第44話 どうか
「来ないんですか。先生」
「そちらこそ」
始まりは静かだった。開始の掛け声があっても、両者共に攻勢に出なかったのだ。相手が動かなかったことに互いに驚きながら、構えは崩さず機を伺う。
「忌み子を見つけた騎士のように、突っ込んでくるかと思っていたんだがねぇ」
隙を探しているというのがどちらもの理由だ。なら、その理由の理由はなにか。それは、二人が消耗しきっているからである。
「……なぜ、動かないのでしょう」
「魔力とか体力を消耗しているからじゃない?」
戦いを知らぬお嬢様の質問に答えたマリーの言う通りだ。ザクロはサルビア戦で、プラタナスはプリムラ戦で魔力と体力を大きく削られている。時間を挟んだことで多少は回復したとはいえ、それでもそう長くは戦えない。故に魔力を注ぎ込んだ攻撃ではなく、集中し、できる限り質の良い攻撃を繰り出す必要がある。
厳しいのは魔法特化のプラタナスだけではない。浮遊を剣に交えることでサルビアと渡り合ったザクロにも、大きく影響を与える。大魔法の連発も難しいし、浮遊魔法だってあと数秒が限界だろう。
「そうだ。更に言うなら、先生の方が残存魔力量も魔法の扱いも上だ。消耗した先輩では、一度傾いたらそのまま戻らない可能性がある」
プラタナスの魔法の恐ろしさを、ザクロは重々承知している。迂闊に枠を消費して飛び込めば、息もつかせぬ魔法の連撃に押し切られかねない。魔力さえあれば強引な突破も可能だったろうが、それはないものねだりというもの。
「だから俺は、開幕先生が動くと見ていたのだが」
「そうではないということは、何か考えがあるのでしょうか?」
「……あるいは」
アイリスの推測にサルビアが付け足そうとした時、試合が動いた。剣士は間合いに入らなければ始まらない。ザクロが一歩、踏み込んだのだ。
「待つのは苦手なんです」
ふざけた口調ながら、真剣に。両手に魔法剣。身体には身体強化。しかし、他の魔法は一切用いず、属性枠を二つ確保したままの直進。プラタナスの迎撃に備えつつの、守備的な攻勢だ。
「知っているとも」
備えていることが分かっていても、迎撃しないという選択肢はない。プラタナスはより自由な己の枠を温存し、魔法陣を起動。ザクロと自らの間に、無数の土柱を地から天へ、角度を分け、更に途中から枝分かれさせて突き上げる。まるで、枯れた木のように。
数は多く、範囲は広く、速度も早い。ぱっと見では大魔法に思えるし、現に会場の中にはなんと高性能な魔法陣かと騙される者もいた。
だが違う。そうではない。確かにそれなりの性能の魔法陣ではあるが、大魔法ではない。数と範囲と速度を重視した代わりに、強度を最低値にまで下げた攻撃だ。それも、触っただけで簡単に折れてしまうほどに。
強化を施した肉体なら、へし折りながら進むことは容易だろう。しかし、ここで邪魔をするのはザクロが己に展開した魔法障壁。障壁はどんな威力の攻撃でも、対応する種類なら通すことはない。そう、どんな威力でもだ。
触れば折れてしまうような強度の土柱でも、魔法障壁は通さない。引っかかってしまうのだ。場所によっては、ザクロを止めてしまうのだ。
なら、魔法障壁を解除すればいいか。いや、そう単純な話ではない。砕きながら進むこと自体はできるだろう。しかし、プラタナス相手に再展開までの一秒間は致命的過ぎる。
「相変わらず、いやらしいですね先生!」
残されたのは二択。剣で前方の柱全てを断ちながら進むか、最短を諦めて迂回するか。前者は消耗した彼には難しく、故に選んだのは後者だった。
着地の右脚の角度をずらし、勢いをほとんど殺さずに進行方向を60°ほど左へ転換。最短の接近ではなく、背後へと回り込む有利を狙う。
