第18話 もう一度
「考えてはいたが、厳しいな」
三層目の可能性は、頭の中にあった。かといって、二人は驚かなかったわけでも、一瞬目の前が真っ暗にならなかったわけでもない。
「まぁな」
既に手札はほぼ尽きている。限界まで効率良く使ったとしても、三層目を破れるかは分からない。分かるのは、もし四層目があったら確実に負けることだけ。
「だが、退けない理由がある」
でも、やるしかないなら、やるだけだ。この場で倒さねば後に災厄となるのなら、今ここで倒すまでだ。
「なら、斬れるまで斬るだけだ」
サルビアとザクロは宣言し、肩を並べて巨体へと向かう。しかし、負けれないのは動龍骨も同じ。脚の役割である二本を残し、腕を十本同時に天へと掲げる。
「散るぞっ!」
「了解」
二手に別れ、走る軌道を変更。最短の一直線から、不規則で狙いを定めさせないように。このまま照準を合わせようとしても時間の無駄だと、動龍骨も察したのだろう。変更から一秒と経たない内に、一斉に腕が振り下ろされた。
白き腕が高速で移動し、空中に軌跡を残す。同時と言ってよいほどの直後、衝撃が大地を走り、揺さぶり、辺り一面に亀裂が広がった。龍の頭骨の腕の箇所に至っては、小さなクレーターができている。
「無事か?」
「もちろんだ」
だが、直撃はしていなかった。飛び交う破片に肌を切ろうとも、二人は腕の範囲から見事に逃れていた。
ここまでは互いにとって想定内。二人は躱すように動いたし、一体は当たらないと分かっていて振り下ろした。ここからが、本当の駆け引きの領域。
「来るぞ」
間髪入れず、動龍骨が次の手を打った。二本の脚を捻って溜めて、解放。十本の腕を、身体ごとぶん回したのだ。各一本一本に高さを割り当てることで、跳躍では躱せない死の円柱を描く。
安全な場所は円柱の中、つまり骨鎧の真下の無風地帯だと、二人は瞬き未満の時間にて判断。最大の強化で最短の距離を駆け抜けようとするが、
「待てサルビア!」
「え?」
口内の陣を吐き出してしまう程の焦りの声が、サルビアを呼び止める。ザクロに対する信頼が生み出した一瞬の拮抗が、幸運にも彼の脚を重くした。
「くっ……」
しかし、その幸運は小さ過ぎて、助かるには足りない。故に、誰かが後押しをせねばならない。
宙に浮いた陣を口に咥え直しながら、ザクロが左手の魔法陣で二重発動。形なんて適当で、必要最低限の太さと硬さしかない、最長にして最速の割り振りでの土剣だ。
「ふぁにあえ……!」
刃らしい刃もない、剣失格のような剣だった。でも、それでいい。これは斬る為ではなく、押し出す為の剣なのだから。
「がほっ!?」
「ぐう……!」
ザクロの左手を起点に、爆発的に土の棒が延長。大衝撃が世界を揺るがす直前で、二人の腹を荒々しく範囲の外へと弾き飛ばし、潰されてその役目を終えた。
「げほっ!げほっ!」
吹っ飛んで地面に叩きつけられ、肺から出た酸素を大気から奪い返す最中、サルビアが見たのは己が逃れたその範囲。上空から落下した骨鎧によって、今までで一番大きな振動とクレーターを生み出した攻撃の範囲である。
「こいつ……」
攻撃の理屈は簡単だ。回転する際、動龍骨が止まらなかっただけだ。残り二本の脚がねじれていくのを放置し続け、自らバランスを崩して倒れ込むことで、骨鎧でサルビアとザクロを押し潰そうとした。 失敗したとはいえ現に今、二人の目の前に骨鎧が鎮座している。
「殺意すごいなぁおい」
安全地帯を偽装して誘い込み、骨鎧まで使って圧殺する。叩きつけや薙ぎ払いだけの今までとは、一線を画す攻撃方法だった。
「ああ。だが、利用させてもらっ!?」
今、骨鎧は地に落ちている。立ち上がる前に一太刀入れようと、息を整えたサルビアが脚を動かした瞬間、動龍骨が動いた。
「なるほど」
迎撃ももちろんあった。が、それよりも驚いたのは、今まで刻んだ傷跡を覆う骨の腕。これでは、骨鎧を斬ることができない。
「これはもしや、当たりか」
まただ。また、今までとは違う行動に、二人は確信する。三層目が、最後の鎧だと。それさえ破れば、あとは核を穿つだけだと。
「気合い入れていくぜ。サルビア」
ついに二人を動龍骨が脅威と認め、本気で殺しにきたと。今までの二層より比べ物にならない、戦いになると。
その確信は外れなかった。戦いは熾烈を極め、骨鎧に傷をつけるには、今まで以上の剣と魔力と血を求められた。
「15秒後!」
