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幻想現実世界の勇者  作者: ペサ
幻想現実世界の勇者
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第31話 疑問と答え


 闇も深く、幾千もの星と三つの月明かりだけが空と辺りを照らす夜。


 この世界の夜は日本と比べて明るい。人工の明かりもなく、汚れていない空に星は綺麗に映える。先述の通り三つの月が、顔がはっきりと見えるほど明るく照らすのだ。


 しかし、人の悩みまでは照らしてくれやしない。


「はぁ」


「寝れないのかい?」


 魔物の毛皮で作られたふわふわの布団の中で、仁は未だに寝つけずにいた。


「ちょっと気になることがあって」


 物語の興奮が冷めやらぬ、というわけではなく。ましてや、左隣の布団で寝息を立てるシオンに悶々としているわけでもない。いや、どちらも少しくらいはあるにはあるのだが。


「『色王伝』の結末かい?あれ、ものすごい長編らしいから、シオンから借りることになるんじゃないかな。途中で終わるのはなんか嫌だしねぇ」


 全員が楽しみにしていた映像付き全年齢版『色王伝』は、三十分ほど前にお開きとなった。


「僕としてはやっぱり色んなシーンがカットされるのが辛かったよ……映像で見たかった」


「本気で残念がるな。まったく」


 僕はシオンに聞こえないよう、心の中でため息を吐きまくる。いつもふざけている彼だが、この落ち込みようは本物である。


「君は欠片も思わなかったのかい?未だにシオンが隣の布団ですぅすぅ寝てるだけで動揺する君が?一ヶ月経ったんだから慣れてよもう」


「……仕方ないだろ」


 今までずっと隠し通せてきたと思っていたことで揺さぶられ、俺は勝てないことを察する。この様子だと、他のことも見透かされているに違いない。早めに撤退するのが吉だ。


「まぁ、お色気シーン無しでもそれなりには良かったけどさ。冒険物としても面白かったし。男の兵士には無双だけど、女の兵士からは逃げ回るところとか最高だったよ」


「あんなん笑うわ。相手国一の猛者ぶっ倒しておいて、そこらの女にはコテンパンにされて、しかもそれを喜ぶとか」


「あとでその女の人、口説いて落としてたけどね」


 吹っ切れたのか、互いに感想を言い合う。しばらく言い合い満足したのか、次の話題に。


「そういや、ちょっとエッチなシーンになったらシオン、目を塞いでたな」


「そ、そうだね。俺君、さすがの観察力だよ」


 俺君のあまりの観察力の無さを賞賛する振りをして、気づかれないように罵倒する。僕だけが気づいていたが実はシオン、指の隙間から確実にそういうR15くらいのシーンを凝視していた。


