第39話 負けたくない
努力は必ず報われるわけではない。
そんなの当たり前だ。言われなくたって、みんな薄々分かっていることだ。証明しろと言われたら、二人を例に出そう。
本気で剣の最強を目指し、常人からしたら狂気としか思えないような修練を積んだ少年がいた。
彼に追いつき、越えようと、短い年月ながらも本気で血の滲むような努力を重ねた少年がいた。
彼らは今、剣を交えている。本気でだ。どちらが強いかを確かめる為に、剣を振るっている。この勝負に引き分けはほぼない。いや、仮にもし引き分けになったとしても、それは彼らにとって報われたとは言い難い。
絶対に勝ち負けが出る。全てを出し尽くした上での敗北は、納得できるもしれない。だがそれは納得であって報いではない。ここでの報いとはやはり、勝利ではないのだろうか。そしてその席は、一つしかない。
二人とも並大抵ではない努力をしている。なのに、勝ちは一人で負けは一人。世の中そういうものだ。勝ちがあって負けがあって、報われる努力があって報われない努力がある。
だからきっと努力とは、報われないかもしれないという覚悟を持った上で、すべきことなのだろう。だってそっちの方が気が楽だ。いざという時に心が備えていられる。
だが、それでも、気軽に努力をしてしまうのが人間だ。報われない可能性をあまり考えず、積み重ねてしまうのが人間だ。ある日なんらかの事故にあってしまい、全てが台無しなる可能性も考えず、バカ真面目に努力するのが人間だ。
報われない努力は辛い。報われるとは限らない。ああ、そうだ。そんなこと、誰もが知ってる。分かっている。でも、
(負けたくない)
この努力が報われると思いたくて。いや、自分の力で努力を報いに変えたくて。敗北から逃げ回り、勝利に手を伸ばす。その時の自分の力とは何か。才能に、馬鹿みたいに積み上げた努力を足したものだ。それを相手と競い合って、運を加えることで勝敗が決まる。
縦に斜めに横に、時には軌道を直角に曲げ、時には波長のように一度だけ波打たせて。美しい線が描かれる。サルビア・カランコエが宙に刻んだ、人を傷つける為の一筋。まるで予め決められた線をなぞるかのような、調和した剣。
それが観衆の目に残るのは一瞬のみ。生まれ、瞬きより早く消えていく。そして代わりに、新たな線が無数に生み出され続ける。この勝敗が決まるまでずっと、彼は剣を振るい続ける。
最初の二分のザクロを讃えて以来、サルビアは声は発しても、言語を口にすることはなかった。獰猛な笑みを浮かべ、その双峰を見開き、銀の髪を風圧になびかせ、剣で踊っている。言葉なくともただそれだけで、彼が歓喜の舞台にいることが分かる。喜びに打ち震えていると知れる。
その剣は美しい。洗練されていて、研ぎ澄まされていて、澄んだ水のようである。観衆の中の素人にだって理解できる。その凄まじさと、もう一人との差を。
「うおおおおおおおおおおおおおおっりゃ!」
そう、対するザクロは。彼の剣技も途方も無い高みにある。今の跳躍から浮遊の上段も、並の騎士に受けれるものではない。なのに、どうにもサルビアとの差を感じさせてしまう。一言で表すなら、落ち着きに欠けるのだ。
駆け回り跳ね回り、手から着地して前転して、四つん這いになって。魔法を放って足場を変形させ、壊して作って。肘や膝、時には腹部や背中から氷刃や土剣を生やして。自由奔放、勝手気ままに舞台全部を使い、剣を振るう。
サルビアの方が整って見える。品がある剣に見える。達人であるかのように見える。だが、それがどうした。それは見えるだけでしかない。観衆の目にそう映っているだけでしかない。いや、観衆の眼には、もう一つの事実が映っているはずだ。
右手の横薙ぎを、ザクロは膝を直角に身体を後ろに傾けてかわす。読んでいたのか、サルビアは左手の土剣を鉄剣に換装。そしてそのまま、晒された腹部を狙って、物理判定の剣を突き出す。
ザクロの身体を反ったこの回避方法は、無防備となる一瞬を魔法障壁で凌ぐことを前提としたものだ。それが、崩された。
