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幻想現実世界の勇者  作者: ペサ
外伝 現実幻想世界の剣士
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第21話 感謝の花





「ザクロ。無理に来なくてもイイ。知るのは辛いだろウ?」


「いや。見させて欲しい。知るべきだと思うんだ」


「……そうカ。ナラ、行こウ」


 サルビア達が目を覚まして翌日。彼らは王と女王に連れられ、小鬼の国を探索していた。


「すごいな。地下にこんな空洞があって」


 王宮の外に出て初めて見えた、この国の全容。天の壁は高く、横の壁までは広く。まさに大空洞と呼ぶに相応しい場所であり。


「街があるなんて」


 小鬼の国と呼ぶに相応しい、街がある場所でもあった。麻袋を運んでいる小鬼。子供を連れて歩く少し大きな小鬼。農作業を終えたのか、くわを担いでいる泥だらけの小鬼。他にも様々な在り方の小鬼が、数えるのが億劫になるほど行き交っていた。


「頭では分かっているんだが、こんだけの小鬼に囲まれて襲われないってのは変な気分だな」


 当然、見知らぬ人間であるサルビアとザクロは注目の的。更に王族が共にいるとなれば、道行く小鬼は皆振り返って四人を見る。


「敵意を向ける奴もいるが、まぁ襲ってはこないな」


 彼らの視線は様々だった。クロッカスとスミラには、多くが敬意を。客人二人には珍しがるもの、怯えるもの、感謝するようなもの、嗤うもの、憎むもの。いくつかの視線は背筋がピリピリとするものだったが、唾液のおかげか、サルビア達が襲われることはなかった。


「あそこは服屋さんね。小鬼にも流行があるの。最近のメス達は、背中を大胆に見せるのがいいみたい」


 緊張しつつも探索は進み、多くの施設を紹介された。建物の多くは茶色い焼成煉瓦製で、木製なのは扉などの一部分だけ。昨日見た煉瓦の柵の時点で予想はしていたものの、ここの小鬼達は焼成煉瓦を大量生産する技術を持っているらしい。


「……流行まであるのか?」


「もうなんというか……流行に敏感な時点でサルビアより人間してる。いや、この言い方はあんまり良くないですね」


 そしてその建物の意味に人間の二人は驚き、驚き、驚いた。小鬼の国には病院がある。小鬼の国には鍛冶場がある。小鬼の国には家がある。遊具のある公園も、訓練場も、お風呂も、孤児院もある。


「ハハッ……別にイイ。お前らに比べれバ、まだまだなのは事実ダ」


「いや、それでも」


 人間のものに比べれば、その大半が劣ってはいる。しかし、それでも小鬼達は生きている。生活している。治療し、打ち、住み、遊び、鍛え、汚れを落とし、血の繋がらない子供を育てている。奪うことしかできないと思われていた、あの小鬼がだ。魔物の研究者にでも見せようものなら、ショック死するのではなかろうか。


「表面上はそう見えるだけ。小鬼にはまだ、通貨の仕組みが難しくてね」


「この国は全部、配給制ダ」


 とはいえ、人間界と全てが同じというわけではない。通貨は存在せず、物資や食料は配給制。先ほどあった服屋も配給制で、期間ごとにもらえる枚数や質が決まっているらしい。


「あれは?」


 服屋を外から眺めて角を曲がり、巨大な食堂を通り過ぎたその時。サルビアが指をさしたのは壊れ、砕け散った元建物と思しき煉瓦の山。


「動龍骨が暴れた痕だナ。前は確か、食事の配給場所だったはズ」


「……これはひどい」


 動龍骨が通った道は、実に分かりやすかった。なにせ瓦礫の山は一つではなく、無数に連なっているのだから。そしてそれは、とてつもなく巨大な破壊の痕だったのだから。


「ええ。酷かったわ。でも、必ず復興してみせる」


「そしたラ、共存の為の交渉をしよウ」


 その破壊の痕の上には幾人もの小鬼が立ち、瓦礫を退かし、新しい煉瓦を用い、再生させようと努力していた。小さくとも頑張る緑の身体に、スミラは拳を強く握り締める。クロッカスはその先に、人と小鬼が共にある姿を見るのだ。


