表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想現実世界の勇者  作者: ペサ
幻想現実世界の勇者
86/266

第74話 崩壊と笑顔

「できた」


 軍人に刻んで慣れたのか、シオンが剣を皮膚に密着させていたのは時間にして僅か数分。懸念していた本隊の襲撃は未だない。


「ありがとね。時間もないから、もう行くよ」


「シオン、入り口は任せた」


 早い仕事に礼と応援を返し、少年は結果で応えようと装備を整える。新たな予備の剣を受け取って腰に差し、近くの軍人から二つ。とある物をもらって懐に。


「……大丈夫だって。そんな心配そうな顔しないの」


 シオンも仁も、一度負けかけ、不利へと傾いたギャンブルに再びベットした。降りて得られる配当が、余りにも少ないと分かっていたから、無茶をしてでも勝ちに行った。


 だが、それと心配の感情は別なのだろう。視線が仁の顔と身体を行ったり来たりする度に、彼女の顔は曇っていく。


「でも、仁の身体……」


「死んだら元も子も身体も命もない。そうだろ?」


 仁だって理由は分かっている。刻印の代償である身体の異常が、目に見えるレベルで浸食の範囲を広げているからだ。


 黒の浸食は、まだ3cm大の黒子が全身に数個増えた程度。右脚に多いのは、潰して治してまた潰した影響だろう。


「けど、勝っても仁が死んだら意味なんて……!背中を氷がどれだけ浸食してるか、分かってるの?」


 仁からは見えない背中は黒点の比ではない。規模にして10cm近い氷が、皮膚に成り代わっていた。ほぼ常時三重発動していた時点で、予想はついていたが。


「あるよ。勝てば、意味はあるさ」


「死んでも繋いだなら、意味はあるんだ」


 代償の影響を恐れた少女を、少年は冷たい声音で言い聞かせる。蓮達の死をまだ知らないシオンが「死んだら意味なんて」と、そういう意味で使ったわけではないと知っていても、仁は訂正したかった。


「それに、俺達は死ぬ気なんてさらさらない」


 そうだ。仁はこの戦いで死ぬつもりなんてない。だってここで死んだら、


「この先、誰も守れないじゃないか」


 酔馬が、蓮達が繋いでくれた命。たった一回限り、誰かを救って死ぬだけでは申し訳ない。誰も守れずに死ぬなんて論外だ。仁が死ぬのは、救い続けて守り続けて、ボロ雑巾のように使い物にならなくなって、死ぬ事以外で守れない時だけだ。


「だから大丈夫。大船に乗ったつもりで安心して任せてよ!」


 シオンを安心させる為だけの、歪な笑み。裏で渦巻く感情の嵐を彼女はきっと、ほんの一部しか知らない。


「……安心出来ないけど、うん。その船に乗ってあげる」


 仁の感情も蓮達の死もその理由も知らないからこそ、シオンは茶化した口調に半泣きで乗ってしまった。きっと、入り口を守るプレッシャーと心配でいっぱいいっぱいで、気づかなかったのだろう。


「ご乗船ありがとうございますっと。さぁ、行こうか俺君」


「ああ、行くぞ」


 仁の心が少しずつ、壊れてきている事に。













 ほとんど音を立てずに動き回る幾つもの影が、森の中に潜んでいた。


「あの膜をどうするべきか」


 ティアモが呟いたように、目的は黒い膜の観察と突破口の捜索。突如街を覆い隠した膜の強度は、見るだけでは分からない。しかし、接近してからとんでもない強度を誇る防壁だと気付けば、無防備になってしまう。


「団長。黒い膜が貼られていない、入り口らしき穴を見つけました」


「ご苦労。だが突入はまだ待て」


 故に、強化された視力を活かしての別の方法の捜索を命じたのだ。その結果、部下達は入り口らしき穴の発見という成果を上げたのだが、ティアモは総員に一旦待機の指令を出す。その顔つきはさっき突っ走ろうとしたティアモ個人の顔ではなく、数多の命を背負いながら冷静に判断を下す団長のものであった。