だが、ザクロは己の中でサルビアを最強の剣士の位置に置いている。最強がこの程度な訳がないと、彼は思っている。強さを信頼している。
故に、止まらなかった。魔法剣を虚空庫にしまい、両手を地につける。同時、両爪先に氷刃を装着。海老反りからバク転に移り、サルビアの突きを順に蹴り上げる。右の氷刃はサルビアが対応した刃先にて斬られたが、それで剣は傾いた。その傾きを狙い、左の氷刃が剣の横を叩いてかち上げる。
後退した先輩と、元の態勢に戻った後輩とが向かい合う。その姿に拍手はない。ないが、見たら分かる。二人の剣は拮抗している。完成されたかのようなサルビアの剣に、ザクロは必死に食らいついている。
例え、サルビアの身体に土は付いておらず、地面に転がることを厭わないザクロの服は汚れきっていても。例えサルビアが汗ひとつかいていない涼しさに対し、ザクロは何度も汗をぬぐっていたとしても。平常なサルビアの呼吸に対し、ザクロの肺は酸素を求めていたとしても、拮抗は拮抗だ。
「ぐ、っうううううううう!」
「…………」
落ち着きがないザクロの剣ではあるが、そこに美しさがないわけではない。感じ入るものがないわけではない。
「ザクロ、様……」
額の汗に泥を貼り付けたその姿は、自分の持つ全てを使って真の天才を変えようとするその戦い方は、何度も剣を折られても心折られず立ち上がり、新しい剣をその手に挑むその心は、決して貶められるものではない。
会場に歓声はない。またもやだ。あまりにも高密度にして高練度な戦いに、観衆が圧倒されている。攻防の中に内包された思考まで理解できるものなんて、ハイドランジアとヤグルマギクの二人しかいない。でも、他の者だってそれくらいは分かる。
剣が二人を表していた。二人の人生と想いを伝えていた。誰も口を挟めないが、誰にだって見ることを許された二人だけの舞台。
観衆の心に、静かな熱気があった。決着を見たい気持ちと、ずっとこのまま水と炎の美しき剣舞を見たい気持ちが同居していた。
サルビアの人生を物語るかのような剣の美しさに、息を呑む者がいた。目と心を奪われる者がいた。いつかあの剣にと、夢想する剣士達がいた。
ザクロの意志と不屈の心を表したかのような戦い方に、つい感情移入してしまう者がいた。応援してしまう者がいた。彼のように諦めに立ち向かってみようかと、勇気の湧いた者がいた。
剣が線になって交わって戦いとなる。込められた様々な想いはぶつかり合い、剣を高めていく。別に急激に成長するわけではない。微々たる変化だ。戦いの中で相手の剣に慣れ、喰らうことでの僅かな成長だ。
共に競い合い喰らい合い、高め合っていく。彼らは好敵手であり、友だった。
両者共に地を蹴り、剣と剣が噛み合う。大抵の場合、押されるのはザクロの剣。それはどうしようもないこと。一振り対一振りなら、どうしてもサルビアに軍配が上がる。
だが、一振り対一振りと複数の動作、あるいは一振り対二振り三振りなら、拮抗する。時にはザクロが勝る。
(悪いが、開き直らせてもらうぜ……)
昔はそのことに悩んだりもした。特に出会った初日、動龍骨に傷をつけるサルビアを見て、深い衝撃に襲われた。自信を無くしかけた。がむしゃらに剣を練習して、あの鋭さを手に入れようともした。でも、叶わなくて、苦しんで、人知れず泣いて、気取られたサザンカやダチュラ達に慰められたりもした。
でも、ルピナスに言われたことが転機となった。彼女曰く、「魔法の話ですが、強い魔法だけが全てではないと教わりました」と。プラタナスがかつて、彼女にかけた言葉だった。
(手数だって真正面から勝負しないように立ち回るのだって、剣技の内だ)
鋭さで勝つことに囚われていた彼にとって、それは天啓だった。焦りと悔しさで視界が狭まっていた。もっと広く見れば、剣術とは多彩なものであるはずなのに。サルビアに出会う前のザクロは、そういう剣を練習していたはずなのに、忘れてしまっていた。
だから、それからは。今は。
魔法の刃を全身至る所、サルビアの剣への最短に創造して手数を増やす。そして、もう一つ。
「む……ははっ!」
やはりか。やはりかと、サルビアの笑みがまた深まる。最初は偶然かと彼は思っていたが、何度も繰り返されることでようやく確信に至れた。
