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幻想現実世界の勇者  作者: ペサ
外伝 現実幻想世界の剣士
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第56話 死ぬべきは



 遅れましたことお詫び申し上げます。

 次回の更新、予定では19日とさせていただきますが、遅れる可能性がございます。




 瓦礫を掘り返す。崩れないよう慎重に、かつ少しでも助かるように早く。懸命であり必死。魔力を惜しまず、少年は魔法を解放する。


「……」


 薄い吐息が漏れる。まただ。また、死体が出てきた。胴から下と右肘から先がないのだから、一目でわかる。()()を瓦礫の下から引っ張りあげても意味はない。でも、ザクロは大きな木の腕で丁重に、空の下へ運び上げる。


 心が軋んでいた。鋭く突き刺さるような痛みがあった。自分のせいで人が死んだのだ。彼らは巻き込まれただけなのだ。誰が巻き込んだのかと聞かれたら、それはザクロなのだ。


 だが、涙は出なかった。叫びもしなければ取り乱しもしない。軋む心が狂いそうになっているのは理解できているが、それを感じていない。彼は自分の心を他人事のように感じていた。目が覚めれば全て元通りである夢のように、辛すぎる現実を見ていた。


 救助作業を繰り返す。歪な冷静が彼を包んでいた。その冷たさは、捜索が終わってからも持続していた。


 終わりを迎えたのは、彼女が現れたその時だ。これは夢ではないと目が覚めたのだ。元通りにならない現実であると知ったのだ。感情が帰ってきたのだ。











 従う他にない。が、疑問が残る。


「ザクロ君!」


「お前、組織の一員か?」


 そして生まれた激情も。足場の悪い瓦礫の上を一瞬で駆け抜けたザクロの剣が、少女の首に添えられる。しかしすぐに刎ねはせず、剣先と声を揺らしながら問う。


「その質問に答える権限は与えられていません」


 少女は動じなかった。大動脈の隣で震える刃を見ることもなく、同じ姿勢を貫いている。動くのは答えを拒絶する唇と、風にたなびく茶色の髪だけ。


「権限?権限だと?」


「ザクロ君。気持ちはわかりますが、時間がありません。退いてください」


「……はい」


 震えは一層大きくなる。しらを切るつもりなのかと、怒りは勢いを増す。だが、ヤグルマギクの落ち着いた声が少年の激情に水を差した。そうだった。まだ人質が囚われている。ザクロを殺す為に攫われた人質の命がまだ残っている。ならば今為すべきは怒りに身を任せることではない。


「いくつか確認をしたいのですが、答えていただけますかな?」


「連絡事項の確認につきましては、一部で権限が与えられております」


「ではまず初めに、生者を最低三十人とは言葉通りの意味であり、他に指定はないのですか?」


 一歩引いたザクロに代わり、前に出たヤグルマギクが確認を行う。普通に考えれば、誰もがそこに引っかかるであろう場所。生者を三十人以上用意しろという要求の真意はなにか。


「指定とは?」


「特定の誰かを連れてくるように言われたかどうか、ということです」


 暗殺組織の目的はザクロ・ガルバドルの殺害のはずだ。であればザクロを連れてくるように指定するのが普通と考えるべきである。故に伝え忘れていないのかと、ヤグルマギクは確かめた。


「いえ。生者を三十人としか言われておりません」


 疑問は消えなかった。彼らはザクロを殺す為にこのような事件を起こしているはずなのに、ザクロの命を要求してこない。彼の性格を熟知しており、三十人の自由席でも必ず座ると確信しているのだろうか。


「……見ての通り、三十人いないことはありませんが、多くは怪我人です。彼らからも連れて行かねばならないのですか?」


 おかしな点は他にもある。三十という大人数を要求したことだ。あの爆発を仕掛けたのが少女の属する組織なら、三十人も生き残る可能性は極めて低いとわかるはず。今回は怪我人を含めてぎりぎりで三十人を超えているが、これはプリムラたちの優れた対応による例外に過ぎない。更に怪我人の中には、自力で歩くことができない者も含まれる。


