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幻想現実世界の勇者  作者: ペサ
幻想現実世界の勇者
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第125話 天の光と地の叫び


 なぜ、マリーが柊を裏切ったか。そう聞かれたならきっと彼女は、こう答えるだろう。


「致命的なまでに、彼のやり方が合わなかった」


 柊個人の性格は嫌いではない。むしろ、あの冷静の仮面の下に激情の熱を隠す性格は、好ましいと言っていいくらいだ。それなりに親交を築いたつもりである。


 だが、司令としての彼となると、水と油のようにとことん合わない。今まで街を繋いできたその技量、手腕、策謀。どれをとっても一級品の化け物で、そこは評価している。どれも自分にはない、素晴らしい才能だ。


 しかし、結果は認められても、やり方だけは絶対に許容出来なかった。軍というシステムは、どうしても合わなかった。


 綺麗事なのは分かっている。その時いなかった自分に、文句をつける権利はない事も承知である。彼がこの地獄のような策を取ったからこそ、本当の地獄は避けられていると知っている。


 だが、その一方で思うのだ。他にやり方はあったのではないか。確実なのが柊の策であったとしても、他にやり方はあったのではないかと。これはあくまで仮定の話で、マリーはこの話を諦めたが。


 諦めたとも。諦めて、柊の指示に従ったとも。彼から出された指令、裏切ったフリをしろという命令にも素直に従い、この街にいるほとんどの時間を諜報として過ごした。反乱軍と接触し、幾つかの情報を流して信を得て、何かが起こる前に主犯格を拘束する役目に努めた。


 軍は街を守る組織で、反乱軍はそれを脅かす者。だがその認識は、反乱軍の中枢に近づくにつれて払拭される。簡単な事だ。全員が全員ではないが、反乱軍は支配による平和を望まず、民主的に街を治めたい者達の集まりだった。そこには、正義があった。人の屍の上に平和を築こうとする軍の正義よりも、ずっと綺麗な正義が。


 桃田がそのメンバーの中にいた事は驚き、柊の手の者かと疑ったが、それもすぐに消えた。自分が持っている情報以上の物を、彼は反乱軍に与えていた。どれもが軍にとって致命傷となるような、大きなものだ。


 この時初めて、マリーは人肉の事を知った。弱った者反抗的な者を権力で殺し、肉に変えて貪って生き永らえる。それを聞いた時にはまずおぞましいと感じ、次に胃の中の物全てを吐き出した。恐らくこれが、マリーにとって決定的な情報となった。


「今までの柊の行いについて、私は口を出す権利はない。だが、これから先は別だ」


 過去は変えられない。しかし、未来は別だ。これから先、そう遠くない内に世界は分離される。その後に軍は必要ないのではないか?人肉をこれ以上作らなくても、より多くを救えるのではないか?


 反乱軍の方が多くを救えるならば、私はそちらに着こう。人を救うという狂気に取り憑かれた彼女は、いとも容易く柊を裏切った。いや、そもそも彼女には裏切ったという意識もほとんど無かったかもしれない。


 彼女はただ、己が信じる正義に準じただけなのだから。


「私なら、柊を不意打ちで拘束できる。命を奪わずに軍の頭を奪えるわ」


 彼女は反乱軍の指導者にこう提案した。一時的とは言え協力関係を結んだ相手を裏切ったあげく、不意打ちで拘束しようというのだ。シオン辺りが聞いたなら、らしくないとびっくりするだろう。


 しかしマリーをよく知る者が聞けば、らしいと頷くだろう。彼女の価値観は異質である。一般的に汚いとされる不意打ちや裏切りを、彼女は汚いと捉えていない。そこに死人が出るなら汚い。出ないならば、それでいいのだ。


「いいや、やめておこう。私達には民衆の支持がいる。やるなら、正々堂々と正面から反乱を起こそう」


 血によって成された革命は、血によって終わる。指導者はそう述べ、マリーを止めた。将来的に見て内乱を誘発させるというのなら、それは死人が多く出るという事であり、彼女は機会を待った。