「……この国の小鬼は、人を襲わないんだよな?」


「アア。少なくとモ、こちらから手を出さないようには言ってあル」


「分かった。じゃ、手伝わせてくれ」


 理不尽な暴力の爪痕と復興に向けて戦う小鬼を見たザクロは、一つの確認の後、手伝うことを志願する。


「…………構わないガ、いいのカ?」


「襲ってこない小鬼なら、手伝っても大丈夫だと思う」


 それを聞いたクロッカスはたっぷり数秒間、固まっていた。ようやく動き出した彼の人間の言葉は、今まで以上にぎこちなくて下手くそで震えていて。


「サルビア、やるか?」


「助けてもらった恩もある。瓦礫を回収すればいいのだな?」


 肯定と受け取ったザクロとサルビアは意気揚々と腕をまくり、現場へと飛び込んだ。その姿をクロッカスは茫然と眺めていて、スミラはそんな彼にそっと寄り添って、


「あなた。客人に手伝わせるだけで、私達は見てるだけ?」


「イ、イヤ。すまなイ」


「責めてないわ!ほら、早く!折角の夢のような光景なんだから、私達も行こ!」


 クロッカスの手を引き、彼が望んだ景色へと誘った。








 こうして客人の人間だけではなく、小鬼の王と女王まで参加することになった復興作業。小鬼以上の力と魔法を扱える人間が加わったことで効率が上がると思いきや、最初はそう上手くはいかなかった。


 まず、王族の参加に小鬼達が浮き足立ってしまったのが一つ目。多くの小鬼が作業を中断し、一体なぜと集まってきてしまったのだ。ある種正しい反応ではあるものの、本末転倒である。


 理由を説明して作業に戻したところで二つ目。人と小鬼の意思疎通の難しさが立ちはだかった。まず、ザクロとサルビアは小鬼語が分からない。小鬼側も人間の言葉がほとんど分からない。たまに簡単な数個程度のみ解する個体もいるものの、それだけでは足りなかった。


 しかし不思議なことに、作業効率は徐々に回復し、元の値より上昇し始める。最初こそ互いの意思が分からず困惑したものの、時間を重ねることで慣れ始めたのだ。


「これこっち?」


「ギッ!」


 瓦礫を運ぶ方角を指で示し、その返事は首を振る方向で。ジェスチャーと声のトーンによる、言葉に頼らない伝え方を、彼らは少しずつ共有していった。


「手伝う」


「ギギッ!」


 小鬼と心を通わせるのは、実に楽しい経験だった。重そうによちよちと運んでいる小鬼を手伝えば、彼らは嬉しそうな顔をするのだ。感謝のように聞こえる声で鳴くのだ。意思疎通ができたならば、彼らもそれを喜ぶのだ。


「んじゃ、こっちね」


「ギッ!ギッギ。ギギ!」


「あれ?違う……あ、扉の部分は別の場所なのね」


「ギィ〜」


 一時間も経つころには、ほぼ完璧に意思の疎通ができるようになっていた。作業は捗り、瓦礫の山はみるみる減っていく。特にザクロの魔法の貢献は凄まじく、それを見たクロッカスは小鬼百匹分の働きだと褒め称えるほどだった。


「ふぅ〜いい汗かいた」


「たまにはこういうのも、悪くない」


 休憩もご飯も、瓦礫の椅子に座って一緒にとった。小鬼と同じように列に並び、同じ料理をよそってもらった。さすがに人間に食べれるものか確認し、量も特盛にしてもらったが。


