一つになっていく
ガラッ
「うわあ、寒いなあ!」
「それにすごい湯気だね!」
「二人とも、はやく入ろう!」
仕事終わりのヒメ、一、ヨリの三人が露天へと足を踏み入れた。
「「「っ!?」」」
現在、ノブと秀吉のイタズラによって女湯に閉じ込められたカケル、トモ、吉成の三人は頭を抱えていた。
「お、女の子たちが入ってき……ブクブクブク……」
「お、おい、カケル!?」
「つ、ついに夢にまで見た混浴が……ブクブクブク……」
「いや、お前は気絶するな!」
「痛ッ!?」
流れに乗り気絶しようとするトモに一発げんこつをいれる吉成。
「どうしよう……カケルは気絶しちゃったし。出ようにも女の子に気づかれたら一巻の終わりだし……」
「この際だ、腹をくくるしかねえだろう……」
「トモ……お前男らしいこというじゃん」
「いっそのこと混浴しちまえ!」
「やっぱり男らしいですね! って言ってる場合か!」
パシーン
と小気味よくツッコミが入る。
「仕事終わりの温泉ってサイコーなんだよね!」
「わかる! わたしはお手伝いくらいしかしてないけど、温泉浸かってるときって幸せだもん!」
「貸し切りっていうのがまたいいね!」
「「っ!?」」
そうこうしているうちに露天風呂の入り口付近にいた女の子たちがほんの数メートルの場所に腰を下ろし始めた。
チャポンっ
いくつかのお湯に浸かる音が聞こえる。
「ちょっ! ほんとにまずいよ!」
「ワタシハ、サトリヲヒラクモノナリ」
「こんなときに悟りを開いてどうすんの!」
「ワタシハ、サトリヲヒラクモノナリ」
「うるせえ!」
「ワタシハ……」
「……」
「……」
「……って言わないのかよ!」
「誰かいるんですか?」
「っ!?」
トモと吉成が騒いだせいで、少し離れたところにいる一が気づいてしまった。
さらにヒメが声をかけてくる。
「ダメですよー? この時間帯は一般の方は入浴できません」
不幸中の幸いなのか、女の子たちは吉成たちのことを一般のお客さんと勘違いしているらしい。
これを脱出の好機だと思ったのか、吉成は必死に裏声を出す。
「お、おほほ。ごめんなさいね、知らなかったの。今すぐ出ていくわ!」
「い、今すぐでなくてもいいのですが……」
「い、いいのよ! ほら、あなたたち行くわよ!」
気絶しているカケルを背負い、トモに合図をかけたその時だった。
「……サトリヲヒラクモノナリ!!」
「今さら言うのかよ!!」
「……よっちゃん?」
「……兄さん?」
「お、お邪魔しました~~っ!!」
もうダメだと悟った吉成は無理やりトモを引っ張りその場から逃げ去ったのだった。
*
カケルが目を覚ますと、大きなたんこぶをつくり正座させられているノブと秀吉の姿が目に入った。
「な、なにしてるの?」
「僕らを女湯に閉じ込めたこいつらに罰を与えたところ」
「あ、ああ……それはお疲れ様です」
吉成の鬼のような表情に、思わず委縮してしまうカケル。
「……ところで、仏のようなポーズをとってるトモは……なんなの?」
「悟りを開いたそうです」
「そ、そうですか」
ちょっと気絶してる間にずいぶんといろんなことが起きていた。
「まあともかく、みんな! 今日はこれくらいにして明日に備えよう? 明日が終われば休暇だよ!」
「「よっしゃあああ!」」
正座させられていたノブと秀吉が雄叫びをあげる。
そこに吉成のゲンコツが落ちた。
たんこぶのうえにたんこぶが出来上がる。
「お客さんが寝てるんだから静かにしなよ」
「「……はい」」
「あ、あはは……。じゃあ今日はこれまで! おやすみ!」
「「「おやすみ!」」」
「ワレハサトリヲ……ZZZ」
彼らは明日の仕事に備えて、各自の部屋に戻った。
*