 理由として考えられるのは、人質としての利用と怪我人による縛りだろうか。だが、多すぎる人質は犯人の負担となることから、前者よりは後者の可能性の方高い。怪我人を守らせることで、動きを制限させるのが目的か。


 他にも挙げるならば、何らかの魔法の生贄、人体実験の素材、系統外による特殊な利用価値あたりが候補だろう。


「先程も申し上げました通り、特に指定はございません。騎士でも怪我人でも一般人でも、生きてさえいればそれで良いと伺っております」


「絶対に三十人必要だと」


「肯定します」


 一般人からでも良いと言うことから、三十という大人数に意味があるとまでは推測できるが、それ以上は進めない。何より時間も限られている。すぐにでも三十人を選定する作業に入らねばならない。


「聞いての通りです。民間人を巻き込むわけにはいきません。騎士、特に怪我人の皆様には申し訳ありませんが」


「おいおいふざけるなよ……」


 そう易々と決まるわけがないからだ。ふらりと進み出た一人の駐屯騎士が小さく発した、大いなる怒りが込められた声のように。


「仲間をほとんど殺されたってのに、その上死ねってか?どう考えても罠じゃねえか!」


 彼は生き残った。彼の仲間の多くは死んだ。悲しみに暮れる中、敵は三十人を要求し、ヤグルマギクは騎士にその枠に入ることを強制した。罠であること、そして先の爆発、毒を用いた手口を見るに死は確実と言って良い要求を呑めと。端的にまとめるなら、死ねと言った。


「ですが、人質を助けるには他に方法が」


「俺らはどうなんだよ!人質助けるのも大事だよなぁ!ああ、わかる!でも、見ろ!」


 あくまで人質の命を優先しようとするヤグルマギクに、騎士は腕を振り、瓦礫の山を指差した。少し前までそこに詰所があり、騎士がいた場所だ。


「何人死んだよ!俺らだって人間なんだぞ!道具じゃない!」


「しかし、騎士です。騎士には民を助ける義務が」


「だから人間だって言ってるだろ!死にたくねぇし、これ以上仲間に死んで欲しくねぇって言ってんだよ!」


 騎士とは民を守る盾であり、救う為の剣である。だが、それ以前に人間だ。いくらそういう職業に就いたとはいえ、人を救う為なら喜んで死ねるとは限らない、そしてそれは、決して悪いことでもおかしなことでもない。


「顔も知らねぇ、生きているかも分からねぇ人質にこれ以上命賭けてたまるか!」


「死んだと決まったわけではありません」


「生きている保証もないんだろ?なぁ、もしももう人質死んでたらどうするんだよ!俺らまで無駄死にじゃねえか!」


 騎士としては失格だが、人間としては当たり前だ。会ったこともなく、生死すら不明の他人の為に、職業だからと命を賭けるのは並大抵のことではない。ましてや目の前で同僚をまとめて吹き飛ばされた今では。


「そもそもお前らが持ち込んだ事件だろ?そこの橙髪のガキが貴族に成り上がろうとして、始まったんだろ?お前ら、いいや、お前がなんとかしろよ……!」


 憎しみの矛先はザクロたち、いやザクロ個人へと移る。確かにそうだ。ヤグルマギクたちがリナチアに来なければ、ザクロがアイリスを守ろうとしなければ、この事件は起こらなかった。人質を取られることもなく、駐屯騎士が死ぬこともなかっただろう。


 更に言うなら、ザクロの心を誰もが理解しているわけではない。アイリスを助けるという名目の下で婚姻を結び、権力を握ろうとしている身の程知らずの若者と認識し、妬み、僻む者もいるのだ。


「……違う。俺はアイリス様を守りたくて」


「そうかそうか!美人で大貴族のお嬢様は守りたいけど、平民の貧乏騎士は守りたくないってか!」


「こんなことになるなんて、俺だって思っていなかった!」


 ザクロは違うと言った。泣きそうになりながら、大声で否定した。こんなはずじゃと涙をこぼした。でも、どうでもいい。死んだことに変わりはなく、この論争で死者が蘇るわけでもないのだから。ただの時間の浪費、非生産的な行いだ。


