騒動屋
「それは……誰だ!?」
誰かの発した呟きに、ミミナガ君は一呼吸おいて口を開く。
「それは…………F・Fさんです!」
ミミナガ君の言葉と共に全員の視線が、一斉にFさんへと突き刺さる。
「なっ……い、いや、ちょっと待ってくれ!確かに、積極的な攻撃はしなかった。その通りだよ!でも、元々私の杖術は専守防衛の為に身に付けたものなんだ。勝機が見えるまでは消極的にもなるってもんさ!戦術は十人十色だろ!?」
「周りが反撃に出てからも、専守防衛を続けてましたよね?ですが、貴方とやり合っていた二人は、その頃合いで同時に攻撃を止め、玄関へと走った。まるで、通信で撤退を促されたかの様に」
「そ、それはあくまで君個人の主観だろ!君一人の言い分で私が犯人確定なんて、納得いく訳ない!皆だってそう思うだろ!?」
周囲の者達から、疑惑と困惑の空気が漂う。うーん……これでは逃げ切られちゃうかもなぁ。
私自身は、ミミナガ君が嘘を言ってまで彼を陥れる事がないと分かっている。
F・Fさんが何者なのかは分からないけれど…命を奪われるかも知れない状況で、防戦一方のまま一度として攻撃しないで居続けるっていうのは、実は至難と言えるのではないかな?
彼が死…ゲームオーバーを望んでいるのでない限り、命を失い兼ねない戦闘シーンにおいて、負けたくない、殺されたくない、勝ちたいという思いは抱く筈だ。そしてその意思が強ければ強い程、相手に攻撃を仕掛けていく事で勝算を見出だそうともがく訳で。
ましてや彼の言うように専守防衛が基本戦術なのだとしたらより打開策が無いからと焦る筈であるし、例えば最強のカウンター技でも持ってれば話は変わってくるけど、そんなのも出してないし。
ただ防戦一方と言うのは、敵と談合していたと疑われてもおかしくない。やはり私は怪しいと思うよ、F・Fさんは。
「とっ、兎に角!防御に徹したからという理由で私一人を吊し上げる様な真似は止めてくれ!そんな事するって言うなら……さっきの集団となんら変わらないじゃないか!!」
F・Fさんは大声で皆に訴え掛ける。さっきの連中を兼ね合いに出され、一同の目が泳ぎ始めた。
「……お芝居は、その位にしておいたらどうだ?」
あやふやになりそうな展開に一石を投じたのは、これまで沈黙を貫いてきたエヴァさんである。
私は先ほど怖い思いをしたから、彼女の声に一瞬ドキッとした。
「な……何を言って…」
「この耳で調べた!」
「!?」
エヴァさんは右耳に着けたイヤリングを 揺らして見せる。
「アーティファクト、『呼び声を聞くもの』。精神力を消費して300メートル四方の存在を認識しているプレイヤーの通信を傍受出来る。お前と集団組との通信は聞かせてもらった」
「ふ……ふん、何を言い出すかと思えば、それこそアンタ一人が聞いたと言い張ってるだ…」
「録音機能があるんだよ。面倒だが…フレンドの仮登録さえすれば、全員にそれを再生してやる事は可能だ」
「……」
「F・Fなんて、半端な名乗りは止めておくんだな。私は知っているぞ。お前は、『騒動屋』のファニー・フェイスであろう?」
「……」
断言する様に、エヴァさんは言ってのけた。彼女は知っていたのだ。F・Fを。
「騒動屋!?……確か、Cランクの賞金首だな!バルカニ諸島海底洞窟の金色蜥蜴捕獲ツアー客全滅事件や大型クラン『空弩暴流狗』団員大型懸賞金事件など、自作したクエストで大勢を巻き込む死のイベントプロデューサーか!」
オボロさんが解説してくれた。死のイベンター…騒動屋……そう言うのもアリなのか!
賞金首って聞くと、やっぱりトマホークみたいな殺人狂や無法者、強盗なんかをイメージしてたけど、自分でイベント作っちゃう様な人もいるんだねぇ。
「……ッ」
エヴァさんとF・Fさんのやり取りとオボロさんの解説を聞き入っていた私…そして多分皆もだったろうが、次の瞬間に息を飲んだ。
なんと、あの地味(失礼)だったロメオさんが、F・Fさんに不意打ちを慣行したのだ。
目立ってはいなかったが、彼は丁度F・Fさんのすぐ後方辺りに立って居たので一番急襲しやすい位置取りだったと言えた。
皆がオボロさんに集中していた瞬間を突き、彼は小剣を逆手に持ち、音もなく飛び掛かった。狙うは、F・Fの首!
