表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想現実世界の勇者  作者: ペサ
幻想現実世界の勇者
36/266

第33話 地図と感謝

 心に思ったことを言葉にすれば良い、そうすれば上手くいくとのアドバイスを昨夜ロロから受けた。目を覚ましたら、すぐにシオンの顔を見て思ったことを伝えようとしていたのだが。


「おはよう、仁」


「おはようシオン………その、口元拭った方がいいと思う」


「へっ?あっ!?」


 ぬくぬくとした布団から這い出た仁が見たのは、シオンが寝てる間に垂れた涎だった。


「本当にイレギュラーに弱いな……どうにかならんのか。心のままにとは言ったが、関係ないことを思うとは想像できんぞ」


「ダメだこりゃ。俺君って本当にバカというか不器用だというか」


 顔を真っ赤にして木陰へと逃げたシオンと、やっちまったと項垂れる俺を見て、ロロと僕は呆れ果てた。


 どちらにしろ、広大な範囲に涎がついていた顔で真正面から話し合えたか疑問であり、この選択はあながち間違っていなかったと、フォローだけしておこう。







 結局、シオンとはまともに話せる機会はないまま時間は過ぎた。


「さて、そろそろお暇するとしようか」


 軽い談笑と朝ごはんを済ませてひと段落ついた頃、唐突にロロが立ち上がり、お別れだと告げた。


「もう少し、一緒にいたりはしないの?」


「三食飯付きに世界最高峰の護衛付きだよ?こんなVIP待遇滅多にないよ?あ、VIPってのは金持ちって意味ね」


「微妙に間違っておらんのがタチが悪いな」


 引き留めようとするシオンへ微妙に間違った言葉の意味を教える僕に、ロロはたった一日で慣れたと苦笑い。


「確かに楽しい時間は過ごせたが、なにぶん急ぎの身でな。忘れ物を取りに行かねばならん」


 しかし、そんな慣れたやり取りも終わりだと、ロロは苦い笑みを寂しいものへと変えた。


「同じ方向なら一緒に行かないか?と言っても俺ら、向かう先は決まってないんだけど」


「離れなきゃならない場所は決まってるんだけどね。ここからあっち側のアンサムって村から離れたいんだ。忌み子だと色々と居心地悪くてねぇ」


 魔物との戦いで半壊した村の方角を僕は指差し、それ以外ならと提案する。俺やシオンとしても語り部としてロロの話をもっと聞きたかったし、勇者や魔神や魔女のことももっと知りたかった。


 そして何より、忌み子を嫌わず迫害しない貴重な存在だ。


「すまんな、自分の向かう方向はちょうどそっちだ」


「……そう、なら仕方ないわ」


 シオンの向かう方向や、美味しい食べ物護衛付きの理の説得虚しく、ロロは首を横に振る。


 残念ではあるが、調査隊がやってくる可能性のある場所に舞い戻るわけにはいかない。ロロは忌み子でないから大丈夫だが、仁達が見つかればラガムの嘘が無駄になる。


 落胆した仁とシオンであったが、次のロロの言葉でそれどころではなくなった。


「やはりここでお別れだろうな。というより、忌み子ということで村に居づらいなら、いっそ忌み子だけの街に行ったらどうだ?治安は最低に近かったが」


 忌み子だけの街。そう言ったロロに、


「う、うそ?そんなのあるわけないわよ。騎士団が見逃すわけないわ」


 シオンは驚きつつも否定する。確かに、シオンの世界にはあるわけがないのかもしれない。


 しかし、違う世界なら?


「おいおいその街って!?」


 ロロの情報に頭をかち割られたかと思うほどの衝撃を受け、浮かんだ可能性に声を震わせる。


「日本の……!」


 そう、その街が仁の世界の街。日本人が暮らす街だとしたら?