「彼はまだ子供でしょう。それに履き違えないでください。悪いのは暗殺組織です」


「子供だから許されるのか?悪い悪くないの問題なのか?」


 しかし人間とは、効率と正論だけで生きる生物ではない。痛みを押して割って入ったパエデリアの言うことはもっともである。たった一人の子供に背負わせるにはあまりにも大き過ぎる責め苦であり、元より彼に悪意はない。全て助けたいという善意から始まったことだ。


 一方で、割り切れないこともある。子供だから、悪気はないから許してほしいなど、仲間が死んだ彼には到底受け入れがたい理論であった。結果を考えれば、無理もないことだ。


「お前が助けなければ……いや、違う!」


「やめろ!」


「それ以上は––」


「お前が死んでいれば、誰も死ななかったんだ!」


 そしてこう思うことも、無理ないこと。サルビアとヤグルマギクの怒鳴り声による制止も虚しく、騎士の叫びはザクロに届いた。


 誰だってそうだ。他人の死より仲の良い知人の死を悲しむ。理不尽な運命に巻き込まれれば、その元凶を憎む。どうしようもない怒りを叩きつける。


「……」


 ザクロは何も言わなかった。反応すらしなかった。言葉がまだ心に届いていない。固まっていた。


「よくもそんなことを言えるな……!ザクロ先輩がどれだけ辛い思いをしているか、わかっているのか?」


 サルビアは我慢しきれなかった。先輩の心を知っているから。誰だって必死に助けようとしてしまう、優し過ぎる人だと知っているから。彼が自らが原因である犠牲を前に何を思うか、分かってしまうから。


「俺だって辛いですぜカランコエ家の跡取り様。どっちが辛いかなんて貴方様が決めることでもねぇし、そもそも関係ねぇ」


 だが、騎士は譲らなかった。彼の言葉も正しかった。当たり前だ。騎士だって辛い。個人の感情などという主観的なものを、比べて決めることなんて不可能に近い。


「俺は辛いんだ。そいつがどれだけ辛かろうが、俺の知ったことじゃねぇ。貴方様も辛くはないんですかい?」


「……それ、は」


 それ以前。不幸自慢の優勝者しか心を吐き出せない世界なんて、おかしい。言われてようやく、サルビアは気がついた。ザクロ同様、騎士も辛いのだ。死にたくなくて、仲間を死なせたくない。そしてサルビアもまた同様。僅かでも理解できてしまえば、正しさが揺らいでしまえば、口は鈍る。


「お前騎士になるんだろ?だったら今すぐ、みんなを救えよ!」


「いい加減にしろ!ザクロは助けようとしただけだ!なのになぜ、彼が死ななくちゃならない!」


「じゃあなんで俺らは死ななくちゃならないんだよ!先に死を強制しようとしたのはそっちだろ!」


 パエデリアが反論を続けるも、彼も負けた。騎士はザクロ一人を生贄に全てを救おうとした。一方、ヤグルマギクたちは三十人近くを危険に晒そうとした。どちらが優れているかなど。


「そいつ一人が死ねば終わるんだ!目的が達成されるんだから、人質だって解放される!もっと早くにそうしとけばよかったんだ!」


 騎士は言い切った。息を切らし、どこか満足したような酷薄な笑みを浮かべていた。


 そして、それを聞いた誰もが声を失った。多くの者は俯いた。内心ではその通りだと思ってしまったからだ。厄介ごとを持ち込んだのはヤグルマギクたち。悪いのは組織だが、原因はザクロ。少年が死んで全てが終わるなら、自分以外の一人の犠牲で全員が助かるなら、それを選ぶべきだと。


 ザクロを守る理論は彼が子供であることと、彼は悪くないこと。あとは誰か一人を犠牲に誰かが救われるのは間違っているという、実用的ではない綺麗事くらいだ。


「……」


 ザクロが動いた。大粒の涙を溢れさせながら、自分の手を見ていた。続いてサルビアを、プリムラを、ヤグルマギクを、パエデリアを、ベロニカを見て、叫んだ騎士を見て、瓦礫の山を見渡して、怪我人を見て、犠牲者を見た。


