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ユニバース☆ツアラーズ  作者: 霜樹
第一章
13/17

出撃-ウルンガ

 先頭を切って歩いていた部隊長のヤンス=リドムが副隊長のアリス=アリーシャスと共に後退して僕たちの隊列に並ぶ。ヤンスがヴァルターに語りかける。



「ヴァルター殿とやら、出撃前に一度でも手合わせ願いたかったのう。どちらが勝っても負けても今この瞬間はもっと自然な気持ちでいられたろうに」


「失礼ですぞヤンス隊長。ザネン伯の采配です。その御人にはその力がある。我々は腐った半端者共を捕らえることだけを考えていれば良いではないですか」



 ヤンスは隊長にふさわしい体格と鋭い眼光を持つ戦士だった。対するアリスは背に大きな大剣を背負った美少女だ。ほっそりした身体で、その体格と比べれば巨大とさえ言える大剣をどう振るうのか疑問を感じる。

背負っているだけで明らかに重そうなバランスだ。ほっそりしてはいるが副隊長を勤めるだけの筋力は見て取れるし、背は高く胸部の膨らみは目のやり場に困るほどだ。それでも、大きすぎる。……剣が。



「ああ、心配には及ばん。あんたらでは俺の相手は務まらない。レベルが違い過ぎるからな。どうしてもというなら明日にでも時間を取ろう。面倒な話しだが」


「ヴァルター、頭を下げろとは言わないがその言いぐさはないよ。ヤンス隊長、失礼をしました。ヴァルターの実力は存分に見る機会がすぐに来ます。伯爵はむしろ臣民であるあなた方を一兵たりとも死なせたくはないのです。私より伯爵を信じて共に協力しましょう」


「トゥール殿、そなたこそその物言い恐れ入る。ミルサス族の事はザネン伯からお聞きしました。本当に普通ではないようだ。まだほんの子供にしか見えないのに」



 ヤンス隊長も人のことは言えない口べただ。言わなくて良いことを平気で言ってしまう。ヴァルターと同じく何に遠慮するでもなく結果だけで生きてきた人なのだろう。


 アリス副隊長がさりげなく割って入る。



「隊長、伯爵が選んだ助太刀です。別に我々だけで役不足とお思いなのでもないでしょう。しかし先の討伐戦を見ても甚大な被害は覚悟しなくてはならない。ヴァルター殿がウルンガの相手になるというならばお手並拝見で良いではないですか。奴が極端な戦闘力を持つ事もまた周知。ヴァルター殿の力及ばない時はヴァルター殿をお助けして一時撤退、あくまでもヴァルター殿の力を信じた作戦で良いではないですか」


「うむ、アリスがそこまで言うならもう考えまい。ヴァルター殿、失礼した。まずはその腕に期待させてもらいますぞ」


「ふうん、アリスさんって隊長さんの信頼が厚いのね。隊長さんのテンションが一気に落ち着いたわ。それにもしかしてあなた……?」


「はい、レニータさん。私は特別な力を持っています。この重い大剣を自在に振り回し、少しだけですが相手の動きを読む力。あなたにも感じます。宇宙では誰もが持つのですか?」


「いいえ、その素質があればさらに開き伸ばすスキームはあるけれど、素質そのものは生まれつきの希少なもの。でも宇宙を旅するのはそんな特別な力でも持っていないとすごく大変と言えるから、貴方の出会う他星人には能力者が多くなるかもね。この子供は特別製だしね」