「私の能力は血を流さない制圧に適している。そして、受け皿も必要だ」


 フォローにもならないかもしれないが、一応述べておく。マリーは軍人の命ももちろん、気遣っていた。そもそも協力する際の条件として、罪に加担した軍人達の助命があった。反乱に参加したのも、自分の能力なら、犠牲を出さずに革命を終える事さえ可能と思っての事である。


 柊を拘束した後、順に拠点を回って叩いて行けばいいのだ。シオンも仁も、建物の外から魔法を撃ち込むだけで終わる。実際、それで制圧出来る可能性はあった。


「懸念はイヌマキだけど、彼は動かない」


 そう見ていた。イヌマキはマリーを止められる最高の戦力ではあるが、柊だって分かっている。幾らイヌマキとは言え、三分間でマリーの命を全て削れるか?ほぼほぼ不可能だろう。仮に止められたとしても、残り少ない時間で反乱軍自体を止める事は出来ない。


「どう転んでも私達の勝ち」


 チェックだ。そう思って作戦に踏み切って、しくじった。内乱を読んでいた柊を最初の一手で捕らえる事が出来ず、内乱は泥沼化。偶然押し入った馴染みの店にいた仁とシオンを即座に捕縛出来ず、既に作戦がレールから外れている所を突かれて決闘を申し込まれて、止む無く受ける羽目に。


 少し冷や汗をかきながらも仁を捕らえたと思ったら、今度はイザベラの登場と来た。彼女を放ってはおけず、目の前の最重要捕縛対象を後回しにして追いかけ、追い詰めた。


 そしたら、これだ。










「守ってみてくださいよぉ!私達、カランコエ騎士団からぁ!」


 胸を抑えながら狂った笑いを上げ続けるイザベラの頭上を、幾つもの合体魔法が通り過ぎて行って、街に降り注いだ。建物は壊れて、人は潰され、炎が街を包み始める。


「貴女の狙いは、これ……!?」


 イザベラが今の今まで潜伏し続ける事に徹していた理由が、ようやく分かった。


 この時の為だ。軍と反乱軍の重要な人物に成り済まして内乱を起こさせる事で、壁の上の見張りの機能を停止させる。いざ内乱が始まれば柊を捕縛し、マリーを引き付ける囮。その隙に、カランコエ騎士団全隊をもってこの街を叩き潰す。


 仮に壁の上の見張りが機能していたならば、『黒膜』を発動させ、小さな入り口をマリーが防衛する策が取れた。討ち漏らしは壁の中の仁とシオンが、『黒膜』の負担はイヌマキが受け負えば鉄壁の布陣である。実際、騎士が攻め込んできた時の対策はそうと軍内で決まっていた。


 しかし、もう遅い。壁の上には既に騎士達の姿がある。『黒膜』を張っても、間に合わない。


「……」


 頭を働かせろ。これ以上の侵入は許してはならない。即座に『黒膜』を張り、自分が入り口の防衛に当たるべきだ。そう考え、入り口に向かおうとしたところで、


「行かせませんわぁ」


 後ろから投げられたナイフが、頬の皮膚を掠め取っていった。驚いて振り向いて、そして再び驚愕する。


「なんで、動けるの?」


 地面に出来た血の水たまりは系統外でも隠せず、彼女のダメージの量を表している。死なないようにマリーが調整しているとは言え、胸に穴が空いた上に大量出血だ。だが、イザベラは剣を構えていた。


「あはぁ……動けるから、ですよぉ……」


 苦しそうな声。いや、実際に苦しいのだろう。なにせ、呼吸の通り道に大穴が空いているのだから。見なくても分かる。きっと顔は真っ青で、痛みと出血で気を失いそうなずだ。


「さっさと殺せばぁ、いいんですぅ……」


「……それは」


 イザベラを殺す事は、マリーの正義に反する。しかし殺さない限り、彼女は何度でも立ち続ける。


「ああ、分かった。望み通りに死ね」


「無駄ですよぉ?貴方ごときにぃ、殺されはしないですぅ……」


 マリーが手を下せないなら自分がと、桃田が銃を発砲しながら氷の刻印で杭を撃ち込む。でも、悲しい事に彼の戦闘の技術は、騎士の足元にも及ばず。銃は障壁に受け止められ、氷の杭は簡単に剣で割られた。


