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ユニバース☆ツアラーズ  作者: 霜樹
第一章
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襲撃-レニータ = バルカザール

「レニータ? レニータッ? 大丈夫?」



 ほどなく意識を取り戻したレニータはキッとした視線をギラつかせながら呟くように一人ごちる。 



「わかりましたよ。わぁかぁりぃまぁしぃたぁ。はいはい、従いますよ」



 誰と話しているのだろう。モニターを見るとヴァルターも様子がいつもの無表情に戻っている。しかしその右の口角が実に楽しげにニヤリとゆがむのは確かに確認した。



「おい、この信号はなんだ? 解析してくれ」


「これは……これはサイコチャー波だ。なぜ十九番機から?」


「あのサイボーグだろう。あれにサイコチャーオプションと同等の機能が内臓されているとしか思えない。それに八番機と機動が同期しつつある。これもサイコチャーの機能なのか?」



 コンソールを操るコントロールスタッフの会話が聞こえてくる。ヴァルター機とレニータ機が同調している? サイコチャーという媒介を通して?


 そこで記憶が蘇る。僕は膨大な祖先の記憶を持つけれどもあまりに膨大過ぎて常に全てを使いこなせる訳じゃない。しかし記憶があるならば必要な時に検索したデータベースにアクセスするように思い出す。これが出来るか出来ないかが旅行者として認められる一つの能力であり努力よりも産まれながらの才能が大きい。


 賢人たるもの思索思考を駆使する仕事行動が多かったはずだが、サイコチャーについての工学的知識が溢れ出す。何事にも興味を持つのが本分なミルサスでも機械的な研究者は少ない。


 しかしよりによってサイコチャーオプションシステムの基本概念は僕の祖先が開発したようだ。その機能、能力を余すことなく僕は把握する。



「ううっ。なに? ああ、いいわ了解、ええ、いいって言ってるでしょ」



 意味がわからないレニータのセリフだが展開されるヴァルター機との連携された動きを見て蘇った記憶を元に仮説を立てる。


 サイコチャーは今でこそ精神支配系電位操作能力を応用した思考による直接操縦の為の装置とされているが、開発当初ではその目的は違っていた。パイロットの意識思考を直接リンクさせて一体化し、訓練などによる連携行動を越える一体化を目指していたのだ。


 テレパシーで結ばれた複数機の統一された意思による群体の創造と言えばいいか。


 しかしデバイスとして完成したそれは運用に全く実用性を持たなかった。パイロット達が「仲良くなること」を拒否したからだ。もちろん訓練された軍人たちは表面的には実験の意味を理解し、相互連携に納得している。しかし深層心理はその解放をかたくなに拒否し、適合例があまりにも少なくて計画は失敗したのだ。


 訓練は意味をなさない。この設計の達成には心を完全解放することが大前提で組み込まれていたが、誰しも真の意味で自分を解放することは不可能だったのだ。ごくわずかにもとより恋人同士だったもの、実験的な試験に参加した双子などの特別関係者間だけが同調に成功した、と記憶している。それでは雑多な集まりである部隊に全く使えない。


 今は強制同調システムが開発され軍隊レベルでのサイコチャー部隊は存在するが、やはり肉体と精神への影響が大きく本当に戦闘となれば半分は発狂する。だから民生用に生産するメーカーは無い。


 そしてそれなのにしかし、レニータとヴァルターは同調を果たしているように見えた。適合者は数字として残せるほどすらいなかった。偶然出会ったヴァルターとレニータの適合率など考えるのも馬鹿らしいはずなのに、同調したらしい。



「そんなグイグイ押さないでよ。こっちの方が小回りは効くのよ? すぐ置いてけぼりにできるのよ?」


「それじゃ連携にならないだろう。いいからさっさといけ」



 ヴァルター機はレニータ機が延ばしたアームをつかんでいる。着艦用のフックアームのようだ。それほど強度が有るとは思えないがダマンのコントロール不能時に強制着艦してその機体を保持するものだからそれなりに丈夫なのかもしれない。ヴァルター機はレニータ機と一体化しレニータ機に機動に任せているようだ。


