11 彼氏役をやることになりました
「アタシと、つ、付き合ってるって設定にするっていうのは、どうかな……?」
ええええええっ!?
俺は心底驚いた。発してしまった声でその驚きようもわかるだろう。
「おい、ビビりすぎだろ、お前……。失礼な奴だな!」
スピーナににらまれた。たしかに今のはひどい反応だったかもしれない。
「いや、俺、こういう経験ないから、それでびっくりしたんだ……」
「っていうことは、付き合ったこともないってことなの? 王都だとお前みたいに活躍しても、付き合ってもらえないんだ。やっぱり金のある年上のほうがモテるとか、そういうことなわけ?」
これ、なんか勘違いされてる気がする。
「スピーナ、別に俺は王都で人を助けてまわってたわけじゃないぞ」
「ってことは、アタシがタイプだから助けたってことか? だとすると、うれしいかも……」
プラス思考で考えられてるな。ここは「うん」って答えるべきかもしれないけど、ウソをつくのもよくない。
「いや、どっちかというと、俺はもうちょっと清楚なキャラのほうがタイプだな」
「ひどっ! どうせギャルみたいな見た目してるよ! ほっといてよ!」
気分を害してしまった。
でも、俺はひたすら勉強ばっかりしてた人間なので、ギャル系の女子には免疫がないのだ。
「じゃあさ、なんでアタシを助けたんだよ?」
「やけにそこを気にするんだな」
俺としては理由らしい理由もないんだけど。
でも、スピーナは少しばかり自嘲的な笑みを浮かべた。
「ほら、アタシら不良を見るとみんな避けていくものだからさ。厄介者扱いってのが普通だったんだよ……」
「そっか。俺としては、事件に巻き込まれてる気がしたから、助けにいったってだけなんだけど」
「でも、アタシは……ギャルみたいな女はタイプじゃないんだろ……?」
「いや、タイプとか関係なく助けるだろ」
そこに理由なんていらないと思う。クラスの女子生徒がキモい不良にひどいことされそうになってて、逃げるってことはありえない。
まして、俺はエフランの学生に絶対に負けることはないわけで、いよいよ逃げちゃダメなのだ。誰が見ても明白な悪事を止める義務がある。
やけにスピーナがぼうっと俺のほうを見ていた。この店ってそんなに温度高いかな。のぼせるほどじゃないはずだが。
「なあ。スピーナ、大丈夫か?」
「うああっ! いきなり話しかけてくるなよ……」
いきなりも何もそっちが、ぼうっとしてたせいでいきなりになってるだけだ。
「ルーリック、あんた、ひどい奴だな。かっこいいところ見せるくせに、アタシはタイプじゃないとか言うし。それだったらずっと下種な感じでいてくれたほうがせいせいしたのに」
さすがに今日みたいな下種にはなれないだろ。
俺のさっきの言葉が地味に応えているらしく、スピーナはうじうじしていた。ばさばさと背中の翼が小さく動いている。
「ええと、フォローになってるかはわからないけど……スピーナはかわいいと思うぞ? 俺がギャル系の子に耐性がないだけで……。前の学校、そういう女子は皆無に近かったからな……」
これでおそらく許してもらえるんじゃないだろうか。
「だ、だから、タイプじゃないのにそういうこと言うなよな! 乙女の心をもてあそぶなよっ!」
「お前は乙女っていうか、不良だろ……」
「不良かつ乙女ってこともあるんだよ! お前なんてこーしてやるっ!」
ほっぺたを両側から引っ張られた。たしかに不良の報復というよりは乙女の報復っぽい。タバコの火を手に押し付けるみたいなのではない。
店を出る夫婦の客がそんな様子を見ていたらしい。
「あっ、学生カップルね」「初々しいな~」
途端にスピーナの手が止まってしまって、また、顔が赤くなる。
ひとまず、スピーナはああいうひやかしに免疫がないことはわかった。
「そ、それでさ……ルーリック……アタシ一人だと怖いし……彼氏のフリしてくれないかな……?」
また、スピーナが狙われるリスクはまだあるんだよな。その点は看過できない。お嬢様学校に通うシスネはそもそも不良に会うこと自体が滅多にないだろうけど、スピーナは日常的に不良と遭遇するし。
「わかった。じゃあ、彼氏と彼女ってことでいいぜ」
「そ、そっか……。ありがと……」
もじもじしつつもスピーナは笑っていた。
「あとさ、アタシもルーリックみたいに強くなりたいし、勉強も見てくれるかな……?」
「そういうことなら、大歓迎だ。どんどん聞いてくれ」
どうせ、エフラン魔法学院の宿題をやる意味なんて俺にはないし、その時間はほかに費やしてもいいだろう。ぶっちゃけ、俺は卒業資格さえもらえればそれでいい。
「うん。じゃあ……明日、ルーリックの部屋で教えてもらっていいかな……?」
「お前、勉強にすごく積極的なんだな! よし、ぜひ来てくれ! みっちり教えてやる!」
なぜか受け入れバッチリという対応をしているのに、そこでスピーナは微妙な表情になった。
「悪くはない話のはずなのに、鈍すぎて腹立たしいぜ……。やっぱり勉強できる奴はこういうの、鈍いんだな……」
「鈍いって何がだ?」
「何でもねえよ……リック」
変な呼び方をされた。
「ほら、彼女なんだからニックネームで呼んだりするだろ」
「じゃあ、スピーナは。ええと……スピ子?」
「殺すぞ。もう、普通でいいや……」
こうして、俺は彼氏役をやることになった。転校早々、毎日、情報量が濃すぎる。
しかし、思ったよりも俺のクラスの生徒が勉強に興味を持っていたっていうのは予想外だった。ブルタンその他の男子も、意欲的だったしな。
俺は学園長の言葉を思い出していた。
――この学園の生徒さんの大半はまだ一度も自分の翼で羽ばたいたことがありません。けど、逆に言うと、羽ばたき方さえわかれば、すごく成長する可能性だってあるんですよ。
あの言葉、本当にそうかもしれないな。
これまで一度も自主的に勉強をしたことがなかった奴らが、勉強に目覚めて、しかもその楽しみを知ったら――
成績が急激に上がることだってあるんじゃないか。
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翌日、校門前で昨日つぶした下種たちが集まっていた。
「昨日は本当にすいやせんでした!」
「反省してます!」
「『下種樽党』のヘッド、やってもらえませんか?」
そんなのやらねえし、チーム名が嫌すぎる。
そいつらのことは無視して、教室に入った。
そこには見たことのない美少女がいた。
輝くような黄金色のストレートヘアー、エフランの生徒とは思えないぐらい、しっかり制服も着ていて、名家の女の子という雰囲気もある。化粧はいわゆるナチュラルに見えるタイプのメイクだな。厚化粧よりはるかに難しいやつだ。
はっきり言って、ストライクだった。
俺が賢者になったのもこういう子と付き合いたかったからだ。
「よう、リック」
その女の子に声をかけられた。
「ど、どちら様でしょうか?」
「おい、しばくぞ。アタシだよ、スピーナだよ」
「えええええええええええっ!」
ヤンキーが美少女になりました。次回に続きますw