そうだ。彼は今、玉座に腰掛けている。背もたれが邪魔となり、背後は死角となる。玉座を動かせばよいのだが、それには枠を一つ割く必要がある。死角か一枠か。ザクロは接近の仕方一つで、プラタナスに不利の択を強いようとしたのだ。
「知的と言って欲しいねぇ」
だが、プラタナスがその行動を予測していないわけがない。魔法を調整。範囲を己を中心、ザクロを半径とした円状に広げ、代わりに速度を僅かに落として迎え撃つ。死角に入られようが、近づかせなければよいと言わんばかりに。
「けど、どうですか先生」
ああ、分かった。だったらザクロは近づかない。剣士は間合いに入らなければ始まらないと言ったが、ザクロにとっての間合いは一足一刀にあらず。背後にたどり着いた時点で足を止め、近づくことをやめ。どっしりと腰を据え、天に両手を掲げ。
「たまには馬鹿の方が賢くなりますぜ」
虚空庫に魔法剣をしまい、右手は鉄の百足の剣へと換装。左手に魔力を注いで土の百足剣を創造し、したり顔で振り下ろす。距離はまだあるが、この二振りなら届く。
ここまでの動きを、プラタナスは見ていない。死角となって見えていない。
「意味が分からないねぇ」
見えていないからといって、予想していないわけではない。彼は背後を振り向く為ではなく、土の盾を生み出すことに一枠を使用。土の百足は魔法障壁に任せ、鉄の百足を余裕を持って創造した魔法の盾で受け止める。
「私より賢い馬鹿を、見たことがない」
がりがりと盾が削れ、剣の跡が刻まれるが、貫かれることはなく。最初の攻防を終えるも、互いに相手を傷つけることは叶わず。
プラタナスの方が防戦一方に見え、やはり彼の方が不利だと思う者は多かった。が、それは完全に正しい意見ではない。今の攻防の中で、彼は土の柱を残した。弱く脆く、しかし相手の動きを阻害する魔法の柱。
ザクロがこれらを処理するには、百足剣を横に振るうか、かなりの魔力を注ぎ込んだ魔法が必要となる。そう、防衛しながら、未来でザクロに行動を強いる魔法を残したのだ。
「……ああ、なるほど」
両肩の骨折、疲れ切った脳、動かぬ身体。これだけのハンデを背負い、死角を突かれながらも、類稀なる頭脳の予測にて無傷で乗り切り、これからに備える。
「これもまた、悔しさか」
自分も、あの場にいたかった。あの恐ろしき魔導師と戦いたかったと、サルビアは歯を噛み締める。なぜあの場に自分が立っていないかなんて、分かりきっていて。
それ故に、コンマ一秒も彼らの戦いから目を逸らすことはない。喰らおうとしているのだ。彼らの思考を。駆け引きを。戦い方を。己の血肉にしようとしているのだ。
サルビアは今、ザクロを追いかけていた。今度は彼が、追いかける番だった。
「先生より賢い俺って馬鹿を、今見せてやりますよ」
「申し訳ないが、君は賢いというより強い馬鹿だねぇ」
見事なものだった。プラタナスの知略同様、ザクロの技術もまた凄まじく。土の柱の僅かな隙間を、身体を捻ることで速度をほぼ落とさずにすり抜ける。
「私の魔法を利用するか」
「節約しないといけないですからねぇ!」
プラタナスが操風による瓦礫の迎撃を行えば、避け方を工夫し、土の柱を壊させる。または瓦礫と土の柱を、一太刀の間にて断ち切る。あるいは、瓦礫の砕き方を調整し、破片を飛ばして土の柱を倒壊させる。
一つの動作に複数の意味を。それだけではなく、一つの意味しかない行動も、隙を見ては綺麗に差し込み、秒数辺りの意味を増やす。それが、両者の共通点。
今できる限界を、バカな頭と積み上げた経験で考えて、鍛え上げた技術で実行に移す。それがザクロ。
「馬鹿の方が賢いことを、見せてくれるのではないのかねぇ?」