「さぁ!殺してみてくださいよぉ……でないとぉ?貴女が守りたかったものがぁ、どんどんどんどん壊れていきますよぉ!」


 イザベラを殺して己の正義を殺すか。人を見捨てて己の正義を殺すか。これはそういうお話だ。


「私……は?」


 視界が揺らぐ。呂律が回らず、世界が歪んで反響し始める。考えがまとまらなくて、思考は幾つにも分裂し始める。


「マリー!」


「あっ……はっ!」


 首に深い痛みを受けて、意識が一瞬だけ海から顔を出し、系統外を発動させる。首に銃弾を撃ち込み、再生を余儀なくさせたのは桃田。そして思考を暗闇に叩き落そうとしたのは、


「毒?」


「……本当にぃ、邪魔な男ですよぉ」


 先ほど投げ付けられたナイフに塗られていた、毒だ。イザベラが続けた会話は、毒が回る時間を稼ぐ為。


 あと少し。あと少しで危なかった。意識が完全に無い状態、つまり、系統外が発動出来ない状態では再生できない。桃田がいなければ、彼が気付かなければ、マリーは死んでいた。


「行ってください」


「……でも、貴方じゃイザベラを抑えられない」


「信じて下さい」


 敬語ではあるが決して譲らぬ強い口調で、桃田はイザベラを引き受けると宣言する。言外の意図を読み取るなら、こうだ。


 桃田が引き受けた事にすれば、仮にイザベラが桃田を殺して周りの人間を虐殺しても、それば彼のミスであり、マリーの正義に傷は付かないと。


 信じて下さいは、戦力としてじゃない。あくまで建前としてだ。建前として桃田がイザベラを抑え、犠牲を出さないという意味だ。


 これが最善。間違いなくそうである。このままイザベラの牽制を続けるより、桃田を捨て駒にし、マリーが入り口で騎士の侵入を阻む方が多くを救える。だが、彼女は愚かにも自らの正義に縛られて、動けない。


 だから、行きやすくする為に、桃田は信じて下さいと言ったのだ。


「分かったわ。行ってくる」


 ならば、『勇者』として決断を下そう。建前でも正義を守り、多くを守れる道を進もう。いや、進ませていただこう。


「……ありがとう。そして死なないで」


 そして、感謝を。短い付き合いで私の性格を把握し、気遣ってくれた桃田に。


「貴女の正義は面倒だね。わざわざこんな手順を踏まなきゃならないなんて、生き辛くないかい?」


「……」


 正論。我ながらに馬鹿だと思うから、何も言わずに黙ってその言葉に刺される。イザベラをとっとと殺せば、済む話なのだ。幾ら文句を言われても仕方ないだろう。


「でも、その正義に救われた人はいる」


「……!?」


 だから、そう言われるとは思ってもみなくて。刺さったのは棘じゃなくて、心の毒を溶かす注射針だった。


「早く行ってよ。俺が、この女を殺す前に」


「何の冗談です、かぁ?そしてぇ、逃げるんですかぁ?いいんですかぁ?私がぁ、この男もぉ、街の中の人間を殺してもぉ?」


「そっちこそ何の冗談かな?俺は死なないよ。死ぬのはお前だ。マリーさんは防衛して、この街は守られる。ハッピーエンドじゃないか」


 強がりだ。胸に穴が開いてようと、意識さえあれば十中八九イザベラが勝つ。桃田は仇なんて討てない。むしろ返り討ちだ。なのに、彼はそれでも誰かを守ろうとしていた。


 謝る事はせず、桃田の意思を斟酌して強化を発動。身体が壊れそうになる限界の速さで、マリーは入り口へと駆ける。


「勘違いも甚だしいですぅ……あの女にはぁ、守れませんわぁ」


 その背中をイザベラはコケにするような笑いで見送り、桃田へと向き直る。既に多くの騎士が街中へと侵入しており、焼け石に水とでも言いたいのだろう。


「さ、貴方を殺してぇ、他の忌み子をたくさん殺しましょうかぁ」


 確かにイザベラの負傷は酷い。死なないとはいえ、痛みと出血でまともに動けないはずだ。だが、動かなくとも魔法で戦う事はできる。発動され、迫る数多の土の槍。それを塗って飛ぶのは毒塗りの投げナイフ。そして、手に握られたのは広域破壊の魔法陣。


