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幻想現実世界の勇者  作者: ペサ
外伝 現実幻想世界の剣士
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第46話 表彰式




「最も波乱に満ちた大会でした。あるいは、最も歴史に残るような勝負に満ちた大会でした」


 壇上の老人のゆったりとした声が、会場には響く。彼の言葉は今大会を的確に表現した者であり、また、後年の歴史家たちが口を揃えた評価でもあった。


「枯れかけたこの老木の心すら、揺さぶるような試合がたくさんありました」


 後者に関しては言うまでもない。剣と剣、魔法と魔法、剣と魔法。いずれの組み合わせも、『記録者』の記録にしかないほど高みにある戦いだった。一生に一戦でも見られれば幸運だというのに、それが四戦もなんて。まさにこの時こそ、モンクスフード学園の黄金期であった。


「誰もが真剣でした。勝った者も負けた者も皆、心から戦っていました」


 前者は様々な要因が絡み合った結果だ。まず一つ目。勝負の最中、彼らは自分を曝け出し過ぎた。感情を表に出し過ぎていた。それらは憎しみであり、愛情であり、嫉妬であり、尊敬でもあり、侮蔑でもあり、友情でもあった。どれもあまりにも、生々しく。だからこそ、名勝負たり得たのかもしれないが。


「真剣であるが故に、心からであるが故に、負けた時の悔しさも大きかったことでしょう」


 二つ目も三つ目も、最初の一つに起因する。二つ目は三位決定戦の呆気ない幕切れである。戦うも降りるも選手の自由ではあるが、それでもあの試合は波乱と呼ぶ他にないものであった。


「そしてそれは、時に命を危険に晒してしまうほどの戦いにまで発展しました」


 そして三つ目。ある意味、学園側としてはこれが一番重要であった。そう、選手の生命の危機である。これに関して言えば、いささか運営の想定が甘かった。たかだか学園最強を決める大会。本気であっても、死ぬ気も殺す気もないだろうと、悠長に構えていた。


「大会とはいえ戦いです。命はかかっているものですが、積極的にかけるものではありません。ましてや相手の命を奪おうとするなど、あってはならないことです」


 もちろん真剣勝負である以上、命の危険は常にある。しかし、殺さない事は大前提であり、もしもの時は舞台のすぐそばに控える教師陣が割って入る予定だった。


「お小言で申し訳ないのですが、どうかそれをお忘れなきよう」


 お分りであるとは思うが、それがどうなったか。命を削ってるとしか思えないような魔法陣を用いる選手が現れ、その選手にその魔法陣を使うように頼み込む選手が現れ。止めに入ろうとした教師に、剣と魔法が突き付けられた。そもそも、大会のレベルが高過ぎて、もしもの時に割って入っても間に合わないような試合ばかり。死者が出なかったのは、まさしく幸運と呼ぶ他にない。


「我々も対策を考えます。今年のように盛り上げることができて、なおかつ選手達が安全に戦えるような対策を」


 そしてその幸運が、来年も続くとは限らないのだ。教師陣は対策を迫られるだろう。規則を一から考え直し、付け足すことで選手に対し細かく制限をかける必要があるだろう。


「明日から。選手の皆さんも、さっきのお小言は次に目を覚ます時までは忘れてしまいましょう」


 反省も対策も、後回しにするべきではない。忘れない内に、すぐに取り組むべきではある。しかしまぁ、次の大会にまで一年の時間があって、やっと大会が終わって、名勝負ばかりで、


「では皆さま、お待たせしました。ただいまより表彰式を行います。そして、その後には後夜祭です」


 その表彰式が今からで、その後に宴が控えているのだから、別に少しくらい後回しにしてもよいだろう。


 言い終えた校長は頭を下げてから、腕を一振り。その合図を見た複数の教師陣が合同で魔法を発動させ、舞台を変動させる。勝者の為の栄光の座、すなわち表彰台の作成だ。場所は当然、舞台中央である。