意思伝達の為、口の強化の陣を左手に移動させたザクロが叫ぶ。空中にて身を捩って白の巨腕を躱し、地面に繋がれた両手の鎖を用いて移動しながらだ。
「了解した」
彼が伝えたかったのは、傷を覆う骨腕を引き剥がす時間。それを聞いたサルビアは1秒で状況を把握し、2秒で戦況を予測。更に2秒で頭で動きを組み立て、残り時間で実行に移す。
「残り10秒!」
「今回は間に合う」
先程より激しくなった白の腕を躱し、足場にし、ザクロの剣を踏んで駆け上がって骨鎧の上へ。この時点で11秒が経過。3秒で近づいて振りかぶり、
「いけぇ!」
ザクロが発動させた二重発動の土鎖が、骨腕を引き剥がし、複数の腕を縛りあげる。時間ぴったりの先輩の働きに報いるよう、サルビアは露出した傷口めがけ、掲げた剣を振り下ろした。
「しっ……!」
一撃では勿体無い。故に、サルビアは一度の引き剥がしの間に、幾筋もの剣線を描き続ける。障壁なしで無数の腕に囲まれるという、命綱無しの綱渡りを、何度も何度も繰り返す。
「サルビア!」
「分かった」
タイムリミットは、ザクロの声がするまで。聞こえた瞬間、サルビアは即座に攻撃を中止。解放された腕に押し潰されないように撤退する。
「きついなぁまじで!」
ザクロが事前に指定した秒数に骨腕を引き剥がし、そこをサルビアが斬るこれは、実に手間のかかる戦い方だ。だが、現状これしか方法が見つからないのだから仕方がない。
ザクロに余裕がある状況でなければ、二重発動を割くことができない。その為、必ず彼から指定しなくてはならない。もちろん、指定した時間に必ずサルビアが傷の前に立てるわけも、必ずザクロが引き剥がせるわけもなく、成功率は半々といったところ。
その上、持続時間もひどく短い。魔力的な限界として、最長でも10秒程度だ。
「ザクロ先輩、これ」
「ありがと。恩に着るぜ」
おまけに、一回ごとに二枚の魔法陣の魔力を全て食い潰すというのだから、凄まじい勢いでストックが減っていく。サルビアの虚空庫の分もほぼ全て譲渡したが、それでも足りるかと問われれば危ういところだった。
「へへっ。本当、ルピナスとアイリスに感謝だ」
二人にもらった分が、生死を分けるかもしれない程に。魔法陣を譲ってくれた彼女達の方角には、もう足を向けて寝ることができないだろう。
「つっても、問題はそこだけじゃねえ」
しかし魔法陣が足りたとしても、起動用の魔力がなければ意味がない。既にザクロの魔力は5%を切っている。陣の在庫や自然回復の分を照らし合わせても、ちょうど使い切るか、少し足らないくらいの量だ。
「サルビア!今どんくらいだ!」
「半っ分!」
二人の間を裂く振り下ろし。右に回避したサルビアの声に、ザクロは苦笑する。避けて引き剥がして削ってを地道に繰り返して、ようやく半分。そこに至るまでに、どれだけの魔力を使ってきたのだろうか。
「……きっついなぁ」
一滴、一枚たりとも無駄にはできない。無駄にしなくとも、足りないくらいだ。顎にまで垂れた汗を拭い、ザクロは未だ崩れぬ巨体を恨めしげに睨む。
「ああ、きついな!もう剣がない!」
一方、サルビアはまだ魔力には余裕があった。余裕がなかったのは剣の本数。マネッチアから譲渡された剣全てが、使い物にならなくなっていた。
代わりに彼が振るっているのは、己で作成した魔法剣。マネッチアが打った剣より質は大きく落ちるが、それでもなんとか傷をつけることはできた。
「マネッチアの爺さんに、謝らねえとな……12秒後!」
「……土下座で済めば、いいんだがなっ!」
「じゃあ土下座する為に、がんばりますか!」
この戦場に横たわる役割を終えた全ての剣と、その作成者であるマネッチアへ感謝と謝罪の想いを馳せ、剣を振るう。そして、謝る為に生きて帰らねばと。その為に守らねばと、二人は新たな決意を胸に抱き、
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
20分後、彼らは窮地に追いやられていた。別に何も間違えてはいない。できる限りの完璧を体現し続けた。最善であり続けた。だが、例えどれだけ最高で完璧で最善であっても、超えられない壁は存在する。
「くそがぁ……」
肩で息を吐き、バランスを崩して倒れかけ、剣にもたれかかってなんとか前を向くザクロ。その顔は蒼白で、眼はどこか虚。表情も時々苦痛に歪んでおり、明らかに正常ではない。
「足んねえ、なぁ……!」
