鑑定生活スタート
ゲーム内三日目。天気も快晴で心地いいし、いよいよ修業の合間を縫って珍しいアイテム探しを始める為のショップ巡りをする事にした。
しかし今日の私の気持ちは、行商をするための珍品ゲットが目的…というより珍品探しに慣れる為の練習という所が大きい。
きっと他者から見れば、失敗する可能性大だろ!と思われてしまう事だろうが、ここはリアルと違うヴァーチャルの世界だ。アーティファクトもある事だし、色々と儲ける手立てや良品大量ゲットの裏技などといった抜け道はある様に思えてならない。誰でも簡単にとはいかないのは承知だが、やってみる価値は高いように感じた。
そんな訳で私は、初日に外観だけチェック済みだった『ボローニャ』という古民具屋の前に訪れていた。
前回、笑われた気恥ずかしさで思わず撤退してしまったが、いよいよリベンジである。
ドアを開けると、古びた倉庫の様な埃の匂いがする。いい匂いという訳ではないのだが、掘り出し物が眠っていそうな期待させる匂いだ。根拠なんてないけれどね。
「いらっしゃイ」
「ちょっと、色々じっくり見せてもらっていいですか?」
「どうぞドウゾ」
ネコだ。奥まったカウンターに丸メガネしたネコの顔を持つ獣人がいる。眉毛と鼻周辺のヒゲが白い柳の枝みたいに垂れ下がっているので、老猫に近い年頃と思われる。
この街をあちこち歩いていると、時折だがよく見るタト族とは違って顔が丸々ケモノの人に遭遇する。彼等もタト族と同種なのだろうか?先祖帰りみたいなものなのかもね。
店主の許可も得た所で、いよいよ鑑定魔のモノクル発動である。なんだかんだでこの三日間、街中探訪に明け暮れていたので初使用だったりする。
最初はお店でチェックの練習するつもりだったので、判明してる所持アイテム等には使ったりしてなかったのだ。
まあ発動とは言っても、難しい条件なんてのはなくて、目に装備して目前のアイテムをじっと見詰める様にチェックするだけでアイテム上に説明文が浮かんでくるというものらしい。
後は鑑定済みの商品の内容ならば、いつでも自分だけが見えるウィンドウにて表示閲覧が可能。他者に秘密にしたい時は表示オフにしておけばいいという機能もある。
更に、一度手放したアイテムでもまたゲットし直せば鑑定済みの結果が持続されるので再鑑定する必要はない。
一般プレイヤーは鑑定屋を営むNPCショップか、大手の商業系ギルド等で一々有料で鑑定する訳だから当然の救済措置と言えるのだが、目利きスキルや鑑定アイテムを持ってる身としては、その辺は今後大きなイニシアチブになるだろうと実感している。
私の今後の目標としては、鑑定と掘り出し物転がしを続けて生計を立てつつ、スキルレベルを上げていきたい。
これはまだ推測の域を出ていないが、下地となる自身の目利きスキルにモノクルの上乗せ効果を加える事で、レア度B以上の鑑定が出来る様になるのでは?という目論見があるのだ。
アーティファクトという無二の品は、この世界にこれまで訪れた参加者の母数に比べてあまりにも少ない。そんな貴重なレアアイテムがたかだかレア度Cで能力打ち止めというのは正直言ってショボい。
まあ、上位互換の品が有るんだろうとは予測してるが、プレイヤーが保持する鑑定系のスキルの初期が、レア度Dのアイテムを時々鑑定成功させる程度の力なのだと聞き及んでいる。
そこから鍛え上げてレア度Bまでを自力で鑑定出来る様になったとしたら、アーティファクトははたして用済みなのか?アーティファクトの重要性を加味して考えれば、モノクルには現状でレア度Cランク鑑定までと記述されているが、元来は現鑑定能力にプラス1ランク上のブースト機能という可能性がある様に私には思えてならないので、今後もじっくり検証して行きたいと思っているのだ。
とまあ、こんな感じでアイテム鑑定は先送りにしていたとはいえ、色々と皮算用はしてました。
「……」
ジーッ…と三白眼に設定した眼を皿のようにして見詰める。
『ただの壺 レア度E ※何のへんてつもない古びた壺。粗悪品なので価値も低く、耐久性も悪い。 販売価格4P 販売者:ニャンティーク・ボローニャ』
おおーっ♪でたでた、出ましたよ。いかにも価値低そうな壺からやってみたので、予想通りの結果だが、ちゃんと鑑定出来てますね。詳細が分かりやすい。
てか、あの猫ニャンティークっていうのか(笑)。
『欠けた大皿』
『年代物の鍬』
『穴空き鍋』
『錆びたフォーク』
『歪んだ壺』
次々と鑑定結果を見ていく私。ボローニャの品はどれもレア度EやFばかりの様だが、この鑑定作業が楽しくてしょうがない。
さっきから、大半の品が異なる名称を持っているのだ。若干、同種の品を並べてもいたが、八割方はざっと見る限り一点物らしかった。
