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ユニバース☆ツアラーズ  作者: 霜樹
第一章
14/17

ウルンガ-戦闘

 女性ばかりの一小隊が微妙に前に出るポジションで陣形を組んでいる。


 どうやらそんな戦闘訓練を積んできた間柄のようだ。小隊の面々はアリスが持つ大剣に比べれば細身の、それでも女の子の体格にしては身の厚い剣を手にしている。


 取り巻きの一人がダッシュして前進していた小隊への攻撃へ移る。男女の差を考慮しなければ、こちら六に対して三だから優位のはずだ。


 しかし奴らは皆が電位操作能力者だったようだ。襲いかかってきた一人は両手に持った双剣を舞うような動きで存分に振り回している。刃のついた扇風機が意思をもって襲ってくる感じか。


 それでも小隊の少女とさえ見える兵士は、三人がかりで各々の剣を振り回しかろうじて受けている。



「ハァッ」



 アリスが斬り込む。その一撃は敵の剣をあっさり跳ね上げて隙を創る。やはりアリスに限っては、女性であることが戦闘力になんのマイナスでもないようだ。


 その隙に小隊の少女三人が息を合わせて切り込んでいく。今までたかが現地人のしかも女など、とたかをくくって挑んでいたであろう相手は、それなりの実力を持つ五人とこの星には存在しないと思っていた能力者の存在で、うっかりすると殺されかねないことを知り防御にも手を割くことで一気に優位性を失った。


 一人の少女の容赦ない一撃で肩口から斜めに袈裟切りされると



「ぐおぉぉぉぉ」



 という雄叫びと共に大地に倒れ込んだ。


 残りの敵二人は半分笑いながら状況を眺めていたが、それを見て慌てて戦闘に参加する。だが、アリスの攻撃でペースを乱された敵に常に二人一組になる小隊五人組に翻弄されて腕を落とされ頭をカチ割られる。



「面白い奴らだ」



 全身に浴びた返り血で赤鬼のようになったウルンガは、すでにかなりの数のこちらの味方を殺してそこに立っているようだった。


 目の前の戦闘に気を奪われていたが、ウルンガは手持ちの兵が次々と倒される中でまっすぐこちらに向かい、邪魔になる敵兵、つまりタンバリク正規軍志願兵は蹴散らしてきたのだろう。ウルンガからは距離を取るようにと指示していたつもりだが、興奮してタイミングを逸したところに一撃で殺られるのが容易に想像される。


 うかつだった。


 ヴァルターはマリムさんと共に前面には出ずに僕の命令で待機していたのだ。さっきレニータの背後にいたのは、有る意味僕の指示を反故にした行動だがもちろん咎めることは出来ない。レニータの退却でヴァルターの側に戻り、結果傷ついたレニータもカバーするポジション取りでじっとしていた。


 言うまでもなく雑魚だとしても戦闘に優れた敵から不用意な怪我を負わせない為だった。


 しかしウルンガは実戦経験に乏しいとはいえ一騎当千の選抜隊を、短時間に無造作に殺戮する力を持った化物だった。僕と比べれば倍以上と思われるほどの身長、横幅は三倍を超える筋肉の塊は、距離が有るのに見つめる僕の身動きを許さない。


 もしこの場に僕一人だったらただ呑まれ、ただ殺されていただろう。遠距離攻撃武器無くして、こんな相手に勝てる訳がない。いやどんな高度な武器があっても、直接対峙して勝てる気はしない。



「むんッ」



 ヴァルターがいきなり気合いを放ち腕を縦に振る。後で知ったことだが、錐刀を投げたのだ。結果を考えると音速を超えたスピードだったと思われる。


 目に見えぬスピードでウルンガを襲った錐刀が額に突き立った。


 第三の目が破壊される。


 ウルンガは第三の目が持つ解析能力によってその卓越した身体能力を最高度に高め、無敵を誇るとされる。その万能センサを物理的に潰されたのだ。これで勝てる。



「なめるんじゃねぇ!」



 ウルンガは元より眼帯で左目を覆っていた。失われた左目の機能を額に埋めたサードアイに補完させ、マザーに対しても代替機関をやむを得ず、で通してきたと思われる、らしい。


 しかし眼帯の下は、やはり青いカメラのレンズじみた義眼だ。


 相当なスピードで額に突き立てたヴァルターの錐刀は普通の頭蓋なら軽く貫く力を持っていたはずだ。


 それを弾き返したということはサードアイにはその根底にシールドじみた装甲を忍ばせていたということだろう。



「貴様、何者だ? 俺に刃を届かせるとはただ者ではないな?」


「俺はウゾーラの王子グラデナス、貴様の片目を奪ったウゾーラの王子さ」



 はっ? 初耳だ。ヴァルターは何を言い始めたのか?