次の日はいつも以上に忙しかった。
みんな休む暇なくきびきびと、しかし楽しそうに働いていた。
トキから点検を任されているカケルも負けないように頑張っている。
彼は今、食事をとる部屋である『早雲山の間』を訪れ、どの料理の売れ行きが良いかなどを調べていた。
仕事をこなしながら、厨房で働いているトモと吉成の姿を見かけた。
「トモ~、これ味見してくれない?」
「……え? おれを味見してくれないかって……? ホモなの?」
「おれじゃなくてこれ! 僕がどうしてトモに味見されなきゃいけないんだよ!」
「冗談だって! どれ……。ん、美味い」
「さんきゅー」
相変わらず仲のいいコンビだ。
次にカケルはエントランスのチェックに向かう。
玄関とは、その旅館の顔でもある。
とても大事な場所だ。
そこではヒメと一が受付をしていた。
着物を着た二人はとても綺麗で華やかだ。
「いらっしゃいませ、お名前をお伺いいたします」
「こちらでお荷物をお預かりいたします。いち~、これノブたちに頼んで!」
「了解!」
こちらは女の子特有の仲の良さがでていた。
この二人も息ぴったりだ。
エントランスの用を終えたカケルは温泉に向かった。
旅館の命ともいえるのが温泉だ。
より多くの宿泊客に満足してもらうため、厳しいチェックを行う。
そこでカケルは、浴槽を磨いているノブと秀吉に気が付いた。
「なあなあ、昨日のイタズラは最高だったよな!」
「おう! 今夜もなんか仕掛けないか?」
「いいなそれ! 毎日してやろうぜ!」
それを聞いたカケルは頭が痛くなったが、それと同時にホッとした。
彼は温かい気持ちになりながら、他の場所へ移動する。
*
その日の晩のことだった。
「ねえねえ、一緒にお喋りしな~い?」
「い、いえ。申し訳ありませんが仕事中ですので……」
「いいからいいから~」
ベロンベロンに酔った一人の若い男が、食事の間の手伝いをしているヨリにからんでいた。
小学生の彼女はどう対応すればいいか分からず、困っている。
「いいじゃ~ん、喋ろうよ~」
「うう……」
「お客様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「あん? なんだよ。男に用はねえんだ、帰れ」
「いや、あんたが帰れよでございます」
「……はあ?」
低俗な男に大切な妹がからまれているのに我慢できなくなり、厨房からトモが出てきた。
「てめえ、オレはお客様だぞゴラッ! お客様は神様だろ!」
「ええ、重々承知しております」
「じゃあ首突っ込んでくるなや!」
「いえ、だからこそ言わせていただいております」
「なんだと?」
「まわりをよくご覧ください」
そう促され、酔っぱらいの若い男は自然と周りを見渡す。
そこで、彼の言動を快く思わない顔をしかめた他の客の視線に、彼は気づいた。
「そういうことでございます。確かにあなた様はお客様ですが、あなただけではなく他にもたくさんいらっしゃいます」
「うっ……」
「他の神様方にご迷惑をおかけなさいませんようお願い申し上げます」
「……くそっ! てめえら、覚えてやがれッ!」
形勢が悪いと判断したのか、男は捨て台詞を吐きその場を去っていった。
緊張が一気に解けたのか、からまれていたヨリが崩れ落ちる。
「はあ……怖かった」
「大丈夫だったヨリちゃん?」
「うん……。あっ、兄さん」
「ん?」
「……ありがと」
「おうよ!」
兄妹の温かさを感じる夜だった。
*
現在23時。
お客全員のチェックアウトも済み、すべての仕事を終えたカケルたちは、お菓子、ジュース、その他もろもろのパーティーグッズを持ち寄り『早雲山の間』に集まっていた。