「!」
一同が展開を見守る中、先制攻撃をしたロメオさんよりも早く攻撃に転じたのは、F・Fのクォータースタッフだった。
「ぐっ……」
初撃は鳩尾、次に顎と目にも止まらぬ瞬撃を繰り出す杖裁き。何が専守防衛だよ…。
そして、二発で意識を失いかけたロメオさんの首筋に横凪ぎの一撃が入る。
更に驚く事に、最後の一撃で襟元のバッジの様なアクセサリ(さっきまで気付かなかったが、襟に装飾品を身に付けてたみたい)が取れ、しかも杖先にくっついたまま、遠心力を利用してF・Fは手元へと持って行き、キャッチする。
「棒術オリジナルスキル、『解体料徴収執行権』!オイオイ、三下ァ!専守防衛云々と語ったが、オレは弱ェなんて一言も言った覚えはねぇぜ!」
ああ、間違いない。コイツは、賞金首のファニー・フェイスだ。だってもう隠す気もない、本性丸出しじゃん。
「確かラズナ出身とか言ってたなァ?そしてこの徽章……オマエ等知ってっか?コイツは、『勲五等黄聖褒章』と言うモンだ。聖法国全体で栄誉ある勲章って訳じゃねえが、守護聖人第15位、【黄の司祭】『地精』シャンメリーが功労者に授与してるモンで、一等から五等まである。一等なら一つで奴の直営クラン、『地母の庭』に入会する権利が得られ、五等なら十個集める必要がある。シャンメリーは聖国幹部としての努め、クエストの受注の他にこのクランで街のボランティア活動を標榜していて、外見とその優しさから独自のファンも多い。つまり、コイツは入会を求めているシャンメリー信者だ。大方、オレを殺れば褒章が増えるとか考えたんだろうな」
ファニーフェイスは、なんか嬉々として語り出した。よく分かんないけど、クズのくせに博識だ。いや、クズは関係ないか。
「だからどうした?もう言い逃れは諦めたか?」
エヴァさんが冷めたい眼で問う。
「見破った事は誉めてやるよ。だが、こうして新しい餌が手に入ったから解説してやってるのさ。コイツを使えば、次はシャンメリー信者どもを集めたイベントで遊べるって訳よ。オレは別にアーティファクトが欲しかった訳じゃねぇ。なぁ、何でオレがファニーフェイスなんて名乗ってるか分かるか?オレが笑える顔ってんじゃないぜ?勘違いすんなよ!オレはなぁ、オレに翻弄されて死地でもがき、当惑するオマエ等のバカ面を笑うのが好きで堪らねぇんだよ!」
うわぁ……クズいなぁ。
「当主さんよ、まさか賞金首に参加権がねえなんて言わないよな?今の今まで、そんなルールは一度も聞かなかったぜ?」
「ええ、ええ、そうでござんすとも。ちょっと当家に悪評とか立っちゃったりしたら困るってなモンですが、逆に賞金首が居るからって言ってごねたり逃げたりする様な弱者には、宝を受け取る資格は無いって事で。ルール上は問題ないですねぇ…」
ないのかよ。いや、ここの当主は戦い、争う様が見たくてゲーム主宰してるからこれが普通って事かね?コロッセオの剣闘士で楽しむ富裕階級みたいなもんか。
何か危険人物ありきで本戦が始まりそうだけど、全員が彼を敵視警戒出来たっていうのは、まあ良かったとすべきなのかな。でも一枚岩じゃないから、奴の戦略次第では各個撃破もあり得る。C~Eの参加者内でCだからこそ、奴も余裕で手の内を見せてる訳だし……少なくともEランクの私の体術じゃ、さっきの変幻自在の棒術…杖術?を捌ききれる自信は無いぞ。どうしても複数の助力が必要だろうね。
ピッ…
*ロータスさんから、フレンド申請がありました。承認をしますか?
私は構わず承認した。
(急ですまんな)
(いえ)
(早速でなんだが、コト!あんたランクはいくつだ?俺はDだ)
(期待させたのなら済みませんが、まだEです)
(そうか……実は不戦同盟のみにしようかとも思っていたが、Cランクの奴みたいなのが参加していると分かった以上、もう少し同盟強化をしておいた方が良いかと思ってな)
(同感ですね。危険人物は近寄らないか、出来れば排除したい所です。かなり厳しいかもですが…)
(だな。これは仮の話だが、アーティファクトを売った金を山分けする形にして、本格的な共闘も視野にいれるべきかも知れない)
(良いですよ、それならそれでも。元々偶然もらったチケットで来た訳だし。でも、ロータスさん……その共闘人数、何人まで可能ですかぁ?)
