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6人渡り

作者: あるちゅん

某掲示板サイトを表現に組み込んでみました。


専門用語の解説

スレ:スレッド。掲示板サイトの一つ一つの掲示板を指します。

レス:レスポンス。掲示板への書き込み。スレッドの立ち上げ主への返事。

乙:お疲れ様の意味。賞賛や揶揄に多用されます。

w:(笑)の省略版で書き込み主が笑っている様を表現しています。

ROMれ:レスを書かず、ひたすら人のレスを眺めていろ、という意味で、スレやレスの意図を履き違えたり、雰囲気の読めないレスを出すと上級者から言われてしまう。

>>251:251番のレスを書いた人物への反応であることを明示する時の作法です。


尚、無記名でレスを登録すると、掲示板の畑分けに従って「名無しの~~」という名前でレスが表示されます。

251 名無しの問題児 2011/9/8 2:28 ID******

友達の友達の・・・・・・・って6回続けると世界全部になるらしい



僕の、この書き込みに色んなレスが来た。


迷信

ゆとり乙

うん、そうだねwww

半年ROMれ


 僕は机に拳を叩きつける。


「こいつら・・・・・・」


僕は某大型掲示板のページを閉じる。こんな馬鹿どもに、話は通じない。僕の計算によれば60億の6乗根は切り上げて43。つまり一人当たり43人友達がいれば、世界は6番目の友達までで尽くされるのだ。小学校の同級生だけで普通は100人以上とつながっているんだ。わかってない。頭の悪い連中め。証明してやる。


 つまるところ僕の6番目の友達が世界なんだ。勿論、世界なんてものに直接接見できるなんて思っていないが、きっとそれを痛感できるくらいの遠い存在に行き着くに違いない。僕は口座からありったけのお金を下ろし、友達を辿る旅に出ることにした。


[1人目]

 まず僕が行き着いたのは、林という小学校時代の友人宅だ。僕は高校を、その・・・・・・不登校というかあまり行っていないので友人は居ないし、中学も嫌な思い出ばかりで当時の知り合いに会いたくは無い。林は小学校時代科学クラブで一緒の班になったのを機に引っ越すまでの1年間、僕の中で一番楽しい学校生活を共有した友人だった。年賀状を頼りに住所を探し、行き着いたそこで林と再会した。

 「えっと?」と、随分長いこととぼけられたが、順序良く話すとようやく思い出したようで、僕の話を興味深そうに聞いてくれた。そして紹介してくれたのは、彼が小学校の低学年の頃、北海道で学び舎を共にした堀越という女の子だった。林自身よく覚えていないが、なんとなく仲がよかったらいい。「そういう人の方がいいよな?」と聞かされて、生返事を返しながら、林が自分を北海道のちょっとした付き合いの人間程度にしか記憶していないことに気づいた。

 「な、なんだよ!?」僕の厳しい顔に林が反応する。思わず、「な、何でもない」と言ってしまったが、何でもないことあるわけない。僕のことを忘れやがって。堀越さんとやらの住所を貰い受け、事前に連絡しておく旨を聞いて、僕は北海道へ向かった。8月ももう終わろうという中、1人で飛行機に乗ったときは少し自分が特別な気がした。世界をまたに駆けようるには些細な出費だが、それでも高校生には大きな出費だ。でも悪くない気分だった。


[2人目]

 「あの、今は、ごめんなさいね、調子悪いみたいなの」堀越家に行くと、母親らしき人物に対面を拒否された。冗談ではない。こちらはわざわざ仙台からやってきているのだ。流石に粘ってみると、階上から女の子の唸るような声がする。自棄になったような、まさに恥じも外聞もない調子に怖気づく。「ちょ、ちょっとごめんね」と言って、数分後、母親は戻ってきて、名前と住所の書かれたメモ書きを渡す。


佐藤修二 北海道札幌市***区****


どうやら事情だけはちゃんと林から聞いていたらしい。これで用件を済ませようとしているようだ。ふざけるな、こんな紙切れ一枚で、北海道くんだりまで来た僕の労いになると思っているか。だが、僕には申し訳なさそうなお母さんに強く言うことも出来ず、礼を言って去った。なんとも味気ない収穫に肩を落として佐藤修二の自宅へ向かう。


[3人目]

 「っざけんなっ」という言葉と共に、僕は生まれて初めて人に殴られた。次いで胸倉を掴まれ、頭突きされた。鼻の軟骨がグニュリと変形するのがわかる。殴られて口を切った血と鼻血。眩暈がして反撃どころではない。心の城壁が全てパタンと倒れて、全面降伏してしまう。「すみません、もう勘弁してください」ひたすら許しを請う。

 佐藤は堀越の元・彼氏で、最近凄絶な喧嘩で別れたという。その際、佐藤はつい手を挙げてしまい、場所が彼の職場だったことも災いして、雇い主から2週間の自宅謹慎を命じられたという。殊勝に自宅にいたと思ったら、麻雀で兄に小遣いを巻き上げられたところだったらしく、異常に機嫌が悪かった。運が悪かったんだ。

 結局その後ゲームセンターに連れ回された。友達を紹介する、と誘導されたのもあるが、痛い目にあうのが怖かったのが本音だ。2万5千円を遣い込まれた。佐藤は、まさにこれ以上ない半端ものの中卒労働者だった。どうりで教養の欠片も感じないわけだ。金を毟られながら密かに馬鹿にすることで何とか自制心を保つ。自己嫌悪でお腹が痛くなった。「俺の上の兄貴。東京にいんだ」誇らしそうに語る佐藤に口の上だけで重々お礼を述べ、僕はようやく解放された。