ザクロは剣の腹を狙っている。いや、剣の腹の頻度が一番高いだけであり、正確に言うなら刃以外で剣を阻害できる場所をだ。
真正面から打ち合うのではなく、横から。もしくは一振りを真正面に使い、二振り目を横から。魔法の扱いはザクロの方が上だ。サルビアの動きを読むことさえできれば、差し込むことはできる。
だが、それは至難の技だ。魔法剣を警戒したサルビアが守備的な立ち回りをとっているとはいえ、そこは変わらない。予定調和のような剣技とは極まった技術への褒めの例えでしかなく、実際に彼は状況ごとに適した剣を振るっている。余りにも適し過ぎていて、更に迷いがないからそう例えられているだけなのだ。
それだけの剣筋を予測して、的確に剣の腹を狙う。もしくは二振り目を、あるいは動作を完璧に差し込む。更に魔法剣の操作も加えて行うともなれば。
サルビア・カランコエは真っ先に気付いたが、本人は全く気付いていない。抱いてしまった劣等感が、自己を正しく認識できなくさせている。
ザクロは強い。サルビアに真似できない方向で彼は、サルビアと同格に達しかけている。才能もあったのだろう。だが、それより努力と執念の割合の大きい方向だ。
「よく、ここまで俺の剣を読めるな」
久しぶりに、サルビアは言語を発した。それほどまでに、彼はザクロに驚いていた。彼はザクロを讃えていた。
「初めてだ。祖父ですら、今の俺の剣をここまで読み切れまい」
予測とは、当たっても外れても大きいものだ。特にこれほどの練度同士の勝負、一つの予想外が命取りになる。なのに、ザクロはここまでほとんど読み違えていない。読み違えたとしても、致命的になる前に対応してくる。
「当たり前だろ……!」
それほどまでに、なぜ読めるか。どれだけの努力を積み重ねたことが。サルビアにも分からない。ただザクロがそこまでの域に達したとしか、分からない。ただ漠然と凄まじい努力をしたとしか、分からない。
「何千万回、お前と想像の中で斬り合ったと思っていやがる」
「……それは現実でお願いしたかった」
「そう、言うなよ」
剣を何度も交えながらの会話。ああ、彼もまだ修行が足りない。剣ではない。心のだ。本心であったとしても、今のお願いは少々野暮である。
「お前は俺の憧れの剣士だぞ……俺の中での、最強の剣士だぞ!」
血を吐くような声だった。整った顔に、いつもの笑顔はない。限りなく真剣で、本気で、本心で。
「超えたいって、思ったんだ!」
「……」
故に、それを聞いたサルビアの眼が見開かれる。今までの戦いに愉悦を覚える獣のそれとは違う。意表を突かれた人間のようにだ。
「だったら努力するしか、ないだろ!」
剣の音が鳴る。一呼吸、一言の間に何度も何度もかわされる。互いに今まで積み上げたものだ。それを今、ぶつけ合っている。
「負けたく、ないんだよっ!」
負けたくないが故に努力し、努力したが故に負けたくないと思う。それを繰り返し繰り返し、何度も何度もサルビアの剣を頭の中で思い描いて剣を振って、彼は今ここに辿り着いた。
「勝ちたい、んだよ!」
始めに思い描いたものとは違うものだ。そこでは、笑顔で剣を振っていた。こんなに苦しい顔はしていなかった。真正面から斬り合っていた。剣の鋭さを競い合ったいたはずだった。
でも、想像とは違っていたとしても、想いは変わらない。
「なぁサルビア!お前はどうだ?楽しいか?」
険しい顔でザクロは問う。サルビアは何を抱き、何を想って戦うのかと。
「見て分かってくれ。最高だ」
言葉通りの笑顔でサルビアは答える。楽しくて楽しくて仕方がないと。
「……」
それを聞いたザクロは、悔しさに唇を噛んだ。それを見たサルビアは不思議そうに首を傾げて、剣を振り被っている。そしてまた、言葉なき戦いへと巻き戻る。
分かるまい。この悔しさ、サルビアには分かるまい。ああだが、仕方ない。私は私、あなたはあなた。ザクロはザクロ。サルビアはサルビアだ。個人によって価値観も感覚も全てが違うのだから、分からなくて当然だ。
(俺じゃ、足りないのかよ……!)
