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幻想現実世界の勇者  作者: ペサ
幻想現実世界の勇者
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幻想現実平行世界のサンタ

 クリスマス短編です。時系列や登場人物はごちゃ混ぜです!


「ねぇ、私。サンタさんにお礼を言いたい」


「……えっ?」


 季節も人類のほとんどもなくなったが、暦はまだなくなっていない。気持ちだけだと軍の一部といくつかの店が緑と赤、白などで建物をデコレーションし終えた頃、シオンが無茶苦茶を言い始めた。


(おい馬鹿野郎!シオンがサンタの事信じちまったじゃねえか!)


(ま、まさか僕だって信じるなんて思わなかったんだよ!軽い出来心さ!)


 サンタが来ると信じているのは、遅くても小学校高学年くらいだろう。そもそも煙突なんてない今のご時世、どこから入るのか。窓ガラスをくり抜いて鍵を開けてだろうか。ピッキングでもしてドアからだろうか。まぁ煙突含めどこからでも、家宅侵入罪に違いない。


 そもそもこんな理論はいらない。小学校のクラスでよく喋る奴にサンタの正体を尋ね、それが本当かどうか寝たふりをして確かめてみるといい。よく聞く足音や、見覚えのある背丈、顔が焦っているはずだ。


 と、このようにサンタに扮した者はいるが、サンタクロースなる本物は今の時代にいないと大体の人間に説明が済んだところで、僕の言い訳は終了。


(まさか、まさかこんなピュアっ子だったなんて!かわいい!)


(頭沸いてんのか!かわいいのは否定しないが、シオンの世界は魔法の世界だぞ!そういう魔法使いがいてもおかしくねえって、納得しちまっただろうが!)


 ここまでピュアなのを可愛いと言っている仁の頭が末期なのは置いといて、シオンが信じてしまった理由は、ずばり魔法である。


 『魔女』や『魔神』やらがいる世界。侵入口を作る系統外に、気配を消す系統外、欲しいものが分かる系統外を保持し、プレゼントを渡し歩く一族や一団がいてもおかしくない。マリーや『魔女』と逆のように、彼が日本に来ていてもおかしくはないし、確率は0ではない。0ではないが、さすがにちょっと無理がある。


(俺君だって笑ってたじゃん!?信じるわけねえだろって、たかをくくってたじゃん!性夜だとか例の六時間だとかじゃなくて良かったじゃん!?)


(ある意味そっちのがマシだったわ!早く言え!嘘ですごめんなさいってネタバラシしろ!)


 内心でわーぎゃーうるさく罵り合う。しかし、きらきらとした目で空を見つめる少女を見れば、僕は嘘だったとは言えなかった。


「子供のみんなに、ぷれぜんとを配るなんて素敵だと思う。その、私みたいな子にも、クリスマスは平等に来るんでしょ?」


 守る為とはいえ、シオンは両親から虐待を受けていた。世界中を欺く為の暴力なのだ。プレゼントを渡される事なんて、一度もなかったのだろう。


「ああ、来るよ。勿論だ」


 だから、サンタの正体を俺は言えず、彼女の言葉を肯定した。










「バカあああああああああああああ!?」


 用事があると言い残してシオンから離れたところで、僕は頭を抱えて絶叫し始めた。何事かと人の目が集まるが、二人はんなこと知らんと再び内心、時々心外で罵り合って殴り合う。


「なんで俺君まで力強く頷いてるの?早く真実言えって言ったくせに!?もう言えないじゃん!」


「シオンがあの言葉吐いた時点で詰みだろうが!ああもう、どうすんだ……」


 もう手遅れだった。来ないとは言えず、正体も言えず。元を正せば、嘘を吐いた僕が悪いが、問題は最早誰に責任があるとかいう話ではない。


「プレゼント、何渡せばいいんだ……」


「しかも、シオンが寝てる時を見計らってサンタしなきゃなんないって難しすぎない……?」


 こうなったら誰かがサンタのふりをして、プレゼントを届ける他ない。だが、警戒して眠っているシオンを起こさないように部屋に入ってプレゼントを届けるなんて至難の技だし、そもそも彼女が何を欲しいか全く分からない。


