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ユニバース☆ツアラーズ  作者: 霜樹
第一章
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第二章 惑星ガリアウト-同行者

 惑星ガリアウトは汎宇宙歴史単位でいう前期中世時代に当たる文明基準の星だ。


 星間連邦は卓越した宇宙航行能力によって、生命と文明の生まれた星を次々と発見している。そして原始文明なら既存の生命体に承諾を得ることなくその営みに影響の無い地を選び宙港を建設するが、一定以上に進んだ文明には開星を迫る交渉をする。


 そこには自ら決めたルールがあり、完全に開星しない場合宙港とその近い周辺を一つの租界地として完全に囲い星間連邦の法と技術を展開するが、そこから出る場合にはその星の自然な文明レベルに合わせるというものだった。


 電力を全星に行き渡らせ、航空機や高度な建築技術を持つに至っている高文明世界はほぼ例外なく星間連邦の宇宙基準の科学を導入したがるが、ようやく内燃機関を発明したくらいの前近代文明未満の惑星はこれまた一様に彼らから見て超技術の押し付けを拒む。


 星間連邦が版図を広げるのは全宇宙制覇ではない。


 高度文明は星間連邦盟主のザリアテ星系だけではない。銀河単位の戦争になればそれこそ宇宙の摂理に干渉する破壊兵器すら発動しかねない。


 だから派閥の拡大や兵隊の確保などといった前近代文明のような勢力拡大は考えない。第一、戦場に生身の兵士が出る機会すら減っているのだからマンパワーは必要ないとさえ言えた。


 星間連邦が星々に影響を及ぼそうとするのは希少金属と食料の確保だ。採掘技術はその星にとって超文明技術となりえるが、農耕技術は普遍的に地道な場合が多い。技術的に効率化した工場生産物より、主恒星と自然の恵みに任せた農作物の方が高級と見なされる風潮がある。穀物、果物問わずその種類は星の数だけあるとも言える。


 超機械文明の発達した惑星においてもはや望めない自然栽培の食料の確保、それが価値を生んでいると言えたし、各惑星にのみ存在する物質も多く十分貿易の相手となりうる。その円滑な進出の為に定められたルールが全宇宙を支配していると言えた。



「私の身も心もトゥールちゃんのものよ。好きにして。返済が終わるまでは」



 僕らはグリ車に揺られており、ガリアウト星唯一の宙港街から出るにはガリアウト産の馬に似た動物であるグリに引かせる馬車ならぬグリ車に乗っていく。


 自動車などの文明は持ち出し禁止だ。もちろんグリ車はスピード的には遅いが時間に追われる旅でもないしこれがガリアウト星での時間の流れ方だ。


 グリは行き先への道筋を覚えており御者の必要すらない、かなり頭のいい動物だった。止めることは出来るが僕らはただ乗っているだけでいい。



「別に僕が判断したことだし、レニータを拘束しようなんてぜんぜんないよ。別行動してくれていい。僕の居場所は問い合わせてくれればいつでも分かるし指定口座に入金してくれればいいんだけどね」


「ねっトゥールちゃん?」



 レニータは表情を真剣モードにして僕を見つめる。



「トゥールちゃんって私が嫌いなの? ウザいの? 早く離れたいと思ってるの?」



 後から考えればレニータがその答えを知りたければただ僕を見つめるだけでいいことは明白だ。しかしミルサスの賢者といえど不肖十二歳はおおいにドギマギった。



「いいや、そんな事はないよ。でも僕には僕の予定がある。君にも君の進む道があるだろ? ただ偶然に同じ事故に遭遇しただけの二人の未来が重なる可能性は極めて低いと思うんだけど」


「だからさ、トゥールちゃん。私が嫌い?」


「いや嫌いもなにもレニータさんの事を知っているうちにも入らないし」


「ならウザい?」


「ううん。いやいやどうしたらいいか分からないだけで、ウザいとは思ってないと思うけど・・・・・・」



 この時僕は心底彼女に僕の言葉を信じて欲しいと念じた。これも後で思った。もとよりレニータ相手に心を取り繕う事は不可能なのだ。



「そお。じゃ、一緒に旅をしてもいいんじゃない? 私は自分の身を守る力はあるしトゥールちゃんを守ることも出来ると思う。ボディガードとして少しづつでも借金を減らしてくれるといいな」



