1.いえ、本当にそういうのはいいんで〜タヴレンの言い訳〜
「本当に申し訳ないことをしたと思っているんだ。だから今日こうしてー」
はあ。ため息が溢れてしまう。この言い訳にもならない言い訳は、タヴレン・ドゥーイー男爵が学園の同級生だった頃からずっと続いている。
当時彼は侯爵子息であった。由緒ある侯爵家である。嫡男ではないが、卒業後は父上から伯・爵・位・を賜ると聞いていた。
当時は侯爵家の嫡男であった私、ネリアン・ウィズセインと同・じ・侯爵位の子息として対等な関係であった。
だが成人して20年も経った今。お互いの立場は大きく変わっているのだが彼にはまだ理解できていないようだ。
今の2人の立ち位置は物凄く違う。
私は予定通り嫡男として侯爵位を継いだ。
だが彼は…
「ドゥーイー男・爵・。もう何度言ったか分からないが、君の態度はとても不遜だよ。あの頃とはちがっ」
「いや、いや、いや。何を堅いことを言ってるんだい。僕たちは友人ではないか。そんな水臭い。」
ほら、彼には通じない。
彼は男爵、私が侯爵。その身分差をいまだに理解できていないのだ。そしてまたあの言葉を繰り返す。
「君には本当に申し訳ないことをしたと、だからこうやって私自身が頭を下げに来たんだよ。」
コンコンコン。
「入っておいで。」
妻のアセリアが入ってきた。
「やあ、アセリア。元気そうだね。妻のミーウォンが会いたがっていたよ。」
この男は本当に笑えない。
「……」
妻は何も言わない。その代わり、いつも微笑みを絶やさないその顔は一切の表情を消し去っている。
「アセリア?聞こえているかい?ミーウォンがー」
「わたくしはウィズセイン侯爵夫人です。気軽に名前を呼ばないでいただきたいわ。男爵。」
表情はないまま妻が答える。それでも彼は気付かない。
「おいおい、君までそんな堅苦しいことを。こうして私自ら頭を下げにきたのだからー」
私以上に気の強いアセリアが戦闘開始を告げた。
「あら男爵。"頭を下げに来た"というのはどういう意味かしら。わたくしの知っている意味とは随分違うみたいだから教えてくださる?」
今まで同様有耶無耶にしようとしていた彼は口ごもる。
「いやっ、それはその…」
「じゃあわたくしが知っている…というか、世間一般的な頭を下げるの意味を教えてあげるわ」
彼は明らかにムッとした表情をし、アセリアの真顔を見て慌てて俯いた。
「頭を下げるというのは、普通謝罪を示す言葉なのよ?貴方みたいに昔の関係をいまだに引きずって、上位貴族に横柄な態度で"頭を下げに来てやった"なんていうのは謝罪どころか印象をさらに悪くしているだけよ?」
「そ、そんなっこの私がわざわざ出向いてっ」
彼の言い訳にもならない言い訳に業を煮やしたアセリアが冷たく言う。
「いえ、本当にそういうのはいいんで」
それでもまだ何か言い募ろうとする彼に私が畳み掛けた。
「じゃあ君に分かるように、私からはもっと噛み砕いて質問してやろう。」
そうだ、私も大概腹に据えかねている。本当に頭を下げる気になるまで甚振ってやっても良いだろう。
「まず大前提だ。君は何に対して頭を下げに来たんだ?」