「やっぱり罠ですよね」


「仮に入り口だとしても、熱烈な歓迎が待っているだろうな。千の魔物と戦って尽きぬ魔力と、あの銃器で狙われるのは脅威だ」


 報告に来た兵士もやはり、誘い込まれているようにしか見えなかった。穴の先が行き止まりで罠が仕掛けてあるか、唯一と思われる入り口で迎え撃つ準備をしているか。このどちらかで間違いはないとティアモ達は判断し、事実その通りだった。


「そもそも、あんな膜は想定外にも程がある。街一つを覆う大きさを、何人の魔力で動かしているんだ?」


 普通に壁を攻めるならば、壊して乗り越える事もできただろう。幾つかに兵を分け、裏から回り込ませる事もできただろう。


「硬さも分からないから迂闊に手を出せませんし。壁内の部隊が術者を排除してくれればいいんですが、さすがに望み薄ですよね」


 だが、今回は特殊すぎる。ありえないとは思うが、あの膜が障壁並みの強度だった場合、入り口以外から入れなくなってしまう。そうなれば、ティアモ達の経験と知識のほとんどが無に帰す事になる。


「あれだけの魔法……発動の魔力も体力の消耗も尋常ではないだろう。待つのもありだが」


「待っている間に『勇者』が壁の中の忌み子と手を組んだ。なんて事態に陥ったら、最悪にも程がありますもんね」


 マリーの目的地は、おそろくこの壁内。ここに忌み子がいる事を知っているのかまでは分からなかったが、手を組む想像は容易だ。最高の味方は裏切った時、最悪の敵となる。


「絶対不可侵の盾と、絶対不可避の剣とか絶対に嫌ですよ」


 待った場合と突撃した場合のメリットデメリットを秤にかけ、


「致し方なし、か。総員、盾をいつでも虚空庫から取り出せるようにし、魔法障壁を張れ。我らはこれから罠にかかり、食い破る」


 ティアモは自ら罠へと突っ込み、今すぐ虐殺する方を選んだ。ここで待っていて入り口の罠に『勇者』を+されるくらいなら、片方ずつ攻略した方が被害も少ないだろう。それに、何より壁内の部隊が心配だった。


「「「了解」」」


 『伝令』の指示に騎士達は鎧を着込み、隙間の少ない隊列を組んでいく。準備にかかった時間は数分。赤信号が上がってからは十分ほどといったところか。


「行くぞ。総員」


 戦支度は終わった。輝く鎧の綺麗な並びを見たティアモは入り口めがけて剣を掲げ、


「突撃」


 号令で空気を震わせた。






「来ました!入り口真正面。敵数は……およそ五十人程!」


 仁を見送った数分後、壁の上から声が届いた。門から続く通路を中心に半円状に配置されていた軍人達に、電流のような緊張が走る。いよいよだと、盾と武器を握る手に自然と力が入った。


「……まだ伏兵がいるの?」


「あれ?少ない?」


 一方、穴のすぐそばの門の前で構えるシオンは、騎士の数の少なさに違和感を覚えていた。


「うん。本来なら騎士団って、数百人〜数千人、一番多いところでも一万人くらいなの。今攻めてきてるグラジオラス騎士団は確か五千人近いはずなんだけど……」


 進路固定用の壁の上から質問してきた環菜に、僅か1%のみしか来ていない事を説明。物理障壁を張れば日本人は相手にならないにしろ、いくらなんでもと感じる程だ。仁が見たグラジオラス騎士団の人数もこの程度で、シオンは氷山の一角しか見ていなかったのでは?と思っていたが、これはもしかしたら、


「融合の影響による反乱や異常事態に備えて、防衛にほとんどの人員を割いた……のかしら」


 世界融合は仁の世界に大きな影響を及ぼしたが、その逆もまた例外ではない。異世界側にも、被害は出るだろうと彼らは予測していた。


 まず怯えたのが、融合した先の世界の住民がとてつもない強さを持った者達である可能性。しかし、この心配は、魔法も使えないような人間ばかりの世界という結果によって杞憂に終わった。