 そもそもロロが口でも語っているので、耳も塞がないと意味が無いはずなのだが。


「年齢的に問題はないけどね」


「俺らは……あと二年間生きていれたら、もう一回ロロに続きを頼むか」


「それまで死ねなくなったじゃないか」


 元から死ぬ気はさらさらなかったが、このしょうもない冗談で更にその思いは強くなった。男とは悲しく、単純で愉快な生き物である。


「やっぱり物語は、結末まで知りたいしな」


「痴情のもつれで刺されて死ぬ結末とか嫌だよ。今一番確率高いのそれだけどさ」


 残念ながら『色王伝』を最後まで聞くには時間が足りず、43人目の女性を口説いたところでお開きとなった。今まで刺されてないのが不思議な数である。


「これでもまだ妻の数は一割以下って言うんだから、驚きだよね」


「絶対一回は刺される。賭けてもいい」


「さて、明るい話はこれくらいにして、では本題と行こうか」


「やっぱり分かってるのに、寝れない理由聞いてきやがったな」


 笑い合う軽い空気から一転、僕が極たまにしか使わない、しかし、今日は何度も使った真面目な声で話を切り替える。


 ぬくぬくと暖かい楽園を名残惜しく感じながらも、仁は布団から抜け出した。寝れない理由である、右隣の空っぽの布団を埋めるべき人間の元へ。


「ううん……お母さんのサンドイッチ……」


 食べ物と母の夢の寝言を口にした、少女を置き去りに。







 目的地はすぐそこだった。少し離れた木の陰から聞こえる歌声、というより物語が、彼の場所を教えてくれる。


「できる限り小さく歌っていたのだが、起こしてしまったかな?それともお花摘みかね?」


「元から起きてたから問題ないし、お花摘みなら人に見られないところでする」


 白髪が月光を照り返し、本に刻まれた文字を歌っていた彼の姿は、現実の物とは思えないような幻想性があった。


「僕も見せる趣味は無いからね」


「自分も知識としては知っているが、男のお花摘みを見る趣味はないな」


「「聞いてないから」」


 歌うのをやめて口にした言葉は、上品な皮を被った幻想性が欠片も無いものであったが。どうでもいいロロの性的趣向に、俺と僕は同じ口でハモる。


「じゃあ何しに来たのかね?『色王伝』の続き、いや原作がどうしても読みたいのかね?その気持ちは分かる」


「いや読みたいけどさ」


「そうじゃなくて」


 その気持ちは多少あったが、本来の目的は別と断る。後ろ髪を引かれまくっているが、あれら全てを聞いてしまえば、本題の時間どころか夜明けが来るだろう。


「自分もそういうこと(・・・・・・)には、ある程度理解はあるつもりだからな。さすがに気になる異性の手前、エロシーンをガン見する姿を見せたくはないだろう」


「き、気になってなんかないというか……」


「人の話を聞いておくれよ!」


 だがしかし、このロロという男。語るのは得意だが、話を聞くのは苦手なようである。


「今なら特別に原作をぉ……見せてやらんこともない」


「えっ」


「今の本当!?見せてくれるの!?」


 男心をよく分かっているロロの魅力的すぎる提案に、怒鳴るのも目的をも忘れかけた思春期が二名。仕方ない。


「男に二言はない!このロロは嘘をつかん!」


「やった!さすがだよロロさん!あなたは世界一の語り部だ!さっきの嘘をつかないってのも本当だったんだね!」


「……原作ってことは……だから違う!」


 目的をかろうじて思い出した俺はやんややんやと夜中に騒ぐバカ二人を、一人は物理的に、もう一人は心理世界で精神的に殴りつけた。


「いくらすぐ治るからとはいえ、この扱いはさすがに酷いと思うのだが。あれ、デジャヴを感じるな。それが目的じゃないのなら、どうしてここに来たのかね?」


 ロロは殴られた頰を摩りながら立ち上がり、こちらをじっと観察するように覗き込んでくる。その眼の色はもう、先ほどのふざけた感情はない。


「デジャヴって言葉を知ってるおまえに、用があってきた」


 闇の中で輝いていると錯覚するほど綺麗な紫の瞳を、仁は確かな意思と覚悟を持って黒き眼で見つめ返す。


「真面目な話だから、ふざけるのは無しで頼むよ」


「……ほう、自分に真面目な話とな?」


 仁の言葉に目が細められ、先程までの軽い雰囲気は消え去った。代わりに彼から漂うのは物語を語るときと同じ、気圧されるほど真剣な雰囲気だ。


 雰囲気に飲み込まれないよう、彼の瞳に吸い込まれないよう、仁は一度息を吐き、腰の剣をいつでも抜けるように構え、口にする。


「ロロ。お前は一体誰だ?」


 彼の存在を問う質問を。







「どういう意味かな?」


 彼も、この質問は予測していたのだろう。目を軽く開けど、そこまでの動揺も驚愕もない様子だ。


「言葉の通りの意味だ。ロロはどう考えても一般人じゃない。俺らに近づいた目的はなんだ?」


「質問が多すぎるぞ?そう焦るな。で、君はなんで自分のことをそのように感じたのかな?」


 確信を持って問いを重ねる仁に、ロロは腕を伸ばしてストップをかける。少し質問攻めにした感は仁も否めず、一旦呼吸と思考を整える。


「まず、その身体と魔法」


 それからはロロの問いの通り、なぜ気づいたか、どこがおかしかったかを逐一説明していく。


「あんな系統外を持っている人が、一般人だなんて普通思わない」


 魔法に関しては系統外と説明がつく。しかし、あれだけの魔法を持つ存在が、ただの語り部とは考えにくい。正直、この理由だけは他のに比べて弱い。いや、正しく言えば他が強すぎる。


「只者じゃないって確信した最大の理由は二つ。信じられないけど、シオンを世界を滅ぼしかけた誰かと勘違いしたこと」


 シオンの顔を見た時の彼の態度や様子、切迫感からして、おそらくかの『魔女』と間違えたのだろう。もしシオンの顔が魔女と似ているとしたら、そしてロロが顔を見間違えるということは、彼は魔女の顔を知っているということだ。


「魔女の顔を知ってるなんて、どういうことなのか」


 魔女の物語は大昔だと聞いている。なのになぜ、彼は顔を知っているのか。少なくとも、そんな大物の顔を知っているのはおかしい。もし写真のような魔法があり、魔女の顔が鮮明に後世まで伝えられているのなら、さっきの物語でも顔を再現できるはずだ。