「ん?くれるのか?」


「ギッ!」


 二人が料理を食べていると、何人かの小鬼が寄ってきた。最初は物珍らしがられているのかと思いきや、彼らはサルビアのお椀に、自らの椀から肉を移し替えたのだ。


「そうか。ありがとう」


「お?俺にもくれるのか……?野菜?」


「ギィ」


 目尻を下げてお礼を述べるサルビアの横、ザクロの椀にも放り込まれる。しかしそれは肉ではなく、緑色の知らない野菜。


「お前、野菜好きなの?」


「……ギ」


 てっきりこの小鬼は野菜が好物で、自分の好きなものをくれたのかとザクロは推測したのだが。目を逸らしたり、やたら歯切れの悪い返事だったり、どうにも怪しい。


「お前、嫌いなもん押し付けてない?」


「ギギィ〜〜!」


「あっ、お前!」


 眉をひそめて問い詰めれば、小鬼はそんなことないよと笑うように首を振り、ぴゅーっと走って瓦礫の陰に隠れてしまった。


「コラ。客人だゾ。好き嫌いは構わんガ」


「いやいや、好き嫌いもダメでしょ!まぁどうしても嫌い!っていうならしょうがないけど……」


「ギ!?」


 しかし、後ろから忍び寄って来た呆気なく王に捕獲され、女王に諭され、野菜嫌いの小鬼は目が飛び出させる。


「いや、大丈夫。怒ってないし、食べますよ」


「本当カ?すまんナ」


 とはいえ、嫌いなものを食べたくない気持ちはザクロにも分かるもの。構わないと口に運び、しゃきしゃきとした食感を楽しんでいる彼に、クロッカスは肩をすくめる。


「本当にごめんなさい。ほら、お礼を言って!」


「ギッ!」


「あはは……まぁ、今日だけなんで」


 食べてくれたザクロに感謝を述べる小鬼と、そう誘導したスミラは、まるで子供と先生のようで。悪気ない小鬼の満面の笑みと困ったようなスミラに、少年達は苦笑いで応えた。


「今日だけって、もう出て行くの?」


「もうしばらくいてモ、いいんだゾ?」


「いや、もう身体は大丈夫だ」


 引き止められるも、それには従えないと二人は首を振る。軽く働いてみたが、特に身体に異常はなく、もう充分に回復したとみていいだろう。


「みんな心配してるだろうし、早く戻らないといけないんです。名残惜しいですけど」


「学校もあるしな」


 それに、もしかしたらアイリスやマリーに村人達がまだ捜索を続けているかもしれないし、授業も大分遅れてしまっている。居心地はいいが、ここに留まる理由はもうないのだ。


「明日の朝には発とうと思います」


「世話になった。命を助けてもらったこと、忘れない」


 助けてもらったこと、数日間滞在させてもらったこと。二人はその他多くの様々な恩に深く頭を下げ、感謝と別れを告げる。


「こちらこそダ。礼を言わせてくレ」


「私達の国を守ってくれた上に小鬼達と仲良くしてくれて、本当にありがとう!」


 同じように小鬼の王と女王も、守ってもらったことや滞在中の彼らの態度に関して礼を述べた。









 その後も復興作業を続けたり、様々な施設を案内してもらって、迎えたその夜。二人は案内された寝室で眠ることなく、目を開いたまま横になっていた。


 決して、寝心地が悪くて眠れないわけではない。王宮というだけあって、むしろベッドはふかふかで心地よい。その上スミラによって、部屋の内装も人間用に整えられている。さながら高級旅館のような、素晴らしい寝室なのだ。


「……」


「……」


 だというのになぜ、会話もなく、眠ることもしないのか。それは、彼らが考えているからである。


 内容は当然、数日前に助けられ、二日間ほど交流した小鬼達について。彼らと過ごし、彼らの文化を知り、優しさをもらい、個性に触れ、同じ飯を食べた。


「なぁサルビア」


「どうした先輩」


「……もしさ。街に戻って依頼を受けて、ゴブリンと出会ったらどうするよ」


 今までに斬った小鬼については、いくら悩もうが戻ることはなく、後悔することしかできない。サルビアとザクロを悩ましているのは、今後のことだ。


 クロッカスもスミラも、このことについては何も言わなかった。否、言えなかったのだろう。「殺さないでくれ」と小鬼の王族が思うのは、至極真っ当なことである。だが、それを人間に強いることは余りにも難しい。


 逆もまた然り。「殺してもよい」など、王族として絶対に言ってはならぬことであるし、何より彼ら自身が許せないだろう。故に、彼らは一切この話題に触れなかった。


「……」


「……」


 誰かの言葉に従うことも、責任をなすりつけることもできない。サルビア自身が、ザクロ自身が、選ばねばならぬことなのだ。


「……ライソニアの小鬼だと確認できない限り、殺すしかあるまい」


「やっぱり、そうするしかねぇか」


 しばしの沈黙と迷いの末、互いに導き出した結論は、結果的にこれまでとは変わらぬ殺害。なぜ、これまでとは変わらないか。それはライソニア以外の小鬼は依然として人類の敵であり、ライソニアの小鬼かどうか判断する方法を、サルビア達が持たないからである。