「自分も驚いた。だが事実だ。魔力がない忌み子たちが暮らす、折れたガラスの塔があった街。おそらくだが仁側の世界だろうな」


「仁側の世界?どういうこと?」


「ビンゴだ」


 未だ話についてこれないシオンを放置して、仁は己の予想が間違っていなかったことと、その予想の結果に今度は身を震わせる。魔法など知らず、魔力を持たぬ忌み子。折れたガラスの塔。それはつまり、日本人とビルだ。


 意味するのは、日本人がまだ生き残っていたということ。もしその街が、魔物にも騎士団にも襲われておらず、無事であるならば。


 頭は冷静に思考を展開するが、身体や心は全くもって冷静ではなく、思わず発動させた身体強化で仁はロロへと詰め寄って、


「そ、それはどこにあるんだ?頼むから教えてくれ!」


「また貸しが増えたぞ?大変偉くならんと払いきれんが、まぁ餞別だ。ちょっと待っていろ。シオンと仁、地図は読めるか?」


 肩を掴みゆさゆさ揺らして必死に頼み込む仁に、しょうがないなとロロは笑う。彼は虚空庫から一枚のまっさらな紙と羽ペンを取り出して広げ、恐ろしい早さで空白を地形で描き埋めていく。


「私が読めるわ。けど、話がさっぱり分からないんだけど」


「シオンが読めるなら問題ない。てか、本当に生き残ってたのかよ!」


「シオンシオン、俺君、今周り見えてないから後で詳しく説明するね」


 困惑し続けるシオンと興奮冷めやらぬ仁の様子に、ロロはうんうんと頷き、


「ならよし。ただ地形が最近大幅に変動した故、知っているからと言って地図を見ずに行くでないぞ」


「ありがとう。でも私、ここら辺の地理があんまり分からないから、ちゃんと地図を見るわ。だから大丈夫よ」


 もののニ分も経たぬ内に書きあがった、出来立てほやほやの地図をロロは忠告とともにシオンへと渡した。


「さて、そろそろ本当にお暇だな」


 ちゃんと忠告を受け取ったのを見届けて、彼は羽ペンを虚空庫へと仕舞い、フード付きのロープを羽織った。これで彼の旅支度は完了、ということなのだろう。


「ちょっと待って!はい、これ!」


「ん?うおおおおおおおおおおおおおお!?」


 だが、そのまま立ち去ることをシオンは許さなかった。彼女が虚空庫の中から引き出した、肉、野菜、果実、パンなどロロの行く手を塞ぐ大量の食材。もちろん食材の下には、いつ作ったのやら氷魔法で台が作られており地面とは一切接触していない。


「腰を抜かすかと思ったぞ」


「食べ物がないって言ってたから。地図とお話のお礼」


「嬉しいには嬉しいし、飛びつけるものなら飛びつきたい。しかしだな?こんなに持てないというか、自分の虚空庫は特殊でこんなに入らないんだが」


 明らかに「これ」だけでは済まされない量に、ロロと仁は顔の筋肉をひくつかせる。


「手品師も真っ青だぞこれ」


 仁がニ週間は満腹で過ごせそうな量の食料がポンと出せるシオンもすごいが、それらの時を止めてまで収納できる虚空庫も相変わらずな性能である。


「そうなの……じゃあ持てるだけ持って行って!」


「ふむ、その申し出は非常にありがたいな。では遠慮なくだ」


 ロロは、好みの食べ物をロープのポケットや裏側にひょいひょいと放り込んでいく。


「これはなんだ?」


「森の中にいた黒い魔物の……肝?」


「……ふむ」


 時たま混じる、手に取ってしまった得体の知れない食べ物は元の場所へとリリース。シオンの虚空庫、たまに訳の分からないものが保存されており、仁は魔窟と呼んでいる。


「では、またいつかだ。楽しい時間と美味しいご飯に感謝するぞ」


 膨大な食料の山の一部を突き崩し、ロロのロープの内側とポケットをパンパンになった。重たくなった服を揺らし、彼は今度こそはと手を振る。


「こちらこそ久々にいい日だったよ。情報ありがとうな」


「あといろんなアドバイスもね!」


 短い間ではあったがここ数日では最高に楽しかったと、その気持ちを心のままに俺と僕は伝える。


「お話、面白かったわ!また聞かせてね?あ、ご飯が無くなったらまた食べに来て!」


 シオンは友好関係を築いた人間との別れに慣れていないのか、迷いながら選びながら言葉を繋げる。「また」がやたら多いのは、それだけ再会を待ち望んでいるからだろうか。


 そんな2人に、いや僕を含めて三人にロロは笑顔で、


「結婚式には呼んでもらえるかね?その頃には三人が四人になっとるかもしれんがな。肉食系になるのもいいが、理性を忘れないのも大事だぞ?身重の旅は大変だからな!はっはっはっは!」