 よく見るとレニータ機の推進で宇宙空間をフラフラしながらヴァルター機の推進で一気に移動して敵の弾幕を避けている。そして無線は沈黙している。これは意思を直接伝達してそしてその結果も共有している、と思われた。彼女達は精神レベルで一体化している? これはサイコチャーの開発理念ではないか。


 操縦そのものは玉子のサイボーグが行っているがその意思はヴァルターのものだと見える。レニータはサイボーグの操縦を自らの意思で上書きして機動を補正していると思われる。



「ヴァルター、準備は整いました。行けますよ」



 サイボーグの冷静な声。戦況を見るとフラフラとさまよう様に見えたレニータ、ヴァルター複合機をより狙いやすい位置取りをしようとする敵機は彼女らを中心にして三次元的に取り囲んで群がっていた。むしろ絶対絶命じゃないか。文字通り包囲されてしまっている。



「デストロイ、レディ」



 サイボーグが宣言する。ヴァルター機の両腰に装備されたポッドから内燃推進ロケット弾、通称ミサイルが数発放たれる。


 敵レーザービームで破壊されたミサイルはガス状の物質をまき散らし辺りの視界が奪われる。



「あれはチャフ弾だ。相手からは見えないがこちらも敵を見失うぞ。なにを考えているんだ?」



 コントロールスタッフが喚く。チャフ弾は霧のようにも見える微細な金属片をバラまくことで物理的に身を隠すだけでなく、その金属片は敵レーダー波を攪乱する。目に見えなくなるだけでなくレーダー照準も不可能になるのだ。しかしそれはこちらも同じでありそれなりに広範囲とはいえその中に居ることが分かっているこちら側の方が不利ではないか。適当にガスの雲に打ち込む敵に対してこちらは完全に目標をロスト状態なのだ。



「デストロイ、オープン」



 再びのサイボーグの宣言。チャフの雲に隠れた機体は目視出来なかったが、やがて四方八方三十二方へビームやミサイルをバラまき始める。


 そしてその先には敵機が存在した。彼らとてのんびりじっと止まっている訳ではない。まして攻撃に晒されているのだから回避行動を取る。しかし二機の放つ砲撃はその回避先で敵機を捕らえ確実に行動不能に陥らせていく。


 ガスの雲にむやみに打ち込まれる攻撃は一発も二機に当たっていないようだ。


 では、二機の攻撃は敵機の回避行動まで確実に予測し、その攻撃パターンを読み、直接照準出来ない状態からその機関部を狙撃しているのか?


 ポインタデストロイ。取り留めのない印。目的の破壊。サイボーグはポインタデストロイプランと言った。あの時点でレニータは敵全機破壊のプランを立てたと言うのか。


 雲から放たれるビームとミサイルは確実に敵機を沈め続ける。雲よりも三周り大きな爆煙が宇宙に漂う。敵機もほとんどが遠隔操作だったろうから生命の死は見た目ほど多くないだろう。いまやそのほとんどが行動不能となり宇宙を漂う鉄屑になっている。


 ヴァルター機は腕というか手首の上に固定されたビーム砲で主に戦っていたが、今はレニータ機のアームを手であるマニュピュレーターで掴んでいるため攻撃には使えないはずだ。


 他にミサイルポッド、さらに背中に大きめの砲塔を二門搭載している。これは本来使用時には肩に背負う様に展開し、微妙な照準も行えるはずだ。しかしこんな視界が奪われた状態で精密射撃など出来るはずはない。おそらく砲門が頭上に伸びた格納状態のまま適時砲撃しているのだ。時折放たれる明らかに太めの光跡はろくな照準もないはずなのに、しかし確実に敵機を捉えて一撃で破壊している。



「ありえない、ありえない。この機体データはなんだ? どうだ? 計算間に合うか?」


「有る程度アルゴリズムを解析できれば可能だと思うが。空いているモニターに出す」



 二機からは宙座標を初めとして機体の姿勢や攻撃実行などが全て数値化された信号で送られてくる。それを解析して一つの戦闘が適切な動きによって遂行できたか後で検証し、次につなげるいわゆる反省会に使う。宇宙戦闘を専門としない傭兵部隊がそんな殊勝な心がけを持っているとは思えないが、データはデータである。


