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新たなつながり

新たな仲間と共に仕事を始めてから数日が経過した。


ここ数日の間、獣人と『人』とのハーフである白黒の髪の青年、カケルは経営者であるトキから旅館の改善点の発見を任されあちらこちらを点検していた。


建物中を歩き回る間、彼は獣人と『人』との仕事っぷりを見てきた。


厨房や客間の整理担当の残念なイケメンことイヌの獣人、トモと『人』の中でリーダー的な立ち位置にいる吉成のコンビは見事にかみ合っていた。


これはついさきほどの出来事である。



吉成が客間の掃除を終え、隣の部屋に移動したとき、敷布団の上に誰かが倒れ込んでいた。

その部屋の客は既にチェックアウト済みだったので、不信感を覚える。


彼は勇気を出して、倒れ込んでいる人物に声をかけた。


「あの、どちら様でしょうか? ここの部屋の方ではありませんよね?」


それを聞いた不審者は眠そうな顔をあげ、彼の質問に答える。


「あっ、怪しいものじゃありませんよー。 オレはここの従業員なんでー」

「なんだ、トモか。それなら安心して、僕は別の部屋に行くね!」

「ほーい」

「……って、んなわけあるか! なに再び夢の世界へ旅立とうとしてるんだよ!」


なんとも自然な流れだったので、吉成は完全に見過ごすところだった。

自分と同じ仕事中であるはずのトモがなぜこんなところで眠っているのか。


いや、どう考えてもおかしいだろう。


トモは気持ちよさそうに枕に顔をうずめる。


「ん~、勤務中に眠れる仕事なんて夢みたいだな~」

「いや、ほんとに夢見てるじゃないか!」

「お~、うまいですな~」

「べ、別にうまいこと言ったつもりは」

「このアイスクリーム」

「夢の中の話かよ!」


ぜえぜえと、吉成はボケまくるトモに間髪いれずツッコミを入れる。

彼はよだれを垂らしながら寝ているイヌの青年をなんとか起こそうと体を揺さぶる。


「いや~ん、そこはだめ~」

「いいかげんにしろ!」

「はうまっちッ!?」


とうとう頭にきた吉成は、彼のみぞおちにエルボーを加える。

相当効果があったのか、やっとのことでトモが目を覚ました。


「げふっ……お、おはよう吉成。いい朝だな」

「おはようじゃないよ! いったい何してたの!」


彼に勤務中眠っていた原因を尋ねた。


「……い、いやあ、オレも最初はしっかりと仕事してたよ? ただこの部屋の良い香りに誘われて眠ってしまっていたのさ」

「いい香り? 確かにちょっとお花の香りがするけど……」


彼が眠っていた部屋は確かに花の良い香りが漂っていた。

もしかすると、宿泊した客の匂いが残っていたのかもしれない。


「この部屋の良い香りをかいだらさ、何だかいい気分になっちゃって。そのままごろんとな」

「でも枕に顔をうずめて寝る必要はないんじゃ」

「……ここに宿泊していたお客、実は美人なお姉さんだったらしい」

「えっと、警察は110番だっけ」


ピポパと携帯電話に特有の電子音が響く。

この間、わずか数秒。


「待て待て待て! オレは下心があってそんなことをしたんじゃない! ……ただ彼女の匂いはどんなものだろうとただ純粋な気持ちから」

「もしもし警察ですか、隣に変態がいます。助けてください」

「ちょ! 冗談! 冗談だから!!」


この後どうにか通報を免れたトモは、よりいっそう気合いを入れて仕事に取り込んだのだった。







改善点を探し歩き回っていたカケルは、前方にある部屋のドアが少し開いてることに気がついた。

ドアノブを握り閉めようとした時、部屋の中から楽しげな会話が聞こえてきた。


何だろうとドアの隙間から部屋を覗いてみると、


「着物って着るの難しいね」

「慣れれば簡単だよ!」

「一さん、すごく似合いそう」


そこには秘密の花園が広がっていた。


(こ、これって着付け中……!?)


彼は顔を赤らめドアを閉めなければと思いつつも、体が言うことを聞かず硬直してしまっていた。


「わあ、一さん大きいね!」

「や、恥ずかしいです!」

「……ぷい」

「ヒメ姉ちゃん、自分が無いからってすねないでよー」

「すねてないよーだ!」


(ちょっ! ほんとにダメだよ! 動いて僕の体! 動いて~!)


