覗いたその先
「おい秀吉! そっちの品は任せた!」
「へいへーい了解!」
和解した後の彼らのコンビネーションには、目を見張るものがあった。
ついちょっと前の険悪ぶりがまるで嘘のようだ。
現在は23時前。
ちょうど夕食の提供が終わる少し前だ。
息ぴったりの仕事っぷりを厨房から見ていたカケル達は、心から安堵していた。
「あの二人、いいコンビだね!」
「うん、ほんとに良かったよ」
「あ~、オレにもいい相棒がほしいぜ。吉成、君の魅力に気づいてしまったよ。もう我慢できない。結婚しよう!」
「うるさいシスコン! お前はヨリちゃんと結婚しろ!」
「……お前、天才か……っ!?」
「真に受けてどーすんの! 冗談だよ!」
(この二人はすでに息ぴったりだと思うけどなあ)
あははと、心の中で苦笑いするカケルだった。
*
夕食の片付けも終え、仕事も一段落ついたカケル、トモ、吉成の3人は浴場に向かっていた。
ノブと秀吉にも声をかけたのだが、彼らは「お先に!」と言って数分前に行ってしまった。
別れ際、にやにやとしていたので、カケルは少しひっかかりを覚えていた。
「かあ、今日も疲れたぜ~! この仕事終わりの一風呂が最高なんだよな~!」
「わかる! それと風呂上がりの牛乳一杯も欠かせないな~!」
「ボクはフルーツオーレかな!」
他愛のない会話をしているうちに脱衣所に到着したカケルたちは青いのれんをくぐり抜け、服を脱ぎ始めた。
タオルをもって浴場へと足を踏み入れる。
カポーン
緊張の糸が張っていた心が一気にほぐれる。
なんとも不思議な音だ。
湯船に浸かる前にまずは体の汚れを落とす。
基本のマナーだ。
「ふふーんふふーん、ふふーんふふーん、ふふっふふふん♪」
トモが頭を洗いながら軽快に鼻歌を歌い出す。
お風呂に入ったら歌いたくなる。
よくあることだ。
体を洗い終えた彼らは露天へと続く道の上を歩む。
ツルン
「うわっ!?」
「ははは、相変わらずカケルはよく滑るな!」
「ほ、ほっといてよ!」
「トモもよくスベってるけど……」
「……」
「「ぷっ、あはははははは~!」」
呆然とするトモの表情に、カケルたちは思わず爆笑してしまった。
扉を開け外に出たカケルたちは、その寒さに体を震わせる。
現在は3月と寒さも和らいできた時期だが、さすがに夜はまだ冷える。
彼らはせっせと急ぎ足で湯船に体をつける。
チャポン
「ふう~、マジで生き返るぜ~」
「極楽だね~」
おやじ臭くなるトモと吉成。
しかし、ここの湯はそれほどにも気持ちがよかった。
「ここの温泉は、本当に広いよね。湯気のせいもあるけど、全体が見渡せないよ」
「そうだね。 ちなみにここは世界でも指折りに入るほど大きな温泉だよ」
「そうなのか! まあ、確かにそれくらい広いね」
わいわいと盛り上がっていると、突然トモが立ち上がった。
「ど、どうしたの?」
あまりのも真剣な表情に、困惑するカケル。
するとトモは真面目な顔つきで、
「オレ、覗いてくるわ」
なんてほざきだした。
カケルは慌てて説得する。
「いやいや、何言ってんのさ!」
「大丈夫だ、湯気であまり見えないだろうから!」
「そういう問題じゃないよ!」
「僕も行こうかな」
「ええ!?」
今まで黙っていた吉成が突然賛成し始めた。
カケルは二人をとめるすべもなく、力尽きてしまう。
「あの、ほんとにちょっとだけだからね?」
カケルはしぶしぶ最低限の注意をした。
したところで何かが変わるわけでもないのだが。
彼らは男湯と女湯をさえぎる壁へと近づき、覗き穴を見つける。
「ここがオレの知ってる覗きスポットだ。誰にも言うなよ?」
などと、無駄にかっこつけて紹介する。
「じゃあ、さっそく。お宝はっけーん!」
バカ丸出しの掛け声とともに覗き始めたトモ。
片手を頭に当て、はあとため息をつくカケル。
「……」
「ト、トモ?」
カケルの予想では「うほほーい」や「おっぱいがいっぱーい」などと、最低な感想が聞こえてくるのかと思ったが、いくらたってもトモの反応がない。
「ねえ、トモ?」
と、改めて呼んでみると、彼は頭にはてなマークを浮かべて口を開く。
「なんか向こうにノブと秀吉がいるんだけど……」
「「え?」」
あまりに予想外の答えに、一瞬思考が止まってしまった二人。
トモの見間違えじゃないかと思い、二人が穴から覗いてみると。
そこには間違いなく、ノブと秀吉の二人がお湯に浸かっていた。
「な、なんであの二人が女湯に?」
「わ、わからない……。とりあえず声をかけてみようか」
そう決めて壁越しに声をかけることにした。
おーいと、トモが大きな声で呼びかける。
「ノブと秀吉、お前らなんでそこにいるんだよ! そっちは女湯じゃないか?」
すると、大きな笑い声と共に答えが返ってくる。
「お前らこそ~、どうしてそっちにいるんだよ~?」
「そっちが女湯なんだぜ~?」
「「「……は?」」」
予想だにしない回答が返ってきた。
カケルは青いのれんを確かにくぐってきたことを思い出し、彼らに伝える。
「ボクたちはちゃんと青いのれんをくぐってきたよ~?」
すると、一段と笑い声が大きくなり、返答が来る。
「あっ、ごっめ~ん! オレのミスで間違えてたんだよ! 今は赤いのれんに変えてるから安心してくれ!」
「……?」
「ッ!? あいつらやりやがったな!」
いまいち状況を理解できていないカケルとは別に、吉成は何かに気づいたようだった。
不思議に思ったカケルは尋ねてみる。
「ねえ吉成、いったいどういうこと?」
すると吉成は血相を変えて立ち上がった。
「あいつらは僕たちがここに入るのを確かめてから、青いのれんから赤いのれんに変えたんだ」
「うんうん」
「つまり今、ここは女湯でいつ女の子たちが入ってきてもおかしくないってことだ!」
「え!? それって早く出ないとまずいんじゃ……!」
「いや、落ち着け」
「「え?」」
焦る二人を諭すかのように、ゆっくりとノブが話し始める。
「……それってつまり混浴だろ? ……さいこーじゃねえか」
「んなこと言ってる場合か!」
「痛ッ!?」
トモのふざけっぷりに、いつもより気合いのこもったツッコミが飛ぶ。
「いいか。もしヨリちゃんと出くわしてみろ」
「死んでもいいな」
「お前はヨリちゃんと一生口をきいてもらえないぞ」
「よし、いますぐ出ようじゃないか!」
現金な男だった。
彼らの意見が一致し、今から脱出を図ろうとしたその時だった。
ガラッ
「うわあ、寒いなあ!」
「それにすごい湯気だね!」
「二人とも、はやく入ろう!」
仕事終わりのヒメ、一、ヨリの三人が露天へと足を踏み入れた。
「「「ッ!?」」」
男三人の人生をかけた戦いが、始まる。




