動き出す
「小さい子供たちがいないの! フウとセンに勝、それにヨリもいない! 誘拐されちゃったの!!」
その言葉を聞いた瞬間、カケルは目の前が真っ暗になった。
しかし、湧き上がってくる感情の渦を押し殺し、パニック状態のヒメと一を落ち着かせる。
「落ち着いて二人とも……。焦っても何の解決にもならない。とりあえず、まだ寝てるみんなを起こそう」
今にも崩れ落ちそうになる膝になんとか力を入れる。
カケルは二人を連れて食事の間である『早雲山の間』に戻る。
ぐっすりと気持ちよさそうに寝ているみんなを一人ずつ起こしていく。
相当幸せそうな様子だったので、起こすのには心が痛んだ。
そうして、全員がそろったところでカケルが話し始める。
「みんな、よく聞いて。小さい子供たちがいなくなってるらしい。もしかしたら誘拐されたかもしれない」
「館内はよく見た? どこかにいるかもしれないよ?」
この中で一番頭の回転が速い吉成が質問する。
その質問に、出来事にいち早く気のついたヒメと一が答えた。
「ううん、それはないよ。私たち館内を走り回ったし」
「子供部屋もくまなく見ましたけど……」
「そっか……」
「トキさんが朝早く帰ってきて、子供たちを連れてどこかへ遊びに行ったってことはないのかな?」
「それだったらボクたちに声をかけると思う」
「それもそうか……」
全員の心に不安が募っていく。
もしかしたら本当に……と。
そんな雰囲気をこれ以上広がらせないように、吉成が声をかける。
「とりあえず、このまま考えても仕方ない。もう一度館内を見回ろう! それに今回は外も調べてみようか」
「「「了解」」」
吉成の指示で、各自があちらこちらに散らばった。
カケルはまず初めに、ここ『早雲山の間』を調べることにした。
『早雲山の間』はあまり隠れる場所などないが、もしかすると厨房などにいるのかもしれない。
カケルは部屋全体を見渡す。
辺り一面散らかっている。
これはパーティーの残骸だ。
とりあえずごみだけは捨てることにした。
テーブルに置いてあるお菓子の袋や小さな紙切れ。
床に転がっているパーティーグッズの包装など。
これが原因で、小さい子たちが誘拐されてしまったのだと考えると、嫌気がさした。
こういう催しはみんな仲良くしていくために大事なことではあるが、昨日はハメを外しすぎたのかもしれない。
ごみ箱に袋や紙切れなどを捨てると、カケルは厨房に向かった。
*
数分後。
探し回っていたみんなが元の場所に戻ってきた。
各々の表情は暗い。
「……どうだった?」
「「「……」」」
カケルが尋ねても誰も答えず、ただ首を横にふるだけだった。
「……トキさんに連絡しようか」
「そうだな……」
「僕たちじゃどうにもならないからね……」
カケルたちの力じゃどうにもならないとき、彼らはいつもトキに頼ってしまう。
彼女はカケルたちを信頼しているからこそ旅館を任せている。
それなのに、これでは彼女を裏切ったも同然だ。
悔しさと申し訳なさで胸をいっぱいにしながら、カケルは電話をかけた。
プルルルル
プルルルル
二度のコールがなるがつながらない。
プルルルル
三度目のコールもダメか。
そう思ったとき、ガチャッという音が聞こえた。
「もしもし、カケルか? どうした?」
「ト、トキさん……」
「おいおい、どうして泣きそうな声なんだよ」
「い、いえ。気にしないでください……」
「……そうか。それで何の用なんだ?」
「それが……」
カケルは一瞬言いよどんだ。
しかし、思い切って告白する。
「すみませんトキさん! ボクたちが気を抜きすぎたせいで、小さい子たちがみんな誘拐されてしまったんです!!」
「……」
トキからの返事はない。
と思っていたら、予想だにしない答えが返ってきた。
「なに言ってるんだ? フウやセン、勝たちならここにいるぞ」
「……はい?」
「だからここにいると言ってるんだ。ほれ」
「フウだよー!」
「だよー!」
トキのほれという言葉のすぐ後に、フウやセンの楽しそうな声が聞こえてきた。
「えっと……どういうことですか?」
「どうもこうも、そっちにメモを残しているだろう? ちょうどお前たちが寝ていたテーブルのあたりに」
「あっ!?」
「「「えっ!?」」」
カケルが通話しているところを眺めることしかできないトモや吉成たちは、突然声をあげたカケルに対しびっくりする。
当の本人はそんなことなど気にもかけず、急いでごみ箱に向かう。
彼はごみ箱のなかにある一枚の紙切れを見つけ出した。
震える手で、それをその場にいる全員に見せる。