「名前を呼ばれた選手は壇上にお上りください。まずは第三位から」


 その完成に合わせて司会進行のパエデリアが、拡声魔法にて場内全域に声を届ける。そうだ。栄光の台は三人しか立つことができない。ならば三位から呼ばれるのは当たり前で、そして三位は彼女だった。


 耳障りなほどの声ではない。場内の人数を考えれば、むしろ静寂といっていい。だが確かに、三位と聞いた瞬間、会場全体に不安が駆け抜けた。


 負けて不貞腐れ、そこを殴られて勝った。順位で考えても、去年の圧倒的優勝から仮初めの三位までの大転落。プライドの高い彼女がそれを許せるのか。来ないだけならまだマシ。もしも舞台の上で暴れでもしたらと。


 場内の目線が、舞台と控え室を繋ぐ出入り口に集中する。中には魔法障壁を張り始める者もいた。しかし、それらは杞憂だ。プリムラのことを僅かでも知っている人間なら、それくらい分かるとも。


「第三位」


 ヒールの音がした。以前の音ではない。堂々とはしていない。ただ歩いているだけの音だ。だが、立っている。歩いている。


「プリムラ・カッシニアヌム」


 白髪を夕日に照らし、拳を強く握り、表彰台へと歩く。背中はピンと張っているわけではないが、丸まっているわけでもない。ただ、表情はちっとも嬉しそうではなくて。


 観客はその姿に、二対八の気遣いをした。表彰台に上がるのだからと、あんな良い勝負をしたのだからと、歓声をあげたのが少数派。プラタナス戦の後を見て、三位決定戦を見て、拍手に留めたのが多数派である。何もしない者もいたにはいたが、極めて少なかった。


「……」


 その気遣いに、彼女は僅かに俯いた。歓声をあげた者に憤ったのではない。拍手だけだった者に怒りを抱いたわけではない。彼女も、彼女をよく知る者も分かっている。


 望んだのは、割れんばかりの歓声と溢れんばかりの拍手。現実は、三位に与えられるには少ない歓声と控えめな拍手。そうだ。今の自分には、三位の価値すらない。この程度の気遣いがお似合いなのだと、分かっている。


 理想と現実との乖離に、自分に相応しい出迎えに、耐え切れず一度だけ歯を鳴らす。しかしそれを機に鋭い目つきで前を向き、台の上に足を置く。


 それは、たった一歩だけだった。大多数を見下ろせるが、上にはまだ二人、本当なら三人がいる。そこが彼女の位置だった。


 思うことは無数にある。されど、この場においてそれらは負け犬の遠吠えにしか過ぎない。だから黙って腹の奥に押し込んで、上の二つを見る。


「続いて第二位」


 プリムラは壇上に上がった。ならば、次は二位の番。しかし、彼もまた観客の不安の対象だった。


 彼もまた凄まじくプライドの高い、というより心の捩くれた者。なにせ、彼は去年表彰台に登っていない。敗北がそれだけ彼に響いたということであり、そして今年も去年と同じく二位。一度の敗北を許した結果である。


 更に言うなら、去年と違って彼には体調という問題、あるいは免罪符がある。準決勝で気を失うほどの無茶をし、更に決勝でも『義枠・三重式』を使用した。純粋に今は動けないかもしれないし、それを理由に欠席するかもしれない。


「プラタナス・コルチカム」


 再びの杞憂だった。確かに彼はプライドが捻じ曲がっている。彼の中でザクロへの敗北は許し難く、来年必ず復讐すると誓っていることは言うまでもない。しかしその一方で、プリムラに勝ち、彼女より上の位置に立てることが、彼の心を大いに救っていた。


