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ユニバース☆ツアラーズ  作者: 霜樹
第一章
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戦闘-収束

「ヴァルターッ!」



 マリムさんが突進する勢いで、ヴァルターを追い越し砦に相対する。


 その理由を僕も認識した。


 無数、いやそこまでではないが二十基を超えるミサイルが飛んで来る。


 ウルンガが倒されるのを見て残党が放ったのだろう。ウルンガを倒す相手に勝てると考える方がどうかしている。残党の焦りはわからなくもない。



「マスターの命による制限を己の意思により強制消却。ヴァルター、お許し下さい。願わくば」



 マリムさんは戦闘機体だ。その可憐な容姿に関わらず、宇宙最強レベルの戦闘力をこの惑星で顕現させれば明らかなオーバーテクノロジーであり、連邦の、全宇宙の規定に抵触する。


 ゆえに宙港を出る際にその力を制限すると同時に、違反して力を使った場合には連邦やマザーへ記録される首輪の装着を強制されていた。


 その黒い無骨な装置は、今はマリムさんの白く細い首にはない。もとより力の発現を制限する機能はあるにせよ、マリムさんほどの物理的な破壊力を持つ者には外すことは可能だったのだ。


 ただ、外すだけで違反は連邦に記録され、最悪犯罪者として追われる身分となるだろう。



「燃料燃焼推進式低速座標誘導ミサイル二十六基、着弾ポイントを予測」



 誰が放ったのか、は二の次だ。自律もしくは高度なシステムAIによる誘導能力が内蔵されていなければ逃げ回ることも考えられるが、対ゲリラ用目標独自判断誘導システムAI搭載だとしたらは始末の悪い兵器だ。


 旋回し、迎撃は回避し、目標に迫る。いかに逃げ回ろうと設定された敵を探し出し目標を目指す。今回の様に多数基を連動して起動させると、一部が犠牲になり残りを通すような真似までする、と記憶している。


 マリムさんは合わせた手を頂点に腕を山がたに構える。服の腕の部分は先のレニータを守る行動ですでに素肌むき出しだ。その腕の外側にハッチが開き、ステーで伸ばしたモジュールが展開されると細いワイヤー状の何かが打ち出されるように四方に広がっていく。


 もちろんただのワイヤーではなく十メートルも伸びると垂れる事なく淡い光を発し始める。



「シールド、展開」



 短いコマンド。


 ワイヤー間は淡く光る水色の光で結ばれる。その光景を幻想的と想う間もなくミサイルが着弾して爆煙を空高く噴き上げる


 軍用の、本物の装薬だ。


 おそらく地対地ミサイル発射装備の車両を隠していたのだろう。


 ウルンガが倒された今、後生大事に持っている意味はない。



「皆、動くな」



 激しい爆音にヴァルターの声が渡る。


 マリムの能力を知り信頼しているのだろう。僕もじっと着弾ラッシュが終わるのを耳に手を当てながら待つ。すぐ背後に痛みをこらえるレニータ。腕を上げることもできないようだ。


 それを見て駆け寄り、僕の手の平をレニータの両耳に押し当てる。


 鼓膜を破りかねない轟音が耳朶を打つが、もとより僕は無傷だ。これで耳がおかしくなるくらい、現代医学は軽々と治す。


 傷ついたレニータが、必要以上にショックを受ける方が心配だ。


 結果として死に体というよりも死体に近い体のウルンガも守られている。


 ラッキーだったのは未だ身動きすら満足ではないレニータもマリムさんの防衛圏にいたことだ。


 僕だけは神絶を展開して、あるいは例えばレニータだけを守ることは出来るが、全体を囲うことは出来ない。混沌とした状況の中で、ヴァルターが吹っ飛ばされて神絶に触れれば消滅してしまう。


 何発着弾したのか判別する能力を僕は持たない。驚きはマリムさんの力だ。


 一発のミサイルは大型の車両を吹っ飛ばすどころか、ビルを半壊させるだろう威力を持つはずだ。それをシールドが防御しても、その破壊トルクはシールドの展開基部が受けるのだ。


 事実、片膝をついた彼女は着弾ごとに彼女自身の身体で物理的に地面をえぐり、潜るほどの衝撃に耐えている。


 僕の神絶は衝撃すら緩和するが、このシールドはいくら丈夫でも彼女の力なければ何の意味もなさないだろう。



「敵性ミサイル二十六基着弾。追加攻撃無し。前方空間において生命反応無し。攻撃性反応無し。光学式、火薬式、粒子的、重量子的攻撃兵器の反応無し。時限式攻撃装置の反応無し。状況、クリアと判断します」



 残党はミサイル攻撃の隙に逃げ去ったようだ。この場は逃げられても宇宙に戻るには当然宙港に行かなくてはならない。身元はわからないが、よほど周到なカバーを用意していなければ脱出は難しいはずだ。



