る定番の答えだからちゃんと言って!」


 そう言われてしまったので、豚肉のしょうが焼きを所望した。シンプルだからこそ、料理人の腕が問われる系の料理だ。


 しかし、ここまで彼女とラブラブになっているだなんて、前の学校にいる時は想像もしなかったな。人生、一寸先は闇だ。


 スピーナの腕を疑ったりなどしてなかったけど、しょうが焼きも問題なくおいしいと言えるものだった。ほんとにこの腕前はすごいとしか言いようがない。


「しかし、この料理の腕、どこで磨いたんだ?」

 ちょっとかじってみましたというレベルではない気がする。むしろ、プロの側に近いというか。


 人差し指同士をつんつんさせながら、スピーナは言った。

「実は、アタシ……実家が定食屋やってるんだよね……」

 そうだったのか!

「親とは仲悪かったんだけど、なんだかんだで血は争えないのかな……」


 スピーナがこのエフラン魔法学院に来たのも、親の「家を継げ」という圧力が強くなってきて、その反発だった部分があるらしい。ただ、割と早い段階で勉強についていけなくなってきたという。


 人に歴史ありだ。底辺の魔法学院に来る生徒一人ひとりにも特別な理由がある。


「リックに料理作ってあげてるとね、あっ、アタシって料理、そんなに嫌いじゃなかったんだってわかってきたっていうか……誰かのために作るとこんなに真剣になれるっていうか……」

 ずっと、もじもじと言葉をつむいでいくスピーナ。悪魔特有の細い尻尾も左右に動いている。今、俺の彼女が世界一かわいい。異論は認めない。


「別にこれまでのスピーナの生き方を否定するわけじゃないけど、まだ俺たち、学生だろ。つまり、まだまだ先は長いわけだし、知らないことも多いんだし、自分の嫌いだと思ってたことが好きになったり、その逆もあったりするのが普通だと思うんだ」


 自分のことも思い浮かべながら言葉をつないでいった。

 まだ何かを決め付けるには俺たちは若すぎる。それこそ、もしかしたら魔法より武術のほうが得意だったなんてこともあるかもしれない。


「ありがと、リック……」

 スピーナに顔を近づけすぎていたので、また自然とキスをする展開になった。

 美少女とのキスは何度やっても飽きない。


「それと、リック、もうすぐ例のゲグとのケンカだね」

 キスのあと、スピーナは恥ずかしかったのか、話をさっとスライドさせた(ように少なくとも俺には見えた)。


「そうだな。かなり仕上がってるし、魔法を使わなくても、割といい線までいけるとは思う。負けるのは嫌だから、いざとなったら魔法使うけど」

 これが魔法の学校じゃなかったら、魔法は禁止と言われたら素直に従うけど、俺たちが通うのは底辺だろうとなんだろうと魔法学院だ。なので使用させてもらう。


「ア、アタシは気にしないから……しっかり無攻術、覚えてくれたらいいから……。強くなるためには何したっていいから……」

 スピーナの言葉の意味がいまいちわからなかった。

 もしかして、何かを生贄にする儀式とか、今後あるんだろうか?

 たしかに魔族の世界だとそういうのもあったりするのかな……?


 ひっかかるところはあったものの、そのあとスピーナとベッドでいろいろやったので、そのことも記憶から抜け落ちた。



 そして、月曜日の放課後。

 その日もモアモアさんによる熱血指導が行われた。


 といっても、モアモアさん自体は無表情に近いので、熱血っぽさはない。

 武術とか、「気合いだ、気合い!」とか叫んでる暑苦しいオッサンの顔が思い浮かぶが、そういうのとはまったく異質の練習だった。

 とにかく、淡々と型を繰り返していく。


「さて、そろそろ次の段階に移りましょうか」

 その言葉に俺のやる気もさらに一段階上がった。


 もっと鍛えて、モヒカンゴブリンのゲグをぶっつぶしてやる。


「いったい、どんなことをするんですか?」

「はい、体をやわらかくするためにはり治療を行います」


「はりちりょう……?」

 いつものようにモアモアさんが真顔で言うのでシュールなギャグかと思った。


「ええ。体をやわらかくするためにはあらゆることをする、それが無攻術なのです。では、背中を出していただけますか?」

 本当にやるらしく、いつのまにやら、針の入った箱をモアモアさんは出してきた。


「それって痛くないですよね……?」

 多分、これ、鍼灸しんきゅうをやる人は必ず一度は聞く質問だろうな……。


「あまり痛くならないようにいたします。ご心配なく。免許も取得しておりますから」

 さらにモアモアさんの存在が謎になった。


 たしかに治療は全然痛くなかった。拍子抜けするぐらいだった。

「これでさらに動きがよくなっています。そういうツボを刺激していますから。魔族の中で継承されている秘伝なのです」

 どこまで本当か怪しいけど、信じるとしよう。


 無事に鍼の治療も終わった。


「それじゃ、次に移りますね……。ついに来てしまいましたか……」

 いよいよ最後の試練か!?


「服を……脱いでいただけますか?」


「上半身は鍼治療で脱いでますが」

「いえ、全部です……」

 モアモアさんの表情が少し恥ずかしそうなものに変わる。


 えっ……? どういうことだ?

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