終章 終わりに
大学生になって初めての冬休みだが、取り立ててすることはない。実家に帰省して広間の炬燵に潜り、蜜柑を頬張りながらテレビを見る。今日は大晦日であるけれど、大体において年の行事というのは惰性で繰り返されるものであり、私もそれを甘受しているというだけの話だ。
久しぶりの家族団欒はなんの話も華開かず。私の実家はあまりにも地方の辺境に位置しており、そのため周りに広がるのは田圃に川に丘に森と来たもので、まあなんというか、非常に不便な土地柄ではある。取り立てていうほどのものは何一つないこの場所は、しかしどこかくすぐったいような愛着をもって私を迎え入れたのだった。
大学はもう一週間もすれば始まってしまうので、時期も早々に再度出向かなければならない。思えばこの一年間はあっという間に過ぎていった、というのは月並みな回想ではあるが、事実そうなのだから仕方がない。私は一抹の焦りを覚えつつ、炬燵の上の丸い容器に入れられた菓子を取り出して呑気に頬張る。
新年を迎えるカウントダウンが始まる。テレビの画面に映っている人間の熱気がどことなく伝わってくる。ゼロの合図と共に除夜の鐘が鳴り響くが、一方私は座布団の上で頭をごろごろする。カーペットに置かれた端末が鳴る。差出人は柳から。
『あけおめ!あけおめニョッキ!今年もよろしくね。原稿は快調です』
意味不明だ。でも、今年もよろしく、か。逸る気を起こさなければよろしく続くだろう。もし何かあっても、またあの時みたいに届く限り手を伸ばしてみようと思う。向こうが握り返してくれるならきっと大丈夫。本当にどうにもならなくなった、その最後の時が、文字通り、私たちの終わりだが、その時が来るまでは、お互いに生きているのだろう。生き抜いているのだろう。それだけの話だ。私は柳に返信すると、菓子と一緒に蜜柑をもうひとつ、炬燵の上から取り出した。
大変長い間お付き合いいただき、本当に有難うございました。
これでこの小説は終わりになります。
少しでも楽しんでいただけるものがあれば嬉しいです。