 魔導師に魔法で負けたのではなく、魔法剣士の剣技に負けたということが、幾分か敗北の意味を軽くしたのだろう。


 そして体調について。現実、彼は立てる状態ではなかった。だったらまぁ、自分の力で立たなければいいだけの話で。服の下、木魔法を薄い鎧のように身体に纏い、動かすことで舞台を歩く。ほとんどの観客に悟られないほどの自然さでだ。


「ははっ……なるほど。気を遣われてしまうのか。なんとも、腹立たしいものだ」


 今度は七対三の気遣いだった。準決勝と決勝において、無理をしてまで良い戦いを見せてくれたこと。去年の復讐の達成。『義枠・三重式』のお披露目。プリムラと違い、三位決定戦のような終わり方がなかったことが、その比率の理由だろう。


「とはいえ二位であるという時点で、どんな対応だろうが苛立っていただろうがねぇ」


 気遣いの理由は、二位を許せない彼を知るからこそだ。しかし、これらの気遣いは悲しいことに全て無駄だった。プラタナス本人が言う通り、どうあっても彼は不機嫌になっていた。二位である時点で、それは避けられなかったのだ。


「しかし、今夜は我慢しよう。良い気分の方が僅かに勝っているからねぇ」


「……」


 表彰台に足をかけ、一段、二段と登る。反対側の少女と並び、追い越す二本だ。誇らしげに、わざわざゆっくりプリムラへと勝ち誇った表情を向けながら、彼は二位の位置に立つ。


 それに対し、プリムラは無言を貫いた。会場中に殺意が伝わったものの、そこで留めたのだ。


「ああだが、ほんの僅かにだとも」


 その対応に僅かに驚いたように、目を一度だけぱちくりとさせ、プラタナスは表情を消す。隣の一番高い座を見たからだ。パエデリアの声を聞いたからだ。


「第一位」


 さぁお待ちかね。ついに優勝者の入場だ。そして杞憂よ。残念ながら、観客の心に君はお呼びではない。ああ、分かるとも。知っているとも。彼は必ずやってくる。例え準決勝で軽く腹を斬られたからといっても、決勝で全身に瓦礫の雨を浴びたからといっても、必ず姿を見せると。


 それも絶対に堂々と。足が折れていようが、ぎっくり腰であろうが、首を寝違えていようが、絶対に背筋をピンと伸ばして笑顔で手を振りながら入場してくると。分かりきっている。


 空が青いことや海が青いことと同じくらい、みんなが知っていることだ。だからこそ、気遣おう。比率はそう、百対百ほどで。


「ザクロ・ガルバドル」


 割れんばかりの大歓声だった。溢れんばかりの拍手だった。会場の外、それこそ学園の外どころか街の端まで届くような、熱烈な歓迎であった。


「うおおおおおおおお!ザクロォ!お前のお陰で大儲けじゃあああああああ!」


「なぁに照れ隠ししてんのよ。本当は嬉しくて嬉しくて仕方がないくせに」


「その涙は感動が原産でしょう?」


 ガジュマルを始めとした酒場者たちは特に大声で手を振り回し、ザクロを讃えた。中には涙を流す者さえ。確かにザクロのオッズは四番目であり、ブックメーカーは番狂わせであったが、その本心は。