 しかし、彼らは予想もしなかった脅威に襲われることになる。弱すぎる日本人を喰らい、肥え太り、増えすぎた魔物達だ。日本人を粗方喰らい尽くし、食糧が足りなくなった彼らは、シオン達の世界の住民に牙を剥いた。ラガムがいた村がそのいい例だろう。


 増えに増えた魔物達は従来の防衛戦力では足りず、騎士達の手を借りねばならかった。それでも多くの村が飲み込まれ、二つの町も陥落した。


 このように、彼らは防衛の任についていたが、それはほんの一部だ。他の騎士には違う役割があった。


「皆。あれが全部とは思わないで。不審な動きがあったらすぐに報告して」


 それらの事情を知らないシオンからすれば、不信が募るばかりだったのだが。


「ぐっ……ううっ!」


 軍人達が頷いたのを見届けた瞬間、彼女の身体を無数の激痛が駆け巡る。


「ちょっとシオンちゃん!?だ、大丈夫?」


「……大丈夫。多分、強度を試されただけ」


 何の予兆もなく崩れ落ちた自分を心配する環菜を腕で制し、治癒魔法の陣を用いた二重発動で癒していく。おそらく、騎士達が『黒膜』に魔法を撃ち込み、壊せないか試したのだろう。結果は失敗。シオンが傷を負った事に気づかなければ、彼らは『黒膜』を無理に破ろうとはしないはずだ。


「何も、問題はない」


 幸い、ほとんどの傷が服の下だ。仮に姿を見られても。気付かれる事はないだろう。これで、騎士達は入り口から入ってくるしかない。


「全員、倒して守るだけ」


 穴のサイズを考えれば、大勢だと身動きが取れない。故に、必然的に一度に相手をする人数は減る。総勢でも五十人程度なら、シオン一人と物理の銃の支援で十分に可能なはず。怖いのはかつて会ったことがある父サルビアの戦友、グラジオラス騎士団団長だけ。


「先手を撃つわ(・・・)


 とは言え、先に削れる限りは削っておくべきだろう。戦いの前触れに疼く頬の傷に剣を突き立て、抉り取り、魔力を集中させていく。


「うい。シオンちゃん。お願いね」


「頑張る。少し、離れてて」


 周囲が魔法に巻き込まれないよう、ちゃんと離れた事をしっかり確認。頬から血を流す少女は、脳内で魔法の形を思い浮かべていく。


「皆、シオンちゃんが撃ったら開戦だと思って。敵の姿が見えたらとにかく銃を撃ちまくって!出来る限り、盾に身体を隠してね!」


 壁の上に並ぶ兵士達に呼び掛ける環菜の声が、どこか遠くに聞こえた。


 形は弓矢と矢筒。属性は炎。爆弾を無駄に爆発させないように、軌道は一直線にして高め。


「すう……ふぅ……」


 渦巻く烈火が、手で形になっていく。炎魔法はただ単に放出するだけなら簡単なのだが、型にはめようとすると扱いは大変難しいもので、かなりの集中力と鍛錬を要する。シオンの手の中でも炎は解放しろと暴れまわり、弓の形が時折プロミネンスのように揺れ動く。


「落ち着いて」


 マリーが使った追う火の玉や、ジルハードの時限式の爆発もこれに該当する。両人とも、凄まじい修練の果てにようやく安定して出す事が可能となった魔法だ。もちろん、サルビアに拷問されたシオンも彼ら二人程ではないが、炎魔法の心得はある。


「いい子いい子。私達の命がかかってるの。だから、頼んだわ」


 完璧に形になった弓に、優しく撫でるように声をかけて頼み込む。頷くように炎の弓が煌々と光輝き、辺りを照らした。矢筒の中の炎は任せろと踊った。


「ありがとう」


 励ましてくれてるみたいと、シオンは小さく笑う。仁の敗北を知り、作戦を失敗だと思い、動揺して動けなくなって、街の放棄を考えた自分。負けてなお諦めず、敗北した相手に再戦しに行った少年との差に、少しだけ凹んでいたところだったから。


「仁がまだ、負けてないって諦めなかった。まだ戦うって言った」


 燃え盛る炎の弓矢を構え、戦場で可憐に笑った少女に、見た者の目が奪われる。彼女が浮かべたのは、恋する乙女のような場違いな笑顔。それは戦場である事を忘れさせ、全員に大切な誰かを、命を捨てるに値する誰かを思い起こさせた。


