10 クソ野郎は凍れ
下種グループの中でも、一番体がデカい悪魔がシスネに声をかける。
「シスネちゃんだね? 悪いんだけど、君の友達が重大な違反をしちゃったみたいでね、君には犠牲になってもらわないといけなくなったんだ。悪いけど犠牲になってもらうぜ」
男たちはさっとシスネを取り囲む。
しかし、くすくすとシスネは笑う。
「お前たち、このわらわが偉大なる魔法使いの末裔と知っての狼藉か? わらわの祖は氷魔法の大家で、勇者すら氷漬けにしたことがあるのじゃぞ?」
よし、演技、上手い! 強キャラ感が出ている!
予想外の態度に不良たちの表情から笑みが消えた。
「ヘッド、これ、嫌な予感がしますぜ。俺たちがぶっ殺される流れじゃないですか?」
「馬鹿野郎! そんな小説みたいな展開はねえよ! とっとと服を破り捨ててやれ! 訳わからねえ転校生にやられたあいつらの復讐なんだよ!」
「でも、その訳のわからねえ転校生がまた復讐に来ませんか……?」
手下、けっこう頭まわるな。
「知るか! 先のことなんて、どうでもいいんだよ!」
マジで頭が悪いな……。さすが、魔法を習う学校の中で最低の偏差値なだけはある。
「あまりわらわに近づくと、容赦はせぬぞ。ふっふっふ、はっはっはっは!」
ノリノリだな、シスネ……。
でも、そのほうが演技してるように見えないので、こっちとしてはちょうどいい。
ちなみに俺とスピーナもシスネの真後ろにいる。俺のところから魔法が発せられるので、俺もシスネのすぐそばにいないといけないのだ。
「かまうな! やっちまえ! こんな上玉、エフランにはいねえだろ!」
「そうだ! 俺たちも不良の女以外と仲良くなりたかったんだ!」
「不良ってモテねえんだな!」
どことなく悲哀を感じるけど、だからってお前らのやってることは絶対に許されないことだからな。ぶっつぶす。
俺は小声で呪文を詠唱していく。
さあ、カチンコチンにしてやるよ。
俺は「氷河の抱擁」という魔法を使った。
敵を攻撃することを目的とした、かなり恐ろしい魔法だ。
氷河がまさに俺から全方位に生まれていく!
無論、敵の不良からしたら、シスネから生まれたように見える。
「うあああ!」「なんだ、こりゃああ!」「寒い、寒い!」
俺の半径一メートルのエリアを残して、その外側がことごとく凍結していく。
不良たちの下半身は完全に氷で埋め尽くされる。
胸より上はどうにか氷の洗礼を受けていないといったところか。
俺は小声で「氷の関係の魔法は致命傷にはならずにすむから使いやすいんだ。ただし、氷の刃を放つとかそういうのは別な」と二人に説明した。まだ、不良たちにばれてはいけないからだ。
「ふっふっふ、だから言ったではないか。わらわに手を出すとこういうことになるとな。お前ら、底辺の学生ごときが何万人集まっても無駄なのだ!」
シスネの言葉に不良たちもふるえている。
ああ、これは氷漬けになって寒いからっていうのもあるな……。
「た、助けてくれ! 悪かった! 俺たちが悪かったっ!」
ヘッドが泣いて懇願している。まさか、こんなところで返り討ちにされるとは思っていなかったのだろう。
「さあ、どうしたものか。こっちとしては一人や二人の生贄で許してやらなくもないが」
おい、そんなの事前に言ってなかったぞ? アドリブのセリフだ。
こいつを生贄にしたほうがいいとか言い出して、不良たちは仲間割れを起こしだした。
「まっ、絶対にわらわにも友のスピーナにも手を出さんと誓うことじゃな。誓えぬならこの場で殺す」
「誓います!」
「ものすごく誓います!」
「マジ誓います!」
「あとな、スピーナに万引きさせて食事を行っていた者がいたそうであるが、その万引きさせた金額分、耳を揃えて購買に払わせておけ」
やけに細かいけど、怪しまれていないから問題ないだろう。
「わかりました!」
「絶対払います!」
「何も迷惑おかけいたしません!」
「そうか。では、その氷はいずれ溶けるであろう。ゆっくりと動けるのを待つことじゃな」
シスネと透明になっていた俺たちはゆっくりと、その場を去っていった。
無事に下種な不良は撃退したし、一件落着だな。
●
このあと、不良の絶対に入ってこないような女子力の高いカフェに移動した。絶対にシスネが通ってる店だと思っていたら、意に反してスピーナもよく来ているらしかった。ちなみに二人が知り合ったのもこのお店らしい。
「な、なんか文句あんの……? いいでしょ?」
「まだ俺は何も言ってないぞ、スピーナ……」
まあ、けっこう可愛い趣味あるんだなと思ったけど、そこは黙っていた。
「私、スピーナちゃんみたいな、ちょっと怖い人と友達になるのが夢で……」
「アタシはシスネみたいなお嬢様と友達になるのが夢だったんだ……」
なるほどな……。つまり、利害は完璧に一致してたってわけだ。
こうして二人は友情を確認して、別れた。もうずいぶん遅いからシスネが帰っていったのだ。一人で大丈夫かと思ったけど、この近くの人通りの多いところに住んでいるから問題ないということだった。
むしろ、スピーナや男の俺と歩いてるのを家族が見ると何か言いそうだから……と寂しくも、お嬢様の家にありそうなことを言われてしまった。
というわけで、スピーナと俺が残された。
「今日はありがとな……。あんたのおかげで、ど、どうにかなった……」
照れながら、スピーナに言われた。
「結果オーライだな。最初は万引きに気づいたからなだけだし。でも、しばらくはまたお前にちょっかいかけてくる奴もいるかもしれないから、注意しろよ。俺も意識して見てはおくけど」
「じゃ、じゃあさ……。これは提案なんだけどさ……。アタシが近くにいてもおかしくないようにさ……」
やけにうつむきながらスピーナはしゃべっている。なんか、緊張するようなことがあるのか?
「アタシと、つ、付き合ってるって設定にするっていうのは、どうかな……?」
「ええええええっ!?」」