「いや、割と半分くらい儲けたのが嬉しい」


「「……」」


 人の心を完全に理解することは、不可能である。照れ隠しなのか、あるいは本心なのか。真面目すぎるガジュマルの顔に、サザンカとダチュラは判断できなかった。


「……ザクロ、様」


 上品に手を振るマリーの隣でアイリスは、同じく控え目に少しだけ手を振って、やめた。彼女の心には、様々な感情があったからだ。


 嬉しくないわけがない。心の底から、喜ばしいと思う。讃えたいと思う。でも、それだけに染まり切れない。同時に湧き上がる感情が、どうしても妨げる。


「あなたは、あの時」


 決勝戦、剣にて踊り、傷つき、血を撒き散らしながらも彼は、嬉しそうだった。楽しそうだった。相手の命も自分の命を危険に晒してまで、本当の一番を欲しがっていた。


「……」


 手を胸の前で重ねて、ぎゅうと握る。アイリスは怖かったのだ。彼に優勝して欲しかったことに偽りなくとも、死にそうになるくらいだったら、いっそと思ってしまっていた。


「私は……」


 人の価値観はそれぞれで、止めることは時に余計なお節介となる。その事を、聡い少女は知っている。気付いている。だが、それでも。


「何も、できないのでしょうか」


 動龍骨の時以来、自分にもできることがあって、それを精一杯やればいいと思うようになった。でも、今日の戦いを見て、止めることなんて実力的にも精神的にもできなかった自分を知って、考えが変わった。


「でも、今は……優勝、おめでとうございます」


 手を開き、もう一度ザクロに見えるように振り始める。今は違う。その時ではない。落ち込む時ではない。祝う時だと、半分の心で思って頭で考えて体を動かして。


「……おめでとう。先輩」


 そして、学長の空席を挟んで一つ隣に座るサルビアは、静かに拍手をしていた。歓声をあげる性格でもないし、気分でもなかった。彼もまたアイリスと同じで、純粋に祝うことができていなかった。


 心陰る二人を知らぬまま、ザクロは歓声に手を振り返し、満面の笑顔で応える。あちこち傷だらけ、簡単な治癒魔法の応急処置の痛々しい姿だが、ピンと背を伸ばして。胸を張って堂々にして悠々と舞台を横切り、表彰台の前へ。


「……へへ」


 一瞬だけ、止まる。前を見て、階段に目を向けて、顔を綻ばせる。ずっと欲しかったものが、そこにあったから。


 一歩目。去年はここまでだった。悔しくて苦しくて泣きそうで、相手が天才で自分が凡才だったから仕方ないと言い聞かせて、登った一歩目だった。


 二歩目。でも、今年は違った。苦しくて、才能を妬んで、諦めかけた。けれど、諦めきることはできなくて、もう一度立ち上がって這い上がって、五歩の距離を追い越して、去年を打ち破って、ここまで来た。知らない歩数まで、来たのだ。


