ようこそ、黄泉国へ。
私は普通の、本当に普通に部活して、おしゃべりが好きで、そんな高校生だった。
過去形なのには訳がある。とりあえず現状を言うと
真横に死体が転がっています。
え?って思うまもなく突然光に覆われて―
気がついたらそこは少なくとも現世じゃなかった。
「おい罪人よ。お前がどうして黄泉の国に落とされたか分かるな」
突然前に現れた狐が私にそう問いかけた。
黄泉…?
それって、死者の国!?
私は慌てて答えた
「分かりません。ってか死んでません!」
「自分の罪も分からぬとは…お前は田沼小太郎、そうだろう?」
「違います!誰ですかそれ!私の名前はまお!七海舞桜です!」
自分の名前を名乗ってから、その狐はびっくりした顔をして私をじろじろ見た。
そして、顔を青ざめた
「なんてことだ…私としたことが、罪人を間違えるなんて…!ま、マオさまに知れたらどうなることか…」
マオ…?
私のこと…ではなさそう。
狐がぶつぶつ呟いていると、狐の真後ろに私と同じくらいの青年が現れた。
「俺がどうしたというのだ、狐よ」
「…!マオ様…!」
「そやつ、罪人ではないぞ。何をしておるのだ、俺の仕事を増やしおって」
その青年はただの青年ではなさそうだった。言うなら、閻魔様みたいな…
「ああ、俺の名は閻魔魔王だ。お前が察するように、俺は現世で言うところの閻魔大王だ。」
心読まれた!?怖い!
すると、マオ様はこちらをじろじろと見てきて―
「なるほど。俺の花嫁を連れてきたのだな。現世から連れてくるとは、なかなかな」
「花嫁ぇ!?冗談じゃないわ!私死んでない死にたくない!!」
マオ様の言葉を遮って私は叫んだ。
するとマオ様はくつくつと笑って
「何、冗談だ。だが誤りとはいえ黄泉に来てしまった以上、帰すのには少し手続きが面倒なのだ。しばし時間もかかる。そして、言いにくいことなのだが―」
マオ様は一旦言葉を切った。
「今この黄泉国ではな、現世で言うところのお家問題、なるものが起こっている。俺は若くして黄泉神になったからな、それを気に入らぬやつがあの手この手と俺を陥れようとしている。そこに花嫁の存在をちらつかせれば、俺の地位は強固なものとなる」
何かと思えばたかが御家騒動。私の知ったことじゃないわ。
私が無言で睨むとマオ様ははぁっと溜め息を着いて言った。
「…分かった。現世に帰るまででいい。花嫁のフリをしてはくれぬか。お前の望みは叶えよう。出来る限りの配慮もする。どうだ」
「仕方ないわね…他にあてもないし。フリだけよ。ちゃんと現世に早く返してね」
私が溜め息を着きながら言うとマオ様は顔を綻ばせ
「ありがとう」
その笑顔が少しかわいくて、不覚にも少し、ほんの少しときめいてしまった。