原因は魔力切れによる不調と、蓄積した大地の破片による損傷。もはや残量は1%未満で、陣起動用の魔力の確保すら危うい段階である。そんな状態なのだから、当然治癒魔法などに割ける魔力はなく、ひたすら痛みと出血に耐えた結果がこのザマだった。
「死に、たくねぇ……」
でも、それでも。歪み、ねじ曲がり、明滅する視界の中、ザクロ・ガルバドルは剣を作り、剣にて人を守ろうとする。そこに先ほどまでの精密性はない。だが、意識ある限り戦おうと必死になって腕を動かし、頭にて考える。
「死なせたくねぇ」
繋ぐ。サルビアの為の、剣の道を。経験を掘り起こし、感覚に貼り付けて、想像で描かれた軌道をなぞる。
「負けたくねぇ……!」
必死だった。どこまでもどこまでも、彼は必死だった。ズレていく現実と理想を、なんとか近づけようと歯を食いしばる。
「お前は何も悪くないよ。肉食の生物が、生きようとしているだけだ」
思考を全て戦闘に使われている。故に彼の口から出た言葉は、心から自然に湧き出た想い。常時ならば言うか言わまいかのフィルターにかけ、ちゃんとした言葉遣いに精錬してから口に出すはずだった、その原型。
「でも、知ってるか?お前が食おうとしている奴らのこと」
どこまでも純粋な想いを、動龍骨へと語りかける。それは分かるはずもなく、知るはずもない自分勝手な他人語り。でも、問わずにはいられず、言わずにはいられなかった想い。
「頑固で口うるさいマネッチアの爺さんだが、根はいい人ってか、お人好しなんだぜ?駆け出しのころ、格安で何度も剣をみてもらったよ」
届くわけがない。これを聞いたところで、動龍骨が捕食を躊躇うわけがない。だからこれは、確認なのだ。
「門番のハッシュはな?村を守りたいんで、戦い方を教えてくださいって、年下の俺に頭を下げに来たんだ」
負けられない訳。ここにいる意味。剣を振るう理由。そういったものを、もう一度思い出している。限界を迎えかけている己を、奮い立たせるその為に。
「……」
時折、サルビアへの秒数の指示をしっかりと混ぜながら、それは続いた。声の大きさは独り言で、戦闘の音にほとんど掻き消されて。五感を強化したサルビアですら、全てが聞こえたわけではなくて。
「そうか」
でも、聞こえた断片から、サルビアは理解する。ザクロがどれだけ多くの人のことを問うたか。彼にどれだけ、大切な人がいるか。彼がどれだけ守りたいかなんて、分かってしまう。
「そんなに、持っているのか」
そして比べて、圧倒された。サルビアの守りたい範囲のなんと狭く、大切な深さのなんと浅いことか。それに対してザクロの村全員を覆う範囲の広さと、彼ら全員のことをよく知る深さの、なんと凄まじいことか。
好ましいの意味を今日自覚したばかりのサルビアとでは、あまりにも差があり過ぎた。
「アリバンさんの家の子が、一ヶ月前に一歳になったんだ。手はかかるが、可愛くてたまらねぇたまらねえって」
何人も何人も語り続け、戦い続ける。それらが聞こえる度に、サルビアの心で羨望や嫉妬といった感情が育っていく。
「最近、後輩ができたんだ」
「……」
だが、語る対象が自分になった瞬間、サルビアの心からそういった感情は消え失せた。大きな驚きと、期待が叶った安堵感が溢れ出していた。
「すごいやつなんだ。俺よりずっと剣の才能があって、面白いやつなんだ。こんなところで、死んでいい人間じゃねえんだ」
命賭けの戦場であるにも関わらず、サルビアは先輩の顔を凝視する。それはそれは誇らしそうで嬉しそうな顔で、彼はサルビアのことを語っていた。
「巻き込んじまった俺がする話じゃ、ねえ……ああ。やべぇ。そういや、あいつこの場にいるんじゃねえか。恥ずかしくて、死にそうだ」
「先輩?」
勝手に動いて心を話していた口に、たまたま顔を出した思考が冷静に思い出す。それは、ザクロに訪れた明確なる異常。つい数秒前にも、彼は秒数の指示を出していたのだ。サルビアと共闘していることが、頭では分かっているはずなのだ。
「13秒後」
「ちょっと待っ」
「まだいるんだぜ?可愛い子ちゃんが二人も。羨ましいか?羨ましいだろ?」
おかしい。サルビアを計画に組み込んでいるのに、彼の声など聞こえていないかのように、ザクロは剣を振るっている。ずっと、話し続けている。
「マリーっていう、なんか年上くさい不思議なちみっこが一人目だ。ありゃ将来、絶対美人になる。うん。間違いない」
「なにオヤジみたいなことを言っている!俺の話を聞け!」
その双眸は戦場と、どこか遠くを見ている。その両耳は、戦場の音以外聞こえていない。サルビアの声を聞いていない。
