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経験のその先に

「へへへ、今頃あいつらは一心不乱にお前のことを探してるだろうよ。 いい気味だぜ」

「ーーッ!」


ガムテープで手足、口をふさがれたヨリは必死に声を出そうとする。

しかし、誘拐犯の耳には届いていない。


「それにしても、まさかお前がレア種の獣人だとはな。高値で売れそうだぜ、へへ」

「ーーッ!?」


ヨリの瞳から涙がこぼれ落ちる。


わたしはこのままみんなと会えなくなるんだと。


悲しみの感情が心の中で渦を巻く。


(助けて……っ!!)


ブウウウウウウウウンッ


「何だ!?」

「ーーっ!!」


彼女の祈りに応えるがごとく、後方からエンジン音が聞こえてきた。


「おーいヨリちゃーん! 助けに来たよー!」


ヒーローが駆けつけた。







急行で飛び出したカケル、トモ、吉成たちの前方に不審な車が見えた。


「あれじゃない!?」

「そうだな! 吉成、ぶっちぎってくれ!」

「オーケー!」


ブウウウウウウウウンッ


アクセルをさらに強く踏み、爆発的に加速する。


窓をあけ顔を出したカケルは、前にいるであろうヨリに大声で呼びかける。


「おーいヨリちゃん! 助けに来たよー!」


ガタンッ


「うわっ!?」

「カケル! 危ないから顔を出さないで!」

「は、はい……」


加速する車がついに逃走車と肩を並べた。


トモはその車の中に、拘束された妹を確認する。


「……っ! 待ってろ! 今すぐ助けてやるから!」

「そうだね! よし二人とも、しっかりつかまって!」


ブウウウウウウウウンッ

キキキイイーッ!!