なんとか脱却しようとするが、しかしなにも起こらない。

どうしようどうしようとカケルがテンパっていると、そこに一人の青年が通りかかった。


「どったのカケル。なにしてんの? まさか、のぞきか?」

「あっ!」


そこに現れたのは、良いのか悪いのか、残念なイケメンことトモだった。

彼はカケルに近づき、同じように部屋を覗いた。


「マ、マジで覗きかよ……。カケル、お前いつの間に男らしくなったんだ」

「ち、違うよ! 体がうまく動かないんだ!」

「あ~、もしかして腰が抜けちまったのか? しゃ~ねえ、オレが担いでやるよ」

「あ、ありがとう……!」


彼の提案にカケルは目をキラキラと光らせる。

意外とトモは頼りになる男なのだ。


「よし、じゃあお姫様抱っこしてやるよ」

「え……わ、わかった」


そう言って、彼がかがんだそのとき。


ドカッ


かがむ際にドアにぶつかってしまった。


「あっ、やっべ……」

「ッ!? 誰か外にいるの?」

「わたしが見てくるよ」


今の音で部屋の中で着付けを楽しんでいた女の子たちが気づいてしまい、ヨリがドアのもとへと歩み寄ってきた。


ガチャ


「誰?」

「「あっ……」」


ヨリの視界に入ってきた光景、それは兄であるトモが彼女の想い人であるカケルをお姫様抱っこしようとしている、理解不能なものだった。


人間が理解の壁にぶち当たったとき、起こす行動が二つある。

一つは立ち止まって考え乗り越えようとすること。


もう一つは、


「な、なにしようとしてるの兄さんッ!!」


バキイッ


「り、理不尽の極みッ!!?」


考えることをやめ、右ストレートをかますことである。

まともにくらったトモは信じられないほどの時の間、空中を舞いバタンと倒れこんだ。


「……ガタガタガタ」


見事に決まった右ストレートを目の当たりにしたカケルは、ただ震えることしかできなかった。







女の子たちに弁明してどうにか許しを得られたカケルとトモは、二人でとぼとぼ館内を歩いていた。

トモの左頬はいまだに赤く腫れあがっている。


「ったく、ヨリのやつもひどいもんだよな」

「あはは……」

「昔は兄さん兄さんって、あんなにもくっついてきたのにな~」

「ヨリちゃんもお年頃だからね……」


目をつむり良き頃の思い出に浸っている彼に、カケルは苦笑いを浮かべながら受け答えする。


すると何かを思い出したらしく、焦燥感を全開にしてトモがカケルに質問する。


「なあ、あいつ最近悩み事をしているようなんだ。何か知ってるか?」

「ボクも気になっていたんだ。何か力になりたいんだけど原因がわからないんじゃ……」

「あれ、二人ともどうしたの?」

「あっ、吉成!」


二人して頭を抱えているところに、客間の仕事を終えた吉成にふと出会った。

カケルはいいことを思いついたといわんばかりに、吉成に尋ねる。


「吉成、小学校高学年の女の子が悩むことって何だと思う?」

「恋」

「「……え?」」


何食わぬ顔で即答する彼に、鈍感な男二人は目を見開きまぶたをパチパチとする。

吉成は続けて、


「年頃の女の子の悩みといえば大体は恋でしょ? え、違うかな?」

「目から鱗だね」

「目からぼたもちだな」

「たなからぼたもちだから! 目からぼたもちは怖いわ!」


キレのいいツッコミなんかに目もくれず、トモは真剣な表情を浮かべる。

すると今度は、見たら誰もがイラッとするような微妙な顔になり、小声で呟く。


「……ヨリがオレのもとから去る、だ、と……!?」

「お前は匂いフェチの上にシスコンなのか!?」

「なんのこと?」

「いや、なんでもない……ッ! 吉成の言うことなんか気にしないでくれ!」

「……?」


高次元な内容に理解が及ばないカケル。

彼はお年頃にも関わらず純粋なのだ。


そうこうしながら彼らが厨房を通りかかったとき、カケルは食器を片付けている二人の青年の姿をとらえた。


「……あの二人、大丈夫かな?」

「ああ、ノブと秀吉か」

「今のとこはなにも起きてないけどね」


初めにカケルたちと『人』が会ったときに、彼らは大きな大きな壁を作ってしまった。

あの時はトキがいたからなんとかなったが、この二人はケンカを始めてもおかしくはなかった。

むしろ、いまだに何も起こっていないのが不思議なくらいだ。


実際、目の前にいる二人は一触即発のムードだった。


「まあ、時期に仲良くなるだろ」

「そうだといいけどね」

「う~ん」


そう今は思うことにしてその場を離れたその直後。


パリンッ


厨房からお皿が割れるような音がした。

カケル達が急いで戻り、覗いてみると、


「もう我慢できねえ! こんな雑用なんて仕事辞めてやる!」

「……なんだと? てめえ、もういっぺん言ってみやがれ!」


ノブと秀吉がお互いの服の襟元をつかみ合っていた。


「ちょっ! これはまずいんじゃ……っ!?」

「ああ、止めるぞ!」

「わかった!」


ついに緊張の糸が切れてしまった。


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