休日を明日に控えた彼らは、これから『一週間お疲れさまでしたぱーてぃー』を行うのだ。
開催に先立ち、最年長のカケルが挨拶を行う。
ちなみにこの旅館のオーナーであるトキは今晩も出かけていた。
「ゴホンっ。ええ、みなさん、この一週間お疲れさまでした」
「「「お疲れさまでした~!」」」
「今週はイベントが盛りだくさんでしたね! 吉成たちがここで働き始めていろんなことが変わりました!」
「ノブと秀吉のギスギス感はすごかったよね~」
「それな! あのとき僕はどうなっちゃうのかドキドキしてたよ」
「まあ、今ではすごい仲良しだもんね!」
「おうよ! オレたち最強のコンビだよな!」
「そうだな! 吉成たちを女湯に(ゴツンッ!)ーー」
「え? 今なんて?」
「いやあ、何でもないよ! なあカケル~!」
「う、うん! ねえトモ!」
「ワレハサトリヲヒラクモノナリ」
「……どこかで聞いたような……」
「と、とにかくかんぱ~い!!」
「「「かんぱ~い!」」」
チンッ
ジュースの入ったグラスとグラスが美しい音色を奏でる。
パーティーが幕を開ける。
グビグビグビッ
ジュースを飲み干す気持ちのいい音がそこらじゅうから聞こえる。
「ぷはあ! うめええ!」
「ふふっ、兄さん、おっさんみたい!」
「はは、そうか?」
和やかな兄妹のやり取りにカケルたちは温かい気持ちになっていた。
「あの二人っていい兄妹だよね」
「そうだね。ヨリちゃんがからまれたとき、トモがあんなにも良い兄さんっぷりを見せるからびっくりしたよ」
「吉成は知らなかったっけ? トモは妹想いのいい兄さんなんだよ」
「シスコンなのは知ってたけど、まさかあいつができた人間だとは……」
「ま、まあいつもの言動が言動だからね……」
「そこがまたギャップがあってたまらないんですよねっ」
「そ~なの! トモのそういうところが私も好きなの~」
「へえ、女の子たちはそこにひかれるんだね~。……ん? 女の子たち?」
今の会話に違和感を覚えるカケル。
少しの間、頭を働かせる。
「ッ!? え!?」
「ど、どしたの?」
「い、いやっ! ……吉成、ちょっとこっち来てくれる?」
「う、うん……」
カケルに言われるがまま、吉成は部屋の隅っこに移動する。
「で、なに?」
「あ、あのさ、一ちゃんがトモのことを好きなのは知ってるよね?」
「うん。ここに来たときに一目惚れしたって言ってたからね」
「それでここからが本題なんだけど……さっき一ちゃんの後に、ヒメもポロリとトモのことが好きとか言ってなかった?」
「あっ、言われてみれば! トモのやつ、けっこうモテるんだな」
「……それと、ノブがヒメのことを好きなのは知ってる?」
「いや、初めて聞いた! ……一波乱起きそうだな」
「これはみんなには黙っておこう……」
「そうだね……」
「おーい、お前らそんな隅っこで何やってんだ~?」
ことの中心にいるトモに呼びかけられ、ビクっと肩を揺らす二人。
彼らはこのことを心にしまいこみ、固く鍵を閉めた。
「じゃあ、行こうか!」
「そうだね! 楽しもう!」
カケルたちは再びみんなの輪の中へ戻っていった。
長い長い夜が始まる。
*
「ーーーーっ!」
「……んん?」
お祭り騒ぎな楽しい夜を過ごしたカケルは、何か騒がしい声に目を覚ました。
誰かが何かを叫んでいる。
重いまぶたをこすりながら、立ち上がってロビーに出る。
そこには必死の形相で息を上げているヒメと一の姿があった。
彼女たちの様子からただごとじゃないと察し、一気に目が覚める。
「どうしたの!? 何かあった?」
「小さい子供たちがいないの! フウとセン、勝にヨリまでいない! 誘拐されちゃったかも!!」
春の嵐が再びやってくる。