 僕も神絶によって、現代文明が考えうる最高の防御スキームを持っている。攻撃力は皆無でも何人たりとも破る事はかなわない絶対防壁だ。


 だから彼女のガードは必要ないけれども、そんな理屈で収まる場合でもない。それにちょっとしたもめ事で惑星破壊級の攻撃すら耐える神絶を展開するのもなんだか情けない。



「ううん、わかりました。僕を襲う悪漢から守って下さい。報酬は後々考えます」


「ううん、なんか違うんだよね。ねぇトゥールちゃん、本当に私といるのヤなの? そこそこ見られる感じだと思ってるし戦闘力もある。冒険のお供にうって付けじゃないの? 私ともっと積極的に一緒にいられたらってないの?」



 確かにレニータの言い分も一理ある。


 彼女との旅は一人よりずっと楽しいだろう。


 しかしミルサスの旅は修行の意味も持つ。一人なら一人で乗り越えるべき課題を同行者の存在で楽にクリアしたらそれはそれでどうなのだろうか。



「大丈夫よ。あなたはそれ以上の困難へ向かっていこうとしている。私が居る限り全力でサポートするわ」


「いやまあどうなんでしょうか」



 ドギマギの心はさりげなくレニータが僕の気持ちを読んでの発言であることに気づかない。



「んでんでところでどこに向かってるのかな。適当って感じでもないよね?」


「うん? 僕はもともとこの国のザネン伯爵に会う為に宇宙船に乗ったんだからね」


「ザネン伯爵? なんかザンネンな感じの名前ね」


「いやそりゃまずいよ。この国の世継ぎなんだから。皇太子でもあるんだけど伝統的に領地を与えられて統治の実地訓練するらしいよ」


「はっ? それって王子様ってこと? 王子様に会いに来たの? ちょっと先にゆってよ」



 レニータはしきりに髪の乱れを気にし始める。


 ちなみに僕の服装は全て宇宙船と共に宇宙のデブリになってしまったし、レニータも荷物を失っていたので、宙港街のショップで買い揃えて、ボリウス号で着ていた宇宙服ではない。宇宙服と言ってもごつい気密服ではなく、主に不燃性と体感温度保持機能が付加されたものでデザインはいろいろそろっていた。宇宙空間にいる時、特に宇宙船に搭乗している時はそんな専用服の着用は常識だった。


 そして宙港街のアパレルショップには世界的な流行のモードと共に、外に出る者用にその惑星に合ったメニューも揃っている。その中で、僕はトーガの様な首からすっぽり被るマントにも見える茶色っぽい上着にダボっとしたわたりのズボンを選ぶ。総じて地味だがとても落ち着くし動きやすい。


 レニータも派手な色調こそ避けて白いジャケットにくすんだピンクのホットパンツ、黒っぽいストッキング? だかタイツだかわかんないけどを履いている。


 ピンクも落ち着いた感じの色なので決して目立つコーディネートでは無いはずなのだけど、言わばシンプルな私服に着替えるとその美貌が異常に際だつ。目立たないのは胸部だけだ。



「僕も会ったこと無いし」



 この星に来る前の逗留先であるアーガッソ共和国において政界の重鎮と紹介されたダリアス博士からの依頼だった。博士は学者だからそう呼ばれているのであって、君主制の国で言う貴族のような存在だ。


 義兄弟を契ったグロデニア公国のザネン伯爵が、その領地を他星からきた一団に荒らされていてその対処に苦慮しているとのこと。



「でも、こんな旧文明の国の人がどうして他星に知り合いがいるの?」


「星間連邦主催でのそういうコミュニケーションの会があるのさ。もちろん希望者のみで、王族や有力商人しか参加できないけど。星間連邦にとっては、どんな星でも出来れば宇宙世界との積極的な関わりを持ってほしいからね。開星はしないまでも、宇宙の別世界に興味を持つのは無理も無い。しかもそれらは敵になりえないんだ。純粋な知的好奇心を満たせる可能性もあるし、その経験が国の統治や、開星へのステップになることもある」