「二人目は、アイリスっていうんだ。8秒後」
「ザクロ!おい!」
でも、剣は動いている。着々と戦況を組み立て、サルビアの為に8秒後の道を作る。多少衰えてはいるものの、それでも彼の剣は唸っている。
「ガチガチに固められて、自分を押し殺してきたような優しい子でさ。見てられなくて、見たいんだ」
道は用意された。ならば、行くしかなかった。後ろのザクロを気にしながら、駆け上って刻んだ一太刀は、いささか浅い。それほどまでに、彼のことが心配だった。
「心から笑ったらきっと、可愛いぞ」
「いい加減にしろ!」
「笑わせたいんだ。みんな。守りたいんだ。みんな」
ザクロがくれた足場を踏みながら、ぶつぶつと語り続ける彼に怒声をくれてやる。でも、届かない。
「俺が憧れた英雄を、超えてやるんだ。全ての女性だけじゃなくて、みんなを、俺が守るんだ」
「ザクロ!もうやめ」
「その為に、誰かを守る騎士に、俺はなるんだ」
自らの声を掻き消した言葉にサルビアが思い出し、ザクロが思うのは、『色王伝』という物語になった、実在した伝説の英雄。
「先輩として、胸を張って。だから、負けたく、ないんだ」
そして、剣で憧れた後輩に対して、尊敬されるような先輩で在りたいと。
「先輩、もう」
魔力眼でザクロを見たサルビアは、全てを悟る。彼は既に限界を超えていた。使える魔力を全て使い果たし、それでも戦おうと、生命に関わる部分にまで手を出している。それ故に意識が朦朧とし、現実が見えていないのだ。
「それ以上は」
気力だけだった。ただそれらの感情と意地だけが、彼の身体を動かしていた。剣を、振るわせ続けていた。務めを果たそうと、無茶をしていた。
「あれ……?身体が、どうして?」
「もう充分だ。先輩」
だから、サルビアが止めた。これ以上は本当に命に関わる。攻撃を中断して、背中にザクロの身体を乗せ、攫った。
「誰か知らないが……止めないでくれ」
急いで戦線を離脱し、木の陰に隠れながら走り続ける。背後からは動龍骨の追ってくる音と、戦おうと足掻くザクロの震えた声が鼓膜を叩く。彼の魂は未だ、戦場に取り残されている。
「奴を倒さなきゃ、ダメだ……みんなを、守れない」
そうなのだ。時間は充分に稼げたものの、未だ動龍骨は健在。ここで逃せば、どれだけの脅威となるか分からない。
「サルビアが、今も戦ってる。だから、俺も」
ザクロの必死の頑張りのおかげで、三層目の骨は八割近く削れている。だがまだ、残り二割。五分の一も残っているのだ。故に、彼は自分が行かなければと、魔力切れにて赤い線が走った腕を伸ばしている。
「俺はここだ。とりあえず、先輩を安全な場所に運ぶ」
「え……?サルビ、ア?なんで?」
耳元に響いた少し大きな声で、ようやくザクロは気付いた。目の焦点が合い、サルビアの眼を直視し、現在の状況を理解する。
「撤退?」
そう、撤退だと。巨大な魔法で骨腕を引き剥がさなければ、傷は斬れない。その担い手であるザクロを避難させるということはつまり、そういうことなのだと。
サルビアらしからぬ判断ではある。だが、同時に極めて合理的で賢くて、仕方がなかった。これ以上戦えば、ザクロは本当に命を落とす。その上で負けるよりは、一度ここで撤退し、再度強くなった動龍骨に挑む方が、まだいい。その間にそれなりの犠牲者が出るだろうが、まだ可能性は見える。ザクロもサルビアもここで死に、更に犠牲が増える最悪よりはずっといい。
先述の通り、時間も充分に稼げた。ザクロの魔力は限界だが、サルビアの方は障壁をカットしたことで余裕がある。逃げ切ることは難しくはなく、現に今、動龍骨とはかなりの距離が開き始めている。
「違う」
「え?」
だが、サルビアはそれを選ばない。
「あいつはここで仕留めた方がいい。だから、俺は今ここでやる」
賢くて合理的で、可能性はある選択肢。しかし、犠牲が出るというのならば。
「じゃあ、なんで、俺を」
「もう先輩は限界だ。あとは俺がやる」
そしてザクロがもう、使い物にならないというのならば、サルビアは一人で、この場所で動龍骨を倒す。彼はそう言ったのだ。
「どう、やって」
無茶だ。無謀だ。無理だ。二人がかりでようやく戦える相手だ。それを単騎で倒すなど、
「障壁ありで、もう一度」
極めて短時間という条件付きならば、可能性はあった。木々の群れを全力で駆け抜ける最中、二人は風にかき消されない距離で議論を交わす。
「いや、でも、それは……」
「最強への道のりに、あいつは邪魔だ」