 はいはい、僕は電位操作能力者ではありません。



「ふむ、なるほど分かりやすいお話しです」



 つまりアリスはレニータやヴァルターのように脳内電位を全身電磁波として自在に応用する能力を持つという事か。


 レニータがスレイムル民族であるがゆえ生まれながらに、を別にすれば千万分の一の確率すらないはずだ。この星の生まれで有る以上。


 それだけにヴァルターの生まれも気になるが、アリスはそのわずかな星の下に生まれた者らしい。


 荒れてはいるが平坦な体裁の整った街道を進んで日が頂点から傾きかけた頃、僕らはウルンガの砦に着く。総勢五十六名では大部隊とは言えず砦からの反応もない。



「それじゃ、さっさといぶり出すか」



 ヴァルターはグリから下りる。そして特別製の戦弓をグリの背から外し始めた。通常この国の弓は持ち手を境に上下同じ長さだ。しかしヴァルターのそれは上側が不均等に伸びて全長を稼いでいる。単純にそれだけ力を溜めることが出来るようだ。



「そうだ隊長さん、この弦を引いてみるかい?」


「ほう、強く張っているのだな。その挑戦受けよう」



 先の隊長の発言は要するにお互いがその力を分かりあえていれば、ということだ。極端に重い弦を引けるかどうかはその力を試すのに絶好ではある。



「うぬ? うううむ、うぬぬ……」



 隆々とした体躯のヤンス隊長がかろうじて引き切る重さのようだ。矢をつがえていないのでただの力試しに近いが、この様子ではまともに矢を放つことは出来ないだろう。



「こっこれを自在に使えるというのか? そんなバカな」


「さて、さっさと始めようぜ。早くウルンガと剣を交えたくなってきたぜ」



 グリを下りたのは岩山砦正面五百メートルといったところだ。地対地ミサイルはもちろん、遠距離レーザーが自動防御にセットされている宇宙の常識では近づき過ぎだ。


 しかしザネン伯はその心配は無いと言った。ウルンガはそこだけはルールを守っている。ヴァルターはマリムと共にさらに近づき二百メートル程度の距離で立ち止まる。


 ヴァルターは背にアリスさんよりさらに大きな大剣を背負っており、矢筒はマリムさんが背負っていた。マリムさんが片膝をついて位置が低くなった矢筒から、矢を三本取り出すと無造作に弦につがえて、引く。


 軽々と、さっきのヤンス隊長がやっと引いた幅をさらに越えて引ききったところで止めるとギリギリという音が聞こえてくるようだ。


 放たれるのを待つ止めた矢が、ボゥッと輝く。白い白い、そしてわずかに青い輝き。試射の時よりも強い光を放ち、ヴァルターの髪まで光を受けてか白っぽく輝き始める。


 僕はなんの脈略もなく、その白い髪がレニータのものと似ている、と思った。白色の質が似ているのだろうか。


 そのまま放つと三本は恐ろしいスピードで砦を急襲する。そして。


 着岩した矢は大爆発を起こし、石造りの建物からもうもうと煙が上がる。



「なっ・・・・・・ どういうことなんだあれは」



 ヤンス隊長のつぶやきも無理はない。


 爆煙は三十メートル近いと思われる後ろの岩山と同じ高さまで立ち昇る。僕らが前回見た破壊力をさらに上回っているようだ。前回の矢は一本。それだけで岩山の腹を大きく大きく抉った、ミサイル並の破壊力だった。


 ヴァルターは微妙に狙いを変えて速射を繰り返す。爆発音と煙が視界を埋めつくす。


 最前の記憶に頼っているのか、土煙で視界が全く利かない中でもかまわず光る矢を撃ち続けるヴァルター。唇の端が持ち上がり悪鬼の表情さえ浮かべて。


 通常弓矢を遠くまで飛ばすには斜め上四十五度の角度に打ち上げ放物線を描かせる、と記憶している。


 しかしヴァルターは正面を狙う限り水平発射だ。矢は地表と平行に飛び目標に到達して大爆発している。よく見ると加速すらしているようだ。白い光は破壊力だけではなく推進力にも転化されているらしい。


