契機
いまだ執筆途中の作品ですので、変更される箇所が出てくるかと思います。
この作品の舞台はゲーム空間であり、異世界トリップする訳ではありません。
また、この作品の主人公は上位ランカーと呼ばれる人達と違い、英雄キャラではありません。地味子です。
それでも宜しければ、拙い作品ですがお付き合いの程よろしく御願い致します。
「やあ、琴美ちゃん。久しぶり」
それは、数年ぶりに会った俊樹さんの一声から始まった。大学に通う様になって以降、ウチに来る事も殆どなくなった5つ上の従兄の訪問に私は在り来たりの挨拶を返した。
「俊樹さん、ご無沙汰してます」
「ちょっと聞きたかったんだけど…琴美ちゃんってさ、ネットゲームとか興味あるかい?」
興味ない事はなかった。でも、これまで色々と見て来た中に私が本当に続けて行きたいと思えるものはなかったのだ。変わっていると言われる事もあるが、私は王道なゲームは好まない質である。
来たる預言の大厄災を前に、数多の冒険者がその方法を求めて各地を巡るという世界では、私は田舎の宿場に住み着いて小さい怪我や病を治すヒーラーだった。しかし、街の人達は怪我をする様な仕様がなく、時折紛れ込んだプレイヤーが、安値で薬を売ってる事を喜んだだけに終わった。
復活した魔王が一国を残して国を占領し、それを奪還する勇者達が集められた世界では、副王都と穀倉地帯最大の街を繋ぐ道…いわゆる主戦場方面でなく銃後の守りとなる地方を巡る乗り合い馬車の御者だった。しかし、乗り合い馬車屋などというシステムは勝手に作れず、やるならば相手をパーティーに組み入れてから保有する馬車に乗せる位しか方法がなく、客もつかないまま馬車を走らせて雰囲気だけで終わった。
すべて集めると神の領域に到達出来るという、世界に散らばる財宝を巡る冒険の世界では、三つの大ダンジョンの位置から中心になる辺りの荒地で家を建てて開墾し、迷い込んだプレイヤーに粗末な飯を振る舞う農夫だった。しかし、結局三人程が来て、つまんなそうに帰っただけでそのうちにサービスは終了した。
いくつものゲームを渡り歩いたが、こういったメインではないマイナーなプレイというのは、当然の如く優遇されない。むしろ出来ない事の方が当然であり、私はそういうNPCに溶け込んで日常をプレイするという夢を幾度も打ち砕かれ、せっかく購入したヴァーチャルリアリティ用の端末も埃をかぶらせるという結果になっている始末である。
正直、期待が大きかっただけに今の私はその手の作品群に諦観にも似た感情を抱いている。だからこそ、従兄の有り難いお誘いにも、最初のうちは微妙な受け答えをしてしまったのだ。
「ゲームですか?まあ、興味ない事もないですけど…好みによりけりですかね。色々と試しにやってはみましたが、こだわりが強いせいか合う作品がなかなか見付からないんですよ…」
「そっか…苦労してるみたいだね。実は今、完全紹介制のMMORPGのプレイヤーを募っててさ。グロウ・インダストリのVR端末は持ってたよね?『N・O』っていうゲーム、聞いた事ないかい?」
グロウ・インダストリ社は家庭用のVR専門端末を普及させたPC用VRゲーム端末の大手メーカーだ。ソフト販売は一切していないが、どのゲームメーカーも現時点ではこのG・I社と端末互換契約を結んでおり、ヴーチャルゲームには欠かせない存在となっている。
もともとRPGもファンタジーも超大好きだった私としては、購入当時からその端末をフルに使って様々な世界へ乗り込んでいた。しかしアナログではなく、最新のVRで自身が演じるとなると私の本質というか性分というか、どうしても勇者ご一行所属の凄腕…とかいう様なイメージを己に対して抱けないのだ。
英雄嫌いというのではなく、勇者や英雄という類よりも出来ることなら隠者とかの目立たずマニアックな極めの道を歩みたい。それが駄目なら一市民としての生活…そういうプレイが可能なゲームを私は切に望んでいた。
そんな思いにとらわれつつも、しばらく思案した私は噂程度にではあるがその作品に思い到った。
『NALLOW・ONLINE』、副題は『英雄になろう』。初期の無課金の状態からある一定の恩恵が得られる、チートフリーシナリオRPGだ。確かベータ版の頃より大きな話題を呼んで異例の5万人募集を行ってのスタートとなり、正規版になった時には10分の1にまで激減してしまい別の意味で話題になった作品である。