サルビアの魔力は、まだそれなりに残っている。数分から十分程度なら、充分に障壁が使えるはずだ。
引き剥がし役をザクロが務めていたが、別にサルビアが代わっても問題はない。そして、そんなに何度も使う必要はない。一度引き剥がし、身体を傷と骨腕の間に割り込ませることができたなら、それでいい。
そうなれば障壁が邪魔をして、動龍骨は骨腕で傷を庇えない。どれだけ激しい攻撃が押し寄せようと、それら全ては障壁に阻まれて届かない。
「でも、間に合わな、ければ……」
しかし、魔力がある間という時間制限がある。それを過ぎたなら、いっそ過密なまでの攻撃全てが、サルビアを圧し潰す。逃亡用の強化の魔力すら失ったなら、逃れる術はない。
「これはそういう戦いだ。そうだろう?先輩」
だが、元からそういう戦いだったのだ。互いの生存の為、守りたいものの為に命を賭け、正々堂々と殺し合い、傲慢を貫く。勝者は生き、敗者は死す。そうと分かっていて、サルビアはこの戦いに乗ったのだ。
「で、も」
でも、命を賭けた戦いと分かっていたとしても、ザクロは友の死を見過ごせるほどの覚悟ができていなかった。力になれず、おぶられ、置いて行かれ、助けることのできない無力感。死なせたくないという、我儘な、彼が戦ってきた理由。そういった光の込もった目が、サルビアを射抜く。
「一つ。空は青い」
「……え?」
そんな先輩に彼が発した言葉は、余りにも意表を突いたものだった。
「二つ。海も青い」
出会ったばかりの一ヶ月前、森の中で初めて剣を交わす前に交わした、ザクロのくだらない前口上。その、真似事。
「三つ。サルビア・カランコエは……不屈」
「……」
羞恥に頰を染めて言い終えたサルビアを、信じられないとばかりに呆然と見つめる背中のザクロ。戦場の緊張は僅かに途切れ、生暖かい空気が二人を包み込む。ただ風を切る音と、遠くから動龍骨の暴れる音だけが、世界に響く。
「先輩よ。こんな小っ恥ずかしいこと、よく言えるな」
「後輩……恥ずかしいって、思うから、恥ずかしい、んだぞ」
理不尽な後輩の抗議に、これまた無茶苦茶な理論で返す先輩。彼らはいつものように笑い合い、そしてザクロは虚空庫に手を突き入れて、
「少しでも、節約した方が、いいだろ?」
「恩に着る……そろそろか」
サルビアから先程移譲された魔法陣の残りを、返却した。礼を述べつつ、振り向いた銀色の眼は動龍骨と相当な距離が開いたことを確認し、頃合いと考える。
「ここに降ろす。息を潜めて隠れていてくれ」
「……本当に、悪いな。肝心な時に、役に立たない、情けない先輩で」
適当な木の陰に先輩を降ろして隠し、サルビアは背を向ける。命を賭けて巨躯へと挑むその背中に、力なく木にもたれかかったザクロは謝るしかない。
「何を言う。先輩はすごいし、情けなくなんかないし、役に立つ。俺なんかより、ずっと」
だが、サルビアはその謝罪を全力で否定する。いつになく強く、熱を帯び、敬意を込めた言葉で、ザクロのことを認める。
「先輩、ありがとう」
まるで最後の別れのような締めくくり方で、会話は断ち切られる。ザクロが声をかけるより早く、動龍骨を引き付ける為に、彼は矢のように駆け出した。
「……なん、だよ。こんな俺の、どこが、すごいんだよ……」
限界まで戦い抜き、その程度の限界でしかないことを嘆くザクロを一人、残して。
「感知能力は然程でもないようだな」
標的を見失い、暴れ回って探し回っている動龍骨を木の枝の上から眺め、彼はほっと息を吐く。この距離にいるサルビアに気が付かないということは、更に遠いザクロを感知できないということだからだ。これで、彼が巻き込まれる可能性は大幅に減った。
「しかしまぁ、あまり時間はないか」
だが、依然として動龍骨は二人を探し、森を薙ぎ払いながら進んでいる。方角はザクロから僅かにズレているものの、近づいていることに変わりはなく、それは好ましいことではない。
「すぅ……ふぅ……」
飛び出す前に、最後の深呼吸。胸の中にある鉄のようなナニかが、少しだけ軽くなった。代わりに集中が高まり、ピリピリとした感覚が全身に張り巡らされる。
「……!」
声はあげない。木々から飛び出し、気づかれる前に陣を両手に鎖を創成。いつもの剣のような、小さい鎖ではない。ザクロの真似事の、巨大な土の鎖。でも、剣を作るいつもと同じように、ルピナスやプラタナスのように、ありったけの気持ちを込めて、