 斜め上に飛ばすのは飛距離の為ではなく、正面を外した、より後ろの方に直接着矢させるための様だ。


 やがて七十ほど持ってきた矢を撃ち尽くす。土煙で砦は全く視認できない。



「普通に、全滅したんじゃない・・・・・・ ?」



 レニータが呟くが



「死者はいないだろう。せいぜい手足がもげた重傷者がいるかどうかだ。ウルンガとやらは狡猾だ、これくらいの攻撃は予測してるさ」



 次第に視界が回復するにつれ、蟻の子のようにバラバラと出てくる人影を認識する。その容姿からこの国の者と見える。


 やはり内部にいた者達は巧妙に難を逃れていたようだ。



「いくぞ! 罪人共を捕えよ!」



 ヤンス隊長が吠えるように号令をかける。実戦経験が無くともそこは正規軍だ。整然と隊列をとり砦へ肉薄する。


 グリに騎乗したまま逃げ出した敵下級兵士を打ちすえて行動不能にしているようだ。しかし奴らも時には両手に持った剣を巧みに振り回し強い抵抗を見せる。



「やむをえん、出来れば殺さぬ程度に打ち据えよ。自業自得だ」



 ヤンス隊長の号令が聞こえる。


 爆撃にも等しい攻撃を受けて皆逃げるに任せている態だ。基本的には冷静な正規軍に対抗する術はない。そして兵士たちが確実に敵を戦闘不能に追いやる中、数十人単位で下級兵士を打ち倒している討伐隊の中央から突然うめき声が上がり、こちらの兵士が二メーターは上に飛ばされるのが見えた。しかも次々と。



「来たな、ウルンガだ」



 黒っぽい戦闘服のようなものを着込んだ三人の後ろから巨漢が姿を現す。


 と、いう事は兵士達を吹っ飛ばしたのはウルンガ本人ではなく、他星人とはいえとりまき連中だという事だろうか。ウルンガでなくとも鍛え上げた兵士を物理的に二メーターも飛ばす力を持つ者がいる。かなり強いということだ。



「私が行くわ」



 レニータが飛び出す。 


 腰に差した細身の剣を抜いて。


 ダマン戦ではあれだけ活躍したレニータだ。その実力に疑いの余地はない。


 しかし剣を交えた様子は明らかに期待を裏切るものだ。押されているだけではない。彼女の命にかかわるほど不利に見える。



「レニータ、無理しないで。他にも兵はいる」



 僕は叫ばずにはいられなかった。剣技で劣性な上、後ろの連中が何かを投げつける。



「爆弾だレニータ。引くんだ」



 もちろん手遅れだ。


 この国にも火薬は存在する。この国の文明の範囲でも、手榴弾のようなものは存在するらしい。


 ドンッ


 ドンッ


 原始的なただ爆薬を爆発させておそらく陶器で出来た入れ物、外郭をまき散らすだけのようだ。現代戦の個人武装手榴弾は指向性型、焼夷型、閃光型といろいろあるが、最大破壊力を持つ合成圧縮爆薬使用型なら大抵の防御ごと半径五メートルを消滅させる。


 それに比べればおもちゃのような代物だが、生身が直撃すればもちろん大事だ。レニータはアーマーの類を装着していない。


 レニータが思わず身を屈めた背後にいたのはマリムさんだった。特別な兵装を使った訳ではなく、直接腕で爆弾を受け止めたようだ。


 その腕の部分の服は焼けて落ちるが、顔部と違って低破壊力の銃弾やレーザーも弾く合成樹脂で造られたらしい腕の外郭は傷一つつかない。



「下がれ。話はあとだ」



 鋭いマリムさんの言葉。


 無言で後退するレニータ。マリムさんの防御が有っても爆発の威力で肩口が傷ついたらしく真っ赤に染まっている。


 そこをもう片方の手で押さえながらの退却だったが、それにマリムさんが手を貸す事はない。ここは戦場なのだ。


 僕が飛び出してもどうにもならない。ハラハラしながら彼女が僕の後ろ、陣の中に入るのを確認するとホッとする。



「雑魚は任せてもらおう」



 副隊長アリス・アリーシャが前に出て大剣を抜いて構える。




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