表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニバース☆ツアラーズ  作者: 霜樹
第一章
9/17

ドリアゲール-ザネン伯爵

 門の前に立つ衛兵に伯爵と約束が有ることを告げ、出てきた執事にダリアス博士からの依頼であることを告げると邸宅の玄関を通される。


 外から見て三階建てなのは分かっていたが、玄関を入った空間はその三階まで吹き抜けになっている荘厳な作りだ。部屋としてはそれほど広い訳ではないけれど、開放感はある。

 しかし僕は気づく。二階、三階部分にはテラスのような張り出しがある。この屋敷に攻め入った一団がいたならば、上から狙い打ちだ。戦乱に造られた建物に違いない。


 ザネン伯は在宅のようだったが、ダリアス博士から連絡を受けていたとしても大幅に遅れての到着だから彼の予定はわからない状態だった。



「ようこそグロデニア公国へ。ダリアスから連絡を受けていたのですが、おいでにならないので不思議に思っていたところです」


「宇宙船が事故に巻き込まれまして。命拾いしてたどり着いた次第です」



 ザネン伯は豪快そうな人物だった。背が高く横幅も広い。がっちりした体格は僕の倍ほどの身の丈で優れた剣士であろうことを予想させ、屈託なさそうな笑みの奥で人を測るような光を感じる瞳は指揮管としての才能を予感させる。それでもいやらしさは感じさせず、少なくとも気持の良い人物ではあるようだった。



「しかしお若いですな。ミルサスの賢者様なのであればその能力を疑う余地はありませぬが、それにしてもお若い」


「気にされるのはごもっともです。当年とって十二歳、若輩ながらミルサスの賢者の称号を得たものとしてお話をお伺いに参った次第です」



 言いながら首からぶら下げた賢者の証であるメダルをかざす。



「ふむ、お若いからといって不満ということはありません。それよりも、お一人でいらっしゃると伺っておりましたが、女人連れとは隅におけませんな。このような可愛らしい娘を同行されている方が余程気になりますぞ?」



 僕はレニータに外で待てと言ったのだ。なんならヴァルターと合流してブラブラしてもらっていてもよかった。


 この場はビジネスだ。のっけから女性連れではチャラついた印象を持たれてしまう。しかしレニータは明確に否定した。



「私はトゥールちゃんと一緒にいる。始めて会う相手にせっかく私がいるのよ? 損はさせない。信じて」



 そこまで言われると彼女がスレイムルである以上、強く拒否する理由もなくなってしまう。そのままずるずると同行を許していた。



「私はスレイムル人のレニータと申します。トゥール様とは共に遭難し、救っていただいたご縁。少しでもお役に立てればと御同行を申し出た次第です」


「なるほど、スレイムル民族ですか。人の心に干渉する力を持つとか。我にお疑いの要素でもあるのかな?」


「あるいはご気分を害されること、ご容赦下さい。全てはトゥール様のため、でございます。ザネン伯爵様を存じ上げている訳でもなく、ただただトゥール様をお守りしたいゆえの同席でございます。普通に気づかぬ事にも気づけるのがスレイムルの取り柄。どうか、お気を回さぬよう」



 なんだそれ? つか、レニータが『トゥール様をお守りするべく滅私してご同行させていただいた淑女』級に昇格している。いや勝手に付いてきただけだろ?



「そうまで言われるのなら同席されるが良いでしょう。なにやら聡明でもあるようだ、むしろお知恵を拝借したいものですな」



 ザネン伯が語った困りごととは概ね予想通りだった。


 ある日眼帯で片目を覆い、額に第三の目を持つ巨漢が数人の部下と思われる他星人と共に現れた。完全にゴロツキの印象だったが特に問題を起こすでもなく、夜な夜な酒場でバカ笑いを響かせる集団に過ぎなかったらしい。タンバリクはどちらかというと荒っぽい街らしく、数日経てばそれほど違和感のない異邦人程度の存在だったそうだ。


 そしてある夜に酒場で喧嘩沙汰が起こる。喧嘩沙汰自体は日常の一部だが、その夜はどうやら女絡みのいさかいで、短いが分厚い刃を持つ蛮刀を下げた男がふらりと酒場を訪れ巨漢の他星人達とバカ騒ぎしていた、地元では顔の知れた男をいきなり切りつけたらしい。