また、正規版からは一般の新規ユーザーを受け付けておらず、現プレイヤーからの紹介が無ければ登録すら出来ないという事で幻のゲームと呼ぶ人達もいる。その特殊な運営システムから、挫折組や未プレイ組からは『クソゲー』扱いを受けているが、上位のランカーと呼ばれる2千人前後からは『神ゲー』扱いされているとの事で、きっとかなりピーキーな作品なのだろう。しかし俊樹さんも言っている様にどうやら本当に『完全紹介制』らしい。客を増やしたくないのか、あまりにネトゲっぽくないとこが面白い。秘密の会員制みたいなノリなのかな。
ゲームの中でリアルに動き回り、かつ自由度の高いフリーシナリオ。チート可能でありながら、一握りしか生き残れないその特異性…俊樹さんと色々と話し続けるうちに、このゲームの全てが私の琴線に触れてきた。久々に、燠き火程度ではあるがゲーム心に火が着いてしまったらしい。
かくして私、岩久琴美は自分には縁が無いであろうと記憶の彼方に封印していた存在、『NALLOW・ONLINE』(N・O)と向かい合う事になったのである。
「最近、仕事の方が順調でさ、新しい事もやらせてもらえる様になって充実してる分、拘束時間は長くなってね…ゲームとの両立が厳しくなってきたんだ。ちょっと残念だけど、引退組の仲間入りをしようかなと思った訳。ゲーム内では、これでもB級…ベテランランクなんだよ。ベテランになると、引退紹介枠十五名分が手に入る。まあ、友人やら同僚の兄弟・姉妹等に紹介してしまったんで、実はあと三枠しか残ってないんだけどね」
俊樹さんは嬉しそうに、そして半分は名残惜しそうな複雑な笑みでそう語った。
「それはラッキーですし、声掛けてもらえて嬉しいんですけど…私なんかでいいのかな?それほどレアな参加権なら、もっとゲームが得意な人とかが相応しいんじゃ…それに、オクとかで売れば俊樹さん自身がお得じゃないですか…?」
「そういう事を考える奴は当然いたさ。でもね、掲示板でも『運営=ハッカー』みたいな憶測スレが立つレベルで不正には厳しくてさ、実際やった奴は強制退会。しかも、ゲーム内では『大罪人扱いで処刑』っていう最期にされた上でギルド図書館にも犯罪者登録されてしまう仕様でね、更に買った側もキャラメイク後にレジェンド級レベルのNPC通り魔に殺害され、死亡時の嫌な感触と音を聞きながら強制退会させられるらしい。つまり、出品しても誰も買わなくなり、売った方はゲーム世界で社会的に抹殺されて不名誉な死に方させられるので、最終的に誰もやらなくなったって感じかな」
「怖っ…。でも、騙して売り逃げしちゃう人も中にはいるんじゃないですかね?」
「まあね。しかし十五名に紹介出来るのはさっきも言ったとおりBランクから。上位ランカーと呼ばれるS、A、Bに到達出来るのはゲーム内である程度、名誉や経験を重ねて夢中に頑張ってきた奴らが殆どなんだよ。片手間やチャラい気持ちでやってる奴は、ほぼD級止まりかな。D級の紹介枠はゼロ。やっと評価を受けてC級になっても、紹介枠はお情けで一。処刑された連中はBにすら辿り着けないC級ばかりだった筈だよ。ちなみにランク分けは、世界観的にBがエリート、Aはバケモノ、SはUMAだってさ」
冗談半分の質問だったのだが、このゲーム…いや、この運営はかなり特殊だ。しかしながら、そういう『他と違う何か』を持つものにこそ私は興味を持ってしまう性分なのだ。
このN・Oが所謂クソゲーだったとしても、この他と一線を画す徹底ルールを聞くだけでプレイして見たいかも…と思えてくる。
「やっぱそれだけ難易度高いって事ですよね?」
なんか、サラッと自慢している様にも聞こえたけど、そこには触れずに更なる情報収集を続ける私。
「脅しになっちゃったかな?でも、この辺の話は知っておいた方がいいと思う。僕は四年掛けてB級止まりだったけど、プレイヤーによっては三日と持たないよ。英雄のルーキーレベルであるC級まで上がっても死とは隣合わせだし、初期からPVP可能だから、悪目立ちするのも良くないね。PK専門もいるし。実は最初の内こそ機転の良さや立ち回り方、交渉事に重視した方がいいゲームなんだ。まあ、これはベテランでも一緒かな。僕だってB級とは言え一匹狼で傭兵剣士プレイだったからね、敵性国家のAランク部隊とかに狙われたらまず死ぬという懸念は持ち続けてたし…」
立ち回り方…処世術がものを云うゲーム?