 

「んなっ!?こいつ、恥じらいってもんがないのか!?」


「ぶっ、ぶっ、ぶっころだよ!俺君、抜刀だよ!細切れにしてやるよ!どうせ再生するんだし!」


 年をある程度取った者特有の下ネタで、仁とシオンをからかった。男子同士の下ネタへの耐性はあれど、女子の前での下ネタへの耐性がない仁二人は、ロロへのお仕置きのために迷いなく抜刀の合意を示した。


「………………」


 シオンはシオンで、血でも浴びたのかと思うほど顔を真っ赤に染め上げて、ぷるぷると羞恥心に耐えるように震えている。


「はっはっは!まだまだ若いな。このままここにいると、仁とシオンになます切りにされかねんが故、失礼させてもらおうか。早く仲直りするんだぞ?」


 そう言って仁達から逃げるようにロロは駆け出した。辛気臭さや涙もない、そんなふざけた別れの仕方。


「では、またいつかだな」


「あの野郎……次会った時は一発ぶん殴ってやる」


 俺の人格が心の中で記録している「いつかぶん殴るノート」に新たな名前を書き加え、少しずつ遠ざかっていく背中へと仁は手を振った。もちろん、そのノートのトップは僕で次にラガムである。


「あ、かっこつけて走り出したはいいけど、息切れして止まってるよ。本当に締まらないなぁ。野次でも飛ばそうか」


「やーい、かっこ悪いぞぉ!」


 かっこつけようとしたのか、それとも本気で仁達から逃げようとしたのか。どちらにしろ、肩で息をして休憩する様子はとてもかっこ悪かったとだけ、言っておこう。


「また、会えるよね」


 精一杯の反撃と野次を飛ばず俺と僕の隣で、手を振っていたシオンが願望を零す。


 おそらくロロは、シオンにとっても大切な人間だったのだろう。出会った時は一悶着あったが、それでも忌み子のことを軽蔑しない稀有な存在だ。それを抜きにしても、彼の話はとても惹きつけられ、のめり込まされた。


「俺らが生きてるなら、チャンスはあると思う。ロロだったらどんな状況でもしぶとく生きてそうだし」


「縁ってのは奇妙なもんらしいしね。きっと会えるよ」


 寂しげな隣の少女の心理が分かる仁は、確証も保証も理由もないのに肯定的な返事を返した。それは仁の性格からして珍しいことではあったが、隣の少女の顔から、空気を読むことくらいはできる。


 もし、もう一つ理由があるのなら、それは自分に言い聞かせているのだろう。


「そっか……だよね。きっとそうだよね」


「あ、そうそうシオン。俺君から話があるってさ」


「ちょっ……!」


 祈るように目を閉じたシオンとこの空気に、悪い笑みと良い考えを浮かべた僕がそのまま即行動へと移した。


「仁、話って何?」


「いや、そのだな。心の準備が」


 当然、あまりの不意打ちに俺の人格は慌てふためき、シオンは首を傾げるばかり。


「俺君ってバカなの?心の準備なしで行こうって決めてたじゃん。だからこれでいいでしょ?」


「うっ、確かにそうだが」


 そんな二人にウィンクとエールと含み笑いを、そして俺の人格には体の主導権を贈り、僕の人格は心理世界の果てまで逃走した。


「で、仁?どうしたの?」


「いや、それはだな。喉まで出かかってるんだが、あとちょっとその……深呼吸させてくれ」


 全てを任された俺は、心のままにを形にするために一息呼吸を挟もうとする。いつも通り命に関わらない場面では、石橋を叩かず渡らずしばらく悩んで引き返すようなヘタレ具合だ。