「なら、私も諦めてちゃダメだよね。戦って、守らなきゃ」


 自分より遥かに弱くて、弟子である少年が諦めていないのに、師匠である自分が諦めていては面目が丸潰れだ。好きな人の前でいいカッコをしたいのは、何も男だけではない。


 そして、誰か大切な人を守りたいという思いも、みんな同じ。


 強化された聴覚が僅かな音を拾い、騎士達が門のすぐ近くまで来ている事を教えてくれた。弓を引き、狙いを定める。


「貫いて、」


 矢を、放つ。躊躇い無い一筋の赤光は空気を切り裂き、圧縮された熱が門を溶かして穴を開け、勢いを損ねる事なく突き進み。


「爆ぜて」


 シオンの意思により、内部に抑え込まれた炎が解放。大爆発を引き起こした。それは魔法だけにとどまらず、地面に埋まっていた地雷に誘爆し、物理と魔法の両判定を持つ爆発となって騎士達へと襲い掛かる。


「があああああああああああ!?熱い!熱い!」


「腕が、く、くそっ!」


「……!怪我人は下がれ!動けぬ者、気を失った者は誰か手を貸すんだ!死んだ者は捨て置け!」


 狭い穴の中で、爆発を避ける事なんてできやしない。飛んできた炎の矢に反応し、咄嗟に属性魔法で爆発を防げるだけの防壁を展開できた者、物理判定の爆発から離れていた者以外は、戦線か人生から離脱する運命を辿った。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 門の先から聞こえてきた叫び、呻き声、そして被害甚大と思われる指揮官の声に、軍人達は両手を上げて沸き立つ。


「やっぱり、『魔女』の作品」


 穴が崩れて生き埋めに出来る事を祈っていたシオンは、対照的に冷めていた。あれだけの爆発を起こしてなお、穴は以前と全く変わらぬ形を保っている。


「第二射、お願い!」


 次の赤光が空を駆ける。未だ残っている手前側の爆弾付近で解き放ち、再び障壁無効の爆風が荒れ狂う。生半可な属性魔法の盾では魔法判定の爆発で吹き飛び、無防備な姿を晒す事になる凶悪な一撃。


「ダメ、か」


 一度退いたのか、新たな痛みに呻く声も悲鳴の追加もない。弓を構えたまま騎士達の姿が見えるようになるまで待つが、彼らは姿を晒さない。


「……!?離れて!?」


 僅かに感じた魔力の高まり。自分ではないそれにシオンは危機感を覚え、壁の上の環菜達に警戒を呼び掛けたが。


「シオンちゃん!」


 同時に轟音。騎士達が起こした爆発は、鉄の門を軽々と吹っ飛ばした。そう、シオン目掛けて真っ直ぐに。


「大丈夫……あっ」


 弓を左手のみに移し、右手で引き抜いた銀剣で門を斬り裂いて無傷で回避。しかし、シオンが斬ったとはいえ門そのものの飛来を止める事はできず、進路を固定する為の壁へと斜めの角度で激突。つん裂くような金属音と共に右の壁が傾き、何人かが下へと落ちていった。


「やられた。ごめんなさい!」


 シオンが魔法で爆弾を起動させたのを見て、騎士達も真似たのだ。少し下がってから魔法を合わせて放ち、埋まっていた爆弾全てを起爆させて道を安全なものへと変えた。その魔法の終着点が、門を吹っ飛ばしたのだろう。


「シオンちゃん!前!」


「っ!」


 「もっと違う迎撃を考えていれば」と悔やむ間もなく、門があった位置を大盾を掲げた騎士達が乗り越えてきた。


「はあああああああああああああああ!!」


 彼らを抜剣したシオンが迎え撃つ。いつも通り、相手の足元から生やした土の槍で相手の障壁を確認。


「魔法障壁!銃は入る!」


 大声でこの場の軍人に伝令。聞こえた者から聞こえなかった者達へと、障壁の種類が伝えられていく。


「シオン・カランコエで、ああああぐうううう!」


「ごめんなさい」


 生死を分ける伝言ゲームを軍人が行っている間に、シオンが先頭の剣を己の銀剣で巻き上げ、手首を斬り落とす。大盾は銃弾から身を守るものなのだろうが、大きすぎて少女の剣技には間に合わず、胸を穿たれ絶命。


