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ユニバース☆ツアラーズ  作者: 霜樹
第一章
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要求-襲撃

「第三種警戒警報を発令しました。宙族殺しと見られる大型武装艦が本艦にマーキングした模様。ダマン操縦者は志願制でエッグルームへ。他の者は白兵戦闘準備予備体制で待機。ちなみにダマンは先着順ですよぉ。希望者は急いでくださぁい」



 攻撃を受けつつあるというのに微妙にのんびりした対応だ。女性のアナウンスもどこか間延びしているし警報もフイィィン、フイィィンと軽い調子に聞こえてくる。戦闘準備予備ってどの程度の準備なのだろう。


 隊長に聞いていた話しだとこの傭兵団は宇宙戦闘をメニューに載せておらずこの船も戦闘艦には違いないが戦艦級どころか駆逐艦とさえ呼べる装備もない。武装はしているし装甲は厚いので並のパトロール艇では相手にないだろうが宙族がまともに仕掛けてきたら苦戦すると思われる。


 しかし宙族が襲ってくるのは船あるいは船の中身が欲しいからであってただ破壊する目的は基本的にないらしい。この船を一撃で破壊する宙巡ミサイルは三基も撃てば船が買えるほど高価なのだ。だから襲ってくるのは身動きを封じて船に乗り込み制圧するのが目的だがこの船に関してはそれはまた無理。ひとたび白兵戦になれば部類の強さだから傭兵なのだ。


 宇宙空間における兵器を駆使した戦闘に長けてはいても白兵戦では普通の宙族に簡単には勝てる筈がなく、強力な艦砲を向けて脅かす手もあるだろうが脅し文句が届く前に少ないながらも強力な武装で反撃する。その一つがダマンと呼ばれる宙間戦闘機だ。


 一口にダマンといってもいろいろな機体があり、主に単なる球状型から人型などがある。球状のダマンは三十二方に機動する相手に読めない動きが可能なのが特徴で遠隔操作専用だ。慣れた操縦者の元では文字どおり宇宙空間の見えない壁でバウンドするボールがいきなり強力なビーム砲を放つかなり面倒な存在だ、と記憶している。


 人型に関しては人といっても一般に頭は付いていない。これは必要無いからだ。カメラは機体のいたるところに付いているし制御AIユニットはもっと高い自由度をもって搭載が可能だ。わざわざ頭部を作る必要性は無い。


 それより人型ダマンの特徴は人が乗り込んで直接操縦する機能に対応することだ。操縦コアユニットによりいかなる形のダマンも遠隔操縦が可能だが、直接乗り込んでの操縦はあくまでも熟練者に限るが遠隔操縦を容易に上回るパフォーマンスを発揮することがある。さらに遠隔操作ユニットで別の誰かを操縦や攻撃に参加させることで単なる遠隔操縦より何倍もの戦闘力を実現する、とも記憶していた。


 さらに追加武装が豊富でありオプションによっては一機で惑星攻略レベルの火器を装備できる。



「ダマンが出るのかな。私、乗れないかな。ちょっと自信あるだよね」


「この船は戦うことが仕事の男達がウヨウヨいるんだよ? 女の子の出番は無いと思うけど」


「それはそうでもねえぞ」



 突然響くゴルス隊長の声。



「すまねぇ、いつもモニターしている訳じゃねぇことは信じてくれ。エマージェンシーになると艦内のマイクが会話のキーワードを拾ってこっちにオンするんだ。今はダマンの単語に反応したんだな。一応緊急事態だから手短にいく。俺達はもともと仕事としては宇宙戦闘をしねぇ。だからといって宙賊なぞ恐れちゃいないが宇宙専門の連中だから多少は脅威で面倒ではある。まして宙賊殺しは目的が読めねぇ」


 宙賊殺しは文字どおり宙賊を狩る戦闘集団だ。宙賊が溜め込んだお宝を根こそぎ奪うのが目的で一般的に宙賊より戦闘力が高い。見分け方は警告の有無と記憶している。宙賊は脅しの無線を入れてくるが宙賊殺しは問答無用、ただひたすら攻撃してくる。今回の様に純粋な宙賊だけでなく戦闘を専門とする傭兵部隊を目標とする場合もあることは初めて知ったが。もとより堅気からみれば宙賊と傭兵の差はないので文句を言っている場合ではない。