「……お前の負けだよ。イザベラ」


 全てを止める事は、不可能と断定。命を手放す感覚と共に、言葉を吐き連ねる。ここでマリーを行かせた事が、どれだけ意味のある事だったか。どれだけの勝利であったか、桃田は分かっていたから。


「俺の負け、認めるよ。守りたいもの、守れなかった」


 自分が一番守りたかったものを、守れなかった。仇討ちも出来ず、出来たのは一矢報いる手助けと僅かな時間の足止めのみ。これが、どれだけの敗北か。桃田には街を失うのと同義で、結局は引き分け。


「でも、街の負けは認めない」


 最後に銃を構えて、狙いを引き絞る。物理障壁なのは分かっている。だが、それでもと足掻く最後の一撃。狙いは、イザベラの持つ魔法陣。一枚でも使えなくすれば、それだけの人が助かる。


「確かにそうだな。別にマリーいなくたって、守れるわな。なんせ、この俺が本気出すってんだから」


 しかし、覚悟した死はいつまで経っても来なかった。代わりにやって来たのは、いつもの小さな木彫りの犬ではなく。


「我が名はイヌマキ。大悪魔と恐れられし、『魔神』計画の産物にして、この街を守る者である。どうぞ、よろしゅうに」


「なん、ですかぁ?」


 大悪魔と恐れられた彼の、五体満足な本当の姿だった。


「この街に生きる者、全員に告げる。私は軍の総司令、柊 末。戦闘をただちに停止し、生存のみに全てを賭けよ。そして、この話を聞いて欲しい」


 それだけではない。続いて街中に鳴り響くのは、拡声の魔法がかけられた、柊の声。銃弾の雨を一時的に止めて、悲鳴をかき消して、全ての人の耳に侵入した声である。


「これから私が話すのは、『希望』の話である」


 そしてその声が語ったのは、『希望』だった。











「嘘……なんで、騎士が!?」


 街中に降り注いだ魔法を見たシオンは目を疑い、そして至る。なぜ、内乱が起きたこのタイミングで騎士が綺麗に襲撃をかけてきたのかと考えて、分かったのだろう。


「イザベラが手引きしてたんだろうな」


「……私、行ってくる!柊さんはイヌマキさんに『黒膜』の発動を要請し」


「シオン待って。ストップウェイト。大丈夫だから、安心して」


 イザベラの目的と、自分の役割を。だったらと弾丸のように駆け出そうとした少女の腕を、仁は辛うじて掴んで引き止め、安心してと笑ってみせる。


「ここまで、全て想定内だから。ね?柊さん」


「え?」


 こういう時に真っ先に駆け出す彼女に心配の念を抱きつつ、柊へと視線を移す。第二の困惑にシオンは動きを止めて、どういう事かと目で尋ねた。


「イザベラの存在に柊さんは気付いていた。そして、考えたはずなんだ。なんでイザベラはこの街で僕やシオン、マリーの暗殺をしなかったのか」


「答えは今この瞬間だ。内乱を起こさせ、見張りを消し、隙を突いて街を滅ぼす。これがイザベラの計画だ」


 イザベラの存在と、仁やシオンを直接殺しに来なかった不自然さに気付ければ、彼女の計画に辿り着ける。問題なのは、そもそも存在に気付けないという事と、気付いても誰がイザベラなのかまでは分からないという事。