「あら、お困りのようね……大体の話は聞かせてもらったわ」


「なんかちょっと、セリフ使い古されてません?」


「古い!?」


 颯爽と悩みを聞きつけてやってきたマリーだが、何故か仁の言葉に深いダメージを受け、心臓の辺りを押さえる。人生二周目とはいえ、若さ的にはまだまだなはずなのだが、どうやら一周目がかなり昔だったらしい。


「シオンちゃんの欲しい物ねぇ……仁とかどう?」


「いいねぇ。プレゼントの箱の中に裸の僕を詰めとこうか。あの四兄弟に頼めば、部屋の近くまでは運んでくれそうだし」


「割とマジで貰われるぞそれ」


「お願いだから真面目に検討しないでちゃんと考えて」


 マリーはからかってふざけてみるも、途方に暮れていた仁はもうそれでいいんじゃないかと白い目で服に手をかけ始めた。自分がプレゼント!をら男がやるのは論外だと分かってはいる。分かってはいるのだが、


「本当に、何も思いつかない」


「まぁ男ってそうよね」


 日頃シオンが欲しがっているものを、仁はよく知らない。というより、欲しかったら彼女は虚空庫の中にある食料などと交換して普通に手に入れている。功績財産共に、シオンはこの街一の富豪と言ってもいい。


「ましてやシオンが相手となると、ねぇ」


 つまり、シオンがサンタに求めるのは富豪でも買えない何かである。もうこの時点でほとんどの物が選択肢から消えた。狭まったのではない。むしろ分からなくなったのだ。


「あっちの世界に持って行けて、尚且つ残るような何か……」


「そんでもって、サンタが渡しても不思議じゃないやつ」


 指輪は違う。サンタが贈るものではない。ネックレスやピアス、イヤリングなどの装飾系も考えたが、この街で作られた物では、シオンの世界に持って行く事が出来ない。かと言ってもう一度イヌマキに頼むというのは、焼き直しというか少し気が引ける。


 仁が貰った事があるのはゲーム機やCDなどであり、到底参考にならない。


「シオンちゃんに直接聞かなかったの?」


「秘密と言われました」


 本人の希望自体も不明。万事休すの八方塞がりだと、マリーは両手を上に挙げて首を振る。


「他の人にも、聞きましょうか」


 三人集まっても何の知恵も出ない時は、もっと多くの違う誰かに頼りましょうとマリーは人を呼び寄せた。


「ふむ。仁の抱き枕などどうかな?本人が中に入っているから感触はよりリアル!」


 一人目。アホな記録者。


「このアホに聞いたマリーさんがバカだった」


「ごめん。私が悪かったわ。発想が若干被ってる辺り嫌さ倍増」


「なんだと!?これ割と好評だったからなぁ!?」


 大層な愛妻家だったから女心も分かるのではと呼ばんだのだが、どうやら『魔女』の見る目が無かったらしい。


「サンタ?……なんだろ。もう、忘れちゃったなぁ」


「この歳になって言われても……勇気が欲しいかな……」


「夢見るものはいっぱいあるが、サンタに頼んでも貰えないからな」


 二人目は心を病んだ医者。三人目は孤児院勤務初心者のヘタレで、四人目は堅物。さすがに子供心を全て残しているわけはなく、ごめんなさいと首を振られるばかりだ。


「強いて言うなら自分がもう一人欲しい。後、クリスマスが近いからと浮かれている奴らの頭が欲しい」


「うーむ。社会の闇」


 五人目。こちらも意味は違うが自分はプレゼントを所望する、多忙な司令。こんな状況だというのに、イチャつけたり騒げたりするやつらが信じられないと、銃の手入れをしている。


