13 正式な彼女に
「なあ、リック……彼女役じゃなくて彼女ってことにしてくれないかな……?」
俺は鈍感かもしれないけど、ここで気付かないほど鈍感ではない。
「うん、こんな俺でよければ」
もともと近い顔をさらにスピーナが近づけてくる。
初めてのことだけど、ここから何をすればいいかはわかる。俺もくちびるを近づけた。
そのキスは幸せの味がした。
世のカップルはキスをしてこんな気持ちになっているんだな。
「あのさ、リック……この部屋ってお風呂あるのかな……?」
スピーナはさっきよりもさらに熱っぽい瞳で見てくる。そんなの反則だ。かわいすぎるだろ。
「そりゃ、お風呂ぐらいはあるけど……。俺、特待生って扱いだし」
「じゃあ、今から借りていいかな……? その……アタシの初めて、リックにもらってほしいっていうか……。ギャルだから、そういうの早いとか偏見だからな?」
これは高度な精神支配の魔法ではないかと疑いそうになるぐらい、どきどきした。
「わかった。今から湯を入れる……」
「うん……」
「ちなみに、言うまでもないかもしれないけど、俺も彼女とかできたことないから……初だ……」
「じゃあ、どっちもリードできねえな。乱暴にしたらアタシは怒るからな」
「そこは丁重に、丁重にやるから」
そのあと、ぎこちないながらも最後までやった。
どっちかというと、すべて終わって、やさしく抱き合っている時のほうが、幸せという点では大きかったかもしれない。
「アタシたち、不良かな?」
「高等部だと、多分、普通だと思うぞ。男子校や女子校とか出会いが少ないところだと別かもしれないけど」
こういうことの統計を雑誌で書いてたりするけど、いまいち信用できない。そんなアンケートをとってるところ、本当にあるのかという気もするし。
「アタシ、学校の近くで個人で部屋借りてるだけだし、今日は泊まっていけるんだけど」
「わかった。スピーナの好きなようにしてくれ。あとでもう一度お風呂も入らないといけないしな。夕飯も作らないと。近くの店で買ってくるか」
「アタシが裸にエプロンでリックに作ってやろうか?」
小悪魔のようにスピーナが笑った。実際、魔族だけど。
「大変、うれしい提案だけど、俺の理性が壊れるから、それは今度でいいや。とくに清楚な雰囲気の子の裸エプロンは、それは禁忌の魔法だから……」
羊を10頭生贄にしないといけない魔法でも、やる奴いるかもしれないぐらいには、強い誘惑がある。
また料理をスピーナにやらせるのは働かせすぎな気がしたので、二人分の惣菜を夜までやってる店で買ってきて、二人で食べた。その時は他愛ない話をしていた。スピーナの友達の話とか。
エフランにも女子の友達はいるらしいけど、みんな過去にグレて、ここぐらいしか行き場がなかった子らしい。
「大半の生徒の親は、魔法が使えるようになるなんて思ってないんだよ。ただ、せめて高等部の卒業資格がもらえれば、それがないよりはマシだって考えてるわけ。今の時代は人間も魔族も同じ条件で就職とか競わないといけないからな」
エフラン魔法学院の存在意義みたいなものも、スピーナとの話を聞いていて、わかってきた。
吹き溜まりみたいに言われてるけど、そこにはそこの意味があるんだ。完全な無価値ってわけじゃない。
もちろん、吹き溜まりに見えるのも事実だし、すぐに中退しちゃう生徒も多い。おかげで偏差値4なんて驚異的な数字を叩き出してしまっている。
「あのさ、リック、今度はほかの友達にも勉強教えてやってくれないかな?」
「ああ、いいぜ。スピーナの子ならきっといい子たちだろうし」
人格の部分で腐ってたら、落ちこぼれたちも友達を作ろうとはしないはずだ。人間として信頼できるっていう部分をお互いに認め合っていたと思う。
スピーナは喜んだと思ったら、すぐに警戒するような顔になった。
「で、でも……アタシの友達に手を出したらぶん殴るからな!」
「出さない、出さない! 浮気なんてしないから!」
そもそも、彼女が長らくいなかった俺からすると浮気をするって概念すら理解できないんだが。相手が悲しむことを堂々とする神経になれる奴の気がしれん。
夕飯後もスピーナは魔法について貪欲に勉強していった。
すぐに俺が前にいたヴァーランド魔法学院みたいな成績に追いつくのは簡単なことじゃないけど、偏差値50を目指すぐらいのことはやり方次第でできるかもしれないな。
俺も転校してきたわけだし、何か目標があったほうがいいな。
ひとまずは学校に来てるクラスの魔族たちの成績を上げることを目標にしていこうか。
それと、できれば俺自身にも何か目指すべきものがあったほうがいいか。
肉弾戦での戦闘能力を高められるなら、そっちも高めたいな。
賢者っていうと、どうしても文弱のイメージがあるけど、僧侶の中にはモーニングスターをぶんぶん振り回す大物もかつてはいたっていう。僧侶から賢者にジョブチェンジする奴もいるわけだし、やりようはちゃんとあるはずだ。
ただ、どうやって格闘技で強くなればいいのかな。
学園長に聞いてみればいいか。俺も生徒なわけだし、生徒の学びたいって気持ちには応えてくれると思う。
そんなことを考えてたら、俺の手にまたスピーナが手を重ねてきた。
やっぱり、どきりとした。これは不可抗力だ。
「リック、今、アタシの勉強と全然違うこと考えてただろ?」
ジト目で言われた。そのジト目もかわいいけど。
「悪い……。そっちに集中する」
「罰として……このあとで、もう一戦してもらおうかな……」
上目づかいでスピーナがこっちを見つめてくる。こうなると十七歳の男は屈服するしかないな……。
「わかった……」
その日は寝不足になってしまったので、俺も立派な不良かもしれない。
ギャル生徒の秘密 編はこれで終わりです。次回から、ヒャッハーな不良と戦います。