馬鹿を天才に組み替えたのが、プラタナス。だが、どちらが有利かと問われても、答えは出ない。今、二人は互いに攻めあぐねている。
土の柱の壁が、剣士の動きを制限する。思うように剣が振るえず、例え乗り越えたとしても、二重発動の盾を超えられず。またすぐに土の柱を展開され、後退を余儀なくされる。
たった一瞬のたった数本に、両手を奪われることをザクロが恐れたからだ。
プラタナスならそれができる。刹那の間にザクロの両手を挟むように、土の柱を創造できる。その上で考えて欲しい。剣を振るう己の腕を、いちいち見る者がいるだろうか。両腕ともなればまず不可能だろう。
バットを振る時、ラケットを振る時、見るのはボールだろう。振るう腕を人は見ない。振るおうとして、止められて初めて、ザクロは土の柱に気付くのだ。動きを阻害されたと思った時には、脚まで挟まれて。
ここで問題だ。気付いてから対応する者と、動きが止まることを知っていて魔法を準備している者、どちらが速いか。決まっている。後者だ。
だからそうならないように剣士は一撃、もしくは二撃離脱に徹している。飛んでくる瓦礫に対応しつつ、土の柱を超えて近づき、プラタナスの盾に挑む。
この土柱の壁は、近接主体の者を封じる恐ろしい戦法だ。無論、魔力充分のザクロほどにもなれば超えられるが、魔力不充分のザクロには超えられない。
「先生こそ、早く証明してくださいよ!」
だがこの戦法。対戦相手の技量にもよるが、誰にでもできるものではない。剣士の動きを読み、多数かつ広範囲かつ高速に土柱を展開しなくてはならない。折られた端から補充していかなければならない。僅かでも穴を作られれば、この壁はすぐに瓦解する。
攻撃だって考えなくてはならない。迂闊に瓦礫を飛ばせば、自らの道を作りかねない。最悪避けられたとしても、致命の道とはならないような軌道で操作しなけばならない。
そして、常に用心を欠かしてはならない。範囲殲滅を放たれた瞬間、土の柱は全滅する。せめて敵の真正面だけでも復活させるか、あるいは範囲殲滅に意識を傾けた相手を狙い撃って時間を稼ぐなどの方法を、用意しなければならない。
万が一相手が魔法障壁を解除した場合に備えて、いつでも一撃で仕留められるような魔法を撃てるように構えておかねばならない。一時の油断が一生の敗北に繋がりかねないからだ。
このように、ならないづくし。魔力不十分のザクロ相手にプラタナスがほぼ全ての神経を傾けなければできないほど、難易度が高い。
「私の賢さなら、今証明しているじゃないか。この戦いの中で私は、これを編み出したのだからねぇ」
「……冗談ですよね?」
「いやいや。最初は土の柱で嫌がらせをしようと思ったのだがねぇ?詰めて考えてみれば、これは使えるんじゃないかと」
驚くことにこの戦法、なんと今の戦いが始まってから思い付いたと彼は言うのだ。動揺を誘うはったりだとザクロは瞬きするが、
「考えてもみたまえ。開幕、私は動かなかっただろう?」
「……ああ。そういえば、そうでした」
土の柱の展開を、彼は最初に行わなかった。事前に思い付いていたのなら、ザクロが動く前にできる限り多くの土の柱を創造しようとするはずだ。それをしていなかったということから、考えられるのは二択。
「そうでしたよ!」
一つ目、この戦いの中で思い付いたと揺さぶりをかける為に、最初に土柱を創造しないという壮大にして回りくどい仕込み。二つ目、本当にこの戦いの中で思い付いた。決まっている。二つ目だ。百万に一つ一つ目だったとしても、それならそれでお手上げの賢さだ。
「しかしまぁ、君は馬鹿とは言い難いな」
前戦の血の咳や今の土柱のように、有効な戦法をその場その場で即興で思いつく頭脳と、実行に移すだけの技術を誇るプラタナス。そんな彼の緑の瞳が、ザクロに賞賛の視線を向ける。