「そしてロロは、俺らの世界の言葉を知っている」


 そして同じくらい怪しいのが、カタカナや英語だ。シオンがいつも「どういう意味?」と尋ねる言葉に、ロロは反応を示すどころか自ら使用していた。もし、異世界で使われていない言葉を知っているなら、彼は日本となんらかの関わりを持っている可能性がある。


 異常な再生能力に、映画以上に鮮明に映像を映す系統外。魔女の顔を知っているかもしれず、日本との関わりの可能性もある、そんな男。何もないわけがないだろう。


「君を見くびっていたな。『魔女』にそっくりな顔の少女と、君の世界の言葉に関しては完全に自分の想定外だった」


 並べられた理由を前に、ロロは降参と両手をあげる。しかし、別に大したことではない。


「あれだけおかしな点があれば、誰にでも分かるとは思う。鈍いってよく言われる俺でも気づけたんだ。他の誰にだ……あー」


「奇遇だね。僕、気づかずにぐっすり夢の中へ旅立った子を一人知っているんだけど」


 どれだけ鈍いやつでも気づくと言った後に、一人の少女に気づき頭を掻いて困り顔に。


「知るのが怖いのだろうよ。自分が世界を滅ぼしかけた女と顔がそっくりだと知って、動揺しない人などいないからな」


 ロロの言うことは、大衆が味方についているせいか納得も理解もできる。大半の人間なら、それが正しい反応なのだ。


「いや、シオンの天然さなら普通に忘れてる可能性も無きにしろあらずというか」


「前なんて槍の刃で僕の髭剃ろうとしてきたからね」


 しかしその大半の大衆から外れた、並外れた天然さを持つのがあの少女なのだ。


「……女はどこか似るものだな。自分も同じことをされた経験があるぞ。あれ以来、恐怖心から毎朝自分で髭を剃るようになったな」


「この世界の女性はみんな天然なのか?それとも、槍の刃で髭剃るのが普通で、俺がおかしいのか?」


 彼女の天然さをアピールしようとしたら、女性の謎が更に深まってしまった。まさか、ロロまで同じように槍で髭を剃られかけた事があるとは、これまたいかに。


「話がそれ」


 とはいえ、今はそんなことは関係ないと話を戻そうとし、


「その話に出てきた、自分の髭を槍の刃で顎ごと剃り取りかけたのが『勇者』だがね。ちなみに槍の刃で髭を剃るのは、一般常識から考えても十分におかしいとも言っておくかな」


「は?」


 ロロがいきなり放り込んだ爆弾が、軌道を正しい流れに乗せた。


「どういうこと?いや、勇者が槍で髭剃って?魔女の物語に出てきた?」


 緩んだ空気の中ぶち込まれた妄言に近い言葉に、仁は何度も瞬きを繰り返す。信じられないといった態度にロロは苦笑し、どこか遠くを懐かしいように見つめて、


「言葉通りの意味で、魔女の物語に出てきた『勇者』だ。彼女とは一緒に世界を旅して、共に戦って、そして……自分の大切な人だった」


「冗っ談だろっ!?」


「ロロってそんなすごい人だったの!?行き倒れてたのに?」


「失礼な。確かに、自分は戦闘に関してはからきしだが、他はすんごいんだぞ!」


 言葉からさえ溢れる様々な感情を込めて、彼は真実を吐き出した。その真実は彼の今までの態度からは想像もできないような、いくつもの予想外な驚きに満ちているもの。


「『勇者』は女だったのか」


「うむ。彼女より容姿の美しい女性は世にいたことだろうが、彼女の生き方ほど人の胸を打つものはない、そんは生き方をしていた女性だったよ。なにせ自分の人生全てと引き換えに、『魔神』を封印したのだから」


 仁としては『魔女の記録』に出てきた『勇者』は顔が見えず、てっきり男だと思っていた。最初はロロが衆道であるかと疑ったが、彼女と口にしたので違うようだ。


「知り合いに男でも通じるような胸部装甲を持つ鈍い子が」


「あまり女性の身体的特徴を言うな。後悔するぞ」


「したのか」


「したのだ」


 確かに、男のようなスタイルの女性はこの世に多々存在する。勇者も鎧の上からでは分からない、そういうスタイルをしていたのだろう。具体例を思い浮かべたら鳥肌が立ったので、仁はこのことを深く考えないことにした。


「……悪いことを聞いたか?」


「ん?何がだ?」


「い、いや別に」


 口ぶりからしておそらく、ロロの大事な人はもうこの世にいないのだろう。物語にありがちな主人公や誰かの命と引き換えに世界を救う、ということが現実にあったようだ。本当に、こういうところだけはしっかりとファンタジーしている。


「いや、ちょっとおかしい。勇者と共に生きたって……おまえ頭おかしいのか?何歳だ?なんで生きている?」


「頭おかしいのは失礼だと思うのだが」


 しかし、ここである疑問と矛盾が生じる。ロロの寿命についてだ。魔神や魔女や勇者の時代は、物語の定番の始めの言葉のように「むかしむかし」のはずだ。それなのになぜ、この男は生きている?