「ヅラとかいらんのか?」


「いた。熊、てめぇ今日の仕事サボりやがって。どこをほっつき歩いてるのかと思ったら」


「ええじゃろ別に。クリスマス終わってから倍やれば。クリスマス付近に仕事入れるやつらのデリカシーのが問題じゃわ」


「んなわけあるかあああああああああああ!」


 色街からぞろぞろと女を引き連れて、いつもよりちょっと豪華な出店を回っていた熊が六人目。柊の怒りの矛先が定まり、またいつものように喧嘩が始まった。


「仁よ!悩む事はない!己が渡したい虎の子を渡せ!」


「……虎の子、可愛いよね。ネコ科だし」


「だから俺が渡したらダメなんだって言ってるのに、あの人全然趣旨分かってないな」


 決めゼリフを言ったつもりなんだろうが、そもそもの前提から間違っているし、言った直後に柊の拳が顎を撃ち抜くしで、かっこ悪い上に参考にならなかった。


「あはははははははははは!サンタに願う事?この空気の破壊だああああああああああああ!」


「社会の闇その二が来たよ」


 七人目は、溜まっていた書類にろうそくをぶっ刺され、「はい、ケーキ!」と言われた哀れな酔馬。サンタにクリスマスの破壊を必死に願う姿は、本当に哀れ以外の言葉が見つからない。んでもって参考にならない。


「私?サンタに願う物願う物……平和、かな?」


「楓。すごい模範的解答だし今の俺らの状況的にすごく同意するけど、多分無理だ」


 八人目と九人目はこの街一番のバカップル。お洒落な青い星の花の名前の店から出て来た所を捕まえて聞いてみたところ、こんな天然な解答が返ってきた。いくら難問をふっかけているのがこっちとはいえ、答えがいささか酷すぎやしないだろうか。


「ご、ごめんなさい!そ、それなら、シオンさんに髪留めはいかがでしょう?」


「髪留め?」


「はい!」


 しかしここに来てようやく、有力な情報が手に入る。一度は考えて諦めた髪留めを、何故か楓は強く押したのだ。


「シオンさんの頰、その、火傷がありますよね……?」


「……あるな」


 仁の手前、言いにくそうに楓が確認を取る。彼女の言う通り、シオンの片頬にはトリガーに使う傷が、もう片方にはアコニツム戦で負った火傷が、色濃く残っている。


「そこを隠そうと思って、最近髪を伸ばそうとしてるんです。いずれ、必要になるかなと思って」


「髪型変えようとしてるのは分かってたけど」


「やっぱり、気になるのな」


 片目も隠れてしまうが、火傷も隠せる。仁には決して言わなかった理由に、嫉妬と不安が。気付かなかった自分に嫌悪が湧き上がるが、それは置いといて朗報だ。


「まとめる為の、髪留め」


「それくらいなら、仁でも作れるのではないか?イヌマキ、教えるのもこういうのも上手いしな」


 材質は異世界産。そして作るのは、仁。


「……色は何色にしようかな」


 実にいいアイデアだった。


「ああ、ちょっと待って待って。それとごにょごにょ」


 クリスマスまでの日は短い。善は急げと早速イヌマキの元へ行こうとした仁を桃田が呼び止め、耳元でさっと囁く。


「……それも、そうだね」


「考えておきます」


 内容は、忘れていたけれど至極当然な事だった。









 髪留めを作る作業は、難航した。そもそも何から作るのか。形は?デザインは?ふわっと提案した仁を、イヌマキはかなり細かく質問して責めた。


 女性陣の意見も取り入れ、イヌマキに習って彼に所々手伝ってもらって、ようやくクリスマスイヴの朝に形になった。自分で作ろうと変な意地を張った結果、出来上がったのは何とか髪留めの機能を持つ程度の物だったが、時間は無く。


 素材はイヌマキの持っていた黒龍の牙という、名前の通り黒い龍の牙である。シオンの黒髪に紛れて決して目立ち過ぎないが、光を当てると重く濡らしているかのように輝くのだ。出来に目を瞑れば、素晴らしい一品だった。



「で、その髪留めが今、この箱の中に入っている」


「シオンは今就寝中だけど、人の気配を部屋の中に感じたらすぐに飛び起きる」


 軍主催のクリスマスパーティーで普段より豪華な料理を楽しみ、市民も混じって騒いで踊ってはしゃいで羽目を外して。疲れ切ったシオンはもう既に寝ているが、サンタするのは容易ではない。


「というわけでマリーさん。お願いします」


「えっ?私!?というか私、これから梨崎と呑みに行くんだけど」


「いやだって、自分如きの隠密行動でサンタはちょっと……少しだけですから!」


 身のこなしがまだ初心者の自分には無理だと、様子を見に来たマリーに託そうとする。他にこの場、つまり、シオンの隣の部屋にいるのはロロとイヌマキと仁だけである。他の面子はそれぞれ親しい人と過ごしている。