「ウゾーラ、覚えがある。穀物畑が国一面に広がる国だ。先祖代々星中の国家から集めたという惑星サニンの宝物を蔵に貯めていた国だ。噂を聞いて大金になるだろうと滅ぼして奪ったはいいがガラクタばかりだ。舐めた仕事だったな」


「それだけ覚えているなら上等だ。王族をどうした?」


「皆殺しさ。チビもいたが恨みを残すのは面倒だからな。それにあの一族は特別な力を持っていたはずだ。あの星のルールに縛られる限りあいつらに勝目は無かったが、俺たちは気にしちゃいなかった」



 要するに今回と違い連邦の制限であるその星の文明に準ずる戦いをしたわけでは無いのだろう。この惑星のいかなる強者でも連射の出来る着弾誘導式レーザー銃一丁あれば僕でも勝てる。剣や人の拳は五メートルすら届かないのだ。



「そうだ、お前らは宇宙世界の武器を惜しげもなく使った。国最強の武人だった王は銃を撃ったこともなく、手近にあった鎖付きの短刀で応戦する。短刀といっても王のパワーをもってすれは焦りくらいは感じるはずだっただろう。長い鎖の届くままに自由に操られる鋭い剣は、狭い有限空間では銃弾に匹敵する脅威だ。銃弾と違って横からも後ろからも襲ってくるからな」


「……」


「お前らは無造作に引き金を引いた。だが王はいい。貴様らにとって極めて脅威だったのは事実だからな。ルール破りは承服しかねるが蛮族の攻撃とはそんなもんだろう。そもそも貴様らが襲ってきた話しではあるが」


「お前…… あの場にいたのか? 今さらあの時の事をどう言われようがどうでもいいが、詳しすぎるぞ」



 ウルンガの疑問を無視してヴァルターは続ける。



「俺が許せないのはその後だ。幼い妹をなんの躊躇いなく身体が上下に千切れるほどの力で切り裂いて惨殺し、母様に至ってはあんな手段で……」


「ぐふふ。貴様がなぜ知っているのか知らんが覚えておる。まずはよってたかって裸に剥いた。だがお約束のお楽しみには時間が無かった。連邦が急襲してくるのは時間の問題だったからな。だから一人がいきなり殺すではなく手首を落としたのを見てみな察した。誰かが肘を落とした。俺が肩口を落とした。誰かが踏みつけて押さえていた片方の手首を落とした。その腕が消えたら順番に両足を落としてだるまにしてやった」



 言いながらウルンガは興奮し生身に見える右目は当時を思い出してギラついていた。よだれまで垂らしかねない形相。


 内容を考えればとんでもない変態であり常軌を逸した殺人狂だ。節度をわきまえた殺人狂もいないだろうが、それにしても極端に残酷過ぎる。



「そうだ…… あの女はだるまになっても俺達を睨み続けた。だがほんの一瞬視線が反れた。玉座に。玉座の後ろには天井から垂れた幕がかかっていた。一人が素早く回り込みそこにいた小僧を引っ張り出した。そうだ、そいつは俺にクナイを投げつけ左目を潰してくれた。俺達は仲間意識が強い訳じゃねぇが一人が小僧を娘共と同じように胴から両断して殺した…… 。そして女にもとどめを…… クナイ? あの時はクナイだったが…… いやまさか……」



 クナイ、僕は僕の知識を探った。惑星テラのとある国に有った部落の、忍者と呼ばれた戦闘集団が使用したと言われる武器である手裏剣という武器の一種、と記憶している。


 通常平たく十字型が多いそれの棒状のヴァージョン。



 「いやあの時の小僧は死んだはずだ。往々未来に至るまで恨みを残さんようにな。奴は王子だったかもしれんが確実に殺している。貴様、他に王子がいたとでも?」



 ヴァルターの放った錐刀は、僕の目に見えなかったのと同様にサードアイにも画像として認識されなかったようだ。どのくらいのスピードで投げられたのか正確にはわからないが、進行先から真っ直ぐ見ればほんの縦数センチ、横数ミリ。それが超高速で飛んできても把握しきれるはずがない。そしてクナイも形状は似ている。



「だから俺がその王子さ。会えて嬉しいよ、肉達磨」


「ばかな。あの時殺したのは間違いない。第一あの小僧とはその容姿、似ても似つかぬではないか」


「知るかよ」



 言ってヴァルターは大剣を振るう。演舞のような動きで剣を舞わせるがそれすら人間技ではない。肉厚の、相当な重さと思われる大剣をまるで軽量合金製のように片手で軽々と振る。短いが美しいとさえ言えた舞は何処かに何かを捧げるようにピタリと天を突いて止まると、次の瞬間、猛烈なダッシュでウルンガめがけて迫る。