「自分でも正確な年齢は分からないな。それに何を驚く?先ほど言っていたではないか?魔女の顔を知っている、だから只者ではないと」


「半信半疑だったし、てっきり絵でも見たのかと」


「僕まだ理解追いついてないや」


 只者ではないとは思っていたが、ここまで異常だとは思っていなかった。生き倒れて飯をねだってきた露出狂が、まさか太古の英雄の恋人で、今もなお生きているなど想像できるわけがない。ここもしっかりとファンタジーではある。


「確かに自分も人間離れしているが、長命な種族は多いぞ?エルフ、ドワーフ、ドラゴノイド……彼らは何百年、個体によっては何千年も生き続ける。それに『魔女』も不老になってしまったし、かの『魔神』に至っては不老不死だ」


「……本当にこの世界、どうかしてる」


「というより、エルフとドワーフなんているの!?会いたい!」


 俺は頭がクラクラすると額を押さえ、僕は興奮に目を輝かせる。コロコロ変わる表情にロロも苦笑いだ。


「それなら地底深くに潜るか、天を超える山に登ってくるしかないな。魔女に滅ぼされかけた種族ゆえ、黒髪を見た瞬間に熱烈な魔法での歓迎を受けるだろうが」


「うへぇ……違う種族にも忌み子って嫌われてるの……」


 念願のファンタジーと仲良くなれないことに、僕は膝をついて嘆く。俺としても彼らと交流できないのは少し残念ではあるが、今はそれどころではない。


「『魔女』は人間だって言ってなかったか?」


「その通りだ。『魔女』は人間のまま不老に至った稀有な例でね。自分の魔法やこの身体は……系統外のようなものだな。大したものではない。自分なんぞそこらの人間より簡単に死ぬぞ」


「……また嘘ついてないか…?」


「失敬な」


 さほど珍しくないとロロはひらひらと手を振るが、仁には欠片も理解できなかった。不老不死や不老が珍しくない世界など、一体どういうことなのだろう。もはや訳が分からない。


「訳が分からないと言った顔だな。ふむ。仁、君は魂……死後の精神的存在を信じるかね?」


「……い、いきなりだな。でもそんなの、実際に死んでみないと。死後を観測できる魔法でもあるなら話は別か」


「僕らとしては、死後は無だと思っているよ」


 魂や死後の存在という、非科学的な話を突然振られて戸惑うばかりだ。魔法も不老も不死もある世界であるから、あり得る話なのかもしれない。


 この男の話はいつも唐突で、話のペースを掴ませてくれない。語り部としての本能みたいなものなのだろうか。少なくとも、仁の質問に関係があるものだとは思うのだが。


「顔がそう喋っていたのでな。もう少しポーカーフェイスを覚えた方が良いぞ?」


「俺そんなに分かりやすいのか?」


「よくポーカーフェイスなんて言葉知ってるねぇ」


 行く先々で会う様々な人と同じ言葉をロロに言われ、俺の人格は少し落ち込み、僕の人格はそこに含まれるカタカナを聞き逃さなかった。


「話が進まんな。ええい。めんどくさい。仁らの言葉は、自分がいた世界でも地方によって使われていることがあるのだ。別段おかしなことではない」


「あれ?そうなの?」


「少数民族しか使われていないものもあれば、日常に溶け込んでいるのもあるがな。自分はこの生業だろう?旅の最中、聴くことも多いのだ」


「……あらら、予想外れちゃったか」


「自分に探りなど百年は早いぞ?」


 ロロが怪しいと思っていた理由の一つだが、彼の知識が豊富なだけで外れていたようだ。シオンがずっとあの家で引きこもっていたのなら、聞いたことがないのもあり得るだろう。


「話を戻すぞ。魂だが、魔神は存在すると言っていた。奴が不老不死と呼ばれているのは、人の魂とやらに乗っ取り続け、肉体を奪い取り、交換し続けることができるからだ。ま、簡単な不老不死の一例だ」


