狩り
「ウィル遅いぞ。はぐれちまう」
「待ってよ。兄ちゃん」
汗で額に張り付いたマリーさん似の綺麗な金髪をかき分けながら必死に俺を追いかけるウィルは俺の弟だ。
あの日産まれた守ろうと思った弱弱しい赤ちゃん――ウィルは5歳になり、俺は10歳になった。
ウィルと名付けられた赤ちゃんはすくすくと元気に育ちマリーさん譲りの金髪と父親からだろうか?蒼い目をしている。
ウィルの父親は見たことはないけど、マリーさんに似てウィルの顔は整った顔立ちしている。
筋のとおった高い鼻に綺麗なぷるっとした唇、くりくりとした大きな瞳。
俺は村から出たことないけど、王都には貴族とかいう綺麗な人たちがいるらしいからそんな感じだろうと思っている。
マリーさんもウィルが生まれる少し前にこの村に引っ越してきたから王都の人だったのかもしれない。
俺はというと父さんと母さんの髪を受け継いで茶髪であり眼も茶色がかっている。
その辺の村人と変わらない平凡な顔立ちだと……いや、嘘かもしれない。
あの父さんのいかつい目鼻立ちを平凡な顔立ちだと言うなら恐ろしいことになってしまう。
別に父さんことが嫌いなわけではないけど、大きな体も伴って威圧感が増していてあまり似たくはないだけ。
でもこの前、川で見た自分の顔は父さんとは似てなかったから大丈夫なはずだ。
そんな俺たちは今、村に隣接している森にやってきている。
なぜかというと最近ウィルの顔がふっくらしてきたからだ。
ウィルは俺の予想通りというか狙い通りというかそれ以上に可愛がられているため、おやつなど食べ物をもらってはマリーさんに隠れて食べてる。
ウィルがもらうたびに天使のような笑みを浮かべてありがとうございますと言う姿に村のおばちゃん達がみんなメロメロで必要以上におやつをあげる。
あまりにも多すぎるお菓子は両手から零れそうで、俺が手伝ってやると言っているのにウィルは食い意地だけは張ってるから嫌だと言って全て平らげてしまう。
決してお菓子がおいしそうだなとか思ってない。
ウィルのことを考えてもらってやると言ってるだけだ。
とにかく原因はお菓子の食べ過ぎだとわかりきってはいるんだけど、俺には止めようがない。
という訳で、そんなに食べるなら運動をしろと言ってウィルを引き連れ森で狩りをしようとしている。
しばらく進むと小さな草木が揺れる音がする。
瞬時に意識を切り替え、周りを注意深く観察する。
茂みから茂みに影が移動するのが見える。
俺が立ち止まると後ろにいるウィルも止まり、緊張した顔が窺える。
俺はいつも父さんがやっているように背中から得物を取り出す。
父さんからもらった無骨な弓を構える。
かさかさっと茂みから音を立て飛び出した影に弓を射る。
どさっと何かが倒れる音が響く。
恐る恐る近づいて行く。
まだ息のあるそれを腰に差していた短剣で一刺しすると、動かなくなり安堵の溜息をついた。
それはホーンラビットと言われる一角獣の魔物であった。
かわいらしい見た目に四足歩行でぴょんぴょんと跳ねるように移動するホーンラビットは攻撃の際、額にある角で体当たりをしてくる。
しかし基本的には脅威になるような魔物ではない。
なぜなら温厚で、積極的にこちらを襲い掛かってくることはない魔物だからだ。かといって友好的であるわけでもなく攻撃されたならばやり返すこともある。
今回は弓で先に攻撃できて瀕死に追い込めていたから反撃を受けることがなかったのはよかった。
「よし。ホーンラビットをやっつけたぞ」
嬉々として後ろを振り返ると青褪めた表情のウィルが見えた。はぁと溜息を付きたくなる気持ちを抑えウィルに話しかける。
「ウィル。これは狩りなんだ。もし発見が遅れていたら俺たちが食われていたかもしれない。それに元々言っていたじゃないか」
いくら深いところまでいってないとはいえこの森には俺の手に余る魔物も住んでいる。
ウィルを引き連れた俺にとって、この森に生息している魔物の中では一番弱く狩りやすいホーンラビットは一番都合のいい魔物であった。
でもでもと何か言いたげなウィルを片手で静止させる。
「でもじゃない。ウィルが昨日食べた肉も狩った森の魔物の肉だ。だから殺すのは食べる分か向こうに敵意がある時だ。殺すことが目的じゃない」
ウィルは悲しそうな顔をしていたが、俺が今日からウィルは肉禁止だなと呟くとウィルは真っすぐホーンラビット死体を見つめ、もう一度手を合わせ目を瞑ってありがとうございますと言った。
それを見届けると俺はホーンラビットを籠にいれ急いで担ぎ走り出す。
さっきまでの悲しい表情が嘘のように、おっ肉おっ肉と口ずさみながらついてくるウィルを笑っていたのだがこのあと食べた肉によって運動して痩せるという本来の目的が果たされることはなかった。
嬉しそうに肉を頬張るウィルを横目で見ながらこんなはずじゃなかったと溜息を零した。