 勿論、僕の気持ちがこれで済むわけが無い。でも仕返ししようにも陰険な方法しか浮かばない。それに派手をやれば、すぐ僕に疑いがかかるだろう。僕の来た道を逆にたどればすぐに僕に至る。こんな中労働者と僕がたった2人を介せばつながってしまうのだ。


[4人目]

 「へぇ!修二の友達?」そういって佐藤修二の兄は僕を朗らかに家に招き入れてくれた。「大変だったねぇ」「すごいね」「やっぱり若いエネルギーだねぇ」などと誉めそやしてくる。全くこそばゆい。あの弟にして、この兄という論理は全く不可解だ。

 佐藤兄は東京でデザイナーをやっていた。「これでも芸大出なんだよ?」とキャラに合わず、誇らしげに語っていたことが意外だったが、全く嫌味ではなく、むしろ微笑ましいとさえ感じた。憎めない人というのはこういう人間を言うのだと知った。

 「君は仙台に住んでるんだよね?」そう言って、佐藤兄は仙台の知り合いをあたってくれたらしい。僕としては世界を股にかけるという建前がある以上あまり元の場所に戻りたくは無かったが、佐藤兄の好意をないがしろにするのも気が引けると思い、仙台へ向かった。


[5人目]

 「あれっ?あんた!」仙台駅で僕を待っていたのは、僕のお母さんだった。なんということだ。こんなつながり1人目で間に合ったのに。ことここに至ってようやく僕は間違いに気づく。僕はつながりを単純に樹形図みたいに広がっていくものだと思って、xの6乗イコール60億を解いたのだが、人のつながりの重複やループを全く考慮していなかった。馬鹿げている。母親を前に呆けている息子にトドメが加わる。「なんだい、佐藤さんから高校生が来るって言うから、あんたを紹介しようと思っていたのに」


[6人目]

 僕だった。6人目は、僕だった。

 6人目が世界とか言ったのは誰だ。諸経費10万円を返せ。


 振り返ってみると、馬鹿げた経験だった。しかし、林に相手にされていなかったこと。堀越の失恋の激情にほんの少し触れたこと。佐藤に殴られ言われるままに連れ回されたこと。佐藤兄の朗らかさに圧倒され母親を紹介されていることに気づかなかったこと。これらの経験は僕に一つ僕の特徴を浮き彫りにしてくれた。


僕は臆病で、気が弱い。


 高校に行っていないということは話したかな。人の目が気になって仕方ないんだ。ずっと気にしちゃ駄目だ、気にするなって言い聞かせて頑張っていたのだけれど、どうしても頑張りきれずに休んでしまって。それきり行けていない。

 でも、この馬鹿げた6人渡りで、僕が他人のことを気にして、相手の要求に対して一歩引いてしまう性質が、どうしようもない僕の性質だって思うようになった。世の中には忘れっぽい人もいれば、乱暴な人、朗らかな人がいる。それと同じで、多分どうしようもない、僕の本質なんだと思う。

 そう思ったら、その臆病を見ない様に否定してやっていくのは、乱暴なことだと思えてきた。僕はこの「気が弱い」という性質と喧嘩せず、受け入れて、踏まえた上でうまくやっていかなければならないんだと思うようになった。具体的には保健室登校から始めることにしたんだ。


 あれから1週間経つけど、とりあえず元気にやっています。少しずつ教室にも出られるようになっています。あの時、僕をけしかけてくれてありがとうと言いたくて長々書きました。では


252 名無しの問題児 2011/9/8 2:40 ID******

>>251 長文乙

よかったじゃん


253 名無しの問題児 2011/9/8 2:42 ID******

>>251 馬鹿だなww


254 名無しの問題児 2011/9/8 2:45 ID******

>>251 もう迷うなよ


255 名無しの問題児 2011/9/8 2:55 ID******

>>251 っていうかはよ寝ろ


256 名無しの問題児 2011/9/8 2:56 ID******

>>255 はい、寝ます。書いてるうちに時間経っちゃって。おやすみなさい


257 名無しの問題児 2011/9/8 3:13 ID******

でもこれって、世界を知って大人になったってわけだし、世界には会えてるんじゃね?


258 名無しの問題児 2011/9/8 3:15 ID******

>>257 同感。60億が世界じゃなくって、人と人とのつながりそのものが世界ってことだよね


258 名無しの問題児 2011/9/8 3:16 ID******

深いな


259 名無しの問題児 2011/9/8 3:18 ID******

スレの流れ完全無視だけどな


260 名無しの問題児 2011/9/8 3:19 ID******

>>259 お前・・・・・・


261 名無しの問題児 2011/9/8 3:19 ID******

>>259 空気読め



おしまい

長い拙文をお読みいただき、ありがとうございました。


何かワンポイントの発想を元に話を起こすということをしたいなと思って、主題の6人目の友達で世界がつながる、というネタを中心に据えました。


最初は精神の不安定な少年が5人の人間に理不尽な目にさらされ、とうとうおかしくなって6人目の母親を殺してしまう予定でした。


でも書いてみると、ちょっとそこまで異常な発狂を描くには力が足りてないと思って、方針転換しました。


感想などありましたらお気軽にお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はっきりしていて読みやすい文でした。オチに笑ってしまいました。 [一言] あるちゅんさん、こんにちは。感想書かせていただきます。 面白かったです。主人公の行動力に感服です。学校は行けない…
[良い点] 深いテーマの割に、文章・ストーリーが堅くなくて、スーッと読むことができました。 6人目で自分に戻る、当たり前だけど目の前で見せられないと当たり前じゃないんですよね。 凄い面白か…
[良い点] あるちゅんさんご感想ありがとうございます。 rotです。 6人目で自分に振り出しに戻る とても、驚きました。 更に主人公が気づいていなかった自分に気づけたところはとても、良かったです。 私…
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