しかし、そうであったとしても、この悔しさは当然だ。サルビアはザクロを褒め称えた。認めた。サルビアはザクロに全力の剣を振るっている。だが、足りない。これでは全然足りないのだ。
(お前は、楽しいだけなのかよ……!)
サルビアに負けたくないという気持ちは、勝ちたいという気持ちはないのかと。少なくとも彼の笑顔から、勝敗に関する感情は一切読み取れない。ただただ、勝負を楽しんでいる。ザクロの剣に喜んでいる。
ザクロは人間だ。剣士だ。努力を積み重ね、サルビア・カランコエと今剣を交え、勝ちたいと叫んだ少年だ。対等になりたいと願った彼の友だ。
決して、サルビアに歓喜を与える装置ではない。他のものだって与える人間だ。敗北か勝利かを与える剣士だ。なのに、彼はそうと見ていない。
それが悔しくて悔しくて、距離をとった一瞬、ザクロは俯いた。石の舞台が見えた。ヒビの入った石が見えた。僅かに、滲んだ。
「っ……!」
顔を上げる。前を見据える。口の辺りに力が入って、歯は噛み締められて。その瞳は更に熱を灯していた。
絶対に、届かせてやる。
ザクロは地を蹴った。いつもなら身を屈めて走るところを、浮遊で代用。否、昇華させる。更に低く、地面数cmをすれすれに移動する。最短最速の突きが狙うのは右脚首だ。
だが、サルビアは驚くこともなく、的確に氷のような冷静さで対処する。魔法剣を上から剣で突き、中の鉄剣ごと貫通させて地に縫い付ける。ザクロは即座に手を離し、新たな魔法剣を虚空庫から引き抜いて、今度は上昇。しかと地に脚をつけ、重心が下に傾いたサルビアへと斬りかかる。
右上段から右斬り上げ。繋げて左の魔法剣で横薙ぎ、返して逆払い。態勢の崩れたサルビアへと送る、四連刃。だが、
「くっ……!」
全て、防がれた。いや、技の途中で断ち切られなかったことから、彼がそれだけ崩れていたことは分かる。でも逆に言えば、それだけ崩れていても、防ぐことはできるのだ。
やはり真っ当な剣では勝てない。叶わない。ザクロは落ち込み、また俯きそうになるが、この距離でそれは許されない。砕けそうになるまで歯を噛み締めて、次へ。
そして次もダメで、その次もダメで。でも、めげてももう一回を何度でも何度でも、決まるまで繰り返す。もう一回を続ける為に、何回だって防ぎ続ける。
そして。
地を踏みしめる。蹴り出すためだけではなく、発動する為にも。
「なるほど」
サルビアを囲うように、内と外に四本ずつの計八本、大きな土の柱を二重発動で最速創成。剣を振るおうとした彼の右手が、魔法障壁によって強制的に停止される。
「こうか」
その隙にザクロは接近。しかしサルビアは、右手の肘に土刃を創成。それはまるで、ザクロのようで。だが、技術はサルビアのもの。いともたやすく、柱は切断される。
「……!」
悔しいとは思った。だが、もう慣れかけた。そんな感情では止まっていられない。むしろ力に変えろと、もう一度大地を蹴って、飛んだ。
「む?」
それはサルビアにとって、想定外だったのだろう。彼の迎撃の斬り払いの範囲外に、ザクロは着地した。正確に言うのなら、外の柱の内の一本。そして、蹴る。移動方向が変わった。サルビアの方へと、橙色の矢印は向いた。