ニュアンス的にドーピングやレア武装、レベル上げよりも先にそこを注意する必要があるという事なら、チートが仕様だとしても一般のゲーマーやコミュ障の生存率は低いって事だ。
「死ぬとペナルティは…?」
「課金が必要になる。一定の条件下で課金による復活は可能だ。ゲームとはいえ、命は有限と捉えた方がいい仕様になってる」
「復活に課金って…ゲーセンのゲームみたいな?普通、今時の課金て姿形の変容やレア武具ガチャとか…」
昔、隣に住む幼馴染が『コインいっこ入れる』と何かの受け売りのマネをしていた記憶があるが、それの様なものか。
「このゲームに限って課金で強くなる事はないね。強いて挙げれば、ポーション、アンチドーテ、トランキライザーの類は課金で買えるが、これはプレイ中に買ったり作ったりの可能な品だ。そして、それ以外に課金出来るのが復活のみ。しかも死ぬ度に額が上がる仕組みになっている。詳しくは、初回復帰が五百円、以降一回毎にゼロが一つ付く」
「そんな…思いっきり法外な額になるじゃないですか!」
「予測板でも九割の人が運営に課金による営利意思はないと見ているよ。もっと別の何かが目的だってね」
「例えば…どんな?」
「NPCに使われているAIの性能試験と能力の向上、あるいはそれを売り込むデモンストレーション。もしくは五万を超える人間の行動パターンのデータ収集。そして…チートを装って作られた厳しい世界の状況下において、勝ち組たり得る人間を選別する人材発掘…」
「……」
「もし、気が乗らな…」
「やります!!」
思いっきり飛び付いてしまう私。確かに、聞く限りじゃどう考えても普通じゃない。でも、そういう普通じゃない体験というモノを心が欲してしまったのだ。 折角のコネをドブに捨てるのも勿体無いし、迷ってたら残り三枠を取られてしまう。
五百円で死に戻りしてもすぐ死ぬ様なら、才能が無かったまでの事。最低一回は低額で復活出来る訳だし、リアルよりはまだ優しい位だ。所詮ゲームな訳だしね。
まあ、このいわくありげなゲームは私に何かいつもとは違う体験をもたらしてくれるだろう。うん、多分。
「そうか、やってくれるか!それでこそ薦めた甲斐があるよ。琴美ちゃん、発想が豊かっていうか、結構個性的だからイイと思うんだよね~。あ、それとさ…君の幼馴染の彼もどうかなって思うんだ。ゲーム大好きって言ってたじゃん。地道に努力する生真面目タイプのゲーマーって感じで向いてると思うんだけど、どうだろ?」
「晴人ですか?」
晴人とは、私の幼馴染…というか隣に住んでる同級生。小・中学の頃に二人して俊樹さんにゲームを教わったりして良くウチで遊んだ間柄である。
「確かに、イイと思いますけど…良いんですか?残りたった三枠ですよね?」
「出来れば彼にも継いで欲しいな。僕はね、大好きなN・O卒業を決意した訳だけど、評価のおかげで十五の枠を得る事が出来た。この四年間、ゲーム世界『ナロゥ』において、『ガラム・マサラ』という名の剣士をやっていたのだけれど…」
俊樹さん、いくらカレー大好きだからって……いや、何か熱っぽく語ってるので茶化すのはやめとく。
「…引退すると普通は所持したアイテム、これまでの得た財産は全て消えてしまう。でも、引退者が継承を行うとね、弟子一人につき一つ、レア・マジック・アーティファクトの譲渡と、継承者全員に折半する形での財産分与が可能になる。そしてこれをもって『ガラムの弟子』という称号が付く。僕は十五人の弟子に冒険を継承してもらって世界を去りたいんだ。だからこそ、有終の美って感じで少しでも可能性を秘めた人達に権利を譲りたいと思ってね。ま、僕の自己満足なんだけどね」
辞める決意はあれど、ゲーム内に自分の足跡を残したいという俊樹さんの話を聞いて、私はこの未知なるゲームに一層の興味を覚えた。その後も、色々とこだわりある話を聞かされる事となるのだが、その日は一端お開きとなり、晴人への勧誘と説明を私が行った後、三人の都合に合わせてネットを通して継承手続きを、という流れになった。
結果はと言えば、幼馴染はこの申し出に対して私が引く程に歓喜した。私も晴人も、大学への進路が決まってこの春は卒業まで余裕がある。ゲーム三昧な春休みは淋しいと思う方もいるであろうが、インドアな私にとってはこっちの方が気楽でいいのだ。
さてさて、どんなプレイをする事にしようかね……