この一店舗でこれだけの多品種を個別に鑑定させてくれる運営には、個人的に脱帽である。
極論を言えば、この世界のありとあらゆる総てのアイテムを鑑定したくなりそうだ。
この日結局、私は修業の時間と食事を除いてこの店に入り浸りで鑑定しまくる事になった。
店主もちょっと引き気味だったが、許可を貰った以上、手加減はしないつもり。
「……んん?」
大量のガラクタを狂った様にチェックしていく中、不意に気になる品が出てきた。
『ロセオの花瓶 レア度D ※十数年前に聖法国で流行した白黒格子のデザインの花瓶。現在は廃れているが、実は南部地方では好事家達に人気があり、良い値が付けられる一品。 販売価格11P 販売者:ニャンティーク・ボローニャ』
一般的にレア度の分類はFがジャンク、Eが粗悪品、Dが普及品、Cが良品、Bがレア物、Aがレジェンド、Sが神話級となっている。さっきまで見てきた物もレア度D~Fばかりで、これもご多分にもれずレア度Dと全然大したことないのだが、記述を読む限り、地域限定で価値が上がる旨が記載されている。
どうやら、レア度のみで考える様では商売にならないという事なのかもね。
多分この街では二束三文だろうけど、先の事を考えてこれは買いだな。
次に眼に着いたのが金属製の食器。クルリエという名称が付いたナイフ、フォーク、スプーン、包丁でいずれも酷く錆び付いてしまっている。
さっきの花瓶もそうだったが、どうやら現状か若しくは過去に一級品だったものには名称に製作者の銘かブランド名が入っているっぽいのだ。
この錆び付いた食器も元は良品という事ならば、博打にはなるが後学の為に買うべきだ。鍛冶屋かどこかで錆を上手く除去出来れば大金に化けるかも知れない。
現状全て3パカシというワゴンセール状態だから、占めて12P也。
そして最後にこの店の目玉がこちら!
『????の皿 レア度? ※???。 販売価格26P 販売者:ニャンティーク・ボローニャ』
考えてみればコレ、鑑定失敗って事はどう考えてもレア度B以上確定だよね?スキルなら普通に失敗もあるけど、アーティファクトでC以下は失敗しない訳で、それが失敗してるって時点で良品確定が判別される寸法?コレなら現時点でB以上を鑑定出来なくても自身で判別して目利きが出来る!
「え~と、このお皿!大きいですね。何かいわくのあるものなんでしょうかね?」
「ん…ああ、ソレ?結構ずっしりと大きいでショ。だから他よりちょっと高めにしてるのヨ!確か御近所さんが家の蔵を整理するって話でまとめ買いした分だから、イワクとか知らないネ」
「!……花瓶とこの食器四点とこのお皿買います。まとめ買いするからオマケしてくれませんか?」
「う~ん…おじょうサン、その歳で珍しいくらい熱心だしネ、今後ともご贔屓にって事でまとめて45Pにしておくヨ。」
「有難うございます♪また来ますね!」
手探りではあったけど、私は何か手応えの様なものを感じて意気揚々と戦利品を胸に凱旋したのであった。
… … …
NAME:コト・イワク 種族:タト族 LV3 キャラクタークラス:転売屋 RANK:F
STR21 VIT20 DEX23 MEN25 SPD24
《所持金》
36373P
《師事》
『弧を描く餓狼』ガラム・マサラ
《習得技能》
工芸(LV1) ※工芸品知識及び製造におけるプラス補正。補正値はレベルに準ずる。
目利き(LV4) ※一定の商業系スキルにプラス補正。NPC商店訪問時にレアアイテム出現率が微細にアップ。
体術(LV5) ※格闘系スキル。強力な武術ではないが、あらゆる格闘技の基本となっているスキル。
《装備品》
木綿のセーラー、指ぬき軍手、紺のベレー、皮のくつ
《所持品》
肩掛けカバン(12)×2、水筒(小)、ペン付き手帳、遠眼鏡、小型ナイフ、初期財布(100)、ロセオの花瓶、クルリエの錆びたスプーン、クルリエの錆びたナイフ、クルリエの錆びたフォーク、クルリエの錆びた包丁、????の皿
《アーティファクト》
鑑定魔のモノクル(C) ※レア度C以下のアイテムの鑑定。
… … …
~リオレ探訪メモ~
◆『古民具 ボローニャ』
東街区の小さな古道具屋。売り物の大半がどこかの蔵からかき集めて来た様な生活雑貨で、二束三文なのだが、時折良品・珍品が紛れる様で侮れない、私の行き着けの一つ。初期のスポーン地点からも近いが、東支部会館からも近く、良い暇つぶしになる。店主のニャンティークさんが鷹揚とした人(猫)なので、まとめ買いすれば必ず負けてくれるからお得である。
チュートリアル編が終わったので、次話から主要キャラを登場させて行きたいと思います。