「だからダマンを直接操縦するヴァルター を臨時雇いしている。この宙域にも詳しいって触れ込みだったしな。それはともかくレニータ嬢がダマンを操縦するならやぶさかじゃねぇぜ? まさか直接搭乗じゃねぇだろ?」


「はい、遠隔で。サイコチャーオプション搭載機はありますか?」


「確か八番機にくっ付けたなぁ。しきりにすすめる業者がいてたまたま金が有ったからな。でもウチの連中が使っても大差ねぇぜ? それでもよけりゃ客分特権で回すが。壊したら請求額増やすがよ」



 戦闘中の状況で隊長も紳士ぶるつもりが無いらしい。地が出た言葉遣いを遠慮しない。



「通常戦闘で壊した場合の課金は承諾できません。私の能力がご期待に沿えない場合に限るなら考えます」


「たいした自信だな。よしレニータ、あんたをダマンパイロットとして一時的に雇う。全力で奴らを排除してくれ。雇ったんだから報酬を出すし活躍によってはボーナスも約束しよう。残高が減るといいな」


「了解だわ」



 部屋にいるとほどなく来た迎えと共にダマンの操縦ユニット部屋へ向かう。何故か僕も一緒に。レニータは迎えが来るなりいきなりウルッとした瞳で



「一緒に来てくれるよねっ? ねっ? モニターを見ててくれるだけでいいの」



 ときてさらに僕の手を握りしめる。この人、もしかしたらめちゃめちゃ気弱なんじゃないか? 


 仕方ないのでレニータと共に迎えについて行くと後部格納庫並の大空間に二人乗りの地上走行車を二回り程大きくした位の玉子状のポッドが並んでいる部屋へ案内された。違いは天井が低いことだ。玉子が並んでいる部屋だからエッグルーム、ひねりが無さ過ぎる。


 ダマン、ダイレクトアットマンツーマシンは簡単にいうと無線操縦可能な戦闘機体だ。機体の外郭全身に埋め込んだ二万を超える神経センサをフィードバックして操縦者に臨場感を与えながら破壊に伴う痛みはもちろんカット。痛みが無いからといってむやみに突撃する操縦者にロクな者はいないしもちろん結果も出ないと記憶している。人工重力発生装置が巧みに作動し実際に搭乗しているのと変わらない体感を得るはずだ。


 ベテランになるとダマンが受けた衝撃をそのままに知覚するらしい。もちろんダマンの腕が落とされたからといって操縦者の腕が機能を失う訳ではないが、その苦痛を擬似的に共有することで遠隔操縦の、実際に搭乗している訳ではないコンマゼロ以下のタイムラグ欠点を克服し、その機体とコンマゼロ以下八桁以上の親和性をもって一体化するという。



「トゥールちゃん、モニタリングルームにいて。私を見ていてねっ!」



 彼女は迎えの人間を介添えとして八と記された玉子に入りモソモソしていたが迎えがユニットから出ると同時にハッチが閉まりハッチ上部の二つの青いランブが光る。搭乗完了ということらしい。



「トゥールちゃん? トゥールちゃん?」



 操縦ユニット部屋そのものを管理視出来るモニタールームにレニータの声が響く。大型のガラス窓越しに玉子部屋が見える他に監視モニターが並び、より大きな画面のモニターが一、二、の番号と共に四面づつ並んでいる。一面はユニット内部を、一面はダマン機体の外部メインカメラを、残る二面は任意の映像を流せるようだ。部屋の一角にあるコンソールコーナーには全体をコントロールするらしいスタッフが四人ほど座りモニターを見たりキーボードに指を走らせたりしている。



「はいはい、頑張って借金減らして下さい」


「了解よ。スレイムルの力、見ていなさい」



 八とマークされた機体がボリウス号からテイクオフする。戦場はまだ三千キロは先だ。バーニアを吹かし向かう先には理論上真球となる爆発光が交錯している宙域がある。三面目に出したボリウス号の船体のカメラも非常に優秀なようだ。レニータの機体を正確にトレースしながら宇宙を映し出す。


 八番機は戦闘が激しいエリアからかなり距離をとり停止した。球体の中心に据えられた砲口以外は装甲板の隙間から噴射ノズルが三十二方に突き出しているはずだ。約三百年前に誕生した宇宙戦闘用攻撃ポッドで未だ形状は保ちつつ性能は進化してきた。