解放。鎖は森の間を縫って進み、巨大な骨に絡み付く。込められた魔力と同等の想いの分だけ縛り上げ、動龍骨の動きを止める。
だが、巨体の膂力はまさに怪物そのもので、サルビアの魔力はそう多くない。拘束は一時的で、完全なる停止はその中の刹那。その刹那をサルビアは走り、骨に覆われた脚を蹴り、壁ジャンプの要領で傷口を目指す。
「戻ってきたぞ」
登りきるより早く、動龍骨が動いた。拘束が崩れ始め、動かれたことで足場が消える。しかし、落ちることはなく。足りなくなった高さを浮遊魔法で補い、骨鎧の上に立つ。
「魔力も命も、剣も、全てを賭ける」
撤退の選択肢は既になく、命尽きるその時まで戦い続けると、彼は白き鋼の上で宣言する。
障壁を展開し、両手には魔法の剣を握り締め、
「行くぞ」
剣士と動龍骨、最後の戦いが始まった。
「しっ……!」
揺れ動く不安定な足場の上で振り被り、己が現在放てる最高の一閃。僅かではあるが、確かに削れたその一太刀。
「いける」
剣先の感触から厚さを推定し、計算。この精度を保ち続ければ、ギリギリで貫通できる。
間髪入れず、二撃目を。光の線が横切り、剣に限界が訪れる。修復し、三度の剣を構え、
「悪いが、障壁だ」
絶対なる透明の向こう側に、衝撃が走る。骨の腕がサルビアを薙ぎ払おうとした一撃だが、障壁に阻まれて届くことはなく、また、サルビアを動かすこともない。
当たらない反撃を見ることもせず、三撃目。続けて四で修復を挟み、更に積み重ねていく。
「無駄だ」
その最中、何度も何度も、白い巨木のような腕がサルビアを襲った。骨が視界を覆い尽くす瞬間もあった。傷口を腕で庇うことを、動龍骨は幾度となく試みていた。だが、それら全ては無意味に終わり続ける。一層目の時と同じ、斬り放題の再来だった。
「む?」
しかし、無意味な抵抗だけでやられるほど、動龍骨は潔くない。サルビアが感じたのは、不安定な足場の更なる揺れ。卓越した足さばきと体重移動で乗り越えた今までとは違う、星の力を利用した妨害。
「俺を落とす気か」
足場である骨鎧自体を傾け、重力によってサルビアを地に落とそうという新たなる反撃。魔物にしては賢いそれに、さすがの彼も態勢を崩し、剣を中断せざるを得ない。
「お前も生きたいのだろう。勝ちたいのだろう」
両手の剣を虚空庫に放り込み、片腕で骨の出っ張りを掴んで耐えるサルビアは、戦い方から動龍骨の当たり前の本能を読み取る。
「いい。やはり強者との戦いは、血と肉どころか骨まで踊る」
見事だった。立派だった。さっきまでの遊びとは違い、この魔物は本気でサルビアと戦っている。本気で殺しにきている。獰猛な笑みを浮かべ、剣に愛された少年はそれを歓迎する。
「だが、少し遅かった。もっと早くに本気を出していれば、俺達はお前に勝てなかった」
そして見下し、憐れみ、感謝する。弱者と舐めてかかった結果、追い詰められた魔物に。強者故の奢りに足元をすくわれた怪物に。動龍骨が油断したからこそ、勝てそうなこの幸運に。
剣の代わりに虚空庫から取り出した陣にて、土の足場を創造。骨鎧から生やしたそこに乗り、足元から目の前に変化した傷口へと剣を重ねていく。
「いつも、いや、少し前の俺なら、憤慨すらしていただろう」
祖父ハイドランジアに教育されたサルビアは、手加減を嫌っていた。例えば今のような、相手の油断による優勢など、自ら捨てて仕切り直すべきと疑わなかった。その結果自分が死んだとしても、それこそが剣士の誇りだと思っていた。
「だが、今日に限ってはその思いが弱い。代わりに別の想いが強くてな」
しかし今回。サルビアはこの状況に感謝していた。一ヶ月前、いや、それどころか数日前の自分ですら驚愕するような、嘘偽りのない心境。
「俺も勝ちたいと思う。なれるなら、最強をと思う」
斬撃を交えながら、一方的な会話は続く。昔のサルビアは、まだ消えていない。強者との戦いは心踊るし、目指す場所が最強であるのも変わらない。
「でも今は、同時に生きたいとも思うし、守りたいとも思う」
だが、新しいサルビアも生まれたのだ。ザクロと出会い、酒場のみんなと出会い、プラタナスとルピナスと出会い、アイリスやマリーと出会い。そして、ずっと守ってくれていたベロニカや両親を発見し。
「……騎士になりたいって、思う」
新しい目指す場所ができた。想いが生まれた。負けられない理由が、生きたいと思うことができた。
「だから、ここは負けれない」