「ザクロ君。馬鹿なことは考えないでください」


 ヤグルマギクは言葉とともに、パエデリアとベロニカに目配せを。場合によっては実力行使で止めようという腹積もりだろう。


「いいや考えろよ!自分一人の命でどれだけの命が救えるかってな!」


 まるで仇を討つ寸前のような、いや、実際彼にとっては仇の一人なのだろう。異常な興奮に陥りながら、騎士は煽る。


「先輩。やめてくれ。そんな必要はない」


 サルビアは止めた。誰かを説得できるような理論なんてない。ただザクロに死んでほしくなかったし、何も悪くない彼が死ぬのはおかしいと思った。感情論だった。


「……お前の主人の目的は俺の命なんだろ?だったら教えてくれ。俺が死ねば、人質を解放するか?」


「先輩!やめろ!アイリスを守るんじゃないのか!」


「…………今ここにいる人たちも、俺は守りたいよ」


 人形のような少女の前にザクロは立ち、問う。自分を犠牲にすれば、全てが終わるのかと。サルビアは咄嗟に思いついたアイリスという理由を用いて止めようとするが、ザクロは振り向かずに首を振る。そうだ。それが彼だった。


 そして彼は分かっていた。自分が死んだのなら、サルビアが後を引き継いでくれるであろうことを。人質も今この場にいるみんなもアイリスも、自死の選択で全員が救えることをザクロは理解していた。


「答える権限はありません」


「……やっぱりか。なら、お前の主人と話をさせてほしい。俺一人だけでも連れて行ってくれないか?」


「否定します。三十人揃ってからのみ、案内は許可されています」


 だが、そう上手くことは運ばなかった。少女はあくまで機械的に答えるだけで、応用が利かない。これは非常に悩まされる事態である。


 今この場でザクロが自殺したとしても、組織は人質を解放するだろうか。いいや、しないだろう。目的が勝手に自殺したと高笑いして手を叩き、盾とする為に人質を拘束し続けるはずだ。


 可能性があるとしたら、直接交渉に出向いてザクロと人質を交換する方法のみ。しかし、その為には三十人を揃えなければならない。


「俺は行かねぇぞ。これ以上巻き込まれないって決めたんだ」


 そして駐屯騎士の多くは動向を拒絶している。彼らがザクロの死を望むのはあくまで結果的なもので、本当の目的は自己と仲間の生存なのだ。自殺を成功させる為に、自らを危険に晒すつもりはない。つまり、どう足掻いても騎士だけで三十人には届かない。


「……もう、わけわかんねえよ俺」


 従う他にはない。だが、従えない。三十人を集めることができない以上、正当な案内は見込めない。死を恐れない態度から考えるに、少女を脅したところで案内はしてもらえないのだろう。


 ザクロ・ガルバドルには、人を救う為の自殺すら許されなかった。


「あら、単純じゃない」


「ええ。やむを得ません」


 手詰まり。多くの者がそう感じる中、ここでようやくプリムラ・カッシニアヌムが口を開いた。続いて、ヤグルマギクも覚悟を決めて。


「うっ……!?」


「腰抜けたちのせいで三十人揃わない。でも、人質は救いたい。だったら突入しかないわよね?」


 ヤグルマギクの投げた短刀が、少女の腕を切り裂いた。研ぎ澄まされた顔が苦痛に満ちたものへ変わり、すぐに遮断された。プリムラが発動した木の繭に閉じ込められたのである。抵抗の後はない。当然だ。短刀には意識を奪う毒が塗られていたのだから。


「入口はどうする?」


 三十人揃わない以上、突入を選ぶこと自体は仕方がない。だが、案内なくしてどうたどり着くのかと、サルビアは疑問を抱く。


「あなたって本当に純粋で馬鹿なのね。さっきの爆発、どこから来たか覚えてる?」


「……この下に?」


 それは愚かな疑問だった。少し考えれば分かることだ。爆発は地下からきた。つまり、詰所の地下になんらかの空間があることを示唆している。そこを辿れば辿り着けるはずだと、プリムラは頷いた。