 初期はもちろん有人操縦だったのだろうがいつの頃からか無人専用機体の代名詞になった。出力ユニットが三十二機付いていることはなく確か八機、後は自動制御で操縦者の意思を具現化すべくそれぞれ四つのノズルを移動する。推進は燃焼気体を内臓した内燃系推進と出力は大幅に劣るがより航続が長い電磁系推進のハイブリッド機関。


 武器は多層並列射出型粒子砲と呼ばれる古典的なビームだ。撃ちだしの反動が少ないので質量の小さなダマンも発砲の衝撃で宇宙を暴走する事態が抑えられる。もっともオートで計算された逆噴射で姿勢を維持すると記憶しているが。より破壊力が大きい重粒子砲などには攻撃力で劣るが、落とされさえしなければ戦艦とだってやりあえる程度の性能はある。


 このボールが宇宙を自在に跳ね回りベクトルを百八十度変えれば操縦者のモニターも進行方向に移り実際に回頭はしない。攻撃時こそ一方にしか砲門がないのでそちらを敵機に向ける必要があるが、移動や回避行動中は前も後ろもない。これがどれだけ機動性に自由を与えるかは計算では計れない、とも記憶している。


 モニタされている操縦ユニット内部にはレニータが正面からバストショットされている。バストショットとは胸の辺りから顔まで納めるアングルという意味で、あるなしはカンケイ



「おい子供? なんかまた大変失礼なこと考えてないか?」


「いやっ、そんなことはないよっ。ところで戦場はまだ先だよ? 別に戦って欲しい訳じゃないけどそこで止まってどうするの?」


「もう直接戦闘は始まってるわ。見てるだけでわかるけどこちらから有人で出ているのが一機、彼なんでしょう。他のダマンはダメダメね。変に絡んでも彼の邪魔よ」



 なんとスレイムルの読心術はカメラ越しでも有効らしい。別に僕は本当は大きい方がいいなどと考えたことは無いんだけど。正直小さめがいいのだけれども。だいたいそんなこと考える年ではない……はず。だから興味なんて……ないはずっ!


 八番機のカメラをズームさせるレニータ。五十万キロ先まで捕らえる性能は遠く離れているその戦闘を克明に映し出す。



「隊長、ヴァルター機以外のダマンは障害とみなし破壊する許可をください」


「バカ言うな。ダマンは高いんだぞ。そんなことしたら課金だ課金」


「ですよねぇ」



 戦闘に参加しているダマンは四分の三程度が八番機と同じ球状、残りが人型に近い形状を持つが動きは大差ない。その中で明らかに俊敏な機動をしている人型機体が一機、それがヴァルターの有人機だろう。


 どうやら十九番機になるようだが十九番の玉子は青いランプが点いている。誰かしらが操縦に参加して玉子内が有人だからそうなのか、単に十九番機が動いているからそうなのかはわからない。ヴァルターと共にボリウス号に乗り込んだというおそらくは戦闘用サイボーグが支援行動に入っているのが自然だが十九番機のモニターは暗く沈んでいて内部は分からない。おそらく強制的に内部を写すことは可能だと思うがそこまでの必要もない。


 素人目にもぎこちないヴァルター機以外のダマンに対して宙賊たちは確かに動きが違う。球状も人型もいるが、無重力、無大気という大気圏内に比べればはるかに機敏で自由な移動が難しい空間でどの機体の動きも理にかなった攻撃スキームを実行し、時に陽動し時に突撃しながらこちらのダマンを確実に減らしている。ヴァルター機も確実な機動で敵を落としているが多勢に無勢だ。



「よし、この機体の能力把握できたわ。いくわよ。サイコチャーオプション、オープン!」



 戦闘宙域からかなり離れた位置で漂っていたレニータが元気な声を出す。サイコチャーオプションとはレニータのような精神系電位操作能力を直接操縦に反映させるシステムであることはこの部屋にくる間にレニータからも聞いている。


 確かにレニータにぴったりの機能だろうし宇宙へ上がるための訓練でも中心的なメニューの一つだったのだろう。だけどまさか実機での経験が豊富だとは思えない。


 戦闘するのは無人機だから撃墜されても死はもちろん怪我すらするわけではないけれど、遠隔操作戦闘というのは精神的にものすごい負担を強いる、と記憶している。肉体が無事でも精神が破綻することなど日常茶飯事であり「遠隔戦闘操縦に生身を使用する意味があるのか」という問いかけまで出るというくらい神経をすり減らすものらしい。


