海水浴場で
人から聞いた、昔の話である。
その夏、TとKは二人でY海岸に海水浴に行った。男二人といっても軟派な目的ではない。泳ぐといえば川か海に行くしかなかった時代の話だ。白砂青松を楽しみ、存分に海で泳ごうと計画していた。
Y海岸に列車で到着して、頼んでいた宿に荷を置き、水練の格好に着替えて、海岸へ向かった。波の音が響き、強い日差しも浜風も心地よかった。砂浜と海の先にひょいと浮かぶ無人島のS島が見えてくる。
TがKに声を掛けた。
「後ろを見てみろよ。女が一人後ろをついて歩いている」
Kは面倒臭そうにちらと後ろを振り返った。確かに女が一人、青い水着姿でとぼとぼと歩いている。
「女が一人で海水浴か」
ひそひそ声でKは答えた。
「ちらと見ただけでものろまそうな女だ。連れとはぐれたか、置いて行かれたかしたのだろう」
Tが言い出したくせに、女には関心が無いようだ。
砂浜まで出てきて、輝く海に目を細めつつ、二人は軽く体を捻って準備体操をした。その間も少し離れた所で、その青い水着姿の女が二人を見ていた。その姿がKの目の端に映っていたが、関わりの無い者として気にせずにいた。
TとKは沖まで泳ごうかと体を慣らすため、水辺に近付き、波を浴びた。S島までは細い橋が掛かっているが、二人とも泳ぎには自信があった。あの島まで泳いでいって周りを巡ってみようと決めた。
女は二人に話し掛けたそうにして、浜辺で足を濡らしていた。
しかし、硬派の男二人、のろまそうな女性を気に掛けていなかった。用があるならさっさと話し掛けてくればいいのだし、そうでないのならうっとうしいから無視である。迷子になって困っているなら、海の家だってあるのだから、そっちに行けばいい。何の興味も抱けなければ、男性は見ず知らずの女性に対して冷たい。
二人は立ち泳ぎができる。足が届く範囲では普通に泳いでいたが、深い場所に達すると立ち泳ぎに切り替えて、胸から上を出し、話しながらゆっくりと泳いでいった。
S島の周りを巡り、登れるような場所で一休みをしてから、更に沖へと泳ぎ、やあ、気分がいいものだと言い合いながら浜に戻ってきた。
浜では騒ぎが起きていた。何事かと様子をきいてみれば、土座衛門が出たという。それも女性だと聞こえてきた。人が集まっている場所に行けば、見覚えのある青い水着。先刻の、のろまそうと印象を受けた女性だ。
結局のところ、この女性はどうしてこの海岸に来ていたのだろう。連れとはぐれただけなのか。身投げをしようというなら水着に着替える必要は無いし、昼間から人目のある場所でするものではない。
たまたま海に一人で来ることになり、近くにいた男性たちを頼ろうとしたが、うまく話し掛けられず、後ろを付いていった。そして立ち泳ぎをしているTとKの様子を見て、足が着くと勝手に判断して、海に入っていったのだろうか。
もしそうだとしたら……、女性のその日にどう過ごそうと考えていたかなど、TとKの知るところではない。だが、気分は良くなかった。