「よしっ!」


 だけど、それでも、俺はヘタレなりに頑張ろうと思ったのだ。腹はくくった。覚悟を決めた。深呼吸もして頭もクリアだ。あとは自分の心に従い、言葉へと変換するだけ。


「シオンっ!そのっだ」


「はっ、はい」


 仁のいつもより大きくて真面目で少し焦った呼びかけに、シオンも緊張して大きめな声で震えた返事。


「脚のことについてで、えーと、単刀直入に言う。俺のミス……あー、失敗でシオンの脚を失って、本当にごめん」


 前も言ったこの言葉。しかしそれでも、もう一度伝えたかった。


「……だから気にしてないってば。三人とも助かったんだから、いいって言ってるじゃないの。むしろ仁の実力から言えば善戦した方で、それにあれは私が選んだ結末で、仁が選んだものじゃないわ。私、仁の人の選択まで自分のせいだと思うところ、あまり好きじゃない」


 前と同じことで頭を下げた少年に、シオンは義足を小突きながらまた不機嫌になる。仁の実力では仕方がなかったと、私の選んだ結末だと、そして、


「それに、仁が謝っても私の脚が生えてくるわけでもないわ。これはもうあったことで、いくら悔やんでも変えられない事象なの。仁の火傷と同じくね」


 終わってしまった過去だと、仁に変わらない現実を木の義足と火傷を例に突きつけた。


 言い方だけを見れば、少し責めているように見えるかもしれない。しかし、このまま仁がずっと自分のせいだと抱え込まないには、今傷つけてもこの言葉が必要だとシオンは判断したのだ。