 しかしどんなにシステムAIが進化しても戦闘行動のように直感がものをいう作業は生体の思考の方が上だ。AI部隊はもちろん実在するが普通の操縦能力者相手であれば圧倒するかもしれないが、優れた生体の直接操縦相手ではやはりかなうものではない。それがAIの限界だった。


 レニータの勇ましい声が響くとそれまで一画面に一つの映像を流していたモニターが無数に分裂する。慌てて数えると一面が十六分割されておりそれぞれに別の敵機が映っている。そしてその敵機の動力機関部と思われるポイントに青白い光点が瞬く。モニタリングシステムはいろいろな意味でダマンとリンクしているのだろうけどレーダーの索敵結果をこんな風にも表示するらしい。



「いっけぇぇ」



 レニータは気合いと共にダマンを加速に移す。機体後部が輝いたと思うと瞬く間にスピードを上げる。宇宙空間では一度ついた速度は維持される。抵抗がないからだ。だから通常は時速二千キロ程度に達したら推進力をカットして慣性で機体を進めるものだ。だがレニータは内燃推進を止めると電磁推進を発動し続けた。たとまち時速六千キロを越えて猛スピードで戦域へ向かう。


 今回はエネルギー消耗はそれほど問題ではないだろう。戦闘さえ終わればボリウス号が迎えに行ってもいいのだからその意味では加速にエネルギーを節約する必要はない。しかしそこまで上がった慣性は容易にコントロールできるものではないはずだ。



「レニータさん、飛ばしすぎでは?」


「いいのいいの」



 はらはらしながら見守る。コントロール要員達もモニターに八番機を上げて注視しだす。そして戦闘宙域に近付くとクルリと機体を百八十度転回させ逆噴射状態に姿勢を変化させた。改めて逆噴射するより効率的に逆推進できると考えたのだろう。もちろん言うは易く通常は実行不可能だ。姿勢制御が微妙過ぎる。



「なんだこの娘は。計算したら戦闘の中心宙域でピタリと静止するぞ。こんな芸当こちらのバックアップが有っても不可能なはずだ。何者なんだ」



 僕がレニータの連れであることは当然知っているらしくこちらをチラチラ見ながら聞こえる声で驚愕する。なるほど、サイコチャーの助けも借りて最高度の移動スキームを体現したらしい。



「八番機、無理をするな。適当にいなすだけで退散するはずだ」


「はずってことははっきり分からないんでしょ? 殲滅したほうが、早い」



 ヴァルターからと思われる通信にも自らの行動を是とする。真っ直ぐ突っ込み三機の敵のただなかで停止。機体を回転させ多重ビーム砲を三発放つと移動。それで相手を破壊はするが手近な敵を捉えて同じように数連射するうちに取り囲まれる。それにしても僕の記憶にある宇宙移動の常識に照らしてもなぜこうも止まれるのか分からない。レニータの機動操作能力は常軌を逸しているようだ。



「オープンサイコチャー完了。これよりポインタデストロイを展開します」


「おい、なぜそんなフォーメーションを知っている? 一機では危険だ。無理は必要ない。いい加減にしろ! くそっ!」



 ヴァルター のいらだつ声がモニタールームに響く。


 その時十九番機のモニターが突然機能を発揮して玉子の中を映し出す。青いセミロングが軽くウェーブした髪を持ち凛々しくも強い意志を感じる瞳を赤く輝かせる女性のバストショットがあった。


 どうでもいい話しだが本物のバストショットだった。いや偽物があるということでもないんだけど。



「了解ヴァルター、八番機パイロットに同期します。ポインタデストロイプランニングを強制取得。完了。ヴァルター、操縦権をこちらへ」



 まるでヴァルター が何かを命じたようなセリフだ。今、十九番機のモニターには機体に直接搭乗しているヴァルターも映し出していたが、目を閉じて軽く顎を上げ、まるで瞑想しているように見える。


 戦闘中に寝るはずもない。


 なんだろう?


 気付くとレニータも目を開けてこそいるが虚ろで誰かの声を聞くがごとくボンヤリと虚空を見つめている。いや、その眼球は小刻みに動いており何かを求めているようにも見えた。




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