(何!?まさかお前……)
(ええ。ソロじゃないですよ!しばらくソロで通そうかとも思いましたけど、メンツが揃ってくればフォーメーションも大事でしょ?)
私は素早くミミナガ君に話を通した。
(うおっ…)
ロータスさんの元に恐らくミミナガ君のフレンド申請が飛んだのだろう。二人がやり取りする間も、私は会話を続ける。
(私とロータスさんで近接ペアを組んでフォワード、ミミナガ君が潜伏と狙撃のスキルを中心にバックスという感じで進んでみませんか?万全とは言えませんが、個々で動くより戦術の幅が広がるんじゃないでしょうか?)
(僕は構いませんが…)
(そうだな。他の連中の戦術も不明だし、三人一緒に雁首並べない方がいいだろう。細かい行動や使用スキル等の打ち合わせをするには、今は時間が足りない。始まってからもチャットで逐次行っていこう)
こうして、ファニーフェイスという危険人物を加えたまま、本戦がスタートした。
それぞれが、思い思いの扉を開けて先へと消えて行く中、ファニーフェイスが別の扉をくぐるのを見届けつつ、私とロータスさんも二階へ上がって左手の扉を開けて中へと入る。
後方からは、気配を希薄にした状態でミミナガ君がついてきている筈であるが、私達からはそれは伺えない。
はたして、ビンゴを勝ち取るのは誰になるのだろうか……
… … …
NAME:コト・イワク 種族:タト族・マニスリング(獣化箇所:センザンコウの鱗の手甲)
LV32 キャラクタークラス:アイテム合成士 RANK:E
STR112 VIT105(+1) DEX121 MEN117 SPD113
《所持金》
414746P
《師事》
『弧を描く餓狼』ガラム・マサラ
《習得技能》
工芸(LV14) ※工芸品知識及び製造におけるプラス補正。補正値はレベルに準ずる。
目利き(LV24) ※一定の商業系スキルにプラス補正。NPC商店訪問時にレアアイテム出現率が微細にアップ。
体術(LV33) ※格闘系スキル。強力な武術ではないが、あらゆる格闘技の基本となっているスキル。
シンセサイズ(LV19) ※二種のアイテムを合成して別の何かを造り出す事が出来る固有スキル。
八十五式和合婚刻拳(LV4) ※相手の回避にマイナスの補正が掛かる固有武術。レベルに応じ覚える三連打突技毎に威力が上がって行く。
活眼(LV5) ※周囲の者の力量を推し測ったり、オーラを見たりするスキル。成功率はレベルに準拠。
《タト族の力》
尖山甲 ※生命エネルギーを込めた拳の強撃。一日に三発まで使える。
《フィート》
【綺羅星の加護】
【寄り道の王者】
【応用技術万能】
《装備品》
木綿のセーラー、布のナックルガード、鼬鼠のベレー(1)、皮のくつ、クローバー・ピンズ、黄色いマグネット
(予備装備:肩掛けカバンにクラウン・ピンズ、タンブラー・ピンズ、ドロップ・ピンズ、ハートフル・ピンズ、赤マグネット、青マグネット、緑マグネット、白マグネット)
《所持品》
肩掛けカバン(12)×2、鼬鼠のウエストポーチ(3)、鼬鼠のプラントホルダー、水筒(小)、ペン付き手帳、遠眼鏡、小型ナイフ、初期財布(100)、お菓子の巾着、指ぬき軍手(白、赤、橙、緑、黒)、コルキントンの香炉、バンジーの急須、水琴窟の小壷、30%ポーション×7、80%ポーション×1、中級薬草×8、エリクシール(箱入り)、獣の牙、石のサイコロ、茶碗『湧水郷』、紺のベレー、
ナットリング×85、石器ナイフ×10、燧石×4、砥石×3、石筆×5
《アーティファクト》
鑑定魔のモノクル(C) ※レア度C以下のアイテムの鑑定。
蒼き水源の水差し(B) ※清水が無限に湧く(ON/OFF可)。
《フレンドリスト》
●ミミナガ・メデカ
●ぷみら・みにま
●ぐすたふ
●アイアン
●ライ・クライ
●エスプレッソ・デミタス
●ふらりぃ
●明石・暮紅人
●ヘルベティア・ローゼンリース
●ロータス・ピットフォール
《従士隊》
◆プルカリ【リビングメイル】♀(ガーディアン)