 人に小鬼の言葉は分からず、小鬼に人の言葉は分からない。昨日今日のような唾液付きならともかく、平常時に明確な意思疎通を図るのは不可能に近いだろう。


「自分の心が傷つくのが嫌だからって、小鬼を見逃すわけにはいけねぇんだよなぁ」


 できることなら、殺したくはないと思う。しかし、殺さなければ、見逃せば、他の誰かが襲われ、被害にあうかもしれない。ならば、殺すしかない。


「……早く、殺さなくてもいい日が来るといいな」


「ああ」


 殺すしかないのだ。小鬼との共存が叶う、その日までは。


 受け入れ難い答えを抱え、二人は目を瞑る。今宵の眠りまでの道のりは、実に長くなりそうだった。







 やっと眠りに落ちれたと思ったのに、すぐに朝が来てしまった。軽く身支度を整え、王宮を出て地上への出口へと向かう。


「む?見送りか……ありがとう」


 たまたま通り道だった昨日の復興現場を訪れたその時、数匹の小鬼が駆け寄ってきた。どうやら見送りのつもりらしく、笑顔で手を振る者や、


「え?これくれんの?ありがとな!」


 今朝摘んできたと思われる花を、サルビアとザクロに手渡す者もいた。人間の街の店で人気のあるような花ではなく、その辺にある素朴なものだ。しかし、感謝の込められた大切な花でもあった。


「大事にしよう」


 故に失くさないように、枯れないようにしようと、二人は虚空庫へとその花をしまい込む。そして手を振り返し、花を受け取る様子を眺めていた夫婦の後ろを辿る。


 坂道を登り階段を登り、上へ上へ。小鬼の国から遠ざかるほど壁も天井と狭まっていき、ついには洞窟と呼ぶべき構造へと姿を変える。それもただの洞窟ではなく、何通りもの別れ道に何度も出くわす、複雑な迷路のような造りのものだ。


「これは、正しい案内がなければ道に迷うな」


「唾の目印があるのだガ、人間には分からないカ」


 それにそもそもの道も狭く、土魔法を使わねば人間には通れない箇所も多い。人間にライソニアが見つからない理由を実感しつつ、案内に従って進み続け、


「デハ、達者でナ」


「お元気でー!死なないでねー!また来てねー!」


「そっちこそ!夢叶う日まで、死んじゃダメですからね!」


「ああ、またいつか」


 ようやく辿り着いた光さす出口にて、王と女王や数匹の小鬼に見送られ、二人は帰路についた。次のいつかの時には、小鬼と人の共存が叶っていることを願いながら。


 守り守られ、助け助けられ。始まりは偶然だったものの、続いたのは互いの意思のおかげ。人と小鬼の共存の可能性を示した数日間は、こうして終わりを迎えた。










 そしてまた、いつも通りの日常が始まるのだ。


「坊っちゃまあああああああああああ!」


「待てベロニカ。飛びつくな」


 グラジオラス家の騎士に用があるザクロと別れ、入ったカランコエ家の天幕の中、とりあえず事後処理その一。数日ぶりのサルビアの姿を見るなり、涙と鼻水を垂らしながら飛び込んできたベロニカへの対処である。


 サルビアが消息不明となった報告を聞いた彼は、カエノメレスに掛け合い、すぐさま捜索部隊を編成。サシュルの村にまで来訪し、この近辺の捜索の指揮を執っていたのだ。


「この数日間、どこにおられたのですか!一体何をしておられたのですか!」


「報告は届いているだろう。動龍骨との戦いで疲弊し、手頃な洞窟で身体を休めていたと」


 いなくなったのは数日前、ライソニアを出たのは今朝。近くを捜索中だった騎士に保護されたのは数時間前。保護の際、予め用意しておいた言い訳を報告したので、それは既にベロニカに伝わっているはずなのだが、


「疲弊!?洞窟!?サルビア様とザクロ様がそこまで追い詰められるとは、貴方は五体満足ですか!?」


「見れば分かるだろう。満足している」


 消息不明になったことへの怒りや不安に心配や焦り、更には見つかったことの安堵感によって、物の見事にベロニカは錯乱していた。ついには、手足の本数すら数えられないほどに。