「……!?」


一気に加速し、逃走車より前に出た吉成の運転する車は、派手な音を立てながら横向きに停車した。

ぶつかりそうになった逃走車は、そのサポートシステムが自動で作動し、衝突の直前にとまった。


ドアを開け、車の外に飛び出したカケルたちは、急いでヨリを助けようとする。


しかし、それよりも先に誘拐犯がヨリを車から出した。


「お、お前は……っ! 昨日ヨリにからんでた酔っぱらいじゃねえか!」


この事件の犯人、それは昨晩ヨリにからんでいた酔っぱらいの男だった。


「どうしてこんなことを!」

「うるせえ! お前らのせいでオレは恥をかいちまったじゃねえか! オレを見せ物にしやがって!」

「……たったそれだけのことで……?」


頭に血を昇らせた男は、理不尽な怒りをぶつける。


「オレは……。オレはな、人前で恥をかくことだけは嫌なんだよ!」

「ふざけるな! それだけのことでヨリちゃんになんてことをするんだ!!」

「くそっ! だまれ! だまらねえとこいつを殺すぞ!!」

「「「……ッ!?」」」


逆上した男はポケットからナイフを取り出し、ヨリの首元に突きつけた。


「てめえ……。ヨリを傷つけてみろ! ただじゃすまさねえからな!!」

「だまれって言ってんだろ!」

「ぐっ……」


ヨリにナイフを突きつけられ、思うように動けないカケルたち。

完全に形勢が逆転してしまった。


そんな中、吉成が小声で二人に声をかけた。


「僕にいい策があるんだけど」

「「「えっ!?」」


「ーーーーーー」


「……っ!? そんなのって!」

「いいや。吉成、お前天才だぜ」

「よし、じゃあこれでいこう。僕が合図を出したら動き出してくれ」

「おう!」

「りょ、了解……」


この危機から脱するために、彼らは一か八かの勝負に出る。



ーー吉成が動く。



「あ、UFO」

「え? どこどこ?」

「今だああああああああああああッッ!!!」

「グヘエエっ!?」



「ええ……。ホントに成功しちゃったよ……」



彼らの巧妙な作戦にひっかかった男は、トモのダイナマイトウルトラキックのえじきとなった。

その反動で倒れそうになるヨリをカケルが受け止める。


「大丈夫だった?」

「ーーーーっ!!」


ポカポカポカポカ


顔をゆでだこのように真っ赤に染めたヨリが、カケルにポカポカと弱々しい照れ隠しパンチをお見舞いする。


「ええ……。どうして怒ってるの?」


常識人だからか、それとも朴念仁だからか。

カケルには何もかもがわからなかった。







トモの渾身の一撃で完全にのびきった男を縛り上げ車に乗せ、カケルたちは旅館へ戻った。

その後、警察を呼び男の身柄を引き渡し、事件は一件落着した。


現在、トキの呼びかけで全員が『早雲山の間』に集まっていた。


ちなみに、まだまだ散らかっていた『早雲山の間』は、旅館に残っていたヒメたちがごみ一つ残らずきれいに掃除していた。

いや、くしゃくしゃになった紙切れが一つ、テーブルに置いてあるのだが。


フウとセン、勝たちはキャッキャと楽しそうに追いかけっこしている。


一方で、カケルたちはだらだらと嫌な汗をかきながら下を向いている。


腕を組むトキからはゴゴゴという効果音が聞こえてくるようだ。


カケルたちは息をのんだ。


彼女が第一声を発する。


「お前たち……」

「「「……」」」

「よくやった!」

「「「……へ?」」」


雷が落ちると覚悟していたカケルたちは、逆に褒められてしまい気が抜けてしまった。


「お、怒らないんですか? ボクたちがハメを外しすぎたせいで今回の事件につながってしまったのに……」

「それは違うぞ、カケル。今回の事件はどうであろうと起こっていた。でもそれを自分たちの力で解決しただろう? 私はそれを褒めているんだ」

「そ、そうですか……」

「よかった……」

「ふう、ひやひやしたぜ」


その場の張りつめた空気がほぐれ、笑顔が広がっていく。


カケルも笑顔になった。

その時。


「まあ、それは別としてだ。……カケル」

「ひゃいっ!?」


突然ドスのきいた低い声でトキに呼びかけられたカケルは、思わず変な高い声を出してしまった。


「お前、焦るあまりに私のメモ書きを捨てたらしいな……? そのせいで事件が余計に混乱したじゃないか」

「……まったくそのとおりでございます……」

「何度も言ってきたよな? その癖は直せと……」

「……まったくそのとおりでございます……」

「判決をいい下す」

「なんなりと」

「三日間、温泉に入ることを禁ずる!!」

「そんなあああああ!! ご慈悲をっ! ご慈悲を与えてくださいましっ!」

「私からは以上だ」

「うわああああああああああっ!!」


温泉大好きカケルに冷酷無慈悲の刑を言い渡すトキ。

彼は膝から崩れ落ち、やり場のない悲しみを床にぶつける。


カケルが荒れ狂う姿を初めて目撃した吉成たち『人』は、一歩ひいていた。


「カケルってあんなキャラだっけ……?」

「ああ、トキさんとのやりとりはいつもあんな感じだ」

「なんか、人が変わるね……」

「トキさんとカケルは一番付き合いが長いからね~。私たちはもう慣れちゃった」

「……」


この不思議なやりとりの一部始終に、ヨリは熱のこもった視線を送っていた。


「まあ、そんなわけだ! カケル、三日間我慢しようぜ!」

「うう……ボクに耐えれるかな?」

「大丈夫だ! なんたって今日は休日だぜ!」

「そっか……朝からいろいろあったけど、今日は休日なんだ!」

「そう! しかもまだ昼前だ! 思う存分楽しもうぜ!」

「……うんっ!」


トモの励ましのおかげで、カケルの笑顔が咲き戻る。


「よし! んじゃその前に一風呂ひとっぷろ行こうぜ! 朝の疲れをとりたい!」

「いいね! 僕も入りたかったところなんだ!」

「オレたちもいくぜ! なあ秀吉!」

「おう!」

「じゃあ、私たちもいこっか~!」

「そうだね! ヨリちゃんもいこっ!」

「うん!」

「ふーもー!」

「せんもー! かつもいっしょにいこー!」

「え……!? う、うん……」

「じゃあ久しぶりに、私もみんなと入るとするか!」

「この鬼いいいいいいい!! 悪魔あああああああああ!!」


カケルの悲痛な叫びが響き渡る。


笑顔の花びらがひらひらと散った。







カケルの地獄の三日間は想像を絶した。


彼の元気の源である温泉に入れない。

それは例えると、植物を地面からひっこぬくようなものだ。


三日間シャワーだけで過ごしてきたカケルはこころなしかげっそりしていた。


温泉禁止令が解かれる今日の朝、カケルはうきうきとしてエントランスに足を運んだ。


そこにはすでにトキの帰りを待つ吉成たちが集まっていた。

ちなみに、寝坊助のトモはいまだにベッドから出てきていない。


「やあやあみんな、おはよう!」

「やけにご機嫌だね……」

「まあね! 今日の仕事が終われば待ちに待った温泉だからね!」

「カケルはほんとに温泉が好きだよね~」

「うん! さいこーだよ!」


ガラッ


「ただいま! おっ、なんだカケル。やけにテンション高いな」

「はい! 今日の仕事が終われば、ようやく温泉に入れますから!」

「そ、そうか……」


さすがのトキも、カケルのこのハイテンションにはついていけないらしい。


「さて、こんなカケルは放っておいて」

「ひどい!」

「恒例のお土産タイムだ!」

「「「やった~!!」」」

「前回は吉成たち『人』を連れて帰ってきたんだが……」

「そういえば……」


吉成たちがここに来てからもう一週間以上が経ってしまった。

短い間ではあったがたくさんの困難があった。


しかし、それらを乗り越えられたからこそ、今こうしてみんなが笑顔で過ごしている。


幸せは誰かと共にしかつかめない。


カケルが余韻に浸っていると、トキがガラッと半開きの扉を全開にした。


「今回も新人を連れてきた!」

「「「……うそ」」」


その場にいた全員が固まる。


扉の向こうには二人の男女が立っていた。

歳はみんなと一緒くらいだろうか。


男のほうは全体的にクールな印象で、吉成に似ていた。

眼鏡をかけているせいか、一段と知的に見える。


一方、女のほうはお嬢様のような風貌で、真っ白なワンピースを着ている。

白の麦わら帽子をかぶっていて、それがまた清楚な雰囲気をかもし出していた。


「紹介する! 『獣人』のコマと、『人』の湯ノ沢花ゆのさわはなだ! みんな仲良くするようにな!」

「よろしく」

「よろしくお願いしますわ」


トキに紹介され、丁寧にお辞儀する二人。


「じゃあ、またお互いに自己紹介をしてくれないか?」

「わ、わかりました。じゃあボクからーー」

「ふわあ、おは~。なにやってんだ~?」

「あっ、トモ。おはよ!」


カケルから自己紹介が始まろうとしたとき、今まで寝ていたトモがこちらにやってきた。

寝癖のついた頭をわしゃわしゃとかきながら、みっともない表情であくびしている。


その姿を見た新人の二人がポツリとつぶやく。


「「……か、かわいい。一目惚れしてしまった(わ)……」」

「「「……うそん」」」


カケルたちは強烈なデジャヴと衝撃を覚えた。


「……なに? どったの?」


どうしようもない男は、相変わらずだった。


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