「撃てええええええええええ!!」


 シオンの魔法を魔法障壁で防ぎ、大盾で銃弾を防いで侵攻し、銃を持つ者を排除する。懐に入り込めば、同士討ちを気にして銃を撃ちにくくなるとでも騎士達は読んだのだろう。


「なっ」


 だが、そこには誤算あった。門を抜けた先が、壁によって狭められた通路で、その上から幾つもの銃口が自分達に狙いを定めていたとは誤算だった。


「盾を!」


 必死に盾を掲げて身を隠し、騎士達は銃弾の雨を防ぐ。しかし、ばらばらと屋根に当たって音を立てるひょうのような一撃一撃に、彼らは機動力を失った。


「あれだけ撃たれても耐えるなんていい盾ね。貰うわ」


 降り注ぐ銃弾の中、物理障壁を予め展開していたシオンだけは散歩のような気軽さで悠々と歩き、騎士の盾を魔法と銀剣で破壊して回る。真ん中から真っ二つに、爆発で吹き飛ばして凹ませたりと色々だが、盾が盾で無くなった騎士が辿る末路は、同じく蜂の巣だ。


「物理障壁に切り替えろっ!その間、私が出る!」


 通路が血で染まっていく中、いち早く戦況を把握して障壁を切り替えたティアモが先頭へと躍り出る。障壁の切り替えに気付くのに遅れた、かなりの数の軍人の狙いが彼女に惹きつけられ、同じだけの銃弾が無意味に地に転がった。


「はあああああああああああああああああああ!」


 シオンが他の兵士の盾を装備叩き割ろうとした所を、割って入ったティアモが中断させる。


「……っ。くぅ!」


 先ほど斬った騎士達とは段違いの剣圧と不意打ちでシオンの体勢が崩れかけるも、サルビアとの拷問の経験からすんでのところで拮抗。強引に鍔迫り合いに持ち込む。


「あなたが団長!?代替わりしてたの!」


 鎧に咲く花が一人だけ違う事、そして剣術が一人だけ卓越している事から、シオンはティアモを団長と予測し、当ててみせた。


「正解だシオン・カランコエ。先代は私の父だが、面識があったようだな」


 男性にしては高めの心地よい声の返答と共に、剣が弾かれ、鍔迫り合いが解かれた。後コンマ数秒遅かったならば、隠して錬成した土の槍がティアモの足を貫いていた惜しいタイミングで、シオンは歯を噛み締める。


「ふむ……なるほど。そういう事か」


 先の斬り合いで何かを知ったようなティアモに、シオンが斬りかかる。しかし、まるで見えていたかのような余裕を持ったバックステップで躱されてしまう。その上、非常にいやらしい突きを反撃にお見舞いされ、危うく喉に穴が開きかけた。


「… …な、なんで!?」


 シオンは驚愕した。当たらなかった事ではない。反撃された事でもない。グラジオラスの団長なら、それくらいはできると踏んでいたからだ。多少、余裕がありすぎたとは思うが、それでもまだ現実の範囲で、サルビアよりはマシであった。


「撤退?」


 シオンが目を見開いた理由は、グラジオラス騎士団が一斉に後退し始めたからである。先ほど物理障壁を張って戦おうとしていたのに、なぜ?


 物理障壁を張って盾を投げ捨てた騎士達は、全速力で駆け出し、門の跡を飛び越えて、いなくなった。


「さて。私、グラジオラス騎士団団長、ティアモ・グラジオラスが殿だ。あのサルビア様に傷をつけた貴殿の剣技、見せてもらおうか」


 シオンに並ぶ剣技を持つと思われるティアモ一人と、疑問だけを残して。




 物語の雰囲気にそぐわない後書きとご指摘があり、作者もそのように判断しました為、削除しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