「出来なくはないけど、通じる気はしないわ」


 隠密も出来なくはないとマリーは言うが、内心では無理じゃないかと弱気だった。なにせ、あのサルビアとプリムラに本気でしごかれたのだ。寝ている隙を突かれれば、永眠するような訓練を何度もくぐり抜けて来たはずだ。


「……いいのね?」


「もちのろん」


「分かったわ。ちょっとだけよ」


 手伝われながらも仁が作った髪留めを、自分が渡しても良いのかと彼に問う。答えは当然、YES。


「じゃ、行ってくる」


「サンタさん!?」


 扉の前までだった。音もなく部屋の扉のノブに手をかけた瞬間、シオンが飛び起きた。部屋の中から聞こえた声に飛び上がったマリーは爆走して逃走。隣の部屋で深い息を吐き、


「諦めよ?」


 計画の発案者である仁に、これは無理だと告げた。


「うぐぐぐぐ」


「マリーさんでも無理か……」


 仁から見ても、見事な動きだった。抜き足差し足で音も立てずに廊下を歩き、すぅとスポンジケーキを切るような柔らかさでドアノブに手をかけて、気付かれた。


 勝利条件は見られる事なく、箱を置いてくる事。それがマリーでも出来ないとなると、次は。


「自分!?無理じゃぞ!?」


「さすがにここで残り時間使いたくはないぞ」


 この場に残るロロとイヌマキに目線を送るが、二人とも揃って首を振って断った。そもそもマリーに無理で、犬状態のイヌマキとロロに出来るとは思えかった。


「……ほら、行きなさいな」


「もし見られてしまったなら、真実を話せばよかろうて」


 やはりここは発案者である仁が行くべきだと、他のメンバーで満場一致。バレたらその時はその時であると、仁は決死の覚悟でシオンの部屋のドアノブの前に立つ。


「……」


 ここまで、シオンが起きる気配は無い。既にマリーが気付かれたラインはもう超えた。部屋の扉は音も無く開き、ベッドに横たわる少女を視認した。廊下に顔を出したマリーの立てた親指に頷いて、更に進む。


(……いける?)


 今はもう既に、すーすーと眠るシオンの枕元。丁寧にも赤と緑の靴下が、シオンお手製の魔法のツリーに飾られている。


「あー……なるほど。仁なら、シオンちゃんは寝ててもいいんだ」


 より隠密行動に優れるマリーには出来なくて、仁に出来る理由が分かった。シオンは仁の足音やドアの開け方をしっかり覚えていて、それを聞いて安心しているのだ。


「よし、行けた!」


 故に楽勝。そう思いながら木のそばに箱を開こうと身を乗り出した瞬間、全身に衝撃が走る。シオンは、マリー以上の隠密術を持つ。つまり、素人の仁を暗闇の中で後ろから音も立てずに捕まえる事なんて、簡単なのだろう。


「ありがとう。サンタさん」


 いつの間にベッドから出てきたのか、仁は気づかなかった。ニッコリと笑ったシオンに後ろから勢いよく抱きつかれて、仁はバランスを崩して転んでしまった。


「な、なんで!?」


「さすがにこの距離なら気付くわよ」


 やばい。見つかった。冷や汗がたらりと背筋を伝わって滑り落ちていく。隣の部屋で祈るしかないロロ達も、目を瞑って次の一手を考える。


「ごめんなシオン。その、面と向かって話すのは恥ずかしくて……」


「これ、俺君と僕からのクリスマスプレゼント。桃田さんが、恋人になにかを贈る日でもあるって」


 だが、仁は即座に次の一手を打っていた。それは、仁が今しがた手に持っていた箱とはまた別の箱を取り出し、中身をシオンに見せて目を逸らさせるという一手。まだ漢字は全て読めないので、仁の震え声が補助しながらだけれども。まぁ、中身はこうだ。