「ああああああああああああああ!」
ザクロは内の柱を身体を傾けることでかわし、魔法剣を振り被る。最初の魔法剣以来、最高の接近。虚を突き工夫をし、辿り着いた距離。
「……」
だが、サルビアには左手があった。その手にあるのは土剣。障壁は貫けぬが、魔法剣は破壊できる。内の柱はもう見た。彼に二度目の不覚はない。
サルビアの斬り上げが、ザクロの突きの軌道と重なった。いや、重なっていた、が正しい。
「っ!?」
息を呑む音。サルビアによるものだ。彼の眼に映るザクロは、止まっていた。
地に足をつけたままの、浮遊魔法。本来浮くはずの為のそれを、向かい風のように使用した。前に行こうとする身体に、後ろへ向かおうとする浮遊をぶつけて、自ら急停止したのだ。
剣ももちろん止まったまま。最上段の振り被り。そして、サルビアは剣を振り切ったまま。
「しっ……!」
短く小さな息を吐く音と共にザクロが一歩踏み出し、剣が振り下ろされる。完全な形。綺麗な剣筋。
(いやだ)
サルビアには分かる。この一振りの美しさが。この一振りが、いかに致命的であるか。
(負けたくない)
それはザクロの心の声ではない。サルビアの心にあったものだ。今までずっと気が付かなかった感情だった。
(勝ちたい)
顔が変わる。笑みが消え、研ぎ澄まされる。ここに来てようやく、彼も至った。
(ああ、そうか)
サルビアの剣は日本の刀ではない。剣だ。反対側にも、刃はある。故に彼は、斬り上げの軌道を逆再生した。咄嗟に、限界を少し超えるほどの強化で後押しして、無理矢理ザクロの剣の軌道に再度重ね合わせた。
「ちぃ!」
これは決まったと、ザクロは思った。だが、決まらなかった。魔法剣は鉄剣にて断たれた。
「……」
一度後退し、これでも叶わないのかと。そう思ったのは一瞬で、すぐに次と前を見て、見た。
「すまない先輩。先ほどの言葉に、間違いがあった」
鋭い、剣のような顔立ちだった。笑みは僅かに残っている。だが、今までとはまるで違う。
「楽しいだけじゃない。俺はどうやら、先輩に負けたくないらしい」
聞いた。歓喜は滲んでいる。だが、それだけではない。もっと違う感情が入り混じっている。
「俺は、俺も勝ちたい」
勝負の終わり、自らの敗北を悟るほどの剣に触れ、ようやく気付いた己が内に眠る想い。ザクロが抱き、彼をここまで連れてきた強く、弱い心。それが今、サルビアに。
「……そうか……そうか」
剣を一度納め、噛みしめるように二度。ザクロは呟く。やっとだ。やっと、見てもらえた。対等な敵として。敗北を与える相手として。やっと、剣士として見てもらえた。
もしもこの戦いにザクロが負けたのなら、凹み、落ち込み、一週間くらいは部屋から出てこれなくなるだろう。その確信が、彼にはあった。
だが、今は。報われたわけじゃないけれど、サルビアに敵として認められたこの事実は、救いだった。
きっと一週間後、部屋から出てきた時に、少しだけ胸を張れているくらいには。
「ははっ!」
ザクロは、笑みを浮かべた。戦いの最中であるのに、負けたくない気持ちも勝ちたい気持ちも、微塵も薄まってなどいないのに、笑みを。
努力の果てに、笑顔を。