 三歩目。静かに、踏みしめる。ああそうだ。これだ。ここだ。この景色こそ、彼の夢見たもの。彼が心から欲しがって、今までに手に入れることができなかった。


 思わず、涙が出てしまった。表彰はまだだというのに、まだ台に上がっただけだというのに、泣き出してしまった。


 だって、同じ高さに誰もいないのだ。誰よりも高い位置。一番上。頂きからのみ、見える世界。


「……やれやれだねぇ」


 笑顔のまま鼻を鳴らし、嗚咽を漏らし、涙を何度も拭う少年に、プラタナスは肩を竦める。ここまで純粋に喜ばれてしまっては、毒気も多少は抜かれてしまうものである。


「賞状、及び記念品の授与です」


 少しだけ待ってみたものの、泣き止む気配はなく。パエデリアは仕方なく、再び声を拡声し、式を進行させる。


「では、プリムラ・カッシニアヌム君」


「……はい」


 学長の足元が盛り上がり、三位より僅かに背の低い台となる。向き合って名を呼べば、彼女は間を置きながらもしっかりとした声で。


「おめでとう」


「…………ありがとう、ございます」


 それによろしいと頷いた学長は、形式に則り、賞状に刻まれた健闘を讃える文章を読み上げて、彼女へと手渡す。


「貴女に言うことはあまりないようですなぁ。なにせ、分かっている。違いますかな?」


 銅のメダルを授与するその時、彼は声をかける。その内容にプリムラは、無言で睨みつけることを返事とする。


「ただ、一つだけ。私も、良い戦いだと思いましたよ」


 次の言葉にも同様。呼吸すら返してたまるかと彼女は息を止めて、かけやすいように身を屈めて、三位の証を受け取った。


「さて。プラタナス先生」


「どうも。学長」


 学長の台の身長が伸びて、今度はプラタナスより少し低い程度に。向き合って名を呼べば、準優勝者は顔に微笑みを貼り付ける。


「おめでとう」


「ありがとうございます」


 プリムラと同じように賞状を受け取って、彼女とは違って頭を下げて礼を述べる。綺麗な応対ができるだけの余裕が、彼にはあった。


「……修練を積んだことが垣間見える、素晴らしい戦いでした。そして、無数の失敗の果ての発明もまた」


 銀色のメダルを渡す直前、学長はプラタナスを褒め称える。『義枠・三重式』は勝利に欠かせないものではあったが、それだけでは決して勝てなかったと。彼の一年間は、讃えられるべきものだと。でも、そこには大きな躊躇いが含まれていた。


「ええ。分かっています学長。分かっていますとも。でも、だから今は、どうか祝うだけにしたください」


 それが分かる彼は緑の髪を揺らして頷き、そのまま首を下げてお願いする。言われなくとも、分かりきったことであると。


「……そうですね。では、おめでとうございます」


 学長も頷き、指示に従って祝うことに専念する。銀のメダルを首にかけ、もう一度賛美を述べて、次へ。


「最後にザクロ君ですが……」


「……は、い」


「何を言えば、もう少し落ち着きますかなぁ?」


「無理、です。多分、これから、悪化、じます」


「そうですか。まぁ、そうですよねぇ」


 最後にもう一度台を伸ばして、彼より少し低い位置へ。向かい合った橙色の瞳は涙に溢れていて、返事は鼻声で途切れ途切れ。仕方がないことではあるが困ったと、ヤグルマギクは嬉しそうな苦笑いを浮かべる。


 賞状を読み上げる間も、ザクロの涙は止まらなかった。なんとか酷くならないように抑えこんではいるようだが、治まるには程遠く。


「おめでとう」


「ありがとう、ござい、ます……」


 賞状を涙で濡らさないように気をつけて受け取り、一旦脇に抱えて。仕方がない。人によってはただの紙かもしれないが、彼にとってはずっと欲しかった紙なのだ。


「君の戦いは、良いものでした。見る者の心を震わせるような、素晴らしいものでした」


「学ちょ……う、待って……」


 今までの二人と同じように、学長はザクロを讃える。薄々分かっていた流れではあったが、それでも耐え切れないとザクロは待つようにお願いするが、


「そして、その過程も。圧倒的な実力差や才能の壁を前にして、挑み続ける事ができる人は非常に稀です」


「……いや、俺、一回、腐った、し……」


「でも、立ち上がりました。挑み続けました。努力し続けました。剣を振り続け、考え続けました。戦い、続けました」


 ヤグルマギクは待たない。むしろ、否定を否定して、畳み掛ける。


「長い年月を生きてきて、思うことがあります。続けるということは、辛く苦しいことだと。特に、報われるかも分からない努力は」


 報われるかも分からない努力を続け、報われた彼に。老人は人生で得た想いを語る。世の中に溢れる軽い励ましにはないことを。諦めないことは苦しく、辛く。それでも続けるということは、並大抵のことではなく。


「なのに、貴方はここまで続けた。だからこその優勝です。一番です。だから、誇ってください」


 それを成し遂げた者に、最大級の敬意をヤグルマギクは示すのだ。


「私も、貴方のことを誇りに思いますから」


「……ずりぃよ……学長先生……そんなの、言われたら、もう耐えるの、無理じゃねえか……」


 首に金色のメダルをかけられ、左脇には賞状を挟んで。ならば残る右手が、優勝杯を持つ役割と涙を拭う役割を兼任する他になく。


「……おめでとうございます」


 そんな彼にもう一度、学長はおめでとうを。


 そして会場はもう一度、大地を震わすほどの祝福を表彰台の三人と、そこに立たなかった挑戦者に。


 こうして、波乱と名勝負に満ちた大会は幕を閉じた。


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