「連邦っていろいろやってるんだね」



 二度と会わないことも多いはずだが、ダリアス博士とザネン伯はこれも王族などの希望者のみに設置が許される通信端末機器によって連絡を取り合っていたらしい。今時遠距離通信は自分の姿を電送して相手の前の椅子に座りながらの会話も可能だが、あくまでもテキストのやりとりだけに制限されている、と記憶している。


 それはそれぞれの世界の希望でもある。興味が身を滅ぼす恐怖と未知へのあこがれの妥協点なのだ。


 そのザネン伯が窮地であり、ぜひ相談に乗って救って欲しいとのことだった。


 ミルサスはボランティアの便利屋ではない。報酬は取るし目算されたその額はゴルス隊長に要求された一人分の額の三分の一程度にも達する。小型の宇宙船だって買える額だ。


 そんなミルサスに仕事を依頼することでミルサスの存在がまた宇宙に広がる。僕は新たな世界の知識を得る。技術的な物体持ち込みの制限はミルサス人でも変わらないが、その知識量はオーバーテクノロジーどころの騒ぎではない。


 仕事の受け方も基本は成功報酬だが契約書などの細かい取り決めはない。ミルサスの判断が世の理なのだ。



「その王子様が何を困ってるって?」


「それを聞きに行くんだから詳しくは知らないよ。なんでも他星系から来た一団が宗教の名を借りて一大勢力を築いているらしい。かなり暴力的にね。この星からみて超技術の兵器を使用しての侵略行為なら星間連邦が強制介入するけれど、あくまでも原始的武器しか使用しないらしい。そうなると星間連邦は警察機構ではないからその星の問題として要請されても介入はしない。実際その組織は首領級以下数人は他星人と思われるけどそれ以外はすべてこの国のゴロツキだ。単にこの国の一部がこの国の特定の集団に暴力的に占拠されつつあるというだけなのさ。もちろん軍隊を持って鎮圧に動いたのだけどその首領の他星人が異常に強く何百人を繰り出しても皆殺しになるとか。二メートルを超える巨漢なのに動きが目で捉えられないほど敏捷に動きもちろん怪力、相手の動きを予測するような攻撃をするらしい。そして額に第三の目を持つと言われている。素早く怪力で疲れ知らずに先回りするような攻撃が本当に可能なら剣や槍が主体のこの国では無敵だろうね。弓矢はことごとく打ち落とされるらしいし。しかも電位操作能力者ですらないらしい」


「てか、それヒューマン?ヒューマンにしても大幅に改造した亞人間じゃないの? 全身完全代体とか?」


「完全代体はこの星では自由に動けないオーバーテクノロジーだ。真っ先に『マザー』に問い合わせたそうだよ。回答は該当せず。彼がどこか改造していたとしてもごく一部の損失機能の代替くらいのはず、らしい」


 マザーとは全宇宙のデータを無条件に収集して時に善悪の判断を下すスーパーコンピュータの愛称だ。


 星間連邦に加盟し自星以外の要因によるトラブルはなんでも相談できる。その回答は絶対であり間違いはない。内容によっては連邦に通知されるが、通報の是非もマザー自身が判断する。申立て側からの要請はできず、連邦が要求することも出来ない独立機関であり連邦内の争いの調停にも使われる。


 ダリアス博士とザネン伯が文通していた通信装置も、もともとはマザーとのアクセスを可能にするためのものだ。


 一説には全宇宙の動向どころか全民族、果てはある惑星上に生息する鼠の数さえ把握していると言われ、質問には答えるが正当な理由が無ければ例えば今暴れている者の固有詳細は教えてくれない。


 明確な犯罪者であり、その犯罪を追っている組織からの問い合わせならマザーの判断次第で情報が開示されるという具合だ。



「あくまでもこの星のルールで仕掛けて来る以上この国の問題と言うことね。でも同じ武器で軍隊すら通用しないなんて化物ね」


「だから困っているんだろうさ」


「でもそれをトゥールちゃんが解決出来るの? 私より弱いのに?」



 確かにそうだがちょっと腹立たしい。



「軍隊を全滅させる個人相手に武器を制限されている中ではいくら強くても関係ないよ。その程度で相手出来るならこの国の猛者達がとっくに解決してるよ」


「それもそうね。確かに厄介な事みたいね」





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