「ありがとうマリム。いい判断だった。連邦が何を言ってきても俺は全力でお前を守る。まっそろそろアウトローになってもいいかな、って思っていたしな」


「ヴァルター、冗談になりません。私の行動があなたに制約を課すならば、躊躇わず自害します。私の全てはヴァルターの為に」


「マリムさん、僕もあなたの行動を肯定する申し入れをしよう。あるいはミルサス評議会の総意としてもいい。ミルサスの賢者として最大の感謝を送らせていただきたい」



 爆煙治まりつつある中、僕は言う。


 ミルサス評議会の総意と言えばずいぶん大層でハードルが高そうだが、実は賢者が申し出れば大抵は通る。賢者の申し出である時点で審議の余地はない、ということだ。


 連邦には有効な力でもあるし救難信号と違ってペナルティを受けたりしないどころか、賢者としての積極的な行動を称えられる行為だった。



「ありがとうございますトゥール様。しかし私は申し上げたい。いくら頭脳で勝負される賢者様といえど、宇宙を冒険されるならもっと実の攻撃力を身につけた方が良いのでは? 屈強な兵士を使役するにはやはり屈強な力が必要と考えます」


「何を言い出すマリム。トゥール、すまない。マリムもさすがに疲れてハイになっているんだろう。お前の采配見事だった。俺が仇を一人討てたのも君のおかげだ。感謝する」



 仇とは? と聞き募ろうとしたとき選抜隊の隊長と副長、ヤンスとアリスが近づいて来てヤンスがヴァルターに語りかける。



「なんと。あの爆発の中で皆が生きておられるとは」



 最後のミサイル攻撃、これも幸運だったのは、真っ直ぐヴァルターを狙って放たれており、グロデニア有志軍を飛び越して着弾したことだ。自国にはあり得ない破壊力で戦闘そのものが続行不可能となり、ただ身を屈めて推移を見守ったであろう有志軍と敵の下級兵士改めこの国のゴロツキ共はほぼ無傷のようだ。



 「全く、確かに凄いものだ。宇宙には貴君のような戦士が普通に存在するのか。ならば私は一生宇宙へ上がる気はないな」


「本当に恐れ入る。私も同系統の能力を持つと自負するが、根本的な力が違い過ぎる」


「俺は特別だ。アリスの力が有ればたいていの冒険者に後れはとらんだろうし、ヤンスの風格と経験が有ればいつでも部隊を指揮できるだろう。この国は小さいがその中で充分認められる力を持っていれば、宇宙でも同じさ」



 マリムさんに対する労いは無いがちょうどいい。どうやって生き延びたか分かっていないだろうけど、本当のことが分かれば亜ヒューマンだとばれてしまう。


 それに変に気遣いされても彼女が戸惑うだろう。


 ヴァルターは最強の一匹狼。いやマリムさんと二匹狼。


 アリスさんはすでにヴァルターのそばを離れゴロつき共を捕縛し一列に並べ始めていた。



「このままタンバリクまで歩かせることにしました」



 アリスとヤンス隊長は同行しないようだが、確かにデモンストレーションとしては最良だろう。一昼夜も歩けばたどり着ける距離で沿道の民への見せつけにもなるはずだ。



「なるほど、ならば行くがいいでしょう。貴方がたの国の統治のあり方に意見はありません」



 僕に異存はなかった。



「……」


「レニータ、大丈夫かい? タンバリクまで歩けるかい?」



 レニータが肩を押さえつつ僕らの輪に近づくのに気づいて声をかける。傷も痛そうだ。



「なによ。笑えばいいわ。調子に乗った小娘の哀れな末路をね」



 いや末路ってあなたは立派に生きてますが。



「笑えます発育不良の小娘。己の力量を過信してバカの様に突っ込んだあげく、何も出来ずに足手まといになって帰還行程にすら邪魔になる。いりません。あなたなんて私たちとトゥール様にはいりません」


「マリムさん、言い過ぎです。僕からも謝るし感謝もします。レニータを助けてくれてありがとうございます。この報酬をお望みならおっしゃってください。無条件にお支払いします」


「ならば……」



 また極端な額を提示する。ゴルス隊長に払った一人分の額の約半分だ。普通個人が持ち得る額ではない。いや、普通は国家に請求してもおいそれと払える額ではない。だが、僕はミルサスだ。



「わかりましたマリムさん。その金額は本来レニータが払うべきものでしょうが、僕が立て替えて払います。キャッシュですか?どこかの口座を指定しますか?」


「ちょっとトゥール。いくらなんでもこれ以上借金増えたら返すの厳しいんだけど」



 レニータにも僕にちゃんを付ける余裕すらないらしい。



「ああ、これは作戦行動の後始末だ。レニータも良かれと動いた結果だろう。別に君に貸すんじゃない。経費さ」



 ま、自腹だけどね。ミルサスで有る限り、一生お金に困る事はない。だが、使い方は重要だ。事実上無制限に供給されるキャッシュの使い道は、賢者としての判断にゆだねられる。



「トゥール様、そこまでその女に肩入れする理由がありますのですか? その女に」



 その女二回言った?!



「マリムさん、レニータは僕と行動を共にする仲間だ。あなたの発言の意味がわからない」



 マリムさんよりレニータの緊張の高まりを感じる。ううむ。僕の知らない何かが有る気がする。



「わかりました。私はトゥール様の行動をお助けしたに過ぎません。たまたまその対象が発育不良だっただけのこと。目的は達しました。報酬は要りません。しかし、トゥール様」



 マリムさんは言葉を切る。実は真剣に僕の事を考えてくれているのかもしれない。



「せめて私たちの百万分の一程度の力、発育不良娘の十分の一程度の力を身に付けて下さい」




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