「仁も言っていたじゃない。助かったからセーフだって」


 かつて彼がゴブリンに襲われた時に、シオンへと言った言葉も使われた。過去の自分の発言まで引き出されれば、これ以上強く言えないだろうと。


「それは俺も分かってる。だけど、これも言わせてくれ。ちょっと似た言葉になるけどさ」


「また同じこと言ったらそろそろ怒」


「俺を、ついでに僕の人格を助けてくれて、本当にありがとう」


 だが仁はそのことを理解した上で、もう一つの今まで思っていた想いを、ようやく言葉に変換した。


 仁がゴブリンに襲われた時は、シオンは無傷であったからこそ、すらすら言えた言葉。しかし今回の襲撃でシオンが一生残る傷を負ったからこそ、言いづらかった言葉。


 「脚を斬り落としてくれてありがとう」という、歪な感謝。でも、仁は言いたくて、シオンはそれを欲しがった。


「……それはずるいと思うわ。何で返せばいいか、分からないじゃない」


 謝罪ではなく感謝で再び頭を下げた仁に、シオンは俯いた。仁の言葉を使ったシオンだ。仁に彼自身の過去の言葉を使われれば、上手く返せない。


 シオンの選択を仁が謝るのなら、それに怒ることはできた。あの選択をするなと、三人とも死ねばよかったとでも言うのかと、心の底から怒ることができた。


 しかし、シオンが仁を助けるために選んだ選択に感謝を述べられたなら、怒ることなどできやしない。


 シオンはこういう時、なんと返せばいいのか分からなかった。そして仁も、逆の立場なら返すべき言葉を探す方法を分からなかったことだろう。


「こういう時は心のままにだとさ。素直になった方がいいって。さっきどっかに行ったバカの受け売りだけど………いいと思う」


 だが、仁はその方法を昨夜教わった。だからその方法を、とても簡単だが、言われなければ辿り着きにくいその方法を、頭を上げて向き合って、シオンへと教えた。


「なるほど……だから、そういうことね。なら私もこう返すわ」


 先ほどの僕と俺の人格のやり取りに納得し、仁からこういう時の返し方を教わったシオンは、


「仁、私を助けに来てくれたのと、私に優しくしてくれてありがとう」


 とびっきりの感謝を込めて、頬の傷を歪ませて仁へと微笑んだ。その返し方は、仁にとっても予想外すぎて。


「……別にいいってことだ。その、なんだうん」


 今度は俺が俯向く番だった。先ほどのシオンもこんな気持ちになったのだとしたら、あの時の自分はかなりひどいやつだったに違いない。


「あれ?俺君、大丈夫?顔真っ赤だよ?どうしたの?熱でもあるのかい?あー、そうか照れてるんだねぇ」


「……おまえ、いつか本当に地の果てまで吹っ飛ばして泣くまで殴って、許しを請わせてやる」


 そしてそれ以上にひどいやつが、身近どころか身の中にいたことをすっかり忘れていた。忘却の代償は、とてもうざったい煽りで支払われることになる。


「あーもう!とりあえず、これからもよろしくだシオン」


 このままだと永遠にからかわれ続けるだろうと悟った俺は、話を強制的に打ち切って、シオンへと再び手を差し出した。


 それはまるで、会った時の再現。


 恥ずかしさの余り、冷静さを欠いていたのだろう。勢いでやったものはいいものの、手を差し出した後のシオンの行動なんて、火を見るよりも明らかだったのに。


「これからもよろしくって、素敵な言葉ね。二人とも、こちらこそよろしくお願いします」


 握り返された少女のゴツゴツとしたタコだらけの、温かくて生きている手に、仁は再び顔から湯気が出たことを自覚した。それは目の前の少女も同じだったようで、互いに言葉を交わし合った後、真っ赤になったのだが。


「本当、胸焼けがするような二人だよ。やれやれ。とっととくっ付けよイライラする」


 今、交わされた二つの手と三人の約束。これはきっととても大事なことなのだろうと、仁はシオンと一緒に僕をボコボコにしながら思った。





 




「いやはや、本当に若くて羨ましいな。過ちを冒した年寄りとしては、眩しすぎて刺激が強い」


 去ったふりをして、木の陰から気になっていた事の顛末を見届けたロロが、嫉妬の欠片もなく眩しいものを見る顔で頷いた。


「別れで悲しむのにはもう飽きたから、こんな別れになってしまったがね。それにしても全く、自らの業を思い知らされるな」


 長大な寿命故、経験してきた数多の別れを思い出すために、ロロは眼帯を外して過去に浸る。


「旅の幸運を祈っておるぞ。あって損な幸せなどないのだからな。さて、自分も彼らの行く末が不幸にならないために、頑張るとしよう」


 そして今の光景を目の奥に焼き付け、本に書いたロロは外していた眼帯をもう一度つけて、森の奥へと踏み入る。


「それにしても、ここが、『日本』だとは驚いたな。まさかこの目にできるとは」








 命以外を失って傷を負った少年がこの時得たものは、命と強さ以外を持たない脚を失った少女が守ったものは、どちらもきっと、かけがえのない宝物だったのだろう。


 果たして傷の少年と傷の少女は、この残酷で現実的な幻想の中で、手の中のかけがえのない宝物を守り切れるのだろうか。


 結末は、終わらないことには分からない。


 火傷だらけの一つの身体に二人の少年と、傷だらけの身体の少女の旅はまだ続く。





『魔法抵抗』


 『属性 / 通常魔法』による攻撃に対する耐性のこと。種族ごとにおおよその値が決まっているとされているが、個体によってよ大きく変動する。人間よりオーガの方が、オーガの通常種より変異種の方が耐性が強い。しかしながら、過去にはオーガの変異種を凌ぐ魔法抵抗を持つ者も存在したと記録されている。


 例)同じ温度の炎であっても、物理と魔法では受ける傷の深さが違うことが多い。


 魔法攻撃とは基本的に術者の魔力によって創られた

攻撃である。故に攻撃対象にぶつかる際、対象の持つ魔力と無意識に反発しあって威力が削がれるからではないか、というのが通説である。


 最近の研究で、魔法攻撃を繰り返し肌に撃ち込むことにより、微量ながら抵抗が強くなることが判明している。一度攻撃を受けた魔力が学習し、次は弾こうとその性質を強めているのではないかと言われている。


 しかしながら、その学習の歩みは極めて遅い。数百回魔法を受けてようやく、少し効きが悪いと感じる程度。仮に人の身でオーガなどに並ぼうするならば、数万回近く撃ち込まれる必要があるのではないかと、研究者達は計算している。


 故に、それくらいの差なら意味はないとする者がほとんど。しかし、僅かそれくらいの差が生死を分けるかもしれないと考える者がいるのもまた、事実。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