14 モヒカンヒャッハー不良
翌日、二人で一緒に登校したら、あまりにも目立ってしょうがないのでスピーナに先に登校してもらって、時間差で俺も学校に入ることにした。
「あれが、下種なグループの『下種樽党』を崩壊に追い込むきっかけ作った人間だぜ」
「ヤバい奴って噂は本当だったのか……」
その日、登校すると、オークやコボルトの不良たちが廊下で噂していた。
不良という扱いを受けてるのが気になるけど、そんなに悪い気はしない。
「もう、同じクラスの女子と付き合ってるらしいぜ?」
「マジかよ。きっと下種な手口を使ったんだろうな……」
やってねえよ! そこはちゃんと手順踏んでるからな!
「けど、これで一組のサボってる連中も、このままじゃいられないんじゃないか?」
「あ、それはあるかもな。このままだと転校生に締められてるって思われかねないからな」
ん? なんか重要な話をしているような気がするぞ。
「これはゴブリンのゲグもやってくるんじゃねえかな」
「なるほど。一組といえば、ゲグだよな」
どうやら、俺のクラスにはゲグっていう怖い奴がいるらしい。
しかし、ゴブリンらしいからたかがしれているだろう。別に気にする必要はない。
廊下を歩いていると、一部の生徒がびくびくして、目をそらした。どこで噂が広がってるかわからないけど、ただ者じゃないと認識する奴が出てきているらしい。
教室に入ると、これまでより、なぜか華やいでいる気がした。
理由はすぐにわかった。女子の数が多くなっている。ギャル的なメイクの悪魔がスピーナの周りに集まっている。
で、その女子たちが一斉にこちらに目を向けた。
「あー! あの人かー」
「けっこう、イケメンなんじゃない?」
「うん、リーアの彼氏より全然いいよー」
どうやらスピーナの友達らしいな……。それで、スピーナに彼氏ができたことを聞きつけてきたんだろう。こういう情報伝達の速度ってバカにならないからな。
スピーナも友達相手に恥ずかしいような、まんざらでもないような表情をしていた。
多分だけど、友達グループの中で彼氏がいるかどうかで、微妙に立場とかも変わってくるんじゃないだろうか。
俺は軽く、そのグループ全体に「おはよう……」と声をかけておいた。ここでスピーナのところに行くと迷惑をかけてしまいそうだし。
ただ、話し声はきっちり聞こえてしまうんだよなあ。
とくにやりすぎだろってぐらい、スカートが短い女子がやけに質問していた。
「それで、スピーナって彼氏とどこまでいったの?」
おい、教室でそういうこと聞くなよ!
「あのさ、その手の話は、ここ、男子もいるし、後でさ……」
「その反応はスピーナ、けっこういったんじゃない? そうなんじゃない?」
押しに負けて、スピーナが「実は昨日……」とか小声で言った。
マジかよ! 翌日でばれる流れ!?
「どこ? どこでやったの? 宿屋? それとも寮?」
「か、彼氏の部屋……」
スピーナの声を聞いて、俺も顔が赤くなる。
ブルタンのグループもしっかりと聞いていたらしく、悔し泣きしている奴までいた……。
「俺たちも彼女ほしいぜ……」
「今時、硬派な不良はダメなのかな……」
不良の中にも葛藤ってものがあるんだな。
まあ、全体的に荒れてる学校の中で見れば微笑ましいエピソードと言えるので、いいのではないだろうか。壁に穴が空いたとかよりはマシだろう。
しかし、そんな空気がすぐに変わった。
教室にこれまで見たことのない生徒が入ってきたのだ。
「げっ! ゲグじゃねえか!」
ブルタンが叫んだ。
ああ、廊下で噂されていたゴブリンか。
そいつは、たしかにゴブリンではあったのだけど、体はものすごく巨大でオーガのブルタンよりもさらに一回り大きかった。
そして、モヒカンって言うのか? 髪の毛をトサカみたいにしていた。ていうか、ゴブリンってこんなにしっかり毛が生えてたっけ。そこは体質なのか。
これならゴブリンでも不良として活躍できそうだ。それぐらいにはデカい。
ブルタンも心なしか居心地が悪そうだ。多分、ゲグのほうがケンカが強いんだろう。
そのゲグって奴が俺の前に来る。
「おい、てめえが人間の転校生のルーリックか? ヒャッハー!」
「ああ、そうだけど? ちなみにそっちはゲグでいいのか?」
「ああ。なんか、転校生が勝手に他人様のクラスを乗っ取ってるって聞いてな。余計なことをするなって釘を刺しに来たんだぜ。ヒャッハー!」
巨体の奴にすごまれると、そこそこ怖い。
あと、語尾のヒャッハーってのは何だ?
「乗っ取るっていうのは人聞きが悪いな。俺は普通に礼儀正しく生徒をやってるだけだ。ちなみに俺は不良ですらない」
こういうところで下手に出たら舐められる。すぐにケンカをするつもりはないけど、毅然とした対応をとる。
「じゃあ、お前が正しいかどうか、殴り合いで決めねえか?」
わかりやすくケンカを売ってきたな。まあ、魔法を使えばこっちが絶対に勝つんだけど。
「ゲグ! あなたじゃ無理だかんな!」
後ろでスピーナが声を上げていた。
「なぜなら、リックは無茶苦茶、魔法使えるんだよ! 殴れる距離に近づくまでにボコボコにされるかんね! 腕力とかそういうものでは戦わないんだよ!」
スピーナの言葉は正しい。
そして、この言葉にゲグも少し、驚いていた。
「魔法が使えるだと……? マジかよ……」
この展開、何度かあったけど、あくまでもエフラン魔法学院なんだから、魔法は使える前提にしてほしいと思う。なんで、みんなそこで驚くんだよ……。
「俺は認めねえぞ……。男は拳で殴り合ってこそだろ……。魔法とか卑怯者のすることだぜ……。ひゃは……」
「いや、ここ魔法を学ぶ教育機関なんだから、使えてもいいだろ……? むしろ、お前らが全然使えないほうがおかしいんだよ……」
「お前、言ってはならないことを……。やっぱり、お前はケンカでわからせるしかねえようだな! 一週間後、放課後、校舎の裏で待つ!」
「いいけど。魔法は使うぞ……?」
「あ、ああ、勝手にしろや。でも、ちゃんとしたケンカで魔法を使って勝っても、この学校じゃ卑怯者って言われるかもしれねえけどな。俺は言うぜ」
全部、お前の都合じゃねえか!
魔法を使うかどうかはともかく、ケンカすることにはなった。