「死にそうになったら違うやつに乗り移って……だから事実上の不老不死。ふざけてる」


 寿命も災害も関係がない。この世から乗り移れる肉体全てが絶滅でもしない限り、魔神は殺せない、ということなのだろう。


 相も変わらないこの世界の魔法のイカれ具合に、ため息が出てしまった。それだけの力があるのなら、確かに世界を敵に回すことだってできる。何せ死なないのだから、倒しようがない。


「だから魂ごと出てこれないように肉体ごと封印した……ってところか?」


「本当に見くびっていたな。これだけの会話でよく分かるものだ」


「ついさっき聞いたばかりだったから。魔神は勇者によって封印されたって。つまり、そういうことだろう?」


 要約するならば、不老不死で死ななくても、倒せないわけではない。例え仁が不老不死になったとしても、全身をコンクリートにでも埋め込まれたら抜け出すことはできない。化け物という言葉でも生温い強さの『魔神』なら、コンクリートくらいどうということはないだろう。だが、彼にだって限界はある。


「どうかね?自分のかるーい身の上話は楽しんでもらえたかな?」


「いや待ってくれ。まだだ。まだ聞きたいことが二つと、言いたいことが一つある」


 お開きを告げるロロに、まだ話は終わっていないと引き止める。


「何かな?火傷のこともあるだろうから、早く寝ることをオススメするがね。それ一人、失礼。二人だったね。二人だけで来たのは、彼女に話を聞かせたくないからだろう?長く布団から抜けていると、彼女が気づくかもしれないぞ?」


「火傷に関しては、もう動いても問題ない。シオンには腹壊したで多分通じる」


「そ、そうか……変な信頼があるのだな。ならもう少しだけだぞ?サービスだ」


 傷跡とシオンの心情を理由でロロは止めようとするが、仁の反論に何とも言えない顔となり、渋々と言った体で延長を承諾した。


「この礼はいつか出世払いでするよ!」


「その言葉を言って、払わぬまま死んだ恩知らずをたくさん知っているがね」


 僕のいつもの冗談に、冗談に聞こない笑えない経験で返す。ロロ。確かにこの先、彼ともう一度会うよりも、死ぬ方が遥かに確率が高いだろう。やたらと重みのある言葉だ。


「意地悪をしたな。礼など気が向いたらで構わん。サービスと言ったろうが。そら、聞きたいことがあるなら聞くがよい」


 返答に困った反応にロロはからからと笑う。彼に促された仁は、それでは遠慮なくと、


「手短に、ロロの目的はなんだ?」



『色王伝』


 要は女の為だけに全てを、その命さえも懸けて戦い続けた男の話。半分冒険譚、半分が女性関係というおかしなバランスの物語。よく創作と間違われやすいが、実際にあった歴史である。


 小さい頃、たまたま女性の下着をチラッと見て、女性に惚れ込んでしまった主人公が、世の女性を救う為だけに世界を救う旅に出るのが始まり。当時の世界情勢は、個体数は少ないが強力無比な力を持つ魔族と、圧倒的な数を誇る人間との血で血を洗う戦争の最中。


 しかし、彼には人も魔族も機械も龍も、それ以外も関係なかった。ただ性別が女性であればよかった。そして彼にはなぜか、才能があった。ありとあらゆる事に対する、有り余るほどの才能が。


 当時の人類最強だった彼を操ろうとする権力者の思惑を、理解出来ない思考回路によってすべてぶち壊し、気の向くまま風の吹くまま、女性のいる方へと仲間と共に旅をする。いつか、魔族を率いる魔法を倒して、女性を救う為に。


 恋愛ばかり、笑いあり涙あり、手に汗握る激闘あり、そして、時には友情ありといった王道ストーリー。人としてどうかと思うがどこか憎めない主人公、出てくる様々なタイプの女性の数々に、可愛い日常、お色気シーン、R18版では濡れ場などが人気の理由。数千年以上経ったとされる今でも、登場人物の人気投票が行われている。


 以下、余談。


 主人公は、障壁魔法の上位互換である『障壁付与』を保持していた。これは、同じ戦場内で付与したいと思った者全てに、物理か魔法の障壁を付与できる能力である。彼自身も世界最強の一角ではあったが、彼が率いた軍こそ最大の脅威であったとされている。


 そしてこの『障壁付与』こそが、『障壁魔法』

の始祖たる系統外である。彼の子孫が受け継いだ、オリジナルよりも劣化した系統外が『障壁魔法』なのだ。障壁魔法が使えるかどうかは、彼の子孫であるかどうかによって決まる。


 いくら年月が過ぎているとはいえ、基礎魔法の一つに数えられるほどの使用者数を持つ遺伝する系統外など、直接の子孫が数千人単位でいた彼のこれ以外にありえない。


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