「でも、人質の命が」


「そもそも、どう考えても罠じゃない?だったらいっそ賭けるべきよ」


「私としてはその考え方に賛同できませんが……三十人揃わなかった以上、人質を救う為に残された方法は一つだけです」


 指示に従わなかった場合の人質の命を気にするザクロだが、プリムラはそれを一蹴し、ヤグルマギクは致し方なしと部下に指示を出し始める。サルビアもまた、部下たちに用意を呼びかける。


「少数精鋭による救出作戦。臆病者も怪我人も、足手まといはいらないわ。パエデリア先生はそこで寝てなさい」


「しかし、生徒が行くのに私が向かわないわけには」


「邪魔で足手まとい。そんなこともお分かりになりませんか?先生?」


「それは、そうだが……」


 怪我人を含む三十人で戦うより、足手まといのいない十数人の方が強い。暴力的な解決を望むのなら、むしろそうであるべきと彼女はパエデリアの同行を認めない。


「制限時間は一人目が処刑される十五分後。それまでに人質を全員救出し、その後敵組織を叩きます。仮に人質の命が失われるという状況になりましたら、その時は交渉を持ちかけてください」


 少女が提示した一人目の処刑まで、まだ時間がある。案内すると言った手前、突入したことに気づかない限り、人質に手を出すことはないだろう。もしも気づかれたのなら、交渉を開始して身の安全と引き換えに人質の解放を要求すればいい。更にこの交渉は時間稼ぎとしての側面を有している。


「ザクロ君。先に言っておきますが、これは貴方の自殺を助ける作戦ではありません。人質救出作戦です。戦力が必要なのです」


 すぐさま突入の準備を整えた十六名を背後に、ヤグルマギクはザクロに助けを求める。生贄としてではなく、人質を解放する為の戦力として。


「できますね?」


「でも、また」


自殺(それ)は最終手段ね。さぁ腑抜けてないで行くわよ。それともなに?誰かを救える強さがあるのに、これ以上犠牲者を増やすつもり?」


 学長の確認に、ザクロはまた同じことになるのではと弱音を吐きかけた。しかし、プリムラの脅しがそれを許さない。そう、彼には生贄以外にも価値がある。凄まじい強さという、時には誰かを守ることに役立つ価値が。それを振るえと、プリムラは彼の肩を叩いたのだ。


「ザクロ先輩、助けに行こう」


 目の前に立つ後輩は剣を抜きながら、呼びかける。ザクロが自殺しないか不安そうに心配そうに。それを隠していつも通り振る舞おうとしているのが、一目でわかるくらい不器用な後輩がだ。


「……わかった」


 三十人揃わなかった以上、組織の拠点に乗り込むしかない。それは大いに賛成だ。しかし心の中で少年は、もしもの時に自らを差し出す覚悟を決めていた。また同じ失敗、つまり、サルビアたちが死ぬくらいなら自分が死に、皆を守ろうと考えていた。表面上では生贄を否定しながら、心の裏に決意を隠していた。


「それでは、作戦開始」


 ヤグルマギクとその私兵、サルビアとベロニカを筆頭としたカランコエ家の騎士、プリムラ、ザクロの精鋭たちが、地下への突入を開始する。











「想定とは違う楽しみ方ができましたが……おやおや。いけませんねぇ。指示には従ってもらわないと」


「ええ、ええ!そうですとも!彼らは仲間を失った悲しみに耐えきれず、怒りを抱き、愚かにも!この場所を目指すのです!ああああああ!やはり、悲しい!悲しさは摘み取らねば!」


「なぁなぁ。あれやっていいか!アレ!」


「安心してご主人様。僕が全員、迎え討つよ」


 そしてその様子は全て、地下の存在に見られていた。ある男の系統外を通じて。


 ついに悪が姿を晒す。

 

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