仮にサルビアが負けたのなら、動龍骨は死に物狂いでザクロを探し出し、始末することだろう。これだけの手数を負わせた片割れなのだから、この近辺一帯を更地に変えても成し遂げるに違いない。
「騎士とは、人を守る者だ」
それにサルビアが背負っているのは、何も先輩の命だけではない。ここで逃した場合に出る全ての犠牲が、今この両肩にのしかかっている。その中にはベロニカやサザンカやダチュラ、アイリスやマリーもいるかもしれないのだ。
「だからお前は、俺の守りたい想いの為に、ここで死ね」
誤魔化しはしない。サルビアは己の都合の為に、他を殺す。ただ生きようとするだけで人を傷つけてしまう動龍骨を、分かり合えないから殺す。
それが悪いかどうかは、サルビアには分からない。申し訳ないと思うべきなのか、それとも心の底では思っているのか、彼にはまだ分からない。
「だが、お前もそうなんだろ?」
分かるのは、殺さなければ殺されることと、殺さなければ守れないこと。そして、動龍骨も同じこと。
「ああ……」
サルビアは障壁に守られている。ならばと動龍骨が狙うのは、彼の足場。大質量の一撃が土の板を粉砕し、少年の身体は再び落下を開始する。
だが、そこまで。一秒未満の浮遊魔法で居場所をキープし、新たな足場に創成して乗り笑う。そしてまた、剣が再開する。
「こんな剣は、初めてだ」
その剣は重い。かつて最強を目指して振っていた時のような自由さはなく、勝たなければならないという重圧がある。剣の重量は変わらないというのに、心持ちだけでこんなにも変わるものなのか。
「本当に、不思議な話だ」
何も考えず、ただ我の為だけに剣を振るうあの甘美さは忘れ難い。あの剣の方がずっと気楽で、幸せだと理解はしている。
気づかないこととは、幸せである。一度気づいてしまった以上、サルビアはもう昔の剣には戻れないのだ。
「それも、悪くないと思うのだから」
しかし、気づいたからといって、必ずしも不幸になるわけではない。幸せは減ったかもしれないが、それでも違う形の幸せを得ることができた。
サルビア・カランコエが、誰かを守る為に殺す剣を得た瞬間だった。
斬撃を数えるのをやめてから、約5分。動龍骨はありとあらゆる策を弄し、サルビアの妨害を試みた。無数の腕で空間を狭め、剣を振り被る場所を潰したり。激しく身体を揺することで、振り落とそうとしたり。
サルビアはそれらの妨害にありとあらゆる手を尽くして、剣を振るい続けた。振り被る場所がなくなった時は、コンパクトな突きや斬りつけで対応。身体を揺すられた時は、浮遊魔法で数秒浮かぶことで乗り切った。
「くっ……!」
狂ったように押し寄せる腕と、蠢く足場に囲まれ、サルビアは苦しげな息を漏らす。あと少しで削りきれるというのに、それが果てしなく遠いのだ。
「もう、魔力が」
そしてその距離を埋める為の魔力は、本当に限界だった。障壁以上の暴食である、浮遊魔法のせいだ。使わなければならない瞬間のみの使用だというのに、大量の魔力を奪っていく。
「実に戦いが上手いなぁ!」
それを分かっているからこそ、動龍骨は足場を揺らし、サルビアになるべく浮遊魔法を使わそうとしているのだ。同様に絶え間なく攻撃し続けることで、障壁を休むことを許さず、常に多大な魔力消費を強いている。
互いに本気。魔物はひたすらに生き残る為。人は、ようやく芽生え始めた誰かを守りたいという想いと、目指した場所の為。
もう何度、サルビアは剣を創造したことだろう。もう何度、動龍骨は骨腕を振るったことだろう。もう何度、サルビアは斬りつけたことだろう。もう何度、龍の骨は耐えたことだろう。
長きに渡る骨と剣の戦争。その終わりが近かった。
「ああああああああああああああああ!」
「–––––––––––––––––––!」
吠えたサルビアが、最後の力を振り絞る。がちゃがちゃと骨を軋ませた動龍骨が、より一層激しく身体を震わせる。
「守らせ、ろ……!」
ぐらぐらと地震のように揺れる世界で、彼は剣を振るう。汗を流し、肌に魔力切れの証である赤い線を迸らせて、剣を、傷を、剣を重ねる。
「これで、最後だ」
あと三撃、二撃、一撃。見開いた獣の如き銀の瞳が、ついに透けた骨の向こう側の、脈動する肉を捉えた。振り被り、構えて、
「は?」
世界が移動した。そう形容するしかないような、出来事だった。照準を合わせていたはずの傷口が、いつのまにか離れていた。否、離れている最中だった。
「これは」
しまったと。これが何であったかを悟った時には、もう遅い。剣はもう届かない距離に、サルビアはいた。