そこにはこう書かれていた。
『今日は運よく早い時間に帰れたから、フウ、セン、勝を連れて遊びに行ってくるぞ☆ トキより』
これを見たみんなはその場で崩れ落ちた。
ところどころから安堵と疲れの色が入り混じったため息が聞こえる。
「なんだ、やっぱりトキさんが連れ出してくれてたのか」
「ほんとに良かった~」
「休日の朝から、疲れたぜ!」
「だよなー! カケル、もしかしてお前が捨てちまったのか? まったく頼むぜ~。お前のおっちょこちょいには毎度困らされる!」
「……」
「……おい、カケル?」
「……」
何の反応も示さないカケル。
彼はメモ書きを突きつけたまま静止している。
いや、正確には腕が震えている。
腕だけじゃない。
身体全体が震えている。
「ど、どうした?」
恐る恐るトモが尋ねる。
すると、カケルはその重い重い口を開いた。
「……ヨリちゃんはどこにいるの……?」
*
ヨリが行方不明という状況を知ったトキは、急いで旅館に戻ってきた。
幸いにも出発してそう時間が経っていなかったらしい。
カケルたちはエントランスでトキを迎え、ソファーに腰を掛けて話し合いを始めていた。
「で、お前たちは館内をくまなく探したのか?」
「はい……だけど誰もいませんでした」
「何も言わずどこかに行っているということは?」
「ないだろうな。うちの妹はそんなことしない」
「ふうむ……」
トキがあごに手をあて思考し始める。
一方で、吉成が状況を改めて確認する。
「ねえヒメちゃんと一。二人は何時ごろに気がついたの?」
「私たちは、寝ているはずのヨリを起こしにいったとき、気がついたの……ねえ一?」
「そうだね……。だから8時くらいかな」
「今から30分前か……。トキさんは何時ごろにここを出たんですか?」
「私たちが出発したのは7時50分くらいだ。その時、ヨリはいたぞ」
「なるほど……」
トキたちがここを出発したのが7時50分。
それにヒメたちが気づいたのが8時だとすると、その間の10分間で誘拐されたということになる。
「今が8時30分だから……。逃走方法にもよるけど、まだ近くにいるかもしれない」
「そうだな。獣人が犯人なら、足が速く力持ちじゃない限り車を使うだろう」
「ですね。でもこの付近で車を駐車するのは無理だから、離れたところで車を用意していた」
「だとすると、まだこの近くにいるな」
「「「……」」」
吉成とトキが繰り出すハイレベルな推理に、カケルたちは口をはさめずにだんまりと聞いていた。
「よし、じゃあ私がこの付近を見てくる。お前たちは連絡を待っていてくれ」
「え、見てくるってどうやーー」
「じゃあな!」
吉成の質問を遮り、トキが飛び出していった。
「ねえ、トキさんって何者なの?」
「うーん、長い付き合いのボクにもわからないや。でも、すごい人だってのは確かかな」
「そうだなー。これまでにもオレたちは何度も助けられてきた」
「助けられてばかりで申し訳ないんだけどな!」
「だよね~。私たちもなにかしてあげたいよ」
これまでたくさん助けられてきた獣人が口々に話す。
プルルルルル
そんなとき、カケルの携帯がトキからの連絡を告げた。
「もしもし」
「ああカケル、いたぞ! 旅館からそう遠くない蛸川を沿って走っている。どうやら獣人らしいな。やたら車のスピードが遅い」
「そうですか! ボクたちが追いかけても間に合いますかね?」
「ああ。 うちにある『人』専用の車を使え! それならあっという間に捕まえられるだろう」
「わかりました! 失礼します!」
やることははっきりした。
あとは行動するだけだ。
カケルは全員に告げる。
「どうやら犯人は蛸川を沿って逃走しているみたいだ。でもうちにある『人』専用の車を使えば追いつくらしい。誰か運転できる?」
「僕に任せて!」
「ありがとう吉成! それじゃあ行こう!」
「待て、オレも連れて行ってくれ! 大切な妹の命がかかってんだ。兄のオレが行かなくてどうする」
「……っ。わかった!」
「私たちはここに残って待ってるね」
「フウちゃんやセンちゃん、勝を巻き込めませんし」
「そうだね! ここは頼んだよ!」
「オレたちに任せろってんだ! なあ秀吉!」
「おうよ!」
「ありがとう! じゃあ行こう、トモ、吉成!」
旅館を残りのみんなに任せ、カケル、トモ、吉成の3人は車へと乗りこむ。
「しっかりとつかまってな! 飛ばすよ!」
「うん!」
「おう!」
ブウウウウウウウウンッ
エンジンがうなり声をあげ、カケルたちを乗せた車は勢いよく前へ進みだした。