◆コルベル号【ロットワイラー】♂(番犬)
◆シュロ【白猫】♂(ストレイキャット)
◆フレデリック【うりぼう】♂(ゴミ漁り)
◆がじゅまる【アギル・カクタス】?(観葉植物)
《宿泊部屋の金庫(99)》
ロセオの花瓶、クルリエの錆びたスプーン、クルリエの錆びたナイフ、クルリエの錆びたフォーク、クルリエの錆びた包丁、クロウトの皿、きれいな石ころ、エマ・ランナのサンダル(左)、耳長新報(創刊号)、厚手の手袋(左)
《工房宿の所持物品》
古びた荷車、空の頭陀袋×42、リサイクル・ピンズ×74(内訳:クローバー13ヶ、王冠9ヶ、酒杯11ヶ、雫石10ヶ、ハート11ヶ、剣10ヶ、渦巻9ヶ)、小さなメダリオン×67、ワッシャー・タグ×38、付与マグネット×26(内訳:赤5、黄7、青5、緑3、白6)、石のフィギュア×11、宝石の卵×2、何かの化石×3、すごく黒い塵芥×1、黒い結晶×1、ダークマター×1、茶壺『密林の欠片』、バルグナン・パフェグラス
… … …
◆1F右回廊 ???の回想
迂闊だった……まさかこんな状況を迎えようとは。ファニーフェイスが一階左手の扉をくぐったのを確認して、一階右手のドアに手を掛けたのだ。
暫し、危険人物との対峙は避けられる筈であった。他の連中にどの様な強者が居るか、把握しきっている訳では無かったが、常に武の向上に努めて来たのだ。少々の戦いで遅れをとるつもりは毛頭無かったし、またそれを裏付けるだけの自信はあったつもりだ。
「グッ……」
また、左の脇腹が脈動した。ゲーム内では激痛はカットされるが、この痺れの様な感覚は消せない。これは、かなりの大ダメージを受けた際に生じる感覚に近い。それは経験則で分かった。
また、右の肩も感覚がおかしい。ダメージが数値化されないゲームではあるが、自己診断では左脇腹は内臓損傷レベル、右肩は骨が砕けたレベルのヤバさだと思う。
魔鉄製のマチェーテが握れずに、落として来てしまった。今はフラフラと走っているが、打開策がある訳でもないのだ。
「ナァ、そんな調子で何処まで行く気だぁ?もうちっと頑張れよ、オイ!」
後ろからは、ニヤつく声が少しずつ近付いて来ている。が、最初に受けた目潰しの様なもので視界が失われた今、位置を確める術もない。分かっているのは、徐々に距離を詰めて来ている事だけだった。
始まりは、戦場に夢を見た。しかし上位陣の洗礼を受け、挫折を味わった後は、ひたすらに強さを求めた。
鍛練を重ねるうちに少しずつだが結果が出てきて、それが自信へと繋がった。
いつしか鍛練で強さの向上を感じるのが趣味になった。それを続けて行くと、少しずつ名も売れる様になり、更に上を目指した。
未だ武の道の半ばである事は自覚していたが、このゲーム大会もその道にある試練の一つで、まだまだ鍛えるつもりだし、ゲームは続いていくのだ。
「おい、そろそろ此処までにしようや。オマエ、大したことないから飽きちまったよ」
殺意のこもった声が真後ろから近付いてきた。泣いても笑っても次の瞬間で全てが決する。
そう思って、左手に予備の短剣を握りしめた。主要武器はもうない。後はコイツで一矢報いるまでだ。
一か八か、最後の瞬間を掛けた勝負が始まる……
展開遅めで恐縮です。
テンポが悪いのは重々承知しているのですが、「犯人はこの中にいる」的な展開のお話に近く、宝探しビンゴ編として起承転結と各パートを続けていかないと解説編まで持って行けそうにないのでそうさせて頂いております。
普段は街をぶらつく様な話をメインでやっているので、テコ入れや急な路線変更かと思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、序盤(ソロ編)におけるコトが先輩やライバル達から受ける最後の試練・洗礼の部分に該当する話なのでこれをやらないと次のステップ(ギルド編・キャラバン編)に入る事が出来ません。
街のぶらり旅みたいなお話を期待して読んで頂いている方、いらっしゃいましたら今暫しご猶予を下さいませ。