動龍骨が、サルビアの足場の骨層を飛ばしたのだ。思ってもみなかった。動骨の最後の抵抗である骨の剥離射出を、動龍骨が使うなんて。まさか最強の守りである龍骨の層を、自ら捨てるなんて。
動骨で一度見た技だったし、何より前兆はあった。浮遊魔法を強いる為だけだと思っていたあの揺れは、骨を射出する為の前準備でもあったのだ。
とはいえ、もはや魔力はほとんどなく。前兆に気づいたところで何か対策できたかと聞かれたら、彼は首を横に振るしかなかった。
せっかく結合した龍骨の層をまるまる一枚剥離など、動龍骨にとっても苦渋の決断だっただろう。だがしかし、英断であった。いくら障壁を張っていようが、足場ごと吹っ飛ばされたのなら、どうにもならない。もう一度動龍骨に登れるだけの魔力は、サルビアには残されていない。実に賢い選択で、勝者だった。
「いやだ」
空中を横切るその最中、サルビアの心に浮かぶのは勝者を讃える言葉でも、死への恐怖でも敗北感でもなく、拒絶だった。それは初めての感覚だったが、そのことに戸惑う心の隙間も暇もない。
「それは、いやだ」
自らの敗北がもたらす、守れないという未来。その未来への拒絶が、サルビアの心と腕と、剣を突き動かす。
「ザクロ先輩やみんなが死ぬのは」
振り被っていた剣を手の中で回し、逆手に持ち替える。最後の魔力。障壁を解除し、着地の浮遊の魔力すら残さず、全てを込めて、剣と腕を強化。
「いや、なんだ」
角度を調整し、投擲。サルビアを振り落とそうと動龍骨が傾いていた為、幸運にも傷口はこちらを向いている。骨を貫通し、その先にある核まで刺されば、勝てる。
「……」
運命の一瞬。強化の切れた視界でも、結果ははっきりと見える。動龍骨が止まればサルビアの勝ちで、止まらなければサルビアの負け。
「いや、なんだ……」
最善だった。的確に傷口へと命中し、最後の骨を削り切った。だが、そこまで。肉を露出させはしたものの刺さることはなく、剣は落下を開始する。
「一つ。空は青い」
その剣を何者かが掴んだのを、サルビアは落ちる視界の中で目撃した。
「二つ。海も青い」
全身に赤い線を走らせ、口元から血を流し、骨脚を足場に跳躍する男だった。彼はアイリスから貰った陣で、サルビアが創造した魔法剣を強化する。
「三つ」
そして彼は骨の傷口へと、剣を突き入れる。龍骨に比べれば豆腐のような肉へと侵入した剣は、男のなけなしの魔力によって、体内で爆発的に膨張を開始。内側から食い荒らし、核を貪り尽くす。
「美味しいところ、持って行きやがって……先輩」
骨を傷つけることはできずとも、肉を斬ることはできる。ましてや、体内に突き入れた魔法剣を内側から破裂させることなんて、彼にとっては得意分野。
サルビアが一人で戦った時間は、僅か数分程度。しかしその数分で、魔力はほんの少しだけ回復する。それだけあれば、陣の起動数回分には事足りる。
「ザクロ・ガルバドルは不屈だ」
最後の一撃を叩き込んだ男の名は、ザクロ・ガルバドル。自称不屈の男にして、守ることを諦められない男である。
「がっ……」
勝利を見届けると同時、背中から木々にぶつかったサルビアの口から血が溢れ出る。そのまま数m下の茂みへとろくな受け身もとれずに落下し、彼は意識を手放した。
「どうだ……サルビア。先輩の面子、保てたか?」
そんなこともつゆ知らず、少し遅れて浮遊魔法で綺麗に着地したザクロは、天を仰ぎ見ながら後輩へと問う。答えなどあるわけもなく、あったとしても、もう意識が朦朧としているザクロには聞こえなかっただろう。
「へへっ。聞こえて、ねぇか……」
声が届かなかっただけと勘違いしたまま、彼も意識を手放した。
そしてその数秒後。命を無くした巨躯が沈んだ音と振動が、森の中に響き渡った。大地が揺らぎ、木の葉は落ち、遠くで鳥が飛び去ろうとも、二人はそれに気づかない。
魔力切れの状態で更なる魔法の使用。及び、二時間半以上に及んだ過去最高の集中の強要と戦闘。これらによって、彼らの体力はもう限界だったのだ。
仕方がないといえば、仕方がない。しかし、それでは済まされないのが、厳しい自然というものである。
いかなる剣の達人であれ強者であれ、魔力が切れた状態で気絶していたのならば、ただの的と大差ない。たかが小鬼でも、簡単に討ち取ることができる。小鬼にすら、殺されるのだ。
そして今、彼らが倒れているのは魔物蠢く森の中。
動龍骨が崩れ落ちてから数分後、数匹の小鬼が茂みの陰から、姿を現した。