「そう、ですか……!ならなんで、試験はいつもギリギリなんですかねぇ!」
「剣を振ってばかりいるからだろうねぇ」
ザクロ自身が評するように、彼はあまり賢くない。勉強しないからというのもあるが、座学の試験はいつもすれすれを浮遊してなんとか乗り切っている。
「それ故に、戦いの中の君は賢い」
だが、こと戦闘に関する彼の思考は、天才といっても良いものだった。だってプラタナスが今思い付いたばかりの戦法を一目見ただけで、長く近づくのは危険だということに気付いた。魔力が少ない状態で無理に攻めようとすれば、そのまま負けに追い込まれると理解していた。魔法障壁の解除の危険性だって分かっていた。
「本当に、賢いとも」
「っ!?」
そして、土柱を利用しようとさえしていた。プラタナスがわざわざ一枠を割いて生み出した風刃が、数本の土柱を確かな手応えと共に切断する。触れば倒れるような脆さで作ってあるはずなのに、手応えを感じる土柱を。
「そして、ちゃっかりもしている」
魔導師が一枠を用いた瞬間に、剣士は二枠と百足剣を解放。薙ぎ払いで横方向の土柱を殲滅し、風魔法の槍で前方の土柱を粉砕して道を作り、そこを走る。
道中で、百足剣を障壁を無効化する魔法剣へとコンバート。復活していく土柱を跳躍で乗り越え、背後からプラタナスに斬りかかる。
「……バレてたとは、思いませんでした。先生はサルビアと俺との戦いの間、気絶していましたから」
「私が自ら生やした土柱の数と位置を覚えていないとでも?」
しかし、それさえ読まれていた。プラタナスは全ての対象を切り倒すより前に風刃を消去し、土柱の再生を途中でやめて二枠を帰還。しっかりと盾二枚をカタチ作り、ザクロの斬撃を防いでいた。
「いいと思ったん、ですけどねぇ」
切断された自作の土柱を眺めながら、困り眉となるザクロ。そうだ。彼はプラタナスが生み出した膨大な数の土柱の中に、自分で作った硬い土柱を混ぜていた。戦いの中で隙を見つけ、相手にバレないようにこっそりと。
何の為にか。それは、その土柱の位置関係を見れば分かる。
「いや、私もいいと思うとも。私とルピナス以外には、という条件付きだがねぇ」
プラタナスの作った柱は脆く、足場にすることはできない。だからザクロは、そこに硬い柱を混ぜた。足場にする為に。土の柱を素早く超え、プラタナスにとっては予想外で、かつ彼に届くような道とする為に。
「気付かれた時のことを考えていたのも、高評価だ」
気付かれるとは思っていなかった。が、もしも気付かれた時にどうするかを、ザクロはしっかりと決めていた。
「しかも人の精神まで織り込んでいるとは。君は本当に賢いとも」
相手の策を見抜いた時、人は得意げになってしまうものである。油断して対処し、その裏にあった策に絡め取られることもある。そう、ザクロは策が見抜かれた状況を想定していた。
「その人の精神を織り込んだ策に全く引っかからなかった先生は、何者なんですか?」
「私は私だとも。故にこれくらい、わけないことだねぇ」
各箇所に設置されたザクロの土柱をプラタナスが切断するには、必ず魔法の枠を使用する必要がある。故に、得意げになって彼が魔法を使った瞬間、ザクロは全力を解放し、一直線で首を獲りに行こうと考えていた。いや、実行に移した。そして失敗したのだ。
「……埒があきませんね。これじゃ」
「そうだねぇ。はっきり言って、互いに手詰まりだ」
剣と魔法は違えど、技術は拮抗。経験の数と質の総量も、どちらも負けず劣らず。知略の差は魔導師に傾きこそすれ、彼のハンデと剣士の身体能力が天秤を釣り合わせる。
かなり長い間剣と魔法を交えたが、驚くことにどちらも傷を付けられていない。ザクロの剣技が鋭過ぎたし、プラタナスの土柱が堅牢過ぎた。