 ヴァルターの速さはあまりに圧倒的であり、地と平行に飛んでいるようだ。


 一瞬でウルンガの間合いに入るとあえて正面に仁王立ちし大剣を大上段に振りかぶる。


 その仕草は根本的なスピードがスピードなので隙を感じさせるものではないが、あれだけの速度で迫れるならそのまま勢いに任せて一撃くらいは出来そうだ。それをあえて踏み止まり、改めて斬撃したように見える。


 両手で大きく振り上げた大剣はうっすらと白い輝きを帯ていた。気づくとヴァルターの足を中心に全身が薄く白い光を放っている。


 体内電位が高くそれを取り出して、戦闘的な力やレニータのように人の心に影響を与えることのできる電位操作能力者。


 ウルンガは能力者ではないらしい。だが生まれ持った体躯や激しい訓練、この星では制約を受けるが人体工学による肉体改造によって、能力者は宇宙において絶対強者ではない。ほんの少し何らかの才に恵まれた者に過ぎず、ましてウルンガの様に異常なドス黒い心根を持ち、恵まれ過ぎた体躯を持つ相手に簡単に勝てる訳ではない。


 だから宇宙において能力者は特別視されることもなく、レニータのようなよほど特異な能力に特化した民族くらいが畏敬の対象になるくらいだ。


 しかしヴァルターの放つ力感はレベルが違う。僕の記憶には幾例かの力に特化した能力者の戦士の伝説が刻まれているが、その類なのだろうか。


 なし得た結果を記憶しているだけではその力量は分からない。


 今は滅んだが、力技の発現を特徴とした民族もいたはずだ。確か……。



「我が祖国ウゾーラを滅ぼした怨み、この一刀に託す」



 ヴァルターは叫びと共に思いきり剣を振り下ろす。しかしストレート過ぎる。


 ウルンガの体躯は体格的には決して偉丈夫とは言えないヴァルターより頭二つは大きく横幅も二倍ほど、全身を覆う固い筋肉を悪辣な思考の実現を当代最高のセンサで補完して、これ以上もなく使いこなす怪物。腐ってはいるが最強と言える戦士なのだ。


 電位操作能力はヒューマンの自然発現ゆえこの星でも制限されないが、それは決して無敵の力ではないのだ。


 ヴァルターが強い事は間違いない。だが、バカ正直に振り下ろすその剣が素早く横一文字に構えられたウルンガの、ヴァルターより二倍の厚みと長さを持つ大剣に防がれてしまうのは物理的にも明らかだった。


 ガキィッとまるで暴走したモービルが金属の柱に激突したような音が響くと僕は目を疑った。


 ヴァルターの輝く剣はウルンガの剣を真ん中から立ち割りウルンガの顔面から胸の表面を縦に傷つけていったからだ。


 超超硬度鋼材は存在する。


 しかし自然界で採掘されるものではなく、分子レベルまで分解して再結合させた物質であり、この惑星にはオーバーテクノロジーだ。あまりに固いので、わざわざ剣に加工する者がいるとも思えない。


 ヴァルターの能力、そして体内電位は自然素材の刀剣を現代レベルの最高硬度まで引き上げる能力まで持つ、例を見ないほど強力で巨大なものなのか。



「これは母の仇」



 剣をたち折られて呆然とするウルンガの横に陣取り激しく剣を上下させるヴァルター。ウルンガの手首が落とされ、肘から落とされ、素早く正直に戻ると大きな二太刀で両腕を肩口から斬り落とす。まるで新たな腕が生えてきたかのごとく盛大な血潮が吹き出すウルンガ。



「これは妹の仇」



 よく締った腹部をおそらくわざとだろう、胴を両断するのではなく半ばの深さまで剣を走らせるとやはり盛大な血しぶきと共に腹圧に押された腸がのたくる様に飛び出してくる。



「これを臣民と父に捧げる」



 もはや意識すら怪しいのにそれでも棒立ちに立ち尽くすウルンガの両足を一太刀で股から切り離すと胸を蹴りつけ仰向けに倒す。


 ゆっくり、といってもほとんど身体を浮かせるようなスピードで大股に近づきウルンガを跨いで両手に構え直した剣の切っ先をウルンガの青い疑眼に向けながら



「これは俺と…… アイツの仇だ……」



 僕にもかろうじてしか聞き取れないほどの声で呟いたヴァルターは、そのままウルンガの右目を貫き頭を砕く前に剣を止めた。





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