 そしてもう一つ。既に街の不満は限界に達しており、内乱は避けられなかった。つまり、混乱極まる戦争状態の街に、騎士が襲撃をかける自体も避けられないという事である。


 どうなるかの想像は容易い。ただでさえ泥沼で両軍ボロボロの所に騎士なんか来ようものならば、太刀打ちする間もなく街は終わる。現に今から、そうなるだろう。


 何も、手を打たなければ。


「柊さん。ここで使うんだね?ここが、全ての合流点なんだね?」


「ああ。ここが、私の描いたこの内乱の着地点の一歩手前である」


 柊だけが、イザベラの存在に気付いた。しかし、イヌマキとロロという人外を除く他の誰にも打ち明ける事は出来ず、誰がイザベラかも分からず、ほとんど動けなかった。予防策が取れなかった。


 ならば、対応出来る策を打ち明けられる人物の中だけで用意すればいい。決して悟られず、バレないように。イザベラに全てが順調と思わせ油断させて、騎士達がしっかり襲撃をかけてくるように。


「シオン。パニック……そうだな。今回の混乱を鎮めるには、どうすればいいと思うかね?」


「え?え、えーと、戦ったり、話したり……」


「それも正解ではある。しかし、今回の内乱の場合、それだけでは到底鎮まらない。故に、私はこう答える。混乱に新しく、より大きな混乱をぶつけてやれば、前の混乱は鎮まるとね」


「あっ……」


 最初は暴論でら意味が分からないと思った。だって混乱自体は続くじゃないかと。けど、これは納得出来る暴論だった。


 騎士が来ても混乱は続くだろう。しかし、最初の混乱なんてしてる場合ではないのだ。なにせ軍も反乱軍も、命が欲しくて戦っている。生きる為に戦っている。その共通の部分を脅かす敵が現れれば、混乱は続いても内乱は一時休戦する。


 虫に刺された腕が痛いなら、脚を斬り落としたらどう?そうしたら腕の痛みなんて忘れるよと言わんばかりの、暴論。だが、論であるならば使える場面はある。


 今、この瞬間のように。


「さぁ、イヌマキ。拡声の魔法、全騎士の撃退及び魔法陣の奪取、そして日本人の保護を頼む」


「おうとも柊。そっちこそちゃんと台本考えたな?心に響くやつにしねえと全部オジャンだせ?」


 自らで情報を操作して引き起こさせた内乱。収集がつかなくなったかのように見えた内乱を敢えて騎士に襲わせる事で鎮め、その上でイヌマキという切り札を使い、魔法陣を奪った上で騎士を追い返す。


「安心しろ。筋書きはあるが台本はいらん。自分の心にも響かないような用意された文章では、人の心など動かせん」


「オールアドリブ・オールオアナッシング?よく言うぜ稀代の博打打ちが……俺の命、賭けるってんだ。本当に頼むぜ」


 そして、これから話すギャンブルで元の内乱を完全に鎮圧する。


 この絶望的に見える今こそが、望まれた場所。今までの戦況状況全てが柊の掌の上。たった一人だけの視点から孤独に、街を救おうとただの人間の身が化け物を真似て練った作戦。内乱の鎮圧、騎士の撃退、魔法陣の入手を兼ねた一石三鳥、約束された逆転の一手の策。


「封印解除。拘束解放。術式展開……最期の出番かもしれねえ。気張れやみんな」


 天に浮かぶは、七十二個にも及ぶ魔法陣。それは、『魔神』を倒すと言ったイヌマキの力になる為に、その身を捧げて魔法の使用枠を渡した七十二人の名を冠する光。


「独裁者は、いずれ倒されるべきである。人を虐げ、人から奪い、人を恐怖させ、人を従え、人を殺し、人を食べてまで私は生きた。惨めにも、生き続けた。全ては、この時の為。最大効率の死を迎える為だ。


 地に聞こえるは静かな叫び。この街を守る為。ただそれだけの為に何もかもを捧げてきた男の、最後の戦い。


「飛ぶ鳥三匹を引きずり落とす俺らの布石、ぶん投げてやろうぜ」


「ああ。取れる範囲は全て取る。つまり、これからは全部だ」


 これが、反撃の狼煙。


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