「魔力は俺の方が早く尽きます。でも、先生。はっきり言ってください」
残存魔力量と戦いの中での消費量を考えれば、先に魔法が使えなくなるのはザクロだ。しかしそれは、戦いが続けばの話。
「あとどれくらいですか?」
「……さぁ。いつでもおかしくは、ないだろうねぇ」
続くかは分からない。元より、彼は無理を押して戦っている。プラタナスは今まで口にも態度にも出さなかったが、既に限界を迎えていた。魔力が残っても、気を失ってしまえば戦いようがない。
ザクロが魔力を失うのが先か、プラタナスが気を失うのが先か。このまま拮抗が続くのなら、そういう幕引きになる。
「賢い先生なら俺の言いたいこと、分かりますよね」
だからこそ、ザクロは一度剣を地に向けて、目で彼に訴える。これだけの策を即興で生み出し、こちらの策を見抜ける貴方ならと信じて。
「……ああ。分かるとも」
プラタナスも土柱の生成を一時的に停止し、その信頼に頷くことで答える。そうだろう。このザクロという剣士なら、人間なら、そういう幕引きは望まないだろうと。
「俺も分かっています。これは、最低最悪のわがままです。貴方を危険に晒します。場合によっては、死なせてしまうかもしれません」
例え別の結末を選ぼうとする代償に、プラタナスの命が含まれているかもしれないとしても。どうしても、望んでしまう。
「ですから、少しでも嫌なら、躊躇いがあるなら、俺にその価値がないなら、ルピナスのことを想うなら、断ってください」
そう、彼は二つを望む。一つ目は今口にした通り、嫌ならば断ってくれと。本当に心からこの誘いに乗ろうと思った時のみ、応えてくれと。
「でも、そうじゃないなら。プラタナス・コルチカム。貴方と、貴方の全力と戦いたい」
二つ目を述べながら、彼は剣先を緑の眼に向ける。耐え難い欲求だった。昔の自分ならば抱かなかったような。まるで、貪欲に強者を後輩の心の熱にあてられたような。
「貴方にとって俺が!プリムラ・カッシニアヌムと同等以上の敵であるのなら、どうか!」
橙色の眼を闘志に燃やす。サルビアとの戦いを乗り越えた彼に、迷いはない。彼は一度は報われたのだ。だからこそ今回の戦い、ザクロは軽口混じりで戦えていた。しかし、真剣でもあったのだ。かける想いもあったのだ。
「俺も命を賭けます。もしも貴方がこの戦いで死んだのなら、アイリス様を助けた後で、同じ道を辿ります」
「……相変わらず、ちゃっかりしているねぇ。助けてからかい?」
「はい」
譲れぬ点は譲らない。アイリスも、己の想いも。ザクロは勝ちたかった。一番になりたかった。去年勝てなかった相手に、全力のプラタナスに勝って一番になりたかった。
「震えているが?」
「武者震いです」
本音を言えば死にたくなどなかったが、プラタナスに死の危険を頼む以上、こちらも負わないわけにはいかない。それは意地だった。
「だから、どうか」
全部全部、意地だった。
「『義枠・三重式』で、俺と」
男は馬鹿だ。彼は馬鹿だ。意地の為に命を張った。本当に欲しい栄光だとかいう、形のないものの為に、たった一つの命を賭けた。
「よいとも。私も君の魔力切れなどという締まりの悪い勝利では、つまらないと思っていたところでねぇ?」
男は馬鹿だ。彼も馬鹿だ。より相応しい勝利を得る為に命を張った。禁止事項を破れば敗北となるのに、それでも勝利を獲りに行った。
「ありがとう、ございます。プラタナス・コルチカム様。貴方に最大の感謝と敬意を」
「ふふっ。こちらこそだとも。かつて敵ですらないと見下したことを撤回し、深く謝罪する。ザクロ・ガルバドル」
ザクロは両手に剣を構え、プラタナスは虚空庫から再び魔法陣を取り出した。