 コンソール要員達の会話は、それを即時処理してチャフのガスに隠された二機の動きを見てみよう、ということだろう。


 ほどなくいくつかのモニターにそれと分かる画像が出る。各ダマンの形状は簡易なものだったが、機動は実際のものを再現しているはずだ。



「約八秒前の姿勢解析だ」


「ありえない、こんなのありえない」



 ひたすらクルクルと回る二機複合体はただ一方に回転しているのでもない。三百六十度縦横無尽にあらゆる面を向きながら不規則に回っている。そこから放たれた攻撃が的確に敵機を捉えている。どうやって慣性制御しているのだろう。  

 ボールダマンのベクトルを変化される機動はむしろお家芸だけどそれにしても極端な動きだ。


 既に行動不能となったダマンを遠隔操縦していた傭兵の何人かは玉子から出てきて戦況を観察していた。その誰かがつぶやく。



「こりゃポインタデストロイだな。地上戦では不確定要素が多いから空から地上を掃討する時くらいしか役立たねえが、宇宙は少なくとも地形を考慮する必要がねえから作戦としては成立する。でも普通は支援機をがっつり配置して常に状況を更新しながら六機位を中心に据えて撃ちまくるはずだ。たった二機がこんなくるくる回ってしかも予測射撃なんて。あの戦闘サイボーグの演算があったとしても信じられん」



 ポインタデストロイ自体はある程度一般的な攻撃スキームのようだ。僕の記憶にはない。戦闘サイボーグの支援といってもリアルタイムな情報は遠距離カメラの画像だけ。参考にはなるだろうがとてもこの攻撃に実効性を持たせるとは思えない。



「おおっ」



 解析画面ではない船体カメラが写すガスの雲からひたすら八方へビームが撃ち出されていた画面を見ていた傭兵が声を上げる。見ると二機がフルブーストと思われる勢いで雲から飛び出している。ヴァルター機の二基の内燃機関はもちろん、レニータ機の同時に八基が噴射出来る推進器も、同一方向へのベクトルで全開にしているようだ。



「全艦耐衝撃態勢。敵戦艦の主砲発射を確認。回避行動は必要無いが衝撃はあるかもしれません」


「あっ、くそっ、見落としだ。すまんヴァルター」



 艦内放送にコンソール要員達が思わず声を上げる。彼らの仕事は戦闘宙域全体を監視してパイロットに適切な指示を与える事だろう。レーダー警戒要員ではないが情報はフィードバックされていたはずだ。敵戦艦は相当な遠距離にいるから艦砲による直接攻撃があってもボリウス号はスクランブルでまず回避できる。しかし戦場はもっと戦艦に近い位置なのだ。 


 しかしあまりに特異な二機の動きに目を取られ、肝心な警告を出さなかったのだ。


 彼女らが飛び出してきてからわずか五秒後、今までの戦場で飛び交っていた光線が細い針金に見えるのほどの三角状に並んだ三本の太い光源がガス帯を薙ぐ。チャフの雲も一撃で霧散した。


 どうやら敵とは本物の連中のようだ。正規軍とでもやり合える戦艦なのだろう。



「トンガ、イレーブ、レイル、ダリバース、てめえら何やってやがる。ヴァルターとレニータ嬢が戻ったら土下座しろ」



 隊長の怒声が艦内に響く。四人の名前なのだろう。その四人は意気消沈する前にそれぞれのモニターにかじり付き二度と不手際を起こすまいと真剣な表情だった。



「よし、撤収だ。もう連中は仕掛けて来まい。今のは最後のご挨拶だろう」



 ヴァルターの冷静な声がスピーカーから聞こえてくる。


 敵のダマンは全て撃破している。超々遠距離艦砲射撃する敵母艦は戦闘空域まで出張ることはないだろうという判断らしい。悔しまぎれの一撃であり撃退は終了している。



「四番機、二十一番機は残って全力で後方警戒。その他は撤収」



 残った二機はもちろん遠隔操縦機体だから戦艦からの強力な追撃で落とされても人的被害はない。今は実乗機であるヴァルターが残る状況ではない。そしてボリウス号に戻るダマンを襲う攻撃はなかった。

 戦闘は終了したのだ。



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