『桜義 仁の名前が書かれ、シオンの名前が入る予定の場所その他諸々が空白の紙』


「こ、これって……」


「こんなご時世だけど、特例で作って貰った」


 それはかつての世界で、婚姻届と言われたもの。残念ながら転移の際にそれどころではなくなり、最早形骸化したものとなっていた。


「メリークリスマス。シオン、書いてくれるかな?」


 しかし、仁は敢えて婚姻届を書いた。ただの書類かもしれないけれど、きっと寂しがり屋なシオンは、少しでも証が欲しいだろうから。


「はい……!」


 シオンはこの時、サンタの事なんて忘れて、嬉しそうに深く頷いた。この瞬間が、名実共に仁とシオンが夫婦となった瞬間。


「それだけじゃないよ!」


「えっ?」


「見てこれ!見てよ!」


 だが、仁が桃田や蓮から受けたアドバイスで用意したプレゼントはこれだけじゃない。今度仁が箱から取り出したのは、書類の束。それら全てをまとめると、


「マイホーム。つまり俺とシオンの家だ」


 夢の新居地。三人だけの家。その土地と建物を、仁が手に入れたという証明だった。


「全部終わったら、一緒に住まない?もちろん、シオンさえ良ければの話で」


「するっ!」


 僕からのお誘いに、シオンは二つ返事で嬉しそうに飛び上がって、涙を流して、喜んで。


 こうして、再会の為の約束を少しずつ貯めていく。次の再会が、別れる為だけにあるものだと、絶対に言わせない為に。







 さて、仁個人が用意したプレゼントは非常に上手くいったのだが。


「で、婚姻届とマイホームで誤魔化してきたと」


「あ、うん……」


 部屋の外にて反省会の始まり始まり。何せ肝心のサンタについて、仁もあの瞬間すっかり忘れてしまい、髪留めの入った箱を持って帰ってきてしまったのだ。


「誤魔化したというか、アレは元から後で二人きりになったら渡す予定で……」


「むしろ、こちらとしても雰囲気が狂ったと言うか……」


「自分達に黙ってそんなプレゼントを用意してあったのか。けしからんな」


 あの後、サンタを忘れたシオンは仁にさっきよりも深く強く抱き着いて、すごく嬉しそうに「夢じゃないよね!?」と何度も何度も確認を繰り返して、頷く度に喜んでと大変で、仁も幸せで。つい先程、幸せそうに隣で眠るシオンから離れ、部屋の外に出て来れた次第。


 最高のクリスマスプレゼントで、最高のクリスマスになった。なったのだが、元の目的を忘れてしまったのでは本末転倒である。


「……もう、こうしましょう。仁とシオンが熱々過ぎて、サンタさんが入ってこれなかったって」


「いいねぇ。青春だったよ。サンタには眩し過ぎたくらいにね」


「……み、みなさん協力して貰ったのに、すいません……」


 幸せそうな仁に向けられる視線は、どれもちくちくとしている。シオンと添い寝した後に、こっそりと箱を部屋の中に置いてくればよかったのにも関わらず、仁はそれすら忘れていたのだ。


「も、もう一回行ってきます……あれ?」


 そうっと扉をもう一度開けて、気のせいだろうか。咄嗟に自分のポケットの中に隠した小さな箱が、無いのだ。


「どうした?落とした?」


「ん?部屋一つしか行き来しておらんのにか?」


「「あっー!?」」


 いくら小さいからといって、落として気づかないサイズでもなければ、場所ではない。じゃあなんでと思った瞬間、仁の目に信じられないものが飛び込んできた。


「さ、さ、さ、さ……ンタアアアアアア!?」


 きっと、それは幻覚だった。あり得ない。煙突の無かったこの部屋に、何故か暖炉と煙突があるなんて。ましてや、その煙突を登るように赤い布切れが上へ上へと向かっていくなんて、幻覚だろう。


「なんだ。ここにあったのか」


 ただ、一つだけ確かな事がある。それは、仁が持っていたはずの髪留めの入った箱がなぜか、ツリーの木下に移動していたということだ。


 翌朝、シオンは嬉しそうに本物のサンタが来たと喜び、昨日の仁からのプレゼントを貰って更に幸せと、常に頰が赤かった。




 今日はクリスマス。元の形を日本はほとんど忘れてしまったけれど、とても人との繋がりを深くしてくれる素敵な日である。




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