 三つ目を持つ男は豪快に笑いながら振り降ろされた蛮刀を素手で、それも指で挟むだけで止めるとそのまま取り上げてしまう。結果誰も傷つかなかったが、人一人が殺されるところでありさすがに度が過ぎている。店内の空気が凍りつく中で



「お兄さん、俺は今この人と楽しく飲んでいるんだ。文句をつけるにしてもいきなりはねぇだろう。落ち着いてお互い言いあってみりゃいいんじゃねえか?」



 いきなり襲いかかった男は相当な喧嘩上手で知られており、しかも愛用の狩猟刀を持ち出しているのだ。


 そもそも襲われた方も喧嘩では一般の堅気者に太刀打ち出来ない輩であり、この組み合わせでは下手に首を突っ込んだらとばっちりで腕の一本も落とされかねない。


 それを指先で止めた刀すら取り上げて、しかもニコニコと説教する人物。ただ叩きのめしたのであればまだしも、諭すように語りかける三つ目の男は確かなカリスマ性を発揮していた。


 その後襲った方も襲われた方も仲間になり幹部になっているその組織、それが初期のフォレシス教団だったらしい。



「教団を名乗っておりますが特段教義をふりかざすでもなく。三つ目の巨漢、名をウルンガと言うのですが、彼を崇めてると言いますか。彼の命なら集落を一つ潰すのも躊躇わないでしょう。寄付金を募るでもなく人を集めてはドリアゲールを掘らせているとの噂もあります。ドリアゲールはご存知ですかな? 確かに硬い石だがそれだけだ。太古には鏃にも使われていましたが今は鉄ですしね」



 ザネン伯をしてこの認識だ。この国にも貴石を飾る習慣はある。エメラルドのような鮮やかな緑色の石を細長く加工してチャームにしている婦人も見かけた。


 しかしダイヤモンドは非常に硬い故に自由に加工しようと考えなかったようだ。結局、透明な黒曜石程度の価値しかみていないようだ。加工の難しさを考えたら以下かも知れない。



「ザネン伯、一つ申し上げる。ドリアゲールはダイヤモンドという宝石として、最高峰の評価を持つ鉱石です。形を整える事で非常な高値で取引されています」


「なんと? それは本当ですか? 高値と言えど知れた金額ではないのですか?」



 日々変化するダイヤモンドの取引相場までは僕も知らない。



 「少なくともこの国の相場の数千倍の金額だとお考え下さい。奴らの狙いはダイヤモンドの転売であると思います」



 この国は、いやこの惑星は基本的に星間連邦や他星と貿易はしていない。明確なルールの元に貿易を禁じていれば密輸にも当たるだろうが、星間連邦が指定した貿易協定は農産物だけであり、その他は良いとも悪いとも決まっていないことはこの星に関する概要データで学習済みだ。



「彼らが奪うでもなくダイヤモンドを採掘し、この国の手段で宙港まで運び、他星系でいくらで売り捌こうと法には触れていないことになりますね。しいて言えば価値が低かろうとこの国の財産の一部を勝手に持ち出している部分が問題でしょうか」



 ダイヤモンドが石ころと同じ価値の世界があるなど誰が想像しただろう。悪人のバイタリティはいつの世も善人の常識を上回る。しかし、そう考えるとそもそも彼らは悪人なのだろうか。



「最初は良かったのです。確かに荒くれで、如何にも始末の悪そうな連中でしたが問題は起こさない。それどころか先述したように仲裁までするくらいです。この辺りは鉱山や狩猟で暮らしを立てる者も多く、決しておだやかな気質というわけでもない。彼らは国の掟に反する行為さえしなければ出稼ぎの者と変わらないくらいでした。まして卓越した能力で荒くれ共をまとめてくれるなら、こちらから統治の一助をお願いしたいくらいだった」



 ザネン伯はにがにがしい表情を浮かべ



「ある日突然集落を襲ってきたのですよ。二十人ほどと聞いておりますが若い女と屈強だが従順な男、それと子供以外は皆殺しです。慌てて「マザー」にお伺いをたてても星間連邦のルールを逸脱した侵略行為にはあらず。実際、実行部隊はこの国の者共だったと思われます。マザーにはこの国内の事件としか捉えられていないようです。宇宙の進化した文明の方には信じられないのかも知れませんが、我が国では山賊も存在しますし、それらが集落を襲って食料や女を略奪することもある」