「とにもかくにも、無事で良かったです……カエノメレス様と奥様も、ようやく安心できるでしょう。あ、申し訳ありません。お二人はご多忙で……」


 ベロニカは胸を何度も撫で下ろす中で、サルビアの両親について触れてしまった。途中で気がついたのか「はっ」と口を抑え、ここにはいない二人が決して心配していなかったわけではないことを、慌てて伝えようとする。


「いや、いい。むしろ、こちらこそすまない。みんなや両親には迷惑をかけた」


「……坊っちゃま?」


 しかし、その事は分かっていると。むしろ謝らなければならないのはこっちだと。捜索し、心配してくれていた者達に、サルビアは頭を下げる。深く沈んだ頭と聞こえた言葉に、ベロニカや騎士達は大きく目を見開いて、少年の姿を何度も見直す。


「あの、失礼ですが別人ですか?」


「かもしれないな。ちなみに祖父は?心配はしていないだろうが、怒ってはいなかったか?誰か、斬り殺したりは」


 おずおずと告げられた遠慮ない評価に、サルビアは肩をすくめて苦笑。そして、心配していた者の中に唯一なかった名前の状態を訪ねる。手塩にかけて育てた後継が大して名誉にもならない戦死をしたとなれば、あの男は何をしでかすか分かったものではない。


「いえ、今のところは。どうやら、龍の骨が相手だったのが効いたようでして」


「そうか。よかった」


 だが、今回に限っては杞憂だったらしい。ハイドランジアでさえ斬れるか怪しい龍骨を三層斬ったことが、高く評価されたのだろう。孫の命を奪われた怒りよりも、孫の剣の腕の成長を喜ぶ祖父。相変わらずの異常性である。


「失礼」


 と、その時。向こうの話は終わったのか、カランコエ家の天幕の中へ、ザクロが踏み入ってきた。


「ああ、ベロニカさん。サルビアのこと、巻き込んじまって申し訳ないってのと、捜索してくれてありがとう」


「……まぁ、色々と言いたいことはありますが、坊っちゃまも無事でしたし、村を守る為ですし。兎にも角にも、貴方も無事で良かったです」


 開口一番、ザクロは謝罪し、腰を曲げて感謝を述べる。それに対し、ベロニカは腕を組んで眉をひそめるも、仕方がないことだったと許し、彼の無事を喜んだ。


「……本当にありがとう、ございます」


「いえいえ。さて坊っちゃま。どうしますか?街に戻られますか?それとも本家の方に顔を出しますか?」


「ああ、待ってほしい。そのことで少しお話があるというか」


 改めて思い知らされた大人の対応に、ザクロは再び頭を下げる。しかし、話が今後の行動へと移り変立った途端に彼は元の姿勢に戻り、カランコエ家に介入。


「俺は今から村のみんなに顔を見せて、グラジオラス邸に向かうつもりだ。依頼の仕上げがある」


「一緒に行こうと?」


「まぁ、そういうことだ。無理そうなら構わねぇ。俺一人でもまぁ、なんとかなる」


 彼の誘いは、村人への顔見せとグラジオラス邸のアイリスの元への訪問。一刻も早く元気な姿を見せて安心させるのも理由の一つだろうが、本命はおそらく後者の仕上げ。


「ベロニカ。すまないが、俺はまだ依頼中だ。だから」


 元はと言えば、アイリスの護衛から始まった。それがまだ続いているのならば、仕上げの段階だというのならば、サルビアは行きたいと述べる。


「聞かせていただけますか?そこまで急を要する依頼の仕上げとは?許可を出すかは、その内容次第です」


 とはいえ本来、まず顔を見せるべきは心配してくれた両親や家来達。学校も遅れてしまっているというのだ。それらを覆すほどの理由があればと、片目を瞑ったベロニカはその仕上げの意味を問う。


「最後の作戦です。これで、アイリスへの暗殺に終止符が打てたらと思います」


 ザクロは話し始める。アイリスの護衛としての、そして彼女の願いを叶える為の、最後の仕上げの中身について。




「ようこそおいでくださいました。サルビア様、ザクロ様」


 二日後。サルビアとザクロは、グラジオラス家の門の前に立っていた。


「段取りはいいなサルビア?」


「もちろん。俺としても、願ったり叶ったりだ」


 鳥籠に閉じ込められ、命を狙われている少女を救うその為に。


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