「軍隊を差し向けた、とか」


「我が国に限らずこの地域は数百年間、隣国に侵略しようとする国はありません。防衛組織としての軍隊を持たぬ国すらあるくらいです。三百年ほど前迄は食料を争って戦乱が絶えず、お気づきかどうか砦もこの屋敷も立派な戦乱仕様です。しかし、二百年ほど前に気候が変わり、それまでに比べて温暖で雨も多くなり土地も肥えた。肥沃な大地は何倍もの食料が生産できるようになり、バーロン地方の六国一市は講和協定により不可侵を約した。その結果、それ以来戦争は一切起こっていません。我が国は伝統に従い一定数の軍隊を組織していましたが、実際には街の警邏や災害時の救助活動が主な仕事。それでも武芸優れた者の憧れの職業であり、定期的に開かれる戦武典会は他国の戦士も招いてそれなりのものです。ですから戦闘力という意味では高い水準にあったと思いますが、二百の兵のうち八十ほどがウルンガ一人に殺されました。本当の戦いを知らぬ戦闘集団は引き際もわからなかった。手下に殺られた者も合わせて百十ほど殺されたのです。討伐隊は大量の死者と負傷者を出して大敗したのです」



 地上戦闘に慣れた宙族の侵略でも受けたら惑星ごとあっという間に占領されてしまいそうな国であり星だった。もちろんそれだけの大規模侵攻なら星間連邦が黙っていないが。



「とにかくマザーは役に立ってくれない。そんな行為に対する救援要請にも判断はネガティブ。お前らの国の話しだろ? との神託をつぶやくのみです」



 状況を聞く限りやむを得ない。マザーにはミルサスも多く参加しているし、思考パターンも似たところがある。僕の判断も単なる内乱であり超文明の介入こそ理不尽だ。



「つまり僕への依頼は抵抗不可能なならず者戦闘集団を、この国の枠内の装備で排除できないか、と」


「まあ、そうなります。あるいは超文明の侵略と定義付けて、星間連邦の法により罰していただけばと」


「それは無理でしょう」



 ウルンガという男は明らかに計算ずくで事を進めている。この惑星以外にダイヤモンドが石ころ同然の星がそうそう存在するとは思えないが、似たようなスキームで宇宙中を渡ってきたに違いない。


 三つ目の特徴と合わせてゴルス隊長や、あるいはヴァルターなら知った存在かもしれない。



「わかりました。まだお受けするかの即答は控えさせていただきますが、予備調査に入りましょう。ところで単純に傭兵をフォレシス教団にぶつけたときは、報酬を出す心づもりは有りますよね?」


「この国のルールに従う戦いであり、かつ成功報酬ならば可能でしょう」



 どんな低文明で辺境の惑星の国でも宙港がある星の元首であれば星間連邦との会話は出来る。自星のルールを無視して最新装備の戦闘集団を調達するのは不可能ではないはずだ。


 しかし全惑星単位で開星する決議でもあればともかく、一国だけで超文明に頼ると言い出したところで通用はしない。よってルール厳守は絶対になるだろう。



「それはそれでいいでしょう。別に傭兵を入れる事が唯一の解決手段と言っているのでもありません。差し当たり、奴らの犯罪に該当すると思われる行為を書き出していただけませんか。お受けするにしろ彼らが悪人なのか、宇宙基準に照らせばむしろ卓越した商売人とさえ言えるのか、は見切らなくてはなりません」


「わかりました」



 価値基準の違う地域にモノを運び利鞘を得るのは単なる商売の王道だ。ウルンガの狙いがダイヤモンドの輸出でも、いままでこの国が禁止していなければ直ちに違法ではない。村を襲う事を主導したことが、ウルンガの指示であることを証明出来れば悪人と定義できるんだろうが。



「なんだかもやもやした気分ね」



 そのままザネン伯の居宅の空き部屋に泊めてもらう事になった僕とレニータ。部屋は別々だ。


 しかしさんざん同じ部屋で寝起きしていたので僕の部